2019さが総文

植物のチカラで、授業中の眠気の原因となるCO2の上昇を抑えられるか?

【ポスター発表/生物】群馬県立前橋女子高校 理科部

(2019年7月取材)

小渕七波さん(3年)
小渕七波さん(3年)

■部員数 16人(うち1年生3人・2年生6人・3年生7人)

 

教室内のCO2濃度の上昇を抑える方法-植物の光合成作用を活用して-

私たちの教室のCO2濃度は環境基準を大きく上回っている?!

文部科学省では、学校環境衛生管理マニュアルの学校環境衛生基準において、教室内のCO2濃度は1500ppm以下であることが望ましいとしています。しかし本校の教室内CO2濃度は、文部科学省の定める基準を大きく上回る約2600ppmまで上昇してしまっています。また、CO2濃度の高い空気は、集中力の低下や眠気の原因になると言われています。こんな教室環境を問題視した私は、冷暖房設備を使用して換気を行いにくい状況下において、教室に植物を置いて光合成させることで、CO2濃度の上昇を抑えられるのではないかと考えました。

 

教室に置くのに適した植物は何?

まずは基礎研究として、教室に置くのに適した、光合成能力の高い植物を調べました。多くのホームセンターで売っていて、価格の手頃な、ガジュマル・ドラセナ・シェフレラ・パキラの4種の観葉植物を対象としました。

 

これらの葉1枚を同じ条件の人工気象器に入れて、CO2濃度測定器をつけたボトルで測定を行い、単位面積あたりの光合成速度を測定ました。その結果が下図中のグラフです。最も光合成速度が速いのはパキラであることがわかりました。

 

 

ところが、葉齢ごとに光合成速度が異なるのではないかという疑問が生じました。

 

そこで、葉ができた順に「幼葉」「成熟葉」「老化葉」の3つに分類し、それぞれの光合成速度を求める実験を行いました。その結果が下図表です。この実験から、光合成速度に対する葉齢の影響が認められたのはドラセナのみで、パキラを含む他の3種については考慮しなくて良いことがわかりました。

 

次に、葉の単位面積あたりの光合成速度を用いて、個体あたりの光合成速度を計算しました。その結果、最も個体あたりの光合成速度が速いのはパキラであるとわかりました。

 

さらに生じた疑問として、教室内のCO2濃度上昇に、植物の器官のうち光合成を行わず呼吸によってCO2を放出する非同化器官が与える影響を考慮する必要があると考えました。

 

これを明らかにするため、個体あたりの光合成速度から、個体あたりの呼吸速度を引く計算を行いました。その結果が左の表です。

 

この結果から、光合成速度の順位変化はなく、非同化器官のCO2放出作用は教室のCO2濃度上昇に影響はないと考えられます。

 

パキラを使って実際に空気の浄化を試してみると…

ここまでの研究から、教室のCO2濃度を上昇させないために置く植物としては、パキラが最も適していることがわかりました。そこで、以下の式を用いて教室内のCO2濃度上昇を抑えるために必要なパキラの個数を計算しました。

 

この計算の結果、教室内のCO2濃度上昇を抑えるために必要なパキラは、1500株(高さ約70cm、幅約50cmとした場合)であることがわかりました。

 

しかし、これは理論値なので、実際に教室に置ける限りのパキラを置いて、教室内のCO2濃度の上昇をどの程度抑えることができるか確かめることにしました。

 

教室内の人数は40人で、パキラは9株(総葉面積約6.2平方メートル)です。

  

結果が図中のグラフです。パキラを置ける限り置いても、授業55分間における教室内のCO2濃度の上昇を抑えることはできませんでした。原因としては、教室内の光量子量が不足していたことや、気孔抵抗の影響が考えられます。

 

これらを改善するため、左のような装置を考えました。教室からベランダに続く通路を作り、そこにパキラと水を置いて高湿度下で日光を直接当てることで、光合成速度を上げる仕組みです。今後は実際にこの方法を実践して、CO2濃度の上昇を抑えられるか検証していきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

高校1年生の生物の授業で、二酸化炭素濃度が高い空気が呼吸に使われると、眠気や集中力の低下が起きることを学びました。そのときに、自分の教室内の二酸化炭素濃度はどれくらいなのかが気になり、保健室の先生に聞きにいきました。すると、本校の教室内の二酸化炭素濃度は、文部科学省が定める基準値を大幅に越えるほど高いことを知りました。そして、当時植物の空気清浄能力に興味を持っていたことが結びつき、この研究が生まれました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

高校1年生10月から続けています。一日たりとも研究のことが頭から離れたことがありません。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

思い通りにいかなかったことがたくさんあります。例えば、光合成速度の測り方がなかなか確立しなかったことや、実験を十分に重ねる時間が無かったことです。そのたびに、研究の目的に立ち返り、研究の状況を客観的に見つめ直し、指導いただいている先生方の助言を参考にしながら、試行錯誤を繰り返しました。また、早起きをして、研究と向き合う時間をつくり出しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

ポスターの中に、研究を進めるなかで抱いた「疑問」を明確に示した点です。これにより、研究のストーリーがわかりやすく伝わったと思います。また、ポスターの紙面上では十分に伝わらない植物の大きさや教室に植物を置いた様子は、植物の写真を実物大で印刷したり、教室の模型を自分で作ったりしました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「植物の光合成機能の評価」 渋谷俊夫

・「植物生理学・発生学」(原著第6版) テイツ/ザイガー(講談社)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回の研究を今後も続けていきたいです。今回の研究で、教室内の二酸化炭素濃度上昇を抑えるためには、植物を教室がジャングルになるほど置かなければいけないという結論になってしまいました。今後は、より少ない数の植物で、教室内の二酸化炭素濃度上昇を抑える方法を見つけたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

新聞部に所属しています。記事内容の企画から取材許可の連絡、取材、そしてその膨大な取材内容を1枚の新聞にまとめるという、新聞製作の一連の流れに関する活動の全てに携わっています。新聞部で取材をするたびに得た、相手の気持ちになって会話をする力は、研究発表や質疑応答の場面で役立っています。

 

■総文祭に参加して

 

今回のさが総合文化祭には、指導いただいた先生方のおかげもあり、自信を持って挑むことができました。しかし、賞をいただくことができませんでした。悔しいです。賞がとれるほど認めてもらえなかったことに納得がいかず、現実を受け入れられない葛藤があります。

 

審査員による講評をもらっていないので、研究のどこが悪かったのかわかりませんが、おそらくまだ私が気付いていない、研究の盲点や研究を進める上で大切なことがあるのだと思います。いつかこの悔しさを晴らせるように、今後も研究を続けて、研究の本質を学びながら、人のためになるような、世界を大きく変えられるような研究を作り上げようと心に誓った大会でした。また、研究を継続するにあたって、佐賀で出会った他校の高校生や引率の先生方からのアドバイスや応援メッセージは、今後の励みになりました。

 

最後に、この大会に出場することができたのは、熱心に相談に乗ってくれて、指導をしてくださった先生方、そして日頃から私を感化してくれた仲間たちのおかげだと思い、感謝をしています。

 

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