質疑応答
(2018年11月取材)
Q1:村田さんは現地ではホームステイされていたのですか。
村田くんA1:僕の場合は、学校の中にある寮に住んでいました。
シンガポール国立大学の場合は寮には2種類あって、僕がいたタイプの寮は、ハリーポッターの寮みたいなのを連想してもらうとわかりやすいと思います。21階建ての建物の5フロアずつ、グリフィンドール、スリザリンみたいな組になっていて、そこに寮長というかフロア長のような役割の人がいて、ご飯を食べるときによく一階の食堂で食べたり、組対抗のスポーツ大会が開かれたりします。基本的には1人1部屋です。
もう一つのタイプは、寮というより留学生が中心のアパートのような建物で、ルームメイトがいたと思います。寮の選考に漏れて、学校の外で自分で部屋を探して住んでいた人もいますし、他の国ではホームステイの人もけっこういるので、大学がどういう制度があるかということは、要確認だと思います。けっこう当たり外れがあるかもしれないです。
Q2:プライベートで友達はできますか。
村田くんA2:できます。僕は本当に寮があってよかったです。僕の寮は現地人が7割ぐらいいて、ご飯を食べに行くと誰か友達がいる。そして彼らがまた友達を連れて来ているので、ご飯に行くごとに友達が増えていく、みたいな環境があって、すごくありがたかったです。
司会:アメリカの話をしますと、アメリカには大学が4500校以上あります。イギリスは300弱、オーストラリアは6~70くらいです。イギリスの大学は、基本的には公立、国に認められた学校という形です。オーストラリアもほとんど公立です。
アメリカには私立と公立がありますが、アメリカの私立の大学は、交換留学であっても正規で4年間学ぶ場合も、在学中は必ず寮に住みなさい、ということになっているところが多いです。公立の大学にはちゃんと寮もありますが、寮に住まなければならないということはありません。留学先から合格の連絡が来るとほぼ同時に、交換留学の人には、寮に住みたい人は寮用の申込書を、ホームステイしたい人はホームステイ用の申込書の提出が求められます。
村田くんが言われたように、寮には寮の良さがあります。やはり共用スペースがたくさんあるので友達が作りやすいし、今はSNSもインターネットもあるので、常に連絡取り合うことができるので、1年であっても一生の友達ができると思います。
また留学生が多い・少ないというのも良し悪しで、例えば留学生が多ければ、大人になって海外に旅行に行ったときに、いろいろな国でまた一緒に会おうよ、ご飯を食べようよ、ということもできますし、逆に海外から友達が日本に旅行に来たら案内するよ、というように、世界に人脈が広がっていきます。
逆に、留学生が少ないと(いうよりも現地の人が多い)と、大学生はもう大人ですから、お酒を酌み交わしながら、ああでもないこうでもない、としゃべったりする。そういうことを通して、例えばアメリカであれば、「アメリカ人って変わってるけど、いつも論理的には正しいことを言うよね」とか、「この人たちはこんなことを言われたら怒るんだ、こんな時に笑うんだ」ということがわかってきます。そういうことから、実際にビジネスでの場面で接するときの接し方が自然に身についてきます。企業が交換留学をしている人を積極的に採用すると言われる理由は、そのようなことが大きいのだと思います。
司会Q3:お二人は留学先をどのように選びましたか。
村田くんA3:僕の場合は、最初にざっとお話したように、準備期間が短かったんですね。そうすると、英語力をいきなり伸ばすのは無理なので、その時点でアメリカやイギリスの人気大学は難しかったです。
そこで取りたい学科を考えて探したら、シンガポール国立大学に行きつきました。最初に留学を考えたとき、自分がシンガポールに行くということは全く想像してなったのですが、調べてみると今すごい上昇気流にある国だし、中国語もできるし、最近アジアランキング1位とかでよく名前を聞くようになっているし、案外身近な先輩も行っていることがわかりました。確かに入り口は英語の点数だったけれど、調べてみたらすごく自分にはまりそうで、何も考えずに英米を選ぶよりも良かったのでは、という気分になりました。
大きな理由としては、一つ目はシンガポールは国際性が豊かであることです。シンガポール国立大の大学ランキングが高いのは、研究レベルというよりはどちらかといえば政府の支援のもと国際力のスコアを伸ばしているからです。また、もともと移民たちの国なので、いろんな人が集まっていることも背景にあります。逆にアメリカの大きい大学というと、アメリカ人が一番多くて、次に中国人、残りはマイノリティーみたいなパターンもあると聞き、そういうところよりは「グローバルな環境」とはどんなものかを感じられるかなと。
