2019さが総文

阿蘇の豊富で貴重な天然資源で環境にやさしい水質浄化剤を作る!

【化学】熊本県立高森高校 理科部

(2019年7月取材)

左から 阿南咲花さん(2年)、藤本遥人くん(2年)
左から 阿南咲花さん(2年)、藤本遥人くん(2年)

■部員数 7人(うち1年生2人・2年生6人)

■答えてくれた人 藤本遥人くん

 

阿蘇黄土(リモナイト)を用いた水質浄化剤の開発

「阿蘇黄土」には強い吸着作用がある

私たちは阿蘇黄土(リモナイト)を用いて水質浄化剤の開発の研究を行いました。

 

阿蘇黄土の化学組成は、FeO(OH)・nH2Oです。 阿蘇黄土の成分分析によるとほぼ72.7%が酸化鉄で、多くの鉄を含んでいます。この鉄には多くの2価鉄イオンが含まれており、この2価鉄イオンの不安定さが吸着作用をもたらすと考えられています。そのため阿蘇黄土は、硫化水素の吸着材や土壌改良剤、リン酸イオンの吸着材など、様々なところで使われています。

 

 

研究に用いた阿蘇黄土は、阿蘇山の北側に広く分布しています。阿蘇黄土は表層から、深い所で地下3メートルまで豊富に存在します。この地元の地下資源を、ぜひ活用したいと考えました。

 

 

この阿蘇黄土(リモナイト)は褐鉄鉱とも呼ばれています。阿蘇黄土が採掘される湿原に見られる「赤水」の地名の由来は、水酸化鉄の赤い水が溝や湿地に染み出て、人々の目に付いたためと言われています。現在でも用水路や田んぼなどで、赤くこびりついた鉄分を見ることができます。また『魏志倭人伝』に出てくる献上品リストに「丹」の記載があり、これは阿蘇黄土であるという説があります。阿蘇黄土は阿蘇の貴重な資源で、戦前は八幡製鉄所にも送られていたそうです。

 

 

色素を吸着させて水質浄化に使えないか

 

私たちは、この阿蘇黄土の吸着性を利用して水質の浄化を目指しました。吸着する対象として考えたのが色素です。色素は様々な場面で使われて、私たちの生活を豊かにしていますが、一方で発がん性や水生生物などへの影響が懸念されています。そのため、色素を家庭や工場廃水から除去することは重要であると考えました。

 

文献調査から、色素には四つの構造的分類があることがわかりました。そこで、四つの構造を持つ食用色素をそれぞれ選定しました。

 

実験の方法がこちらです。

 

100mLビーカーに阿蘇黄土を各2、4、6、8g入れ、そこに2.0×10-3g/Lに調整した各色素10mLをホールピペットで加えます。そしてガラス棒で1分間よく撹拌し、ろ過します。ろ液を吸光度測定し、吸着された量を、作成した検量線から算出します。

 


 

作成された検量線が下図です。相関係数はどの値も0.99を超えています。

 

 

そこで吸光度測定を行い、吸着された色素量を算出しました。キサンテン系とトリフェニルメタン系が選択的に吸着されていることがわかります。インジゴイド系とアゾ系は、阿蘇黄土の質量と比例して、吸着量が多くなっていることがわかります。

 

 

阿蘇黄土が選択的吸着特性を持つため、次のような実験が可能です。黄色4号と青色1号の混合色素である緑の色素を入れて撹拌し、ろ過します。すると、吸着されやすい青1号が選択的に吸着され、黄色4号のみが出てきます。

 

 

なぜトリフェニルメタン系とキサンテン系色素を選択的に吸着するのか

 

ではなぜ、トリフェニルメタン系、キサンテン系色素が吸着するのでしょうか。

 

色アミのかかった部分の構造を見ると、共にトリフェニルの構造があることがわかります。しかし、余計な部分が多くあるため、吸着に必要な部位を特定することができません。

 

