2019さが総文

空気中の浮遊物が雪や雹のもとになる? 気象データから関係性をさぐる

【地学】本郷高校 地学部 (東京都)

(2019年7月取材)

左から 高石文哉くん、内田晃樹くん(3年)
左から 高石文哉くん、内田晃樹くん(3年)

■部員数 高校生11名(高3:5名、高2:5名、高1:1名)、中学生11名

 

氷晶核とエアロゾル

2017年7月18日、本校周辺の地域で雹が降りました。窓の外が灰色になり、激しい風と雨、そして雹が校舎の窓に叩きつけるように降り、身の危険を感じるほどでした。そして豪雨と雹が収まると、周辺には雹が散らばっていました。この雹を採取して観察したところ、雹は同心円状に結晶が成長していること(写真 左)と、中心付近に氷晶核(※1)となる比較的大きなエアロゾル(※2)があること(写真 右)がわかりました。

 

※1氷が生成するときに核となる微粒子

※2 気体中に浮遊する微粒子

 

雹の研究を行っている最中、2018年1月22日に東京で大雪が観測されました。我々はその雪を採取し、雪においても雹と同様に、氷晶核になりうるエアロゾルが存在するのではないかと考え、研究を始めました。

 

この研究では、採取した雪のサンプルを雪が降った当時の気象データと照らし合わせることで、雪に含まれるエアロゾルと当時の気象データとの関係性を探ることを目的としました。

 


 

エアロゾルの個数・位置と最大瞬間風速・積雪量のデータを照合

 

研究の方法です。積もった雪にメスシリンダーを差し込んで雪を柱状にサンプリングし、そのサンプルを2つに分けてサンプルAとサンプルBとしました(下図の左の図)。その際、降雪後飛来してきた粒子などの不純物を取り除くため、雪の表面を数mm除去しました。この雪の柱状サンプルから深さごとに0.1gずつ採取してプレパラートを作成し、気象庁が公表している降雪量、積雪量のデータ(下図の右の図)をもとに、それらのプレパラートのそれぞれに積もった時間帯を割り当てました。

 

 

エアロゾルの観察は顕微鏡で行いました。観察を行う際、エアロゾルを鉱物由来のもの(下図の左の図)と、植物由来のもの(下図の右の図)とで区別し、それぞれのエアロゾルの個数とサンプル内での位置とをデータに取りました。ただし、データにとるエアロゾルは大きさが0.084mm以上のものに限りました。

 

そして、観察結果を雪が降った当時の最大瞬間風速・積雪量のデータと照らし合わせました。

 

 

サンプルAとBのそれぞれについて、エアロゾルの「種類(鉱物系か植物系か)」・「(観察された)個数」・「(サンプル内での)位置」のデータをまとめたのがこちらです。

 

 

氷晶核以外のエアロゾルが入り込む可能性はあるのか

 

次に、二つの補足実験について説明します。

 

まず、補足実験1です。今回集めた雪のサンプルは、積雪が23cmの日の雪が融けて2日後に9cmになった段階で採取したものなので、その9cmの雪が、もともとの23cmのどの部分に相当するのか調べなくてはなりませんでした。そこで、積雪をかき氷で再現し、深さの違いを2色のチョークで表しました。こうして作ったものを砂の上に置いて電気スタンドで温めることによって、積雪がどのように融けるのか調べました。

 

 

次に、積雪の試料に氷晶核以外のエアロゾルが入り込みうるかどうか調べるため、補足実験2を行いました。

 

アクリルで作った水路の片側に、砂やチョークの粉などの粒子を置き、粒子の周辺に霧雨に見立てたミストシャワーを振り掛けると同時に、水路の反対側からエアーコンプレッサで風を送り、粒子がどのように動くかを観察しました。なお、送風は風速毎秒12mで行いました。

 

 

二つの補足実験からの結果の考察です。

 

まず補足実験1から、積雪は上部から融けるとことがわかりました。左の写真で、青色のチョークで示した部分は時間が経つにつれて下がってきているのに対し、赤色のチョークで示した部分は、位置がほとんど変わっていないことが見て取れます。

 

