模擬国連の練習会をやってみた!~第2回岐阜海陽練習会

(2019年2月取材)

 

練習会は模擬国連の「セカンドステップ」

模擬国連をやってみたいけど、ルールもよくわからないし、いきなり大きな大会に出るのはちょっと抵抗があるという人も多いでしょう。初めて模擬国連に挑戦するときは、ファーストステップとして、マニュアルを読んだり紹介ビデオを見たりしてルールを理解することが必要ですが、実際の会議のやり取りを通して身につけたり気がついたりすることもたくさんあります。そのための有効な機会が練習会です。

 

模擬国連の目標は、様々な背景を持つ各国の大使と議論したり交渉したりしながら、問題解決のための合意形成をすることです。知らない人と「合意形成」を目指して真剣に議論することが、模擬国連の最大の魅力であり、同時に難しいところでもあります。部活や授業で模擬国連を行っている学校は、校内で練習会を行うこともできますが、大きな大会では、参加者(=国)の数も多くなりますし、大多数の大使が知らない人ばかりというのがほとんどです。

 

このために、いくつかの学校が集まって練習会を行っているグループがあります。高校模擬国連の練習会は、基本的に不定期開催で、1つまたは2つの学校が主催となって、フロント運営や会場提供を行います(※)。

 

練習会のポイントはフロント(議長団)やアドミニ(会議の運営)も高校生が行うこと。会議全体をマネジメントすることで、自分が大使をしている時には気づかないことも俯瞰的に見ることができるので、大使の経験がある人には、模擬国連への視野を広げる絶好の機会になります。

 

※練習会には、このほか大学生の模擬国連サークルや大学のゼミなどが主催するものもあります。

 

首都圏や関西では、いろいろな学校やグループが主催する練習会がありますが、東海地方でも岐阜県立岐阜高校と海陽学園中等教育学校が中心になって、「岐阜海陽会議」を立ち上げました。2月に行われた第2回練習会を見学してきました。

 

 

80人以上の大使が参加、地雷問題について議論

今回の練習会は2019年2月9日(土)・10日(日)の2日間、岐阜高校で開催。愛知・岐阜・長野・京都から12校、大使だけでも80人以上が参加しました。参加者の3分の2以上が初心者(模擬国連の経験が1回以下)です。

 

今回の議題は「地雷問題解決に向けた包括的対策(Comprehensive measures for solving landmine issues)」。地雷は、国連でも非人道的兵器として「対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)」で使用だけでなく貯蔵、生産、移譲が禁止され、廃棄が義務付けられています。世界中で160か国以上が批准している一方で、世界有数の保有国で輸出国であるアメリカや中国、ロシア、インドなどが批准していない、という状況です。今回の会議でも、これらの国の大使からは「地雷は本当に非人道的なのか」「むやみにコンバインを急ぐのはよくないのではないか」という疑義が呈される場面もありました。

 

 

みらいぶが見学した2日目の会議は、1日目に提出された5本のWP (Working Paper:ワーキングペーパー)をもとに、DR(Draft Resolution:決議案)提出に向けてグループ同士の交渉が進められていました。

 

DR提出までの正味時間は、昼食をはさんで2時間半ほどです。この中で、政策が折り合えるグループとコンバイン(統合)して、さらに具体的な条文にまとめていくことには、どのグループもかなり苦労したようです、最後は提出期限ギリギリになって、USBを持ってフロントへ猛ダッシュ!というグループもありました。

 

実際に参加して、初めてわかる難しさとおもしろさ

参加した大使に感想を聞いてみると、「時間がなくてたいへんだった」「自分の国の政策と完全に一致するグループがなくて、最後までうろうろしてしまった」「ついて行くだけで精一杯だったけど、次は意見が言えるように頑張りたい」といった声が聞かれました。

 

特に何人かの大使から出た声が、「大使になりきることの難しさ」です。自分自身は地雷は廃絶されるべきだと思っていても、担当国が地雷を肯定していれば、そのようにふるまわなければなりません。また、その意味でリサーチの質や量の不足を痛感した、と言った人もありました。

 

会議後のレビューでは、フロントから「大使に必要な姿勢は相手を尊敬し、相手の意見を尊重すること」というコメントがありました。国益を守るための政策を「推す」ことと「押し付ける」ことは違う、根底に協調と尊重の姿勢がないと、合意には至らない、と。実際、DR提出に向けた交渉の中で、活発に意見を交わしながら結局物別れに終わってしまった場面をいくつも見ました。リーダーシップを取ろうとするあまり、大きな声で自分の意見を主張し続けたり、逆に話を聞くだけで自分たちがどう考えるかを明らかにしないままその場を立ち去ったりするだけでは、合意を生み出すことはできません。こういったことも、実際に会議を経験して初めてわかることでもあるのです。

 

ぎりぎりの交渉の中で自国の利益を守りつつ、相手に納得してもらう提案をするには、場数を踏んでいろいろな方法を試してみるとともに、交渉上手な人がどのようにふるまっているのかを見て、自分なりのやり方を身につけていくことが大切です。

 

模擬国連は世界各国の高校や大学で、授業の中に取り入れられているプログラムです。ルールを覚えたり議論のしかたを身につけたりするためには、日本語だけでもOKです。まず一度、チャレンジしてみてください!