 

そこで、よりシンプルな構造のトリフェニルメタン系色素であるクリスタルバイオレットで実験を行えば、吸着に必要な部位を特定できるのではないかと考えました。クリスタルバイオレットの構造がこちらです。

 

 

実験方法は前回と同じです。比較のために、先ほどの食用色素に加えて、クリスタルバイオレットを加えた結果のグラフが下図です。

 

2グラムの阿蘇黄土でもクリスタルバイオレットは、ほぼ100パーセント吸着しており、これまでのどの色素より吸着していることがわかりました。

 

 

実験の結果から、トリフェニル構造は吸着に関わっている可能性が高いと考えられます。ろ過後のろ液は無色透明で、クリスタルバイオレットがほぼ完全に取り除かれていることがわかります。1分間程度の撹拌で、この吸着力を見せるため、カラムなどに詰めてろ過をすることで、より高い吸着性を発揮できることが期待されています。

 

 

阿蘇黄土は色素をどこまで吸着できるのか

 

ここまでの実験で、阿蘇黄土が色素を非常によく吸着することがわかりました。では、どこまで吸着するのでしょうか。色素の濃度を大きくして、最大吸着量を求めました。

 

実験の操作は前回の実験と同じですが、前回の実験からクリスタルバイオレットの濃度を約100倍にしました。

 

 

0.20g/Lまでは、吸光度の値はほぼゼロで、見た目もほぼ無色でした。一方0.40g/Lでは、吸光度の値は約0.2とかなり大きくなっています。このことから約0.3g/Lが阿蘇黄土の最大吸着量であると考えられます。

 

 

吸着した色素を再抽出できるか

 

次に行ったのは、阿蘇黄土から色素の再抽出です。色素を再抽出できれば阿蘇黄土を使い捨てる必要がなくなり、再利用できる環境にやさしい水質浄化剤の開発へと発展できると考えました。

 

水質溶媒にはアセトン、メタノール、トルエン、ヘキサンの4種類を選定しました。

 

まず前回の実験と同様にろ過までを行います。次に、ろ紙に残った阿蘇黄土を3日間乾燥させます。この乾燥させた阿蘇黄土に各溶媒をホールピペットで10mL加えます。ガラス棒で1分間撹拌し、ろ過を行います。最後にろ液を測定用セルに移し、吸光度測定を行いました。

 

 

この結果、エタノールでの再抽出に成功しました。アセトンもヘキサンやトルエンと比べて色が付いていました。一方、無極性溶媒であるヘキサンやトルエンでは抽出ができませんでした。極性溶媒であるエタノールやアセトンの方が抽出がしやすく、より極性が大きいと考えられるエタノールのほうが、抽出できる量が多くなりました。

 

クリスタルバイオレットは陽イオン性の色素であり、極性が大きな有機溶媒が抽出に望ましいと考えられます。このようなことから、阿蘇黄土を再生し、再利用できる可能性が広がりました。

 


 

吸着後の色素は分解されている?

 

しかし、再抽出できた量は非常に少なかったことがわかりました。そこで、吸着後に分解している可能性を考えて、次の実験を行いました。

 

実験方法は前回の実験と同じですが、乾燥させる場所を明所と暗所に分け、乾燥させる日数を1,3,5,7と変化させました。抽出溶媒にはエタノールを選定しました。

 

 

結果が下図です。乾燥させる日数が長くなるにつれて、吸光度が小さくなっていることがわかります。また、明所放置のほうが、暗所放置よりも吸光度の値が著しく小さくなっていることがわかります。

 

このことから、日光によってクリスタルバイオレットが分解されている可能性が示されます。これは光フェントン反応によるものだと考えています。

 

 

光フェントン反応とは、3価の鉄イオンが2価の鉄イオンに変化する際に、ヒドロキシラジカルが形成するという反応です。このヒドロキシラジカルは酸化力が強く、汚水処理などにも利用されています。

