2019さが総文
(2019年7月取材)
■部員数 144人(うち1年生53人・2年生45人・3年生46人)
琥珀糖はなぜゼラチンで作らないの?
琥珀糖は、寒天と水に上白糖を加えて作ったゲルの表面を乾燥させ、上白糖の結晶を均一に析出させた和菓子です。
琥珀糖を作る際には、寒天がゲル化剤として使われます。一般的に家庭で使われるゲル化剤にはゼラチンもありますが、なぜゼラチンを使わないのでしょうか。不思議に思い、この研究を始めました。
最初に、寒天とゼラチンの特徴を見てみましょう。
いずれも網目状の構造で、水を保持することができます。ゼラチンは主にコラーゲンからできているタンパク質で、1gで50mLの水を固めることができます。一方寒天は糖類で、1gで125mLの水を固めることができます。量だけで比較すると、寒天の方が水を保持しやすいと言えます。
寒天よりもゼラチンの方が蒸発量が大きい
実験方法です。
砂糖は、通常家庭で使用される上白糖を用いました。通常の琥珀糖を作る時は、上白糖175g、寒天2g、水100gの割合で、縦横2cm、高さ2.5cmの直方体の型に入れて固めます。
実験1では、ゲル化剤の量による結晶の析出の違いを調べるため、上白糖をそれぞれ通常の1/4、1/2、1倍に当たる44g、88g、175gの3種類、寒天またはゼラチンについてはそれぞれ通常の1、2、3倍にあたる2、4、6gの3種類を用意しました。
そして、表面がどれだけ析出した結晶に覆われているかを表す「析出被度」を目測によって求め、質量の減少率を測定しました。
結果が下図です。上白糖が多いほど、析出量が多くなることがわかります。一方、ゲル化剤の量は、析出量にあまり影響を及ぼしていません。
質量の減少率は、下図のようになりました。赤は寒天、青はゼラチンを表しています。このグラフから、ゼラチンの方が質量の減少率が大きいことがわかります。
実験1の考察です。ゼラチンの方が質量の減少率が大きいことから、ゼラチンを使用すると、上白糖水溶液が蒸発しやすいことがわかります。
寒天の方が均一な結晶ができる
実験2では、結晶の形状を比較するため、上白糖175g、水100g、寒天/ゼラチン 4gで同様の実験を行いました。
寒天では小さい結晶が均一に分布し、表面を覆う形になりました。一方、ゼラチンでは、いくつかまばらに集まった大きな結晶を形成しました。
これは、寒天では上白糖水溶液が一様に蒸発したのに対し、ゼラチンでは部分的に蒸発したためであると考えられます。
次の実験3では、実験2と同じ条件で行って、水分が完全に蒸発した時の結晶の大きさや形状に違いが出るかを確認しました。
寒天では小さい結晶、ゼラチンでは大きい結晶を形成しました。どちらについても、完全に結晶化しても析出の仕方に変化はありませんでした。
上白糖はスクロースにグルコースとフルクトースが各1%含まれた混合物です。そこで、実験4として、より純度の高いスクロースを用いて結晶を作り、実験3と同様に比較しました。
結果が下図の写真です。結晶の大きさに差はほとんどありませんが、形状の違いは、実験2よりも一層明確になりました。
寒天では、小さな単一な結晶が放射状に広がりました。一方、ゼラチンは大きな単一の結晶をより密に形成しました。
考察です。ゼラチンでは、結晶が偏って析出したことから、スクロース水溶液が偏って蒸発したと考えられます。琥珀糖は、均一でなめらかな結晶を作る必要があるため、ゼラチンは琥珀糖のゲル化剤としては適していません。
寒天の水素結合の多さが均一な結晶を生み出す
この現象が起こる理由を考察しました。
寒天、スクロースはいずれも水素分子を多く持つので、水との間に水素結合が多く存在します。一方、タンパク質であるゼラチンは、寒天よりもヒドロキシ基が少なく、水素結合も少なくなります。
つまり寒天の方が、水との間の水素結合が多いために水が蒸発しにくく、ゆっくりと進行するため、より均一に蒸発が起こると考えられます。今後、この蒸発の違いに関する仮説の検証が課題となると思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
琥珀糖は寒天と水に上白糖を加えて作ったゲルの表面を乾燥させ、上白糖の結晶を均一に析出させた和菓子です。寒天は水を凝固するゲル化剤としての役割を持ちます。しかし、寒天に似た性質をもつゲル化剤としてゼラチンがありますが、ゼラチンから作られる琥珀糖はありません。そこで、その理由を結晶のでき方という観点から明らかにすることを目的に本研究を行ないました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1週間あたり5時間で1年6か月です。
■今回の研究で苦労したことは?
実験を一つ終えるのに一週間程度かかるので研究がなかなか進まなかったことです。また先行研究がほとんど無かったことです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
「自分の興味を持ったこと」を研究したので、なぜこのような現象が起こるのかという疑問を持ちながら研究ができたことです。そして、疑問点をグループ内で共有して話し合いを進め、実験方法を工夫することで、より良い研究にまとめることができたことです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
「夜空の琥珀糖」
「多糖類.com」
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今後、研究を続ける予定はありません。ですが、機会があればさらに細かく分子レベルでの研究を行いたいと考えています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
自分たちで考えたテーマの研究を行っています。また、高等学校文化連盟理科部などが主催する行事にも参加しています。
■総文祭に参加して
今回初めて総文祭に出場しました。他校の方のレベルの高い研究に圧倒され、自分たちの研究に不安も覚えましたが、他校の方々と直接話しをしたり、異なる分野の研究発表を聞いたりしたことで、自分たちの研究の意義を再認識することができました。