2019さが総文
(2019年7月取材)
■部員数 144人(うち1年生53人・2年生45人・3年生46人)
■答えてくれた人 長谷川遥香さん(3年)、箕田和奏さん(3年)
脂質・タンパク質・糖に注目して、牛乳が赤くなる原因物質を探ってみた
牛乳に酸性の物質を加えると凝固することはよく知られています。しかし、塩基性の物質を加える実験は例がありません。私たちは、牛乳に塩基性の物質である水酸化ナトリウム水溶液を加えてみました。すると実験開始から1〜2時間後に溶液が黄色く変色し、5時間後には赤褐色へと変化するという現象が見られました。また、凝固物の形成も見られました。
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私たちはこの現象にどのような物質がこの反応に関係しているのか調べるため、牛乳の主成分である脂質・タンパク質・糖に焦点を当てました。
[実験1-1]まず脂質について明らかにするために、牛乳・低脂肪乳・無脂肪乳の各3mLに水酸化ナトリウム水溶液を加え、凝固物が形成された場合にはその質量を計測しました。その結果が下図です。どの場合も色は白→黄→赤と変化し、凝固物は牛乳に含まれる脂質が減るにつれ少なくなりました。
[実験2-1]一方、他の脂質(牛脂・サラダ油・アマニ油)で実験を行ったところ、今度は色の変化が見られず、どの場合でも凝固物が形成されました。
[実験1-2]次にタンパク質について調べました。牛乳3mL中のタンパク質の質量0.132gをすべてカゼインであるとみなし、カゼインに水酸化ナトリウム水溶液を加えました。その結果、カゼインは黄色く変色し、赤くはなりませんでした。また、凝固物は形成されませんでした。
[実験2-2]同様の実験を他のタンパク質(卵白・コラーゲン・豆乳)でも行ったところ、色は黄色く変色し、豆乳では凝固物が形成されました。
[実験1-3]次に糖について調べました。牛乳3mL中の糖の質量0.147gを全てラクトースとみなし、ラクトース水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えました。その結果、ラクトース水溶液はしばらく無色でしたが、長い時間が経つと黄色く変色し、12時間後には赤くなりました。凝固物は形成されませんでした。
[実験2-3]他の糖(マルトース・グルコース・スクロース)でも実験を行ったところ、いずれも凝固物は形成されず、マルトースは時間の経過とともに黄色、赤褐色へと変色し、グルコースは黄色く変色した後は変色せず、スクロースは無色のままでした。
以上の実験から、凝固物の形成には脂質が、黄色への変色にはタンパク質と糖が、赤褐色への変色には糖が関係していることが考察されます。
変化の仕組みを探る
次に、溶液の変色の仕組みを明らかにするための実験を行いました。
まず、黄色への変色が、牛乳のたんぱく質に含まれる芳香族アミノ酸の酸化により引き起こされると仮説を立てました。
[実験3-1]そこで、実験1と2で使用したタンパク質に、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えました。その結果、すべて黄色く変色し、赤褐色には変化しませんでした。
次に、黄色から赤褐色への変化は牛乳のラクトースとタンパク質がメイラード反応を起こすことによるものだと仮説を立てました。
[実験3-2]メイラード反応は、還元糖とタンパク質が反応することで、黄色を経て赤褐色になるというものです。玉ねぎを炒めると飴色になるのはこの反応が原因で、これは高温下や高pH下で促進されます。
そこで、実験1よりも濃度の高い3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液3mLを牛乳3mLに加えました。すると、1時間後には黄色く変色し、3時間後には赤褐色へと変化したことから、反応が促進されたことがわかりました。
[実験3-3]さらに、変色による吸収スペクトルの変化を測定しました。
変色した溶液をろ過し、沈殿物を取り除いた状態で分光光度計にかけ、吸光度を測定しました。その結果、550nm付近及び450nm以下の光を吸収するように変化していることがわかりました。
さらに、牛乳の脂質と水酸化ナトリウムによるけん化により、凝固物(石鹸)が形成されたと仮説を立てました。
そこで、牛乳に水酸化ナトリウム水溶液を加えた際に形成された凝固物をろ過して取り出し、それを再び水に溶かしてガラス棒でかき混ぜました。その結果、泡立つことが確認でき、けん化によって石鹸(脂肪酸ナトリウム)が形成されたことがわかりました。
まとめ
牛乳が黄色く変色する原因には牛乳のタンパク質に含まれている芳香族アミノ酸の酸化と、牛乳のタンパク質とラクトースによるメイラード反応の初期状態が、牛乳が赤褐色に変色する原因にはこちらも同様にメイラード反応が関係していることがわかりました。また、凝固物はけん化によってできた石鹸だとわかりました。
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■研究を始めた理由・経緯は?
牛乳に酸性の物質を加えるという研究はたくさんありますが、塩基性の物質を加えるという研究はありませんでした。そこで、どのような仕組みで起こるのか疑問に思い、実際に実験してみたのです。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1週間あたり平均5時間で、1年6か月です。
■今回の研究で苦労したことは?
牛乳が混合物であったため、反応物質の特定が難しかったことです。また、先行研究が見られなかったため、目的に沿った実験系の考察や、試薬の調節など実験に関することが困難だったことです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
反応の様子をタイムラプスで撮影することによって、色の変色の途中経過も観察したところです。また、牛乳に水酸化ナトリウムを加えることで、どの物質がどの反応に関係しているか予想し、実際にその物質と水酸化ナトリウム水溶液を反応させることで確認したことです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「焼いたスイーツとメイラード反応」村田容常(「化学と教育」(日本化学会) 67巻. 2号. 2019)
・「トリプトファンとパラジメチルアミノベンツアルデヒドの呈色の安定性に及ぼすアミノ酸その他の化合物の影響」中島正太郎,奥山源一(「薬学雑誌」Vol.76.620-624.1956)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
現段階では続ける予定はありませんが、機会があればさらに細かく分子レベルでの解析を行いたいと考えています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
グループに分かれて研究を行い、いろいろな発表会などで発表しています。また、春、秋の実験実習セミナーへの参加などもしています。
■総文祭に参加して
聞き手の反応を見ながら発表できるという、ポスター発表の利点を生かし、自分たちの研究成果を発表できたことが良かったです。また、様々な助言をいただいたことで、自分たちの研究を改めて見直すことができました。ほかの学校の方々と、この研究を通じて仲良くなれたことが嬉しかったです。