 

この阿蘇黄土から生じたヒドロキシルラジカルの酸化力によって、有機化合物である色素が分解されたのではないかと考えています。これについては今後の検討課題として、さらに実験を行っていきたいと思います。

 

 

焼成したら吸着性が向上する? 結果は逆に

 

次に、阿蘇黄土の焼成処理の影響を調べました。阿蘇黄土は焼くことで比表面積が増大することで知られています。これにより吸着性が向上するのではないかと考え、次のような実験を行いました。

 

 

蒸発皿に2gの阿蘇黄土を取り、ガスバーナーで15分と30分間加熱しました。放冷後、ビーカーに阿蘇黄土を移し、0.4g/Lに調整したクリスタルバイオレットを10mL加えます。ガラス棒で1分間撹拌し、ろ過を行います。最後に、ろ液を測定用セルに移し、吸光度測定を行います。

 

この結果、焼成時間を長くするほど吸光度が大きくなりました。すなわち、吸着できないクリスタルバイオレットが多くなっていることがわかります。では、なぜ焼成時間を長くすると吸着力が落ちてしまうのでしょうか。

 

 

原因として二つの可能性が考えられます。一つは、焼成によって酸化が進んだという可能性です。阿蘇黄土は2価の鉄イオンを含んでおり、この2価の鉄イオンがなくなったことで、吸着力を失ったと考えられます。

 

二つ目の可能性は、脱水して分子間の水が抜けたという可能性です。阿蘇黄土はFeOOHで、FeOOHのOHの部分がなくなり、水素結合できる部分がなくなって、吸着力が失われたのではないかと考えられます。

 

 

以上の実験から、阿蘇黄土を利用した環境にやさしい水質浄化剤の開発に近づいたと考えています。今後は他の構造の色素や、再利用方、活性炭との比較などについて検討していきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

熊本県の赤水や狩尾一帯では、水酸化酸化鉄が表層から深いところで3 mにわたって存在し、「阿蘇黄土(リモナイト)」と呼ばれています。この土は鉄分を多く含み、田んぼや用水路にしみだした土が赤くみえることから「赤水」の由来となったとも言われています。弥生時代には阿蘇黄土が土器の装飾などに使われており、このような土器が多数出土しています。この豊富に存在する阿蘇黄土を利活用することが期待されており、すでに硫化水素などの気体の吸着材として普及しています。そこで私たちは、身近な阿蘇黄土を水の浄化剤として活用できないかと考えました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

週2回で、1回2時間30分で、1年間行いました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

吸光度を図る機械で最大吸収波長を決めるときです。波長を1 nmごと変えて測りました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

阿蘇黄土のすごさを感じてほしいです。トリフェニルメタン系色素を選択的に脱色するところが特に面白いところです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

1)「弥生時代の火の国-阿蘇を駆けまわる-」熊本考古学同好会(熊本県教育員会提供資料 2016).

2)「食品添加物の再検討」池田良雄 (衛生化学,1968,14,pp.290-297)

3)「食用色素の化学」片山脩(有機合成化学,1974,第32巻,第8号,pp.620-631)

4)「「阿蘇黄土」及び「阿蘇火山灰土」のガス吸収特性」永末知子,永田正典、蔵本厚一(熊本県工業技術センター研究報告,2005,No.43 ,pp.1-4.)

5)「フォトフェントン反応による二酸化炭素固定化・水素エネルギー回収複合水処理技術の創製」徳村雅弘,(化学工学会 研究発表講演要旨集 2010(0), 326-326, 2010) 

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

光フェントン反応の証拠を見つけたいと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

地域の学童保育で実験などのボランティア活動を行っています。

 

■総文祭に参加して

 

全国総文祭に参加して、全国の高校生の発表レベルの高さに圧倒されました。これまで以上に研究に取り組み、またこの舞台に帰ってこられるようにしたいと思います。

 

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