 

■アドミニ(運営担当)のメンバーの皆さんに聞きました

高校生自身が模擬国連を運営するって、どんなことを準備したり、注意したりしたらよいのでしょうか。岐阜海陽会議の運営メンバーの皆さんに聞きました。

 

自然科学部の部長との兼務を通して多くのことを学ぶことができた

大野隼くん(岐阜県立岐阜高校2年)

 

■大野くんが模擬国連を始めたきっかけを教えてください。

 

1年生の秋に先生から声をかけていただいたのがきっかけでした。しかし、その頃の私は研究や実験の授業が得意で、進路も理系を希望していました。そのため声をかけていただいたものの、正直あまり気乗りはしませんでした。しかし、練習会に出てみないかと誘われたので、せっかくだからと特に深い考えもないまま海陽中等教育学校の主催する練習会に参加しました。

 

ところがいざ参加してみると、周囲は自分と同じ高校生なのに圧倒的にスキルが高く、想像をはるかに越えていました。模擬国連では、国際問題や担当国の歴史的背景に関する知識は重要ですが、実際の会議の場では、論理的思考力やコミュニケーション力、リーダーシップや協調性など様々な力が求められます。グループの中心で何十人もの人をまとめる大使の姿や、譲歩可能な妥協点を模索し粘り強く交渉を続ける大使の姿を見て、すっかり模擬国連の魅力にはまってしまいました。

 

模擬国連は、一国の大使として国を代表する立場で考え行動しなければならないので、様々なスキルが必要とされますが、それらを学ぶことは、学校の勉強とは異なる興味関心を私の中に呼び起こしました。しかも会議に参加すれば、自分と同じように高い志を持った仲間が大勢いて、お互いに切磋琢磨しながら自己を高めていくことができます。模擬国連には模擬国連でしか味わえない魅力があり、だから私は今もその刺激を求めて活動を続けているのです。

 

■ふだんは模擬国連以外にどんな部活や委員会などをしていますか。また、今回のアドミニのメンバーはどのように選ばれましたか。

 

私は自然科学部の部長をしているので、部活動と模擬国連との両立は決して楽なものではありません。とくに昨夏の全国高等学校教育模擬国連大会では、ほぼ同時期に自然科学部の研究発表の準備をしたり、名古屋大学の研究セミナーに参加したりと忙しく、模擬国連に十分な時間を割くことができませんでした。その時は必要な項目の調査を重点的に行うことでなんとか乗り切りました。

 

今回の運営メンバーは、会議経験のある2年生の有志によって構成されました。そこでは各々のメンバーの長所に合わせて自然と役割分担がなされていきました。私がアドミニ・リーダーを引き受けたのも、資料作成等でパソコンを使う機会が多いからでした。

 

■実行委員長として、練習会の準備・運営にあたってどのようなことを心がけましたか。

 

今回特に心がけたのは、「初心者でも参加しやすい会議にする」ということです。

 

具体的には、会議文書の作成や会議行動の仕方について、解説文書を大会の約1か月前から配布し、経験のない大使が知識の面で不利になることがないように配慮しました。初めて模擬国連に参加する高校からは、事前に解説資料が配布されたので準備が進めやすかったと聞きました。

 

■大会運営にあたって、これは困った、大変だった! ということがあれば教えてください。

 

準備期間に模擬国連に関する質問を受け付けました。中には文書作成に関わる高度な質問もあって、返答に苦労しました。間違いのないように他のメンバーと話し合ったり、実際の国連決議を参照したりして、正確な返答を意識しました。自分たちにとっても国連について深く学ぶ機会となりました。

 

また、事前提出課題の処理にも苦労しました。PPP(Position and Policy Paper)やNP(Negotiation Paper)が40か国分集まるので、目を通すだけでも大変でした。運営には直接関係ないと言ってしまえばそれまでですが、大会を成功させる上では欠かすことのできない大切な仕事でした。これまであまり意識してきませんでしたが、自分が担ってみて初めてその役割の大変さがわかりました。

 

■実行委員長を務めて、一番よかったことはどんなことでしたか。

 