二つ目は競争力です。スキルをつけたいというのも、自分の留学動機の一つだったので、甘えのきく環境に行って、「これなら東大に1年いたほうがよかった」と後から思ってしまっては元も子もないような気がしました。シンガポール国立大学は、学校の成績と就活のつながりがすごくて、例えば募集のホームページを見たら、国家公務員になる際に大学の成績によって初任給が違う、みたいなことが書いてあるんです。こんなところなら、好むと好まざるとにかかわらず、学生はめちゃくちゃ勉強せざるを得ないですよね。そういう死ぬ気で勉強している人たちの中に身を置いてみると、自分が何を感じるのかに興味がありました。
三つ目は先ほど言った上昇気流の国ということで、当時、中国やシンガポールはモビリティや決済分野で、データ活用を用いたサービスで日常生活がすごい勢いで変わっていて、実際に肌で感じてみたいと思いました。最近はさらに突っ込んで、インドとかアフリカへ行く後輩も見かけるようになりました。そういう経験をした人と話すと、大学での勉強とはまた別軸で貴重な体験を得ていたり、「今注目されていないけどこれから伸びそう」という場所に向かっていく抵抗が薄くなったりしていて、面白いなと思います。これは、行く前より帰って来てからより一層感じるようになりました。
司会Q4:大学はどうやって調べたのですか。
村田くんA4:東大は交換留学した学生の報告書があって、3、4年分ストックされているので、行きたい大学のものをざっと読むと、基本情報や取った授業、どのぐらいお金がかかったか、危険なことはなかったか、どんなことが楽しかったか、ということまで大体見られるので、イメージがわきます。あとは学部の先輩に電話で話を聞きました。ホームページを見ても、自分が交換留学生として具体的にどういう生活を送るかというのは想像しづらいので、報告書と直接聞くのが一番大きかったです。
司会Q5:報告書に書いてあることと、直接聞くのとでは違いはありますか。
村田くんA5:留学前に計画書を出すのですが、情報が少ない状態で書いても、「語学力を高めたい」とか、「国際人になりたい」とか、「政治を勉強したい」とか、誰でも書ける深さでしか書けないことはよくあります。本当にそのために留学するのか、なぜ自分がそれをしたいのかと突っ込まれても、それに対する答えを持っていなかったり。
一番印象的だったのが、僕が「(留学したら)家族社会学でこういうことをやりたい」って言ったら、ある友人に「おまえなら、3か月でできるんちゃう?」と言われたことです。確かに、ちゃんと計画を立てて3か月活動したら、別に1年留学しなくてもできてしまう。最初は「1年間」の感覚もつかめないまま、ふわっとした計画書になってしまっていたんです。
そこで先輩に計画書を見せて、本当にこういうことできるのか、どんな手段があるのかを聞いてみたら、例えば東大のシンガポール会を紹介してくださったり、話を聞ける先生や研究室を紹介していただいたり、インターン先を紹介していただいたり、いろんな機会につなげていただけました。それによって、最初に言ったように、1年間場所を動かすだけの留学でなく、やりたいと思ったことができるようにするための具体度を上げていくことができ、めちゃくちゃ大事だなと思いました。
司会Q6:原くんはどうですか。イギリスのEU離脱みたいなところは影響しましたか。
原くんA6:僕は昔からイギリスに関心がありましたし、イギリスの文化が好き、というのが大きかったと思います。あと、僕はアメリカに行ったことがないんですよね。ハワイは行ったことはあるけど大陸には行ったことがない。ただヨーロッパは旅行などで行っていたので、アメリカに行くイメージはなかったです。
また、政治という自分の専門を考えたとき、イギリスの政治はかなり日本とは共通性が高いので興味を持てるけども、アメリカの政治ってちょっとぴんとこないし、それから治安など生活面を考えても、アメリカに対しては前向きになれる要素がなかった、ということがありました。
司会:交換留学に必要な出願資料としてとして、先ほどの英語のスコアと、大学の成績と、志望理由書や学習計画書、面接があるという話をしましたが、原くんから村田くんに、これから原くんが受けることになる面接について、聞きたいことがあれば聞いていただけますか。
原くんQ7:はい。まず面接のときの言葉は何だった?
村田くんA7:僕の時は、半分日本語、半分英語だった。最初英語で、日本語も入っていたって感じかな。
原くんQ8:その面接官は教授?