従って、採取した雪の9cmのサンプルは、23cmの積雪のうち、積もり始めの9cmに対応すると考えられます。このことと気象庁の降雪量・積雪量のデータ(右図)より、採取した雪のサンプルは2018年1月22日の14時から18時の間に積もったものと見なせると考えました。

 

 

次に補足実験2では、エアーコンプレッサで風を送っても、チョークの粉が吹き飛んだ形跡は見られませんでした。このことから、雪が降り積もっている間に他のエアロゾルが紛れ込む可能性は低いと考えました。

 

 

以上の結果を踏まえて、サンプルAとサンプルBの雪の積もった時刻と降雪量、エアロゾルの個数についてグラフ1・2を作成しました。

 

また、これらのグラフの縦方向は時間軸に対応していて、赤色の棒線は鉱物系、緑色の棒線は植物系のエアロゾルの個数を表しています。

 

 

さらに、今回採取した雪が降ったと考えられる2018年1月22日の14時から18時の最大瞬間風速の気象庁のデータをまとめました。

 

 

最大瞬間風速・エアロゾルの個数・降雪量には何らかの関係がある?

 

これらのグラフから、時間の経過とともにエアロゾルの個数が増えること、そして同様に降雪量と最大瞬間風速が大きくなっていることがわかります。これらのことから、エアロゾルの個数と降雪量と最大瞬間風速の間には、何らかの相関関係があると推測されます。

 

 

今回の研究の反省点は、雪を採取した時から観察まで長い時間を要してしまったことです。これは、降雪後すぐにサンプルを作成できなかったこと、研究の方向性の決定が遅れたこと、そして低温実験用の冷凍庫の購入が遅れたことによります。また、実験の試料が少ないため、実験結果の信頼性が低くなってしまいました。

 

今後は、鉱物系・植物系のエアロゾルの種類の特定を試みたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

2017年7月18日、本校周辺の地域で雹が降り、この雹を採取して観察したところ、雹は同心円状に結晶が成長していることと、中心付近に氷晶核となる比較的大きなエアロゾルがあることがわかり、雹の研究をしている最中の2018年1月22日、東京で大雪が観測されました。その雪を採取し、雪にも雹と同様に、氷晶核になりうるエアロゾルが存在するのではないかと考え、研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

高1の夏休みから雹の研究を始めたので、この夏で約2年間です。週2日、1日2時間の活動ですが、いろいろなイベントがあるとそちらを中心に活動するので、2年間ずっと研究をしていたわけではありません。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

雪のプレパラートの観察は時間がかかり苦労しました。実は雪柱サンプルの観察を行う前に、予備実験で積雪の上部、中部、下部でサンプルした雪のプレパラートを何枚も試作し、観察を行っています。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

雪柱のサンプリングが2日後であったため、その9cmの雪が、もともとの積雪23cmのどの部分に相当するのか調べるために補足実験1を行った点と、積雪の試料に氷晶核以外のエアロゾルが入り込みうるかどうか調べるために補足実験2を行った点は工夫しました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「エアロゾル学の基礎」高橋幹二著(森北出版)

「エアロゾル用語集」日本エアロゾル学会(京都大学学術出版会)

「大気と微粒子の話 エアロゾルと地球環境」東野達/笠原三紀夫監修(京都大学学術出版会)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

我々は引退なので、後輩たちに任せます。東京で大雪が降った時に、すぐに多くの雪柱サンプルを採取し、観察して何か新しい発見をしてくれたら嬉しいです。大型冷凍庫もあるので…。雹の研究は、中学生が引き継いでくれているので楽しみです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

ふだんは各々で好きな研究テーマを見つけ活動していますが、研究だけでなく、野外に化石採集に出掛けたり、ミネラルフェアに出掛けたりしています。夏合宿の場所(関東甲信越のジオパークや天文台など)を自分たちで決め、計画を立てることにも時間を掛けています。

また、学園祭で多くの人に喜んでもらうためにいろいろ準備しています。砂金採り体験やプラネタリウム体験は好評です。

 

■総文祭に参加して

 

全国のレベルの高い研究を見ることができ、大変貴重な経験となりました。巡検研修や生徒交流会も良い思い出となりました。生徒実行委員会の方々のおもてなしがあっての総文祭だということに気付きました。何年も前から準備をしてくださって有難うございました。

 

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