2019さが総文

目指せ!地域の活性化~ユーグレナと二枚貝を用いた「廃しょうゆ浄化作戦」

【生物】福岡工業大学附属城東高校 科学部

(2019年7月取材)

左から 重松慶太朗くん(2年) 尾崎光平くん(3年)
左から 重松慶太朗くん(2年) 尾崎光平くん(3年)

■部員数 19人(うち1年生9人・2年生7人・3年生3人)

■答えてくれた人 尾崎光平くん(3年)

 

ユーグレナと二枚貝を用いた廃しょうゆの二段階処理について

1. しょうゆの廃棄にかかる経費節減を目標に

食文化の変化によって、しょうゆの消費量は一般に減少しつつあります。消費期限を過ぎたしょうゆは処分することになりますが、しょうゆは塩分が多く、色が濃いため、廃棄の際には経費をかけて処理しなければなりません。

 

そこで、私たちは、しょうゆ製造業の経費削減と地域の発展を目標に、ユーグレナをアサリなどの二枚貝に与えて、廃しょうゆを浄化する研究を行いました。

 


ところで、皆さんは、ユーグレナという生き物をご存知でしょうか。ユーグレナは淡水性と運動性を持ち、その豊富な栄養素のため健康食品として、近年注目されている微細藻類の仲間です。

 


私たちは7年前から、このユーグレナが、どのような光の波長で増殖するかなどについて、基礎的な研究を行ってきました。そして3年前から、このユーグレナの機能の実社会への応用を目指し、廃しょうゆに注目した研究を行っています。

 

しょうゆは、メラノイジンという茶褐色の色素が非常に濃く、有機物が豊富なため、活性汚泥法などで処理する必要があり、しょうゆ製造業の大きな負担となっています。そのため、しょうゆ工場の数は年々減少してきています。

 

 


そこで、私たちはこのしょうゆの持つ、豊富な栄養素をユーグレナの餌として活用し、培養したユーグレナをアサリなどの二枚貝の餌とすることで、より安く・早く廃しょうゆの処理を行えると考えました。しょうゆ製造業の経費を削減すること、そして、アサリなどの二枚貝を副産物として生産することで、地域の活性化に貢献することを目指し、実験を行いました。

 


2. アサリとシジミ、どちらも高い浄化力を持っていた

ユーグレナ入りの方が貝の生存率は高い浄化力があり、食品としての需要も高いと言われるアサリとシジミに、そもそもユーグレナを餌として活用できるのかを調べるために、実験を行いました。

 

 

アサリについては、人工海水としょうゆで培養したユーグレナ液を2対1で混ぜ、2%の塩濃度の液を作り、AからCのグループには2~3年貝のアサリ、小のグループには一年貝のアサリを使用し、実験を行いました。

 

一方シジミでは、人工海水:ユーグレナ培養液:カルキ抜き水を、それぞれ(1:2:1)(0:1:1)(0:1:0)で混ぜ、3つのグループを作り実験を行いました。双方とも砂はありません。

 

 

ユーグレナを入れずに、しょうゆのみで予備実験を行った結果、アサリとシジミは3日で全滅してしまいました。一方、ユーグレナを入れた実験では、どちらも10日目まではほとんど生存していましたが、その後だんだんと数が減少してしまいました。生存率の低下は、排泄物によるアンモニアの増加が、原因なのではないかと考えられます。しかし、予備実験の結果と比べてみると、とても長い期間生育することができました。

 

また、このように双方実験途中のものを解剖してみると、どちらも腸の中にユーグレナがいることが確認できました。これらのことから、アサリとシジミにユーグレナを餌として活用できるとわかりました。

 

違う環境にも馴化できるユーグレナ

アサリが入っているビーカーの、塩濃度2%液の中で、淡水性であるはずのユーグレナが運動していたことから、実験2ではユーグレナが塩分に対して馴化しているかどうかを調べました。馴化とは、生物が違う環境に慣れることをいいます。

 