村田くんA8:そう。3人ぐらいいて、国際交流担当の教授だったと思う。まずどういうことを勉強したいかを聞かれて、それに対して僕は「これからは成熟社会になっていくから、経済資本で語るのは難しくなって…」みたいな話をしたら、理系の人から「でも技術があるから、経済的な豊かさも高止まりしないんじゃないですか」みたいな反論が来て、それに対して英語でしっかり答えないといけなかったという感じですね。ここはちょっと、「おお、大学での面接はアカデミアの視点なんだな」と思いました。
原くんQ9:そこについては、何か対策していったんですか。
村田くんA9:英語はめちゃくちゃ苦手だったので、スクリプト(台本)を書いてそれを添削してもらいました。「どうして留学したいんですか、なぜシンガポールですか、特に何をしたいんですか」といった定番の質問は絶対来るなと予想できたので、それに対しては暗記というか、音読できるぐらいにはしていきましたね。
原くんQ10:定番質問以外に、こんなこと聞いてくるんだ、というのはありましたか。
村田くんA10:さっきの、技術で経済的豊かさは高止まりしないんじゃないか、という意見に対して、きみはどう思いますか、というのが来ましたね。
この視点はペーパーを書くときも大事で、要するに相手が何を求めているかを見極めること。東大の場合は、「この学生を学校の代表として交換留学に出しても恥ずかしくないか」という視点で見られるのと、学問の場所なので、意欲だけでなくちゃんと「学問」して来るかどうかを見られます。
逆に、例えば自分が応募した奨学金の面接では「あなたは日本の経済成長に貢献できますか」という視点で見られるので、「僕は将来こういう感じで国に貢献します、だから私に投資してください」というアクティブな活動面を押し出すほうが通りやすいと思います。
司会Q11:今、奨学金の話が出ましたが、学費について。国公立はだいたい50万円ちょっとくらい、私立は大学や学部によって大きく違いますが、100万から120万円くらいとみましょうか。一方で、アメリカで言えばYale大学は年間約600万円かかります。ちなみに、村田さんはNUSの学費は払いましたか。
村田さんA11:原則で言えば、交換留学ということは、東大の学費を納めていれば相手先の大学に行けますよということなので、授業料自体は相殺されます。でも、渡航費とか、寮費とか食事代とかが結構、積み重なっていきます。僕の場合は、家を解約すると逆に面倒な事情があり、日本の家賃も払っていたので、それなりにお金がかさみました。結局、奨学金をいただけたのでカバーできましたが、それがなかったらかなり難しかったと思います。
司会:ありがとうございます。今奨学金の話がでましたが、奨学金というのは、その学生が将来、日本のため、世の中のために貢献してくれることを期待しての投資なので、返済は不要です。
また、先ほどYale大学が年間学費が600万円と言いましたが、Yale大学と協定関係になっている日本の大学の学生であれば、日本での50万円とか100万円という学費を納めれば、差額の約500万円は日本の大学が負担してくれることになります。
つまり日本の大学も、その学校の代表として行く学生に対して投資をしているわけです。ですから、お金で返すのでなく、例えば戻って来てから向こうで学んだ学習意欲とかものの考え方を伝えたり、いい会社に就職したり、あるいは将来様々な分野で活躍したりしてほしい、ということなのです。そういう人を育てるために、日本で4年間学ぶのでなく、一回、外の世界に出て成長する機会を大学の負担で準備する、ということなのです。
今言ったように、交換留学は、日本の大学と海外の大学が直接協定を結んで、日本の学生と海外の学生を行き来させましょう、というものですが、このほかに大学には認定留学と言っているものがあります。
これは、海外に自分が行きたい学校が1年間学んできたい学校があるけれど、そこは自分の大学とは協定を結んでいないので、自分で出願して合格したら1年間休学して行ってきます、というものです。その場合、大学によってはそういうケースを支援して奨学金として出してくれるところもありますが、基本的には学生自身が海外の大学の学費を支払うことになります。また、その間は日本の大学を休学するので、フルではありませんが、籍を置いておくための学費も払わなければならないので、交換留学よりも費用がかさみます。
この場合、協定校ではないけれど、自分が勉強したいことがあるから行くという人はいいのですが、中には協定校留学を目指していたけど選考に漏れてしまった、でも絶対留学したいからといって認定留学を選ぶ、という人もあります。でも、そうなってしまうよりは、早くからしっかり英語や留学対策の勉強をして、しっかりと協定校で行った方が、結果的に費用面に負担はかからないことになります。
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司会:お二人の将来の夢を教えてください。