模擬国連を新たな視点から見ることができたことです。今回初めて運営メンバーとして関わったことで、大使の皆さんの行動を客観的に見ることができ、そこから自分自身のこれまでの大使としての行動を振り返ることができました。そして、多くの参加者が参加してよかったと言ってくれたことが、何よりも嬉しかったです。

 

■これから初めて模擬国連の練習会を行う高校生の皆さんにアドバイスをお願いします。

 

練習会を開催するにあたって重要なことは、何のために会議を開くのかという理念をしっかり持つことだと思います。今回は「東海地区における模擬国連活動のレベルアップ」を理念としました。東海地区は模擬国連活動がまだ十分に普及していません。地区全体のレベルアップを目指すためには、初心者に興味を持ってもらうことが重要と考え、まだ模擬国連に取り組んだことのない学校にも積極的に参加を呼びかけました。

 

この会議は、参加者全体の4割ほどが初心者でした。模擬国連は事前の準備が欠かせませんし、会議の大きな流れが頭に入っていないと複雑な進行についていけなくなります。今回は事前に解説資料をしっかりと読み込んでもらったおかげで、ほとんどの大使が積極的に会議に参加し、文書作成に取り組んでくれました。初心者の多い会議を開くときには、資料作成等の会議準備のコツを事前にできる限り伝えるとよいと思います。

 

合意形成に向けた効果的な行動や発言を客観的に見直すことができた

山下倫未さん(岐阜県立岐阜高校2年)

 

■山下さんが模擬国連に実行委員として参加するのは何回目ですか。また、当日に向けてどのような準備をしてきましたか。

 

実行委員として模擬国連に参加するのは初めてでした。当日に向けた準備としては、まず議題と議場のレベル、開催期間、実行委員の役割などの基本事項を決定しました。その後、議題概説書の作成や提出書類の作成、プロシージャの設定などの詳細を決め、最後に評価基準や当日の流れを確定しました。

 

■大会当日は、どのようなことに気をつけながら行動しましたか。

 

議場の流れをできる限り詳細に把握しようと努めました。今回の会議では評価も担当したので、議場の流れや大使の行動を正確に理解する必要がありました。大使としての参加ではないため、状況が掴みづらかったのですが、邪魔にならない程度にそれぞれのグループの議論をじっくり聞いて情報を集め、議場把握に努めました。

 

■大使として模擬国連に参加した経験が、実行委員としての行動に活かされたのはどんな点ですか。

 

これまでの大会等で大使として参加した際に会議の進め方を覚え、プロシージャをたくさん見てきたことが、会議の計画を立てるときの参考になりました。また議場進行が頭に入っていたので大使の動きを予測することができ、その分集中して観察することができました。

 

実行委員として参加する一番のメリットは、会議を客観的に見られることです。実際に運営側に立って一歩引いて議場を眺めると、大使として参加している時よりも、会議中のよい動きや改善した方がよい動き、効果的な発言等に気づきやすかったように思います。どこでどんな行動や発言をすると会議が円滑に進むのか、どのように交渉を持ち掛ければ合意形成が可能なのかを冷静に考えることで、大使としての自分自身の行動を反省し、今後の会議行動をブラッシュアップする絶好の機会となりました。

 

■2日間の練習会で一番大変だったことを教えてください。

 

一番大変だったのは、大使を評価することです。模擬国連では議場における大使の行動様式や役割に幅があるのが特徴的です。したがって大使の行動も多面的に見る必要があり、単に存在感があって目に付くということだけでなく、交渉や文書作成での貢献度、着席討議での発言内容などを鑑みて評価をつけるのが大変でした。

 

実際に評価するにあたっては、実行委員どうしで緊密にコミュニケーションを取るように心がけました。お互いの情報を共有することによって、目立っている大使だけでなく、グループ内で重要な役割を果たしている大使にも注目することが可能になりました。

 

■これから初めて練習会をやってみようという高校生に対して、アドバイスをお願いします。

 

自校だけで練習大会を開くことが難しければ、今回のように複数校で共催する形を取るのもよいと思います。準備段階では、連絡の取り方など複数校ならではの苦労がありますが、地域の模擬国連活動を活発にするにはもってこいの方法だと思います。また、初心者の多い会議では、議事進行や動議の挙げ方が曖昧になるケースが多く見られますので、初心者議場に大使として参加する場合には着席討議を活用して、議論の順番やグルーピングの基準などを明確にしてから会議を進めるとよいと思います。

 

初心者を対象に大会を運営する場合には、模擬国連のルールや情報収集の仕方、文書作成の注意事項などの解説をつけたり、使用言語を日本語中心にするなど会議のレベルを易しくしたりして、模擬国連の楽しさや奥深さを存分に感じてもらえるように工夫するとよいと思います。

 

初めてだからこその「刺激」が成長につながる!