まず、1000倍希釈のしょうゆを、人工海水で調整しながら、塩濃度0.25~3.0%までの12通りに分けました。そして、三角フラスコに40mlずつ入れて、しょうゆ150倍希釈液で培養したユーグレナを、1%添加して培養しました。

 

左の表は以前「KW21」という、塩分を全く含んでいない培養液で培養したユーグレナの結果です。運動性が見られた数が多いほど+をつけました。また、運動性が見られない時は−をつけました。すると、KW21で培養したユーグレナでは、1.1%までしか耐塩性を確認できなかったのに対し、今回のしょうゆで培養したユーグレナは、なんと2倍の2%まで耐塩性を確認できました。

 


水が透明になっていくのはユーグレナの力

実験Ⅲでは、本研究の最大の目標であるしょうゆの浄化を、実際にアサリの力を用いて行ってみました。

 

人工海水とユーグレナ液を2:1で混ぜ、塩濃度2%の液を作り、2.5cm未満のアサリを小、2.5cm以上3cm未満のアサリを中、3cm以上のアサリを大、そして比較対象のためアサリを一枚も入れていないブランクの液の合計4種類5つを作り、24時間後に吸光度590nmでメラノイジンの濃さの値を測定しました。

 


このように、24時間経つと、アサリが入っているグループの液はどんどん透明になっていきました。しかし、ブランクの様子は全く変わっていません。また、今回もアサリの腸内にユーグレナを確認することができました。

 

 

このグラフはそれぞれの24時間後の吸光度を表しています。オレンジ色の棒がブランク、青色の棒が左から大・中・小のグループの吸光度です。このように、アサリが入ったグループの吸光度の値は3分の1に下がりました。つまり、ユーグレナがしょうゆを処理し、そのユーグレナをアサリが食べることによって、メラノイジンを処理できることがわかったのです。

 

 

課題の残るpHや浄化能力の調整

次の実験Ⅳでは、本方式の実用化に向け、小規模で処理を行う実験をしました。

 

4.5%の人工海水と、しょうゆ150倍希釈液で培養したユーグレナ培養液を、2:1で混ぜて3%にし、下のアサリが3枚入った濾過水槽に、1秒間につき0.5滴ずつ滴下しました。さらに、摘下された液がアサリに浄化された後、同じ速さで排出されるようにしました。そして、24時間ごとに排出され、溜まった液のpHや吸光度の値を測定しました。

 

 

浄化した液はほとんど透明になりました。特に、吸光度(500nm)の値はユーグレナ培養液と比べ約20分の1になりました。しかし、この実験では、ユーグレナのタンクの培養液が沈殿してしまったり、処理した液のpHが8を超えてしまったりといった問題が見られたため、それらを改善するために、実験を続けて行いました。

 

基本条件は先ほどと変えないまま、ユーグレナが入ったタンクにはライトを設置し、液面を照らしました。液面を照らすことによってユーグレナの正の走行性を用いて自然に液の沈殿を抑えられるのではないかと考えたためです。また、アサリの生存率を高めるため、人工海水のタンプにはエアレーションポンプを入れました。そして、滴下された液が必ずアサリが入っている部屋を通るように浄化槽を作り、液が浄化されてから排出されるようにしました。

 


すると、吸光度(570nm)の値は先ほどの2倍、つまり、浄化能力は2分の1ほどに下がってしまったのです。しかし、ライトを設置することで、撹拌をせずに沈殿を抑えることができました。この写真はユーグレナのタンクを覗いた様子です。沈殿が起こっていないため、液の濃い緑色を覗くことができます。また、pHも8未満で処理を行うことができました。

 

 

天然物よりユーグレナ育ちのアサリの方が、栄養成分は多い

次の実験Ⅴでは、ユーグレナを餌として育てたアサリと、天然もののアサリとの違いを把握するために、アミノ酸の分析を行いました。殻長を揃えた天然のアサリとユーグレナを餌として育てたアサリ双方のアミノ酸を、液体クロマトグラフィーを用いて比較しました。

 

まず、アサリの身を殻から出し、水で軽く洗います。乳鉢に入れ、アサリ全体が浸るほど水を入れた後、細かくすりつぶします。それを遠心分離機にかけて上澄みと沈殿に分けた後、高速液体クロマトグラフィーを用いて、それぞれのアミノ酸の分析を行いました。

