2019さが総文

シロアリはなぜジグザグに進むのか

【ポスター/生物】市立札幌清田高校 理科部

(2019年7月取材)

左から 岩本恵里花さん、立石晴也くん(2年)、辻 優輝くん(3年)
左から 岩本恵里花さん、立石晴也くん(2年)、辻 優輝くん(3年)

■部員数 5人(うち1年生2人・2年生2人・3年生2人)

■答えてくれた人 岩本恵里花さん(2年)

 

シロアリの交替性転向反応はなぜ起こるのか?(第2報)-BALM仮説は本当に正しいのか?-

無脊椎動物は転向点で前とは逆の方向に曲がる

 

私たちは動物が転向点で前回と逆の方向に転向する反応である交替性転向反応について研究しました。この反応は幅広い無脊椎動物で観察できます。

 

交替性転向反応を引き起こす要因として主流なBALM仮説(※)は、転向の際に、外側の足の作業量が内側の足に比べて大きくなるため、逆の方向に転向することで左右の足の作業量を均一にするという仮説です。他にも、走触性といって壁との接触により引き起こされるという仮説があります。先行研究の多くは、壁のある迷路で行われていたため、両者の影響を分離できていませんでした。

 

※ bilaterally asymmetrical leg movements

動物が、連続する分岐点を左右交互に曲がりながら進んでいく交替性転向反応を示すのは、左右の脚にかかる負荷を均等にするためであるとする仮説

 

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シロアリに着目して研究

 

そこで私たちは、油性ボールペンで書いた線上を歩く習性のあるシロアリに注目しました。

 

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実験にはヤマトシロアリの職アリ・兵アリの雄雌を用いました。

 

ペンで書いた壁のない迷路のスタート地点にシロアリを置き、強制転向点を転向させたのち、T字路の転向点で左右どちらに転向したかを記録しました。この迷路上でシロアリが交替性を示せば、「この反応に壁との接触が必須ではない」と示せると考えました。

 

これまでの研究で、ペンで作図した迷路が交替性を調べる実験装置として適当であることがわかっています。

 

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また、シロアリが壁のない迷路上で交替性を示すことから、この反応に走触性が必須ではないことがわかっています。

 

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「左右の足の作業量差」は交替性に影響するのか?

 

そこで今回、私たちはBALM仮説が本当に正しいのかを検証することにしました。

 

BALM仮説が正しいならば、強制転向点の転向角を大きくすると、左右の足の作業量も大きくなり、交替性の割合も高まると考えられます。これを検討しました。

 

結果、強制転向点の転向角を大きくすると、交替性の割合が高まりました。この結果はBALM仮説を支持すると考えられます。

 

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角度のない円の上を歩かせたらどうなるか

 

次にシロアリを円上で歩かせました。外側の足の作業量がより大きくなると考えられます。BALM仮説が正しいならば、円の直径を小さくすると左右の足の作業量差が大きくなり、交替性の割合が高まると考えられます。これを検討しました。円の外側に離脱したものを交替性として集計しました。

 

結果、円の直径が小さくなると交替性の割合が高まりました。この結果もBALM仮説を支持すると考えられます。

 

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「体の回転」は交替性に影響するのか?

 

しかし、これらの実験だけではBALM仮説が正しいと完全に立証できたとは言えません。なぜなら、これらの実験では左右の足の作業量差だけでなく、体の回転も与えており、この影響で交替性を示しているのかもしれません。

 

そこで私たちは、左右の足の作業量差を与えず体の回転のみを与える実験を行いました。

 

実験を始めるにあたり、まず私たちは強制転向点でシロアリが90°回転する速度を調べ、2.39rad/sを求めました。この速度を基準に、シロアリに「体の回転」のみを与える実験を行いました。

 

シロアリをターンテーブル中心に設置したケージの中に入れ、90°回転させたのち、ペンで書いたT字路の上を歩かせました。ターンテーブルの回転速度は、実験2-①で求めた速度と、より速めたものの2通りを用いました。

 

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結果として、有意な交替性は確認できませんでした。今回の条件では、交替性と体の回転の関連は認められませんでした。これらのことから、私たちはBALM仮説が正しい可能性が高いと考えました。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

もともと先輩方が、クロアリを使って交替性を引き起こす要因を調べる実験をしていました。しかし、壁のある迷路で行っていたため、「壁との接触」と「左右の足の作業量差」を分離できず、行き詰っていました。そんな時に、シロアリがボールペンで書いた線の上を歩く性質を知り、これを使えば2つの要因を分離した実験ができると考えて、研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2017年の夏から始めました。研究時間は1日平均3時間、約23か月です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

実験の信頼性を増すために、試行数をできるだけ多くしたことです。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

ポスターを見やすくするため、文字や図表の縦横をきちんと合わせました。また、研究発表の中には、「交替性転向反応」をはじめとする。様々な専門用語がでてきます。それらの言葉は、一般の人たちからすると慣染みのない言葉だと思うので、できるだけ使わないようにして、例えば、「交替性転向反応」は「ジグザグ歩き」など簡単な言葉に置き換えました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・先輩方の研究

・「無脊椎動物における交替性転向反応研究の展開と問題点について」川合隆嗣(動物心理学研究

 61(1), 83-93, 2011)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

現在は、ケルビン発電機(水滴をたらすことにより発生した静電気を溜める装置)について研究しています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

大会に向けた研究以外では、近隣の学校と合同で研修を行ったり、科学の祭典などのイベントに参加したりしています。

 

■総文祭に参加して

 

入賞することができず残念ではありましたが、全国の学校の研究を見て今後の自分たちの研究の参考になるようなものを得ることができ、大変勉強になりました。

 

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