2019さが総文
(2019年7月取材)
■部員数 9人(うち1年生3人・2年生3人・3年生3人)
■答えてくれた人 福永こひろさん(3年)
ゼラチンとゴマ油で噴火を再現
日本は世界有数の火山大国であり、噴火による災害が発生しています。そこで、噴火のメカニズムを少しでも解明することができれば、防災や減災に繋がるのではないかと考えました。
研究手法は、先輩方の先行研究を参考にしました。ゼラチン状溶液を冷やし固めたゼリー状のもの(以下、ゼラチン)を地殻、ゴマ油をマグマに見立て、ゴマ油をゼラチンに注入してその動きを観察します。実験の条件は図の通りです。
ごま油はゼラチンよりも密度が小さいために、5~10分程度かけて、ゼラチンの中を上昇していきます。この仕組みについて他の例で例えると、水と油を混ぜた時に、油の方が水よりも密度が小さいために水の上に分離します。これと同じことが起こっています。
ゼラチンの上部に達したゴマ油は外に漏れ出ますが、これが噴火に当たります。
ゼラチンとゴマ油の密度差は0.2357g/cm3です。実際の地殻とマグマとの密度差は0.2~0.3 g/cm3と言われており、ほぼ同じです。そのため、このモデルを利用して、マグマの移動をシミュレーションすることができます。
今年は、先行研究を参考に、新たに4種類のシミュレーションに取り組みました。
実験(1) 上方から圧力を加える実験
ゼラチンの上に60gのおもりを載せ、上方からの圧力によって火口や火道が塞がれた場合について、シミュレーションしました。ゴマ油は上からの圧力により真上に上昇することができなくなり、新しい通り道が確認されると予想しました。
結果としては、ゴマ油は重りを避けるようにして、らせん状に上昇することがわかりました。
このことから、火口や火道が塞がれた場合、マグマは上昇に適した場所を探すようにして、圧力を避けて上昇を続けると言えます。
実験(2) 割れ目を発生させる実験
容器の側面に千枚通しで穴を開け、地殻に断層など地質的に弱い部分が生じた場合について、シミュレーションしました。ゴマ油は割れ目に沿うようにして移動すると予想しました。
結果としては、ゴマ油はやはり、割れ目に沿って上昇することがわかりました。
このように、マグマは様々な条件下で、その移動方向を変える可能性があると言えます。
実際、2018年1月の草津白根山噴火では、噴火が予想されていた火口から2kmほど離れた地点で噴火が観測されました。
断層など、火山周辺の地質構造がわかれば、ハザードマップの作成などに利用できるものと考えられますが、火山の地下の構造を知るのは現実には困難です。
実験(3) 側方から圧力を加える実験
ペットボトルに折れ目がつき、ゼラチンが割れないように、容器が幅6cmになるように板で左右から挟み、火山に横からの圧力が加わった場合について、シミュレーションしました。結果としては、ゼラチンは加えられた圧力に対して直角の方向にレンズ状に広がり、そこをゴマ油が通ることがわかりました。
この結果を踏まえて、こんにゃくを用いて、改めて側方からの圧力による地殻の変化についてシミュレーションしました。
こんにゃくに十字の切れ目を入れ、地殻上の岩盤の弱い部分に見立てました。そして、こんにゃくの側面を指で押し、圧力を加えました。結果としては、加えた圧力に対して直角の方向にこんにゃくの切れ目が開き、ゼラチンでの実験と同様の結果が得られました。
2つの実験で確認された現象は、現実にも観察されます。ユーラシアプレートの下に沈み込むフィリピン海プレートによって南東方向から圧力を受けている富士山では、北西から南東にかけて、直線状に噴火口が集中して分布しています。
伊豆大島での火口の配列にも、富士山と同様の特徴が見られます。
これに対して、大陸プレート上にある阿蘇山では、火口の配列に規則性はありません。
実験(4) 再噴火の再現実験
特に条件を与えないモデル実験の後、また実験(1)や実験(2)の後に、同じ箇所から再びゴマ油を注入し、再噴火をシミュレーションしました。いずれの場合でも、ゴマ油の通り道は1回目の実験と同様となりました。
