2019さが総文
(2019年7月取材)
■部員数 9人(うち1年生4人・2年生4人・3年生1人)
■答えてくれた人 小関光太くん(3年)
界面活性剤を加えた水(セッケン水)を入れた容器にストローを差し込み、ストローの上の穴を指で押さえます。その後、ストローを水面から少し上まで持ち上げてから蓋をしていた指を離し、ストローの中の水を容器の中に落とすと「水中シャボン玉」ができます。
ふつうのシャボン玉は、シャボン液の膜の中に空気が包まれているのに対して、この水中シャボン玉の膜を作るのはシャボン液ではなく空気です。この構造では包まれている液体は空気に浮いているという、大変興味深い構造になっています。
私たちは以前から水中シャボン玉の研究を行ってきました。昨年度までは、水中シャボン玉ができる最適条件や、でき方・壊れ方について詳しく調べてきました。
その中で、「水中シャボン玉の空気膜に見える部分は実際の空気の膜の部分と一致するのか?」という疑問が生まれました。
そこで、今回の研究テーマは「空気膜の厚さを調べる」ことにしました。
研究の手順は以下の通りです。
1. まず、水中シャボン玉が壊れた時に出る空気の泡を集めて、空気膜の厚さを測りました。
2.次に、水中シャボン玉にレーザー光を当て、水中シャボン玉中の光の進み方を調べました。
3.最後に、水中シャボン玉中の光の進み方をコンピュータシミュレーションで再現することで、空気膜の厚さを求めました。
すなわち、水中シャボン玉の厚さを「空気の量」と「光の進み方」の2通りの方法で測定したことになります。
空気の量から膜の厚さを測定する
まず、水中シャボン玉が壊れた時に生まれる空気の泡をメスシリンダーで集めました。落とす水の量をストロー3cm分とし、メスシリンダーに空気が1ml分たまるまで行いました。
15回実験を行った結果、ストローから水を落とした回数の平均は541回となりました。このことから、水中シャボン玉1つに含まれる空気の量は0.0018ml(※)であることがわかりました。
ここでストローから落とした水0.85mlが全て水中シャボン玉になったと仮定し、以上の実験の結果から空気膜の厚さを求めると、4.2μmという大変小さな値が得られました。これほど薄い空気膜は本来肉眼では見えないはずですが、実際にははっきりと確認できます。
この疑問に答える手がかりは次のように得られました。ストローから落とす水に食紅を混ぜると、水中シャボン玉の空気に包まれている部分は赤く見えます。この水中シャボン玉を割ると、空気膜だと思われていた部分は全て「元から赤かった」かのように観察されます。
このことから、「空気膜のように見える部分の大部分には、下の図の上段のように、『空気がある』のではなく、同じく下段のように『光の進み具合で空気膜のように見えているが、実は包まれている水がある』のではないか」という仮説が立てられます。
レーザー光を当てて観察する
それでは、空気膜のように見えている部分は何なのでしょうか。それを調べるために、次のような実験を行いました。
まず、凸レンズの焦点にレーザー光源をおくことで、並行なレーザー光線を作ります。そして、レーザー光の当たる領域を水中シャボン玉が通過するようにして、ケント紙に映った像をビデオカメラで撮影しました。
それがこちらの画像です。空気膜だと思われていた部分が暗くなっていることがわかります。このことから、空気膜だと思われている部分は、光が通過していないと考えられます。
ここで、水中シャボン玉中を光がどのように進むのか考えてみました。光の進み方には、図の1・2・3の3通りが考えられます。
図の1は、空気に包まれた水の中を通過する光です。この光は何度か屈折しながらも結果的にほぼ直進し、水中シャボン玉の反対側に進んで行きます。
一方2は、空気膜を通過するが中の水は通らない光です。この光は1と違い、屈折によって大きく曲げられたまま進みます。
そして3は、外側の水と空気膜との間で全反射する光です。この光は2と同様、反対側には進んで行きません。
ここで凸レンズを除いてレーザーポインターを固定し、レーザー光線上を水中シャボン玉が通過するようにして、その様子をビデオカメラで撮影しました。
こうして撮影した、水中シャボン玉を通過する光の様子を観察しました。その結果、レーザー光が水中シャボン玉の空気膜の上の部分を通過する際は光が上に曲げられ、下の部分を通過する際は下に曲げられていることがわかりました。
ここで、先ほど撮影したデータから、空気膜に見える部分の厚さrと水中シャボン玉の直径Aの比、r/Aを複数回測定しました。その値は0.12から0.18の間にあり、平均値は0.152となりました。この値はのちに、コンピュータシミュレーションで得られた結果との比較に用います。
水中シャボン玉中を通過する光のコンピュータシミュレーション
最後にコンピュータシミュレーションを用いて、水中シャボン玉中を通過する光の進み方について考えました。
