2019さが総文
(2019年7月取材)
■部員数 42人(3年生42人)
■答えてくれた人 川村綾音さん(3年)
私たちは、ラトルバック(rattleback)という不思議な回転をするコマの回り方について研究しました。ラトルバックは、テーブル上で回すと、一方向にはスムーズに回転しますが、反対方向に回すと、ガタガタと振動(rattle)して回転が止まり、やがて逆に回り始める(back)という性質がある、半楕円体(回転楕円体を半分に切った形)のコマです。
回り方については、下記の動画をご覧ください。
私たちは今回、コマを実際に回して観察することを通して、ラトルバックの現象が起こる条件を解明することを目標として、研究を行いました。
私たちはまず、ラトルバックの現象が起こる条件に「摩擦により生じる振動」と「重心の位置」が関係しているのではないかと仮説を立てました。
そこで、「摩擦と回転の関係」、「重心の変化と回転の関係」、そして「接触点の様子」の3点に注目し、それぞれについて実験1〜3を行いました。
コマの回転にはある程度の摩擦が必要
実験1では、「摩擦と回転の関係」について調べました。先行研究によると、コマと板との間の摩擦を減らすと、コマが振動・反転するラトルバックの現象は起きないとのことでした。この研究を再現するために、私たちはアクリル板の上にバルブオイル(金管楽器に用いる潤滑油)を塗ることで摩擦を減らし、コマを回転させる実験を行いました。
実験1の結果、先行研究通りラトルバックの現象は起きず、コマは一方向の回転を続けました。私たちはバルブオイルの代わりに水を用いて同様の実験を行い、やはり先行研究を裏付ける結果を得ました。
このことから、コマが振動・反転するためにはある程度の摩擦が必要だと考えました。
ステンレスソープで回転を再現、重心の位置と回転の関係を探る
次に、「重心の位置と回転の関係」について調べる実験2を行いました。私たちはこの実験でステンレスソープ(石鹸のような形状をしたステンレス鋼のかたまり)を用いました。このステンレスソープ上に2つのおもりをうまくのせることで、ラトルバックの現象を起こすことができます。ステンレスソープ上には座標平面を描き、座標上のおもりをのせる位置を変えていって実験を進めました。
具体的には、2つのおもりの位置を移動させて座標を記録した後、時計回り・反時計回りのそれぞれの方向に回し、観察を行いました。なお、おもりをのせる位置は、座標軸について線対称となっている場合を排除するために、座標の第1象限(右上部分)と第3象限(左下部分)のみに制限しました。また、回転すると一致するような、点対称となるおもりののせ方は省略しました。
実験2の結果が下図です。この図では、一回ごとの実験につき2つのおもりをのせた座標を線で結び、回転させたときにコマがどれだけ反転したかを線の色で表したものを、複数の実験について重ねて表示しています。
反転の度合いが大きいほど、線の色が赤色に近づくように描きました。この結果は、時計回りに回転させたときのほうが、反時計回りに回転させたときよりも反転の度合いが大きいことを示しています。
私たちは、より詳しい結果を得るために、ステンレスソープに描く座標をさらに細かくし、再度同様の実験を行いました。
この詳細な実験の結果(下図)から、やはり時計回りに回したほうが、反時計回りに回すよりも、反転の度合いが大きくなることがより強く実証されました。時計回りに回したときは、1回転以上反転する場合が多い一方で、反時計回りに回したときは1/2回転以上反転するものはそれなりにあるものの、1回転以上反転する場合はあまりなかったためです。
このことから、おもりをステンレスソープ上の第一象限と第三象限の座標にのせた場合、反時計回りにはスムーズに回転し、時計回りには振動・反転が生じるラトルバックになりやすいことがわかりました。
重心を変えると振動の際の接触点の様子が変わる
実験3では、「重心の位置と接触点の軌跡の関係」について調べました。どちらの方向に回すかによって重心の位置が異なり、それに応じて接触点(コマの下のテーブルに接する部分)の動く様子が変わるのではないかと考えたためです。実験2の結果から、反転が生じるとわかった位置におもりをのせ、ステンレスソープの底面にはベビーパウダーをつけて回転させて、テーブル上に残るベビーパウダーの跡の様子を観察しました。
ただ、ここで一つ問題が生じました。ベビーパウダーをつけた影響でコマとテーブルの間の摩擦が減ってしまったためか、振動まででコマが止まるようになり、コマが反転しなくなってしまったのです。しかし、反転まではしないものの振動はするので、それによりベビーパウダーの跡の違いが観察できるのではないかと考え、実験を続行しました。