原くん:一つは研究者ということは何度かお話ししました。ただ、「じゃああなたの人生で何をしたいですか」と聞かれると、最近正直よくわからなくなっていて、とりあえず食べていくためには何らかの仕事に就かなきゃいけない。研究者になるというのは、そういった仕事に就くということですが、それはものすごく大変だということもわかっています。ただ、一つの選択肢として、研究者を考えています。もう一つの選択肢としては国家公務員もあるのかなとは思っています。
村田くん:今後5、6年ぐらいで日本の財政はいったん落ちると思っているので、そのときに自分が助けたい人を何らかの形で助けられるようになりたいと思っています。
もう少し踏み込んで言えば、それは事業に携わるということです。自分でやるか、人の事業を手伝うか再生するかは決めていませんが、経営判断ができて、なおかつ自分でちゃんと手を動かすこと。そのために人を集めたり、ファイナンスの知識を持ったり、信頼を勝ち得たりといったことの経験値を積んで、この問題を解決したいなら、問題はここだから、こういうチームを組んで、こうやって解決できると思う。そのためにお金を集めよう、チームを作ろうということができるようになっていたら嬉しいと思っています。
司会:では最後に、今から留学を目指す方たちに向けてメッセージをお願いします。
原くん:最後の村田さんの話に引き付けて考えると、自分が将来、人生で何をして死にたいか、社会のためにどのように役に立っていかなければいけないのかということについては、まだそこまで考えられていないのかもという感じです。
そういうところから考えると、自分は割と昔からパブリックな仕事の方がプライベートよりは向いているかなという感があったのですが、それも果たしてそうなのか。プライベートの仕事でも、もちろん世の中のためにはなると思うけれども、将来、大学出た後のことを考えるといろいろわからなくなっているので、留学をすることによってこれまでの自分の考え方・価値観というものをいったん脇に置いておいて、新しいものに触れたとき答えが見えてくればよいと思います。結論が出るかどうかわからないし、多分出ないとは思うんですが。
村田くん:僕からのメッセージは「逃げの留学にするな」ということです。最近留学する人は増えました。以前よりも行きやすくなりましたし、留学したことを評価されるようにもなりました。けれど、向こうの大学に1年間いるだけで下手に時間を過ごすと、日本にいていろんな機会でいろんな先生の話を聞いて、理解できる日本語で友達を増やした方が、自分にとって有意義な時間だったということになることって、めちゃくちゃあると思います。
だから、そうならないために向こうで何ができるのかということを考えなくちゃいけない。僕からは、いろんな人に聞きながら、頑張って具体的な目標を立ててみるということをオススメします。その留学を計画する段階で、形式的であったとはいえ、10年後何がしたいかとか、なぜ勉強したいのかとか、大げさにいうと自分は人生で何がしたいのかとか、何をしたら死ねるのかを考える時間を持つのが良いと思います。
そして英語、これは勉強しないといけないです。ご存じのとおり、英語は大学入試のときがピークで、入学するとやる気があってもどんどん下がっていくので、ピークのときに英語力を維持するかさらに上げておかないと、多分留学には行けないです。そういうプロセスも含めて、逃げの留学にならないように、頭を使う、人を頼ることが大事かな、と。そこだけ意識してもらえば留学を通して、留学が良い手段になれればと思いました。
僕が交換留学に行っている間に感じたことや体験したことは、「みらいぶ」で『From Hub of the Asia』として連載しました。また、今回の座談会を通じて感じたことをまとめたのが、その最終回です。興味を持ってくださった方は、ぜひ読んでみてください。
→最終回(第8回)未来の留学生へ~“逃げの留学”にしないために
※この対談の後で、原くんからメッセージをいただきました。
対談後、志望していたグラスゴー大学への交換留学が決まりました。グラスゴー大学への交換留学は大学全体で2名しか枠がなかったので、無事突破できてほっとしているところです。
今回、留学の先輩である村田さんとの対談の機会をいただいたことで、今後留学が始まるまでの半年間の間にどのような準備をすればよいか、留学先ではどのような姿勢で物事に向かっていくべきか、など、留学を実りあるものにするために考えなければいけない数多くのものを考える機会を得ることができたと思います。
村田さんはよく、「逃げの留学にするな」ということをおっしゃっていました。留学へのハードルが低くなってきている今の時代では、留学という選択が、むしろ「無思考」の結果として導き出されることもあると思います。かく言う自分にとっても、「とりあえずいい機会だから留学しておくか」という気持ちがなかったわけではありません。しかし、留学していた1年間を、数年分の価値ある1年間にするためには、これから自分にとっての留学の意味をさらに深く掘り下げていく必要があると思います。
これから留学するまでの間に、どれだけの準備をすることができるか―考えるきっかけを与えてくださった、村田さんを始めとするこの対談に関わってくださったすべての人に感謝すると同時に、留学から帰ってきて「本当に実りある留学でした!」とご報告できるように、頑張ってきます。ありがとうございました。