2019さが総文

酸化と還元を繰り返す不思議な化学反応の謎に迫る

【化学】茨城県立水戸第二高校 科学部数理科学班

(2019年7月取材)

 左から 宮本果弥さん、森田メリイさん、吉井万里奈さん
左から 宮本果弥さん、森田メリイさん、吉井万里奈さん

■部員数 10人(うち1年生6人・3年生4人)

■答えてくれた人 吉井万里奈さん(3年)

 

窒素気流下における閉鎖系Belousov-Zhabotinsky反応の長時間挙動

酸化と還元によって溶液の色が周期的に変化する

 

私たち科学部では、窒素気流中における閉鎖系Belousov-Zhabotinsky反応(BZ反応)の長時間挙動について10年以上研究を行っています。

 

一般的な化学反応は平衡状態に向かって反応が進み,反応が止まってしまいますが、Belousov-Zhabotinsky反応は、酸化反応と還元反応に関わる物質のうちいくつかの濃度が周期的に変化する「振動反応」の例として知られています。

 

こちらが反応の様子です。溶液は赤と青に周期的に変化しますが、これは、フェロインが酸化されるとフェリインになり、さらに還元されるとフェロインに戻ることによります。

 

 

こちらのグラフは、縦軸が酸化還元電位、横軸が時間を表しています。電位が高いと酸化状態で溶液が青色になり、電位が低いと還元されており溶液は赤色になります。

 

 

私たちは、今までに4種類の波形を観測しました。振動後に電位が高く安定する酸化定常状態、振動後に低く安定する還元定常状態、振動(第1ステージ振動)が一旦安定したのちに振動が復活する(第2ステージ振動)パターン、そして安定状態が続いたのちに振動が起こる「第2ステージ振動のみ」の4種類です。

 

 

いったん安定した振動が復活するのはなぜ?

 

今回の研究では、なぜこの第2ステージ振動が起きるかを研究しました。

 

先行研究から、攪拌の速度を変えることで波形が変化することがわかっていたので、酸素が影響しているのではないかと考えました。また、先行研究では、酸素を遮断するために表面に油を敷いて実験を行ったところ、実際に空気を遮断する油ほど振動が長続きしていました。

 

 

しかしこの実験では、油が反応に影響する可能性が否定できないので、今回私たちは油を活性の小さい窒素に置換しての実験を試みました。

 

恒温水槽全体を袋で覆って実験をしようとしたところ、排熱ができなくなり、機械が止まってしまいました。続いて、恒温水槽の上部のみをビニール袋で覆ったところ、今度は密閉できませんでした。

 

 

そこで、窒素ボンベからチューブを引き、溶液表面に窒素を吹きかける形で実験を行いました。窒素の流量を測定するため、微量流量計を用いました。

 

 

結果が下図です。油の場合と同様、窒素気流中でも振動が持続し、穏やかに反応が収束していく傾向が見られました。

 

 

しかし、酸化定常状態になる条件では、油の場合も窒素を用いた場合も、グラフに大きな変化が見られませんでした。これは、酸化定常状態では酸化剤が過剰にあるため、酸素の影響が限定的だったからだと考えられます。

 

以上の結果を踏まえると、酸素を遮断することで反応が長続きすること、そして油自体による影響は大きくなかったことがわかりました。

 

 

振動が復活した条件での振幅・周期の値の変化は、振動が長続きした条件での値の変化とほぼ一致

 

図のように、反応が長続きした場合の波形は、振動が一度消えて復活した際の「第1ステージ振動」と「第2ステージ振動」を滑らかに繋いだような形をしている傾向が見られました。

 

 

この傾向を定量的に調べるために、それぞれの条件における振動と周期を、グラフにまとめました。

 

振動が復活した条件での振幅・周期の値の変化は、いずれも振動が長続きした条件での同時刻での値の変化とほぼ一致することがわかり、また振幅・周期のいずれも滑らかに変化していることがわかりました。

 

 

これまでの実験では、酸素の存在が波形に影響すると考えられてきたので、次に実際に溶液中の溶存酸素を測定して実験を行いました。結果がこちらです。

 

還元定常状態において、振動している間は溶存酸素量が少なく、振動が終わってから溶存酸素量が急増しているのがわかります。このことから、溶液中の酸素は、反応中には消費されながら増えていると考えられます。

 

 

振動には酸素とフェロインの両方が関わる

 

以上の結果を踏まえて、酸素とフェロインの影響を考察しました。

 

先行研究から、酸素の影響がある条件では、振動中はマロン酸・臭素酸に比べてフェロインが速く減少し、フェロインが相対的に多い状態で一旦振動が停止します。そしてフェロインのみがさらに減少すると、再び振動が復活すると考えました。それは、第二ステージ振動のみの場合について、マロン酸と臭素酸の初濃度が低かったからです。

 

 

しかし、今回の実験を通して、酸素のない条件では、フェロインの量が相対的に多くても振動が続くことがわかりました。

 

今回の実験で、窒素気流中でも、水面を油で覆った場合と似た波形が得られました。また、酸素の遮断により振動が続く際の波形は、振動が復活する場合の波形をつなぎ合わせた形に近いことがわかりました。振動には、酸素とフェロインの両方が関わっていることが示唆されました。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

この研究は、本校で10年以上前から行われています。先輩たちは、BZ反応を長時間確認して、四つの振動のパターンがあることに気づきました。そのうちの一つが、アメリカの科学論文誌にも掲載された「振動が復活する」というパターンです。

 

代々、なぜ振動が一度停止し、2回目の振動が起こるのかを研究しています。2学年上の先輩たちは、空気中の酸素の取り込み量によって振動が停止しない条件がある、という新しい発見をしました。それを見ていた私たちも、この実験を継続してやってみたいと思い、引き継いで研究を進めてきました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1回の実験は48時間かかりますが、ずっと近くにいるわけではありません。月、水、金の各放課後に実験をセットし、次の部活の時間に回収するということを繰り返して行ってきました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

1年生で研究を引き継いだ時は、先輩と同じ条件で実験を行っていたにもかかわらず、同じ結果を出すまでにしばらく時間がかかりました。正確に丁寧に実験を繰り返すという点が大変でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

窒素ガスを用いて酸素の影響を抑えながら実験を行ったのですが、測定機器の形状などの問題もあり、窒素雰囲気下の条件を作ることが、簡単にはできませんでした。自作の加湿パーツなどを使って、48時間安定して窒素を流せる環境を作れたことが大きな工夫点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

基本的には代々の先輩方の論文を参考にしています。

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

2年生がいなくて部活の存続を心配していましたが、この春に1年生が入ってくれて、さらに研究も継続してくれるということなので期待しています。窒素の流量を調整することによって、人為的に振動の停止と復活を調整できるようになると嬉しいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

ふだんは、楽しい科学実験を中心に活動しています。スライムを作ったり、綿あめを作ったり、気になる実験があれば、どんどん取り入れて活動しています。

 

■総文祭に参加して

 

研究発表だけでなく、巡検や講演会など自分の力がつく機会がほかの発表会よりも多く、有意義な時間が過ごせました。

 

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