中村大喜くん(名古屋高校2年)

 

■中村くんが実行委員として参加するのは何回目ですか。また、当日に向けてどのような準備をしてきましたか。

 

今回初めてアドミニとして実行委員に参加しました。事前準備では、大別してメール解説の作成、PPP(Position and Policy Paper)の添削・講評、広報活動の3点をしてきました。今会議では参加校数12校、参加人数83人と、東海地区の会議としては最大規模でしたが、その多くが会議経験のない、もしくは少ない方ばかりでした。

 

そこで初心者の方々に、当日により効果的な動きをしてもらうために、模擬国連の大まかなルールをまとめ、メールで全員に共有する「メール解説」を行いました。メール解説は三部に分けて、第一部でPPP/NP(NegociationPaper)の作成方法、第二部でWP(Working Paper)/DR(Draft Resolition:決議案)の作成準備、第三部で大会当日の動き、流れについて解説しました。

 

また、提出されたPPPに対するコメントをつけ、それを各大使に返却することによって、当日までの政策立案の参考にしてもらいました。

 

■大会当日は、どのようなことに気をつけながら行動しましたか。

 

僕を含めアドミニは、フロントメンバーとは異なり、会議当日にすることはメモ回しと各大使の評価ぐらいでした。しかし、比較的当日の仕事量に余裕があるアドミニだからこそ、客観的に議場をとらえ、2日間という限られた時間の中で行われる会議を滞りなく進行していくことに従事するよう心がけていました。いわば、会議の「縁の下の力持ち」の役割を果たすことがアドミニの最重要事項だと考えていましたね。

 

■大使として模擬国連に参加した経験が実行委員としての行動に生かされたのはどんな点ですか。

 

僕にとって、会議に実行委員として参加することは、大使として参加することとはひと味もふた味も違うことのように感じました。そんな中で、やはり大使として幾度か会議に参加した経験によって模擬国連のノウハウを知っていたことで、参加大使の交渉や、ペア間のチームワークを自分なりに正しい尺度を持って注視することができました。

 

また、実行委員を務めることで広い視野で状況を把握し、冷静に自分が取るべき行動を判断する経験を積むことができました。このことは、大使としての行動にも役立つものであると思います。大使として議場の渦中にいると、全体の議場の様子をつかみきれなかったり、会議の大きな流れを把握することが難しかったりします。しかし、実行委員として参加することで会議を俯瞰してみることができました。模擬国連の活動をしていて、ここまで客観的に議場を整理できたことがなかった僕にはとても刺激的な2日間となりました。

 

■2日間の練習会で一番大変だったことを教えてください。

 

アドミニの立場として、議場を常に客観的に把握し、各大使を評価することが一番大変でした。今会議は、議場がまとまりきらず、それぞれのDRグループがスタンスと合致しない行動を取ったり、他の大使を賛成票を獲得するための単なる「数」としか認識していないようにも思える会議行動を取ったりする大使も散見されて、たびたび議場が混沌とすることがありました。

 

そこで、僕たちは加点方式によって各大使を評価することは困難であると考え、減点法によって評価を行いました。これによって、混沌とした議場でもより厳格に各大使を評価することができたと感じます。

 

■これから初めて練習会をやってみようという高校生に対して、アドバイスをお願いします。

 

関東や関西に比べて模擬国連活動が浸透していない東海地区において、初心者が多いことは当然のことで、今回の会議でも議場がまとまりきらないことはある程度予想ができました。大使のなかには、自分の思った通りに行動できないどころか、2日間ほとんど言葉を発することもなく会議を終えてしまった方もいると思います。

 

しかし、たとえ自分から何か発信することができなかった大使も、これだけ多くの他校生と腰を据えて意見を交わすことを経験する機会は少なく、今会議はとても「刺激」のある有意義なものになったと思います。実際、1年前僕が模擬国連を始めたばかりの時がそうでした。今後初めて練習会に参加しようと思っている高校生にとって、一番大切なことはこの「刺激」だと思います。最初の会議から上手くいく人はなかなかいないです。その中で、多くの刺激を受けながら会議を重ねていくことが成長につながると強く思います。模擬国連を始めるということは今後の長い模擬国連の歴史を担うモギコッカーになりうるということです。臆することなく会議に参加してもらいたいと思います。

 

また、初心者が多い会議では、特に大使としてどうしていいのかわからなかったり、会議経験数の多い大使の言うことに従いがちになったりして、議場に一体感が生まれにくいと思います。そこで大使には、自分の会議行動が自国のスタンスと本当に合致しているのか吟味しながら会議を進めてもらいたいです。大使は一国の代表であることを忘れず、自国にとって出席した会議を意味のあるものにできるとよいと思います。

 

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