2019さが総文

教科書通りにならなかった実験結果から始まった研究~カルピスウォーターの謎を解く!

【化学】富山県立高岡南高校 科学部

(2019年7月取材)

 左から 市野晴己くん、中山珠佑くん(2年)
左から 市野晴己くん、中山珠佑くん(2年)

■部員数 8人(うち1年生1人・2年生5人・3年生2人)

 

過冷却ブレイクが100%見られる溶液とは?

カルピスウォーターの過冷却ブレイクの成功率はなぜ高い?

 

私たちは、「過冷却後の結晶化(ブレイク)が100%起こる溶液を探ること」を目標として研究を行っています。過冷却とは液体が凝固点以下になっても凍らない現象のことを指します。そして、過冷却ブレイクとは、過冷却状態が破られ、凝固熱によって温度が上昇し、結晶が伸びていくことです。

 

こちらが過冷却ブレイクの様子です。

 

過冷却ブレイクが起きるときの温度変化がこのグラフです。ブレイクが起きないと、右のように温度は上昇することなく、徐々に下がっていきます。

 

今回の研究では、左のような冷却曲線になることを、ブレイク成功と定義しました。

 


 

実験の方法です。試料が10mL入った試験管の中に温度センサーを入れ、1000秒間温度を測定し、パソコンを用いて冷却曲線を描きます。この実験を30回繰り返し、ブレイク成功率を算出します。

 

私たちの先輩が行った過去の研究では、凝固点降下度は質量モル濃度に比例することから、電解質を多く含む清涼飲料水を用いて行いました。

 

その成果として、糖度が高く導電率が低いとブレイク成功率が高く、pHは成功率に関係が見られないことがわかりました。

 


そして、カルピスウォーター(以下、カルピス)にて成功率は最高の91.7%を記録しました。

 

私たちは、カルピスのブレイク成功率が高い要因を解明することを目的に、研究を行いました。

 


 

糖のみの溶液の成功率は低い

まず、カルピスに最も多く含まれる糖による影響を調べました。今回は、カルピスと同じ糖度のスクロース溶液、グルコースとフルクトースの混合溶液を用いて成功率を調べました。

 

結果は、図の通りで、糖のみの溶液の成功率はカルピスに及びません。

 


続いて、ブレイク後の結晶の様子を観察しました。

 

写真のように、直角に重ねた偏光シートの間にシャーレを挟み、下から蛍光灯を当てて観察しました。

 


 

結果は下記の写真の通りです。カルピスにおいては、蒸留水と異なり、白い物質があり、それを中心として伸びる結晶の筋も見られました。これはタンパク質のカゼインであり、コロイド粒子であるカゼインが核となり過冷却ブレイクが生じやすくなるのではないかと考察しました。

 

 

続いて、結晶構造の違いを観察しました。カルピスの結晶は、蒸留水のものに比べて干渉色が少ないことがわかります。これは結晶軸が一方向で、もろい微結晶になりやすいと考えられます。

 

 

また、発熱時間と温度は下図のように比例関係にある、つまり単位時間あたりの発熱量は一定であることがわかります。さらに、成功率が高いカルピスは他の飲料水に比べて発熱速度が大きいことがわかりました。これまでの実験の結果を考察すると、過冷却後に一気に発熱すると、結晶軸が一方向に伸びてシャーベット化しやすいと考えられます。

 

 

タンパク質(=カゼイン)が鍵を握る?

続いて、タンパク質の影響を調べました。

 

遠心分離器で、毎分2800回転で9分間かけ、カルピスからタンパク質を除去して過冷却の実験を行いました。除去できたかどうかは図の2つの方法で確認しました。

 


結果がこちらです。

 

ブレイク成功率は大幅に低下し、タンパク質が影響していることがわかります。

 


続いて、タンパク質濃度による影響を調べるため、水に溶けやすいカゼインナトリウムを用いて濃度を様々に変えて、過冷却実験を行いました。

 

グラフのように、濃度によって大きな違いは見られず、全体としてタンパク質のみではカルピスより成功率が低いことがわかりました。

 


また、カゼインナトリウムのみでは、図のようにブレイクが均一に起こらず、上部が硬い氷になるケースが見られました。

 


 

タンパク質+糖で成功率100%を実現

最後に、タンパク質と糖を混ぜて実験を行いました。

 

カゼインナトリウム水溶液をカルピスと同じ糖度に設定し(カゼイン0.3%、フルクトース5.5%、グルコース5.5%)、過冷却実験を行いました。

 

結果です。タンパク質と糖を混ぜると、成功率100%を確認することができました。また、他の飲料水に比べて導電率が低く、発熱速度が大きいことも確認しました。

 


論文を調べると、カゼインはミセル構造(※)をしていて、κカゼインが糖と結合することがわかりました。

 

 ※分子間力による多数の分子の集合体

 

 

これらから、ブレイクを成功するには、過冷却後の発熱が速く、核となるコロイド粒子が存在し結晶軸が一方向に延びること、カゼインと糖が相互に関わることが関係していることがわかりました。

 

今後は、カゼインと糖の関わりが、過冷却ブレイクにどう関係しているかを、電気泳動や吸光度測定を用いて詳しく調べていきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

過冷却の実験を行ったところ、冷却曲線が教科書通りにならなかったことをきっかっけに研究を開始しました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2015年から始めました。1日あたり2時間で5年間です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

各溶液で30回以上測定したことです。また、フランスの研究者が書いた英語の論文の和訳が大変でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

より正確な実験データが得られるように、30種類以上の溶液でそれぞれ30回以上実験を重ね、成功率、導電率、発熱速度といった様々な観点から考察を行った点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「Modifications of structures and functions of caseins: a scientific and technological challenge 」Camille Broyard, Frédéric Gaucheron (Archive ouverte HAL)

・「カゼインミルの構造および性質に関する最近の研究動向」石井哲也(Milk Science vol.54 No.1 (2005))

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

糖とたんぱく質がかかわることが、過冷却ブレイク成功率にどのような影響を及ぼすのかを電気泳動や吸光度測定を用いて調べたいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

過冷却ブレイク成功率の測定、電気泳動実験、データのまとめやグラフの作成、様々な溶液の作成などです。

 

■総文祭に参加して

 

今回の総文祭では、積み重ねてきた研鑽の結果が認められ、奨励賞を得ることができました。今回は研究発表以外にも、多く学ぶことがありました。この経験を動力として、青春時代にふさわしい新たなステージに研究を進めていきたいと思います。

 

※高岡南高校の研究は、化学部門の奨励賞を受賞しました。

 

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