2019さが総文
(2019年7月取材)
■部員数 16人(うち1年生1人・2年生12人・3年生3人)
身近な宍道湖に、謎の模様を発見
私の家は、宍道湖に面しています。ある日、宍道湖の湖面に模様があることに気づき、興味を持ちました。この模様ができる理由ついて情報を探してみましたが、見つけることができなかったので、研究対象とすることにしました。
研究の目的は、この模様の特徴を調べること、模様が発生する仕組みを明らかにすることです。模様は、写真のように、湖面の暗く見える部分に広がる明るい帯状の部分として観察されます。この暗く見える部分を暗部、明るく見える部分を明部とします。
2017年から継続している観測調査で明らかになった、模様の特徴を紹介します。
模様が現れるのは、風速2~3メートルの弱風時です。風がほとんどない時は湖面全体が明部状に、強風時には湖面全体が暗部状になり、模様は現れません。
帯状の模様は、宍道湖に流入する河川や水路から伸びるようにして現れます。
船などが模様を横切ると、そこで明部がちぎれます。
模様はゆっくりと変形しながら全体として一定方向に移動します。また、その移動の速さや向きは、必ずしも風速や風向に従うものではありません。
近くから模様を観察すると、明部の水面は暗部に比べて滑らかでした。この表面波の少ない滑らかな水面が、明るい空や対岸の風景を映し出すことで、暗部との見え方の違いが生じています。
以上の特徴から、明部は暗部の上に薄く浮かんでいる、河川や水路からの流入水の層であると予想しました。また、明部と暗部の違いは、水面の状態の差にあることがわかりました。
今年は、毎日定時の観測やタイムラプス等を用いた調査で引き続きデータを集めると共に、模様が発生する仕組みに迫る研究を行いました。
水質調査で、模様の構造が明らかに
まず、明部と暗部での水質の違いを調査しました。明部、暗部、明部と暗部の境界について、各部分の水を採取して塩分濃度などを計測しました。
結果は表の通りです。明部のA・Bは淡水、暗部のD・Eは汽水(淡水と海水とが混じり合い、塩分が両者の中間になったもの)でした。また、暗部内では塩分濃度の数値の差が僅かである一方、明部内では、水路の出口からの距離が遠くなるほど、塩分濃度が高くなっています。ここから、明部は、河川水路から宍道湖への流入水であると言えます。
次に、明部は暗部の上に薄く浮かんだ水の層であるという予想を検証するために、井戸用採水器を用いて、深度ごとの水質を調査しました。
宍道湖東側に現れた明部の1箇所と、それを挟んだ南北の暗部2箇所について計測した結果は、表にまとめた通りです。複数地点で観測を行った結果、この地点での明部の低塩分層の厚さは、25~50cm前後であることがわかり、予想が裏付けられました。
なぜ水面が滑らかに?再現実験で検証
まとめると、明部の水質には汽水と淡水の二層構造という特徴があります。では、この明部の特徴は、暗部との見え方の違いを生む水面の滑らかさとどのように関係しているのでしょうか。
考えられる要因としては、水面の塩分濃度の差による表面張力の違い、塩分濃度の異なる二層構造であるか否かによる違い、の二つが挙げられます。この点を明らかにするために、再現実験を行いました。
同一形状の容器に入れた液体に、上からおもりを落として振動を与え、生じた表面波が収まるまでの時間を調べました。用意したのは、淡水、塩淡二層、汽水の3種類です。観察を容易にする工夫として、水面にレーザー等の光を当ててその反射光を比べるという方法を用いました。
結果は図の通りです。塩淡二層では、淡水一層、汽水一層のいずれよりも、表面波の持続時間が短いことがわかりました。ここから、明部の水面の滑らかさは、明部の水面が淡水であることよりも、明部が二層構造であることの影響を大きく受けていると言えます。
まとめと展望
宍道湖では、河川や水路から流入した淡水が、比重の異なる宍道湖本来の汽水との二層構造を成すことで、表面波の発生が抑制されて水面が滑らかになる部分が生じ、この水面の状態の違いが見え方の違いとなって、明るい帯状の模様が観察されるのだと言えます。
今後の課題としては、水質の二層構造が表面波の発生を抑制する仕組みについて、より詳しく調べたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
自宅が宍道湖に面していて、ある日、宍道湖の湖面に、模様のように明るく見える部分と暗く見える部分があることに気づきました。その模様がどのようなもので、なぜ発生するのか気になったので調べてみましたが、この現象に関する資料や参考文献は見つけることができませんでした。この現象の特徴を明らかにすることを目的として、この研究を行うことにしました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2017年5月から研究を行い、2019年7月までにわかったことを発表しました。研究は現在も継続しています。一日平均1時間(日によってばらつきがありました)で、佐賀聡文祭参加時には2年2か月です。
ただし、模様が出現し特定の条件を満たした時は、3~5時間の水質調査を年に5・6回行いました。
■今回の研究で苦労したことは?
毎朝学校に行く前に、湖面の模様の有無や天候などの観察を約2年間続けることが大変でした。また、研究対象が自然現象であったため、いざサンプリング等を行おうとしても、機材の準備や学校の授業の有無、模様の出現するタイミングや場所がなかなか合わず、加えて一人で研究を行っていたため、スムーズに調査を進めることが難しかったです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
毎日の観察からわかったことを元に仮説を立て、水質の調査やモデル実験で実際にたしかめてみました。また発表では、模様の様子や変化をわかりやすくするために、同じ場所から撮影した写真を多く用いました。モデル実験では、水面の様子をわかりやすくするために、光を当てその反射光を比べる等の工夫をしました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
「新版地学辞典」 地学団体研究会編集(平凡社)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
この研究はまだ途中なので、今後は水面の二層構造がどのような仕組みで表面波を抑制するのかを詳しく調べていきたいと考えています。また、この模様のような現象は、ほかの河川や湖でも見られるので、今回調べた宍道湖の模様と同じ現象なのか調べてみたいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
部活では個人・またはグループでの研究のほかには、科学のオリンピック系への参加や、個人個人の興味のある分野について自由に探究しています。また、年に数回の宿泊研修にも参加し、自然に触れたり科学への関心が高まるような活動をしたりしています。
■総文祭に参加して
口頭発表での参加は初めてで、とても緊張しましたが、昨年も発表を聞いてくださった方や、同じ地学の研究をしている生徒のみなさんから、多くの感想やアドバイスを頂くことができました。
また、他の発表者の研究発表を通して、今まで気がつかなかったことや新たな発見を知り、とてもたくさんのことを学ぶことができました。この貴重な経験を、今後の研究や学びに活かしていきたいです。