2019さが総文
(2019年7月取材)
■部員数 11人(うち1年生2人・2年生7人・3年生2人)
■答えてくれた人 徳田芙優さん(2年生)
測量調査で手掛かりを探す
近年、茨城県北部の沿岸地域では、海岸浸食が報告されています。私たちは、茨城県北部の日立市会瀬海岸における海岸浸食に興味を持ち、研究することにしました。
画像は、国土地理院の「地図・空中写真閲覧サービス」で入手したものです。白枠内に注目すると、海岸線が大幅に後退していることがわかります。
私たちは、この浸食に海岸付近の海流が大きく影響しているという仮説を立て、調査を行いました。
まず私たちは、2015年から現地での測量調査を約50~70日ごと実施し、会瀬海岸の地形変動について考察しました。調査では、基準点から50m×30m四方内を、トータルステーションを用いて測量しました。
まず、各地点での標高を測量し、このような等高線図を作成しました。
次に、実施した測量調査結果から平均標高を算出しました。その推移をグラフで表すと図のようになり、平均標高は、低下と上昇を繰り返しながら、4年間で70.6cm低下したことがわかります。
さらに、地形断面図を作成し、1年ごとの断面を比較しました。これらの図から、海浜地形の中でも海側部分が大きく変動したことがわかります。ここから、会瀬海岸での海浜地形変動は、海岸流による影響を強く受けていると、私たちは考えました。
鉱物採集で海岸浸食の原因を特定
これは、会瀬海岸沖約5kmの海面での海岸流について、その流向割合をグラフで示したものです。北~北東から南~南西に向けて流れる「南向き系」海岸流は、全体の約36%を占めています。
海岸流に占める「南向き系」の割合のグラフと、平均標高の推移のグラフを重ねると、両者には負の相関があることがわかりました。ここから、私たちは、「南向き系」海岸流が会瀬海岸の浸食と関係しているという仮説を立てました。
この仮説を検証するために、私たちは、会瀬海岸に含まれている高温石英に注目しました。
高温石英は、含まれる地層が限られており、会瀬海岸に特有の鉱物だと言えます。私たちは、茨城県の沿岸での高温石英の分布を調査することで、会瀬海岸から流出する砂の流れを推測できると考えました。
なお、高温石英はその立体構造に特徴があり、調査地点の海岸で採取した砂から手作業で選別できます。
調査結果は、図の通りです。海岸の砂50gあたりに換算すると、会瀬海岸の北にある折笠海岸では18個、南にある久慈浜海岸では70個の高温石英が、それぞれ含まれていました。ここから、海岸流によって浸食された会瀬海岸の砂は、北から南に向かってより多く流出していると言えます。したがって、「南向き系」海岸流は、やはり会瀬海岸の浸食の原因になっていると考えられます。
より詳細な研究活動に向けて
さて、私たちは、海浜地形変動をより詳細に調査するために、測量区画内の一点ごとについて、標高の標準偏差を算出しました。この数値を比較することで、過去4年間での標高の変動の相対的な大小関係がわかります。結果を図で表したものが、こちらになります。
標準偏差が大きい青い部分を、領域Mとします。この領域Mでは、過去に大きな海浜地形変動が生じたと言えます。実際、標高の最大値と最小値の差は170cmもありました。
領域Mにおいて標高が高かった時と低かった時のそれぞれの時点での等高線図において、領域Mの位置を表示すると、図のようになります。
この結果から、領域Mでの変動は、会瀬海岸のビーチカスプ地形のカスプ間隔の大小と対応していることがわかります。ビーチカスプ地形とは、海と陸の境界にあるアーチ状の凹凸地形のことです。
今後の研究では、このビーチカスプ地形と海浜地形変動との関係の更なる調査も、行いたいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
茨城県北部で海岸浸食が見られています。会瀬海岸ではどうなのか、不思議に思って調べました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
測定は50日~70日ごとに実施。1回3時間~5時間で2015年から4年間行いました。
■今回の研究で苦労したことは?
海岸の砂を調査する際に、1粒1粒手作業で選別したことです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
4年間調査した調査量です。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「茨城県成沢、多賀、河原子海岸の浸食実態」宇多ほか(海洋開発論文集24(2008) 1327-1332)
・気象庁HP(監視速報他)
・東北区水産研究所HP(会瀬海岸)
・国土地理院HP(空中写真)
・国土交通省リアルタイムナウファス(常陸那珂港)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
日立市の会瀬海岸付近の海流の流れなどを調べていきたいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
中学生向け体験授業(ネイチャースクール)や科学の祭典等のイベントに参加し、地学の楽しさを伝えています。
■総文祭に参加して
発表することで、教授の方と意見交換することができ、今後の活動に活かせると感じました。また、他校の発表を聞いて、わかりやすく説得力があり、とても刺激を受けました。