2019さが総文

水のない惑星にできる「雲」の生成に迫れるか?!

【地学】千葉県立木更津高校 地学部

(2019年7月取材)

浦松彩乃さん(3年)
浦松彩乃さん(3年)

■部員数 13人(うち1年生5人・2年生2人・3年生6人)

 

水蒸気でなくても雲はできるのか~エタノール、アセトン等による雲の生成条件~

水以外の物質で雲を作る

雲は、空気中の水蒸気が凝結してできる小さな水滴です。ペットボトルとポンプを用いて、簡単に雲を作ることができます。地球以外の惑星では、硫酸やメタンなど、水以外を成分とする雲があることが知られています。そのような水以外の雲がどのようにしてできるのか疑問に思い、研究を始めました。

 


本研究では、水、エタノール、メタノール、アセトンを用いて、雲を生成させる実験を行いました。

 

4種類の物質はいずれも常温で液体であり、水以外は有機化合物です。

 


雲を生成させる方法は次の通りです。

 

液体を入れたペットボトルにポンプで空気を送り込み、ボトル内の気圧を上げます。25回押したところでポンプを外し、ボトル内の気圧を一気に下げます。すると急激に温度が下がり、ボトル内で気化していた物質のうち、その温度での飽和蒸気量をオーバーした分が凝集し、雲になります。

 

エタノール、メタノール、アセトンは、いずれも水と同様に揮発性が高いため、雲を生成できると予想しました。

 

 

結果としては、予想通りいずれも雲が生成しました。しかし、雲の濃さにばらつきが見られました。そこで、次の実験で、この雲の濃さを定量化することにしました。

 

アルコールの雲は水の雲より濃い!

光センサーを用いて、雲の生成前後での透過光の強度を測定し、雲生成時の光の透過率(雲生成時の透過率の強度[lx]÷雲生成前の透過率の強度[lx]×100)を求めます。この値が小さいほど、濃い雲が発生したと言えます。

 

 

私は、雲の濃淡は飽和蒸気圧の高低によるものだと考え、水<エタノール<メタノール<アセトンの順に、より濃い雲が生成したのではないかと仮説を立てました。

 

結果としては、雲の濃さは水<アセトン<メタノール<エタノールの順になりました。

 

そこで、蒸気圧以外に原因があると考え、温度変化と雲の濃さとの関係について調べました。

 

雲生成時の温度変化は、ポンプを押す回数を多くするほど、雲生成時変化を大きくすることができます。

 


 

結果はグラフで示した通りです。エタノールとメタノールでは、温度変化が小さい段階から雲が生成し、温度変化がある段階に達すると急激に雲が濃くなりました。これは水とアセトンには見られない特徴です。

 

 

雲の濃さの秘密は分子構造?

この原因は何でしょうか。

 

エタノールとメタノールは、水やアセトンには無い、ヒドロキシ基という共通の構造を持っています。この分子構造の違いが、雲の生成の仕方を特徴づけている可能性があります。

 


 

そこで追加実験として、ヒドロキシ基を持つ他の物質(1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール)で同様の実験をしたところ、エタノール、メタノールと同様の結果が得られました。

 

 

なお、先行研究のAmadeu K.et.al(2000)によると、アルコールは水素結合によって、気相中に分子のクラスターを生成することが分かっています。このヒドロキシ基に由来するクラスターが凝結核の役割を果たすことが、濃い雲が生成する原因となっている可能性があります。

 

 

今後の展望としては、分子の構造の違いが雲の生成に影響を与える可能性とそのメカニズムについて、さらに検討したいです。また、この研究をきっかけに他の惑星に発生する雲についての理解を深めていきたいです。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

地学の先生から、水以外の成分でも雲ができることを聞き、その雲がどのようにしてできるのか疑問に思って研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日3時間で約6か月です。ただし、この研究の前段階の研究は、1年生(一昨年)の夏から始めていました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

実験でポンプを押すのが大変でした。ボトル内の気圧が高くなった状態では、ポンプが非常に硬くて、指を負傷したこともありました。また、最初はエタノールの雲についてだけ考えていたのですが、水蒸気の雲との違いの原因がなかなかつかめず、エタノール以外の物質についても実験をすることにより、一気に研究が進みました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

測定温度については、十分に考察をしました。理論値と測定値に大きな食い違いが生じたのですが、その原因を多方面から考察することにより、測定値の信頼性が増したと思います。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・『「水」をかじる』志村忠雄(ちくま新書(2004))

・『図解・気象学入門』古川武彦、大木勇人(講談社ブルーバックス(2011))

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

続けていきたいです。温度変化ΔTと光の透過率のグラフで、ヒドロキシ基をもつ物質はある段階から急激に濃い雲になっていますが、その原因について調べていきたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

地学部全体としては、いくつかの班に分かれて以下のような研究や活動をしています。

・微隕石の研究

・地域の科学イベントへの参加

・天体観測合宿

 

■総文祭に参加して

 

実験の厳密さやデータ処理の方法の妥当性が重要であること、目的と結論が一貫していることの大切さなどが身に沁みてわかりました。とてもいい経験になったと思います。

 

※木更津高校の発表は、地学部門の奨励賞を受賞しました。

 

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