このことから、再噴火では基本的にマグマは同じ火道を通ると言えます。また、逆に火道が変化する場合とは、発生場所や火山の環境に変化がある場合に限られるものと言えます。
まとめと展望
先行研究に加えて、ゼラチンやこんにゃくを用いた新たなシミュレーションを行い、噴火のメカニズムの一端を明らかにすることができました。このシミュレーションの結果が、現実の火山に当てはまるのかについては、更なる検証を重ねて考察していきたいと思います。その中で、防災や減災に繋がる噴火のメカニズムを見つけたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
私たちは先輩の先行研究のポスターを見て、シミュレーション実験が面白そうだと感じ、またこの研究を引き継ぐことによって、防災や減災につながる手がかりが得られたらいいなと思い始めました。また、個人的には祖父母が鹿児島に住んでいて、桜島や新燃岳など火山が私にとって比較的身近な存在で、興味があったからです。
先輩方が研究を始められたきっかけは、熊本地震の直後に阿蘇山が噴火したことから、地震の振動とマグマの移動の関連性を調べることを目的に始まりました。しかし、地震との関連性について結果を得るのは難しくマグマの移動についての研究に発展しました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日当たり2-3時間で、約8か月です。
■今回の研究で苦労したことは?
マグマの移動はどんな場合に起こるのかを想定し、どんなシミュレーション実験をするのか、内容を考えることに苦労しました。また、考察を立てることにも苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
実験結果を元に、実際の火山と照らし合わせて考察している部分を特に見てほしいです。何度も話し合いを重ね、結果からどのようなことがわかるのか再び予測を立て、その予想を裏付ける資料を探し、また話し合い、を繰り返して立てた考察となっています。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「火山のしくみパーフェクトガイド」高橋正樹編著(誠文堂新光社)
・Newton別冊「火山のしくみと超巨大噴火の脅威」(ニュートンプレス)
・Newton別冊「富士山噴火と巨大カルデラ噴火」(ニュートンプレス)
・Newtonムック「多発する自然災害―洪水・地震・大噴火」(ニュートンプレス)
・「火山地質図 阿蘇山 桜島 富士山 伊豆大島」(地質調査総合センター)
・「中部九州阿蘇カルデラ形成前・後のマグマ供給系に関する研究」三好雅也
http://masayamiyoshi.net/Study1Aso.html
■今回の研究は今後も続けていきますか?
私たちは3年生なので、この大会で引退になりますが、後輩が引き継いでくれるとのことです。私たちの実験を発展させて、マグマだまりを再現することに挑戦しているそうです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
主に研究を行っていますが、放課後から下校時刻の間に月や惑星が見られる時は、学校の屋上にあるドームの天体望遠鏡で月や惑星を見ることがあります。また、夏休みのベルセウス座流星群観測の合宿に向けて、天体望遠鏡や双眼鏡を使えるように練習することや、観測方法の練習もします。
■総文祭に参加して
滋賀県には地学部門の発表を行う学校が少ないので、全国から集まった様々な研究について知ることができて、とても良い経験になりました。地元地域の環境を生かした研究や自然界の現象についての研究などテーマが豊富で地学分野の面白さを改めて感じました。
中でも最も印象に残っていることは、同年代の人たちが日常の生活の中でどんなことに興味や疑問を持ったのかを知ることができ、またその事象について追求したい、探究したいという熱意を感じたことです。そして、多くの研究の最終目標が社会に貢献する何かを見つけることであったことに感銘を受けました。今のこの豊かな生活は、自分の興味や疑問を追求した人たちの積み重ねのおかげであると感じました。