まず、おもりがない状態でステンレスソープを回転させると、左図のようになります。この図は、テーブルの上からベビーパウダーの跡を観察したものです。時計回りに回転する場合と反時計回りに回転する場合のそれぞれで、一定の向きに跡ができたのが観察されました。
次に、おもりをのせた状態で実験を行いました。おもりをのせたときは、おもりがないときに生じる跡に加えて、薄く反対向きの跡があるのが観察されました。私たちはこれを、振動により生じた跡だと考えました。
以上の結果から、コマを回転させる方向によって接触点の軌跡の様子が決まること、また、ラトルバックする場合、接触点の軌跡は振動の際に逆の回転のときの軌跡に切り替わることがわかりました。さらに、振動の際に接触点の様子が変わることから、振動についてより焦点を当てた実験を行う必要があると考えました。
ラトルバックの回転を決めるものは…
3つの実験を通してわかったことは大きく2つあります。まず、ラトルバックが振動・反転するためには、ある程度の摩擦が必要であること。そして、ラトルバックがスムーズに回転する方向は、ステンレスソープ上のおもりをのせる位置によって決まることです。
今回の実験を踏まえて、今後さらに実験・考察していきたいポイントが3つあります。まず、ラトルバックの振動・反転が生じる摩擦の範囲を調べること。次に、より振動に焦点を当てた実験をするために、接触点の様子の観察方法を検討し、さらにラトルバックの軸の動きを観察すること。そして、最終的には、今までに行ってきた実験の結果を統合して考え、ラトルバックの振動・反転の根本要因を見出すことです。
■研究を始めた理由・経緯は?
研究テーマを決める際に物理分野の研究をしようとしていましたが、テーマをしっかりと決めていませんでした。担当の先生とも相談している時に、科学おもちゃでラトルバックというコマの存在を知りました。今まで耳にしたこともないおもちゃでしたが、実際の動きを見てとても面白いと感じ、小さな好奇心からこれについての研究をしようと思いました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
週に2時間で約1年3か月間の研究を行いました。必要に応じて、それ以上時間をかけた期間もあります。
■今回の研究で苦労したことは?
研究のきっかけのところでも述べたように「ラトルバックをもっと知りたい!」ということから、この研究を始めたのですが、実際に逆転する現象の予想と、それを調べるためにどのような実験をしていくかというところが一番難しかったです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
ラトルバックについての研究のサイトや論文はありましたが、摩擦などを無視した数値的シミュレーションや、高校生が簡単には理解しにくいものが多かったです。そのため私たちは、「そもそもコマはおもちゃである」という原点に立ち返り、実際に回転させ、観察し、さらに実験回数を重ねるということに重点を置きました。コマを回した回数は何百回か、それよりも多いと思います。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「東大生がおしえてくれたアタマがよくなる科学おもちゃ&手品」 東京大学サイエンスコミュニケーションサークル CAST(宝島社)
・株式会社ナリカ のサイト
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今回の研究でわかったのは、ラトルバックが振動して逆回転が生じる条件の一部に過ぎず、実際の現象はより複雑であることです。もしこの研究を続けるとしたら、振動、中心軸などに焦点をあてた実験などで、より内容を深めてほしいと思います。また、新たな条件の仮説を立てて研究を行うことができれば良いと思います。
■ふだんの活動では何をしていますか?
盛岡三高では、普通科7クラスの中に1クラスだけ理数探究コースというクラスが設定されています。理数探究コースでは週2時間の「総合的な学習の時間」がカリキュラムの中に組み込まれていて、その時間を中心にして課題研究に取り組んでいます。2年生から始めて、3年生では研究の成果を論文にまとめます。週2時間で足りない部分は、放課後残って実験をしたり、研究のまとめをしたりしました。
■総文祭に参加して
全国から集まってきた高校生と交流できたこと、レベルの高い研究発表を聞くことができたことはとても良い刺激になりました。総文祭に出場するまでの研究や発表の経験も含めて、総文祭に出場できたことはとても光栄であり、貴重な機会でした。