 


 

この一番下の黄色のグラフはどの山がどのアミノ酸かを示すための、標準液となっています。この標準液と各グループを比べてみると、上澄み液で変化が見られました。この部分を拡大して重ね合わせてみました。ユーグレナで生育したアサリは天然のアサリより3倍も多くのグルタミン酸を有していました。また、アラニンも約2倍に増やすことができました。グルタミンは旨味の成分、アラニンは肝機能回復に効果的な成分と言われています。

 

 

ユーグレナは二枚貝の餌になり、連続的に処理することで廃しょうゆを浄化できる

以上の実験を踏まえて、全体の考察・まとめを行いました。

 

まず、ユーグレナを二枚貝の餌として活用できることがわかりました。また、しょうゆを用いて培養することで、ユーグレナは高い塩濃度に馴化するということも証明されました。そして、連続的に処理する方が、一定量の廃しょうゆを浄化するよりも効率的・効果的であることがわかりました。

 


本方式で生育したアサリはより美味しくなり、肝機能改善に効果があると考えられます。また、上からライトを照らすことで、ユーグレナ培養液は沈殿しなくなることがわかりました。

 

以上のことから、本研究はしょうゆ製造業の経費削減を通じて、地域の活性化に貢献できると考えられました。

 

今回は小規模処理実験を短い期間でしか行えなかったので、今後は長い期間、様々な条件を変えて、引き続き実験を行いたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

7年前から先輩たちが行っていた、ユーグレナの培養環境の、基礎的な研究が3年前に終了しました。そこで、これまでの研究の成果を「廃しょうゆの処理」という問題の解決に生かすという、社会への貢献を目指すことにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

ユーグレナ班としての研究は7年前から始まり、廃しょうゆの処理に、アサリとともに活用する研究は3年前から始まりました。様々な実験を行っていたので、実験期間や時間は変則的でしたが、基本的には毎日、授業が終わってから夜8時まで、理科室で実験を行っていました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

この研究を行っていて苦労したことは、アサリの生育の難しさです。アサリはそもそも生育が難しい上死亡率が高く、実験の進行が遅れてしまうことが大変でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

この研究で1番注目してほしい部分は、「廃液処理にユーグレナとアサリを用いる」という破天荒なアイデアです。ほかの学校には見られないような実験を行っています。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。」出雲充 (ダイヤモンド社) 2012

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

この研究は最終的に実用化し、実社会に応用することが目標なので、これからも小規模処理実験を継続して行い、活用できる段階までもっていきたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

ユーグレナの研究以外では、「ガタレンジャー」という干潟の生き物に関する活動や「海のゆりかご」と言われるアマモの保全活動などを行っています。また、地域のイベントに積極的に参加し、小さい子にも科学に親しんでもらえるよう、ワークショップを行っています。

 

■総文祭に参加して

 

今回の全国総合文化祭研究発表部門生物部門は自分にとって高校生、科学部員としての最後の大会でした。今まで支えてきてくれた人たちに、これまでの成果をみせることができる、最後の機会でもありました。そのため、今までで1番練習し、1番準備を行ってきました。

 

そして当日、発表が始まると、やはり全国大会というだけのこともあり、各発表のレベルの高さには驚きました。自分の番が近づくにつれ、緊張してくる自分の背中を押してくれたのも、部活の仲間たちや先生でした。そのおかげでこれまでの成果を出し切った、最高の発表ができました。そして、表彰式です。ユーグレナ班の名前は上がりませんでした。それでも、みんなは暖かく迎えてくれました。今回の発表での反省を、今後に生かすことができないということが、とても悔しかったです。

 

しかし、今回の貴重な経験は、これからの人生の大きな支えになると思います。この大会を通して、私は科学部で体験した、普通の高校生にはできない経験の大切さに気付くことができました。

 

⇒他の高校の研究もみてみよう

 2019さが総文の全体レポートのページへ

 

河合塾
キミのミライ発見
わくわくキャッチ!