第12回全日本高校模擬国連大会

ドキュメント みらいぶ特派員が見た2日間の会議

(2018年11月取材)

高校模擬国連の日本代表として世界大会に出場した経験のある2人のみらいぶ特派員が、2つの議場の議論をレポートします。

※特派員2人は、世界大会代表校の選考には関わっていません

 

 

1日目のWorking Paper提出までの議論の大きな流れ

 

[議場A]

 

会議は議長裁量による着席討議で始まりました。討議のテーマは「会議での議論の進め方」で、2つの論点をどのような順序で議論するか、非着席討議においてどのような方針に基づいてグループ形成をするかなどについて、多くの大使から活発に意見が提示されました。全ての大使の意見を汲み取りつつ、合意形成のための一つひとつの段取りを踏む、議長の丁寧な姿勢が印象的でした。それ以降は、1日目が終わるまで一貫して、グループごとに分かれての交渉活動や文書作成が非着席討議で行われ、7本のワーキングペーパーが提出されました。

 

武器貿易条約(ATT)に反対する国々は、そのスタンスを全面に押し出して一つのグループを形成しました。また、一部を除くアフリカ諸国は、地域という枠組みで一つのグループを形成しました。一方で、全会一致を重視する意図から、武器移転に対する互いのスタンスの相違を認めた上で一つのグループを形成する国々もありました。このように非着席討議におけるグループ形成の方法は多様で、議題の各論点に対するスタンスというよりも、さらに基本的な立場や考え方に基づいて行動している大使が目立ちました。

 

 

 

[議場B]

 

最初のモデレートコーカスで、各国が論点に対してどのような意見を持っているのか把握して、その後すぐにアンモデレートコーカスが取られ、おおよそ5、6個の小グループが形成されました。基本的には同じ地域同士で組まれていたので、多分にこの後グループのリーダーとなった国が、地域で組むという展望が反映された結果だと思います。その後は、途中に途中経過を報告するモデレートコーカスが1回取られましたが、基本的にはグループ単位で、WP作成に向けた動きに集中していました。 終盤の方で、中国やイギリスといったグループのリーダーである4カ国くらいで、2日目の会議をどう進めるかを話し合っていたのは、会議構築力という点で評価できます。

 

 

1日目に提出されたWorking Paperの大まかな内容

 

[議場A]

 

「武器移転の透明性の確保」という論点1、「非国家主体への武器移転規制」という論点2、いずれについても、その必要性に対して全面的に異議を唱えるようなグループはなく、したがってワーキングペーパー相互の相違は、透明性を確保する方法、非国家主体への武器移転を規制する方法について、どのようなアイデアを提示しているかによるものでした。

 

論点1についての主要なアイデアは、武器移転についての国際的な情報共有制度を構築するというもので、第一に軍備登録制度や武器貿易条約(ATT)など既存の枠組みを活用するもの、第二にNGOを利用する制度など新規の枠組みを設定するもの、第三に特定の枠組みに依拠しない情報公開の仕組みという3タイプがありました。基本的には、全てのグループが一つ目のアイデアを採用し、全てのタイプに言及しているワーキングペーパーもありました。

 

論点2については、例えば「テロ組織に限定して武器移転を規制する」というように何らかの規制基準を設定するアイデアを採用するグループと、国連安全保障理事会など特定の判断主体が個別的に対処するというアイデアを採用するグループがありました。

 

ただ双方は両立可能であり、実際に両方のアイデアを盛り込んでいるワーキングペーパーもありました。

 

[議場B]

 

主な対立点は、論点1の「通常兵器移転規制における透明性確保のための制度の再検討」です。透明性をどの程度まで高めるのか、それをどのように実現するのかで、対立していたように思われます。アジア、アフリカ系は現状維持、ヨーロッパ系ではさらなる向上を目指しているように見受けられました。

 

 

2日目午前中のDR作成に向けてのコンバインでいちばん問題になっていたこと

 

[議場A]

 

武器移転に関する国際的な取り決めは、国家主権の根幹である安全保障とある側面では対立します。そのため、特に論点1での透明性の確保の議論において、安全保障の問題に敏感な国と、国際協調を重視するする国との間で見解の相違が生じ、各グループでのコンバイン交渉相手の決定に影響を与えていました。

 

 

 

[議場B]

 

やはり論点1でしょう。最終的にはコンバインした、似たようなスタンスを持つグループ間であっても、細かな部分、例えば既存機関の権限や行動をどのように拡大するか、どの機関が行うのか、どの動詞で文言を表すか、どう連携をとるなどかで交渉に時間がかかっていたように見受けられました。論点2に関しては、1日目のモデレートコーカスで、全体である程度共有が取れていたので、ここで対立しているようには見受けられませんでした。

