2019さが総文
(2019年7月取材)
■部員数 10人(うち1年生3人・2年生3人・3年生4人)
■答えてくれた人 山下塔矢くん(3年)
廃棄物中のCaCO3を用いたCu2+除去とその回収
チョークの粉が不純物の除去剤に?!
教室の黒板の周りに飛び散るチョークの粉末は掃除のやっかいもので、廃棄されるしかありません。私たちは、このチョーク粉末が何かに再利用できないかと考え、研究を行いました。具体的には、工場排水などに含まれる不純物の除去剤としてチョーク粉末を活用することを考えました。
チョーク、すなわちCaCO3(炭酸カルシウム)で除去できる不純物にはCu2+があります。私たちのこれまでの研究で、CaCO3でCu2+を除去する際には、沈殿と吸着の二つの働きがあることがわかっています。沈殿のメカニズムは、下図のような反応で説明できます。
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この研究では、CaCO3によるCu2+除去について沈殿だけでは40%程度しか説明できないことがわかりました。そこで今回は、吸着について量的な関係を確認するべく、条件を変えて反応量を調べました。
吸着によってさらに除去量をアップ
まず、チョーク粉末のCaCO3の含有率を測定します。
溶液中のCa2+をキレート滴定で定量しました。白色チョーク粉末には、CaCO3が92%含まれています。
次に、チョーク粉末の懸濁液を用いたCu2+の除去の方法です。チョーク粉末を0.1MolのCuCl2水溶液100mLに入れ、スターラーで60分間かく拌します。これをろ過してろ液を採取し、遠心分離器にかけます。そこに6MolのNH3(アンモニア)溶液を加え、懸濁中の残留Cu2+を吸光度測定します。懸濁中のCu2+の存在率は、下の式で表されます。
続いて吸着特性の解明に向けた実験です。まず、Cu2+平衡濃度と吸着量を求め、吸着等温線を作成しました。次に、物理吸着・化学吸着のいずれかを明らかにするため、生成した沈殿物を3回水洗し、Cu2+脱着の有無を確認しました。そして、Cu2+の反応量全体を沈殿・吸着の除去要因に応じて定量化しました。
実験から、このようにLangmuir型の吸着等温線が得られました。また、生成した沈殿物を3度水洗しても、Cu2+が脱着しなかったことから、Cu2+が、物理吸着ではなく、化学吸着していると推察されます。また、Schosselerらの研究から、CaCO3表面上にこのような形で結合しているとの報告があります。以上から、Cu2+がCaCO3表面上に「単分子層吸着(※)」という形で化学吸着していることがわかりました。
※ 吸着質が固体表面を1層でおおう状態
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これらの結果をもとに、白色チョーク粉末の混合量に応じたCu2+の除去要因を下図のように定量化することができました。
吸着した銅は電気分解で再び回収できる!
次に、生成した沈殿物をHCl水溶液(塩酸)で溶解し、電気分解しました。すると、Cu単体を93%という高収率で回収することができました。
さらに、電気分解後の水溶液を再利用しようと、アンモニアソーダ法を応用し、CaCO3を結晶化させて、Ca2+を再利用することを試みました。回収したCaCO3を利用し、再びCu2+を除去することができるようになりました。
今回、チョーク粉末、すなわちCaCO3を利用してCu2+を除去し、さらにCuの回収とCaCO3の再利用に成功しました。今後は、CaCO3の結晶多型・粒径を制御し、より効率の良い除去剤を開発したいと考えています。
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■研究を始めた理由・経緯は?
私たちの高校では、年間72㎏のチョーク粉末が廃棄されています。このことを知り、チョーク粉末をどうにか再利用できないかと考えたのが始まりです。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日2~4時間で2年。2016年から始まりました。
■今回の研究で苦労したことは?
吸着のメカニズムを解明するために、高校では学習しない内容がかなり多くあり、理解するのにとても苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
銅イオンの除去要因が「化学吸着」が予想よりも多かったこと、ただ除去するだけでなく、重金属もチョークも元通り回収できること、そして除去量の定量化(沈殿か吸着か)ができたことです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「チョーク粉末の再利用法の検討」一木創、吉井観都、中野隆之介、松本拓巳、田川創一朗、
(第55回愛媛県児童生徒理科研究作品展)
・「Uptake of Cu2+ by the Calcium Carbonate Minerals Vaterite and Calcite as Studied by CW and Pulse Electron Paramagnetic Resonance (EPR)」 P. M. Schosseler, A. Schweiger, B. Wehrli;1999
(Geochimica et Cosmochimica Acta63,1999)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今後も続けます。内容としてはCaCO3の再形成の際に結晶構造を操作し、吸着量を増加させる研究をします。また、より実用化させるために研究を進めます。
■ふだんの活動では何をしていますか?
研究の成果がうまく出せるように、考察や情報収集など部員それぞれが得意分野を担当し、力を発揮しています。また、後輩の研究のアドバイスをしています。
■総文祭に参加して
レベルの高い研究がたくさんあり、貴重な経験をすることができました。