中学生に科学のおもしろさを伝える工夫いっぱいの出前授業
(2019年7月取材)
自然科学部の部活って、毎日実験や観察に明け暮れているのでしょうか。みらいぶのインタビューで聞いてみると、文化祭の展示や、大学や科学館のサイエンス講座への参加、様々なコンテストへの挑戦と並んで、小中学校への「出前授業」を行っている学校がいくつもありました。
科学の知識がまだ少ない小中学生の興味を引きながら、手順を説明して実験をうまく行うのはとてもたいへんです。細かい操作は難しいので、できるだけ簡単にしつつ、危険がないよう注意を払わなければなりません。
それでも、学校の授業とは違ってお兄さん・お姉さんたちにちょっと難しそうな実験を教えてもらうのは、子どもたちにとってはとてもワクワクする体験です。教える高校生にとっても、どのように話したら伝わるのか、時間配分はどうしたらよいのかを考えることは、自分たちの研究発表のスキルを高めることにも役立ちます。
今回は、佐賀県立佐賀西高校サイエンス部の皆さんが行った中学校への出前授業を見学してきました。
(2019年7月12日)
「色が変わる」楽しい実験の二本立て!
佐賀西高校サイエンス部の出前授業「実験交流会」は、年3回(7月、12月、3月)、毎回2校ずつ行っています。この日の実験交流会は、佐賀西高校の隣にある佐賀大学附属中学校で行われました。
サイエンス部からは、1年生・2年生合わせて21人が参加。1年生の皆さんは、今回が実験交流会デビューです。実験交流会は中学校の放課後の時間に希望者を募って行われました。参加者は1年生から3年生まで約40人なので、理科の知識もばらつきがあります。
■振ると色が変わる不思議な水溶液
今回の実験は、「交通信号反応」と「炎色反応」の二本立て。薬品を混ぜて化学反応による色の変化や違いを観察するものです。いかにも化学の実験らしい、楽しい内容です。
サイエンス部の皆さんは、前もって実験の器具や薬品を1グループ分ずつ大きなトレイにセットして、会場になる中学校の理科室に運び込みました。セットの中には雑巾やペーパータオルなども入っていて、安全に実験ができるように準備されています。
生徒たちが揃って、挨拶のあと実験交流会が始まりました。手順の説明は、サイエンス部の皆さんが作ったパワーポイントで進めます。
今回の実験「交通信号反応」は、ペットボトルにブドウ糖と水酸化ナトリウムの水溶液、色素のインジゴカーミンを入れて栓をして振ると、振る強さによって溶液の色が青から赤、黄色に変化する、というものです。振るのをやめて放置しても色が変わります。水酸化ナトリウムとブドウ糖はあらかじめ水溶液の形で準備してあるので、手順を省いて安全に進めることができます。
参加した中学生は、4人ずつのグループに分かれて、そこにサイエンス部のメンバーが1~2人付いて実験を進めます。操作は中学生が行い、質問を受けたり、うまくいかないところにアドバイスを出したりします。
ペットボトルを振ると、中の溶液の色がどんどん変わり、中学生の間から歓声が上がります。振り方を変えたり、中の水溶液の量を変えたりして色の変化を楽しんでいました。
一通り実験が終わるとスライドでこの現象の説明をします。酸化と還元がまだわからない1年生ために、まず酸化・還元とは何かについて模式図で説明します。
続いて、ペットボトルの中で起きている反応について、わかりやすいスライドで説明します。
アニメーションを上手に使っているので、なぜ水溶液の色が変化したのかがとてもよくわかります。
■長持ちする炎色反応を楽しむ
二つ目の実験は炎色反応です。3種類の金属塩を使って炎の色の違いを観察します。こちらは火を使うので、ちょっと危険を伴う実験です。
教科書に出てくる炎色反応の実験は、金属塩の水溶液を白金線などの先に付けてガスバーナーの炎の外縁部に入れて発色を見ますが、一瞬で消えてしまいます。今回の実験は、炎の形にして色の違いをじっくり観察できるようにしてあります。
その秘訣がステアリン酸です。ステアリン酸と金属塩、アルコールをビーカーに入れて湯せんにかけて溶かし、それを冷水で冷やしてシャーベット状の固体を作ります。この固体をアルミカップに入れて点火すると、炎が1分近く持続するのです。これを使って、塩化銅・塩化ナトリウム・塩化ストロンチウムの3つの炎色を見ます。
手順をスライドで説明したあと、作業に入ります。使う薬品はあらかじめ計量してあるので、かき混ぜたり湯せんにかけたりといった操作に集中することができます。
注意事項は、実験中もスライドで提示してあります。
準備が整ったところで着火器で火をつけると塩化ストロンチウムが赤、塩化ナトリウムが黄色、塩化銅が緑の美しい炎が上がりました。
大興奮の実験が終わった後、実験の解説がありました。今回は、炎の色がなぜ違うのかということを、光の波長の長さから説明していました。
同じように色が変わる実験でも、酸化と還元から説明したり、光の波長から説明したりと、いろいろな角度からとらえられることがわかります。
約2時間の実験交流会は大きな拍手で終了しました。
この実験の準備は4月から3か月かけて、何度も予備実験を繰り返しました。特に炎色反応は、サイエンス部の皆さんがぜひやってみたかったものだったそうです。
華やかで楽しい実験ですが、一番注意したのは安全であることと、炎が長時間持続すること。参考にした本では、金属塩をしみこませるために脱脂綿を使うことになっていましたが、炎が広がって危険なので、いろいろな材料を試してみたそうです。
最後に行きついたステアリン酸は、サイエンス部化学班の先輩が2年前に行った実験で使ったものでした。このステアリン酸の固体を作るために、スポイトを使ったり、ビーカーに入れた薬品を湯せんにかけたりといった実験操作が加わり、中学生の集中力を持続させることができていました。
この実験交流会は5年前に始まりました。実験のメニューや方法は全てサイエンス部の部員が考え、実験操作や説明スライドは、交流会に関わらない先輩たちに試してもらって厳しいダメ出しを受け、改良を重ねます。時間が決まった中で行うので、所要時間を何回も測って、実際に中学生にやってもらう作業と事前に準備しておくものも、シミュレーションをする中で決めたものでした。
また、今回の説明スライドも、中学校1年生から3年生まで理解できるように、わかりやすい表現や図が使われていました。それでもわからないところは、各グループについたメンバーがさらにかみ砕いて説明します。「伝える」力がとても重要です。
自然科学の研究は、新しい視点や発見を目指しますが、それを皆にわかってもらえる言葉で説明することも重要です。実験交流会の経験は、サイエンス部の皆さんのわかりやすいプレゼンの土台になっていることがよくわかりました。