先ほど示した水中シャボン玉中の3通りの光の進み方1・2・3はそれぞれ次のようにモデル化されます。
1は、光が入射する位置を定めると図形の位置関係と屈折の法則から光の進路が定まります。
この1において屈折の回数が少ない場合が2に当たります。
そして、光の入射位置における入射角が臨界角を超える場合に全反射するのが3であり、この場合は反射の法則を用います。
ここで、水の屈折率はn=1.3とし、Visual Basic 6.0でシミュレータを開発しました。
この開発したシミュレータでシミュレーションを行った結果が下図です。
光は画像の左側から入射しています。また、空気膜の厚さの設定は変更することができます。赤い部分は光が届いている部分、白い部分は光が届いていない部分を表しています。その大きさの比r/A(空気膜に見える部分の厚さrと水中シャボン玉の直径Aの比)が、空気膜の厚さを変えるにつれてどのように変化するかをシミュレータで計算しました。
結果をグラフにしたものが下図です。先ほどの実験で得られたr/Aの平均値、0.152の付近で細かくシミュレーションを行いました。
その結果がこちらです。r/Aが0.152となる空気膜の厚さは15μmであるいうことが、グラフから読み取れます。
以上の実験で得られた結果をまとめます。
実際の実験における測定で得られた空気膜の厚さは4.2μm、コンピュータミュレーションの結果得られた厚さは15μm、となりました。
このことから、一見空気膜のように見える部分は実は「空気膜の表面における光の反射と屈折によって反対側からの光が届いていない部分」であることがわかりました。すなわち、実際の空気膜は、見た目に比べて極めて薄いということが言えます。
また、実験とシミュレーションで得られた値には4倍程度の差があります。これは、「シミュレーションで用いるr/Aの値が少し変わるだけで空気膜の厚さとして得られる値が大きく変わる」ことから生じたと考えられます。
今後は実験の回数を増やし、さらに結果の精度を上げていきたいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
この研究は、一昨年から行っています。これまで水中シャボン玉のできる条件、できる仕組み、壊れ方などを実験で調べてきました。研究を行っていく中で、水中シャボン玉の空気膜はどの部分なのか、という疑問が出てきました。そこで、今回の研究の目的を、「空気膜の厚さを調べる」としました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
一昨年の8月頃から始めました。研究は放課後や休日に行い、週4~5日で、1日あたり2~4時間です。
■今回の研究で苦労したことは?
水中シャボン玉が壊れた時に出る空気の泡をメスシリンダーで集めました。メスシリンダーに空気が1mLたまるまでに、約550個の水中シャボン玉が必要でした。これを10回以上行いました。
また、水中シャボン玉の動画から膜に見える部分の厚さを正確に測るために、水中シャボン玉がカメラの中央に来た時の画像を利用することにしました。そのため、動画を何回も撮りました。このように、実験の精度を上げるために回数を増やしたり、測定方法を考えたりしたところに苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
実験と計算(コンピュータシミュレーション)の両方を用いて、水中シャボン玉の膜の厚さを測定したところを見てほしいと思います。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・高校教科書「物理」(数研出版)
・高校教科書「化学」(東京書籍)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
どこまで大きな水中シャボン玉が作れるかを調べたいと思っています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
私たちの高校の自然科学部は、「物理化学部」「生物研究部」、「環境科学部」の3部があります。それぞれの部が、互いの研究について意見を交わし合ったり、時には協力し合ったりしています。また、研究テーマを見つけに科学館や博物館に出かけたり、地域の小中学生を対象とした模擬授業やサイエンスショーを行ったりと、みんな仲良く、楽しく活動しています。
■総文祭に参加して
わかりやすい発表を心がけて準備を行ってきました。本番では、自分の納得のいく発表ができ、これまでやってきたことを出し切ったという思いでした。また、審査員の先生方から研究の問題点や新たな課題など貴重なアドバイスを戴き、本当に良かったです。さらに、他校の生徒さんたちの発表はレベルが高く、大変刺激になりました。
※韮崎高校の発表は、物理部門の最優秀賞を受賞しました。