 

DR作成に向けて、効果的な行動をした国や大使の動き

 

[議場A]

 

全日はペアで出場しますが、非着席討議において2人の間で役割分担をする場合、自国が属するグループにとどまり議論に参加する大使を内政担当、他のグループに属する大使との交渉を行う大使を外交担当と呼ぶことがあります。A議場では、ベルギーの外交担当の大使が、2日目で最も効果的な会議行動をしていました。この大使は、グループをわたり歩いて議場全体の情報の俯瞰的な把握に努めると同時に、1日目の段階でグループを兼任していた大使を相手に地道な交渉を重ね、ベルギーグループに所属する仲間を確実に増やしていました。この大使の活躍により、ベルギーグループは、コンバインを経ずに決議案の提出要件を満たすことができました。一度はやんわりと断られた相手に対しても、ベルギーグループに所属するメリットを繰り返し丁寧に説明する粘り強い姿勢が、この大使の強みでした。一方、ベルギーの内政担当の大使は、この交渉の間、グループ内で決議案の内容を確認し修正する作業に専念していました。このように内政担当と外交担当との間で、しっかりと分担ができていたという点でも、ベルギーの会議行動は優れていたように思います。

 

[議場B]

 

優秀賞を受賞したイランは、1日目では自国の主張を貫くという理由で孤立気味であり、最後の方で地道な話し合いを通して小グループを形成していました。でも、それが功をなしたのか、2日目にはWPごとの意見をホワイトボードに整理し、コンバインで自国の意見が流れそうな時に、主張を弱めてはいけないと、国益に忠実であり続ける態度を取っていたのは印象的で、評価できると思いました。 中国に関しては、ペアで連携をとって、他グループとの意見共有とそれを文言に反映させ、自分のグループにそれを共有する動きを、エジプトやガーナと連携を取りながら進めていたのは、時間が限られている中で、よくやったと思います。自分たちだけでやろうとするのではなく、プレゼンスが弱まるリスクを背負いながらも、決議案を提出するために、しっかり他の国にも役割分担をする姿勢は、時間は限られていながら、やることの多い2日目では肝要だと思います。 ヨーロッパ系のグループは、イギリスが主体となってコンバインや文言作成を行っていました。中国のグループとは逆に、イギリス一国がグループをリードしていたように思われます。特に印象的だったのは、時間が迫っている中での冷静さと、ある種強引ではあっても、相手にそうとは思わせない会議行動です。終盤に時間が少なくなって、かつコンバインしたことで他グループに呑まれる危険もある2日目で、冷静さと同時に「自分たちがやらないで誰がやる」という自信は、おそらく他国に「この国についていけば大丈夫だ」という安心感をもたらしたでしょう。これが、他の国から信頼を得た理由になったと思います。イギリスが作り出した、いつもどこかにグループの軸があるという状態が、時間内のDR提出につながったと思います。

 

 

最終的な決議案の内容をわかりやすく教えてください。

 

[議場A]

 

A議場では、3つの決議案が提出され、全てが採択されました。相互の条文に矛盾はなく(矛盾がある場合、一方の決議案が採択された時点で、他方の決議案の該当条文は削除されます)、鼎立可能な決議案でした。

 

<DR1>論点1については、加盟国が比較的多い国連軍備登録制度を基盤として、発展途上国のキャパシティビルディングを目的としたiTraceとの任意協力システム、国家間の連絡強化による協力体制の確立を提言している。論点2については、国家主体に関する具体的な定義を記し、それに該当しない主体に対する包括的な移転の禁止を定めている。

 

<DR2>ATT加盟国間での限定的な規制強化が前提となっている。論点1については、武器移転の透明性を確保する手段として、報告書の提出や国連による視察などを提言しており、透明化の徹底のためには第三者による監視もやむを得ないものとしている。論点2については、国連軍縮部による承認を移転の条件として明記している。この他には、軍縮のための国家間協力を支援するUNSCARにおける援助システムの見直しを提言し、発展途上国へのより柔軟な資金融通の実現を企図している。

 

<DR3>論点1については、各国に具体的な情報開示は要請せず、報告の義務化については、第三者機関による援助などを通じて発展途上国のキャパシティビルディングが実現された後で議論すべきとしている。具体的な政策としては、武器製造会社との提携によるマーキングシステムの構築などが挙げられている。論点2については、国連軍備登録制度の対象となる武器カテゴリーに限定して、包括的な移転の禁止を定めている。ただ、非国家主体の定義については言及がない。

 

 

[議場B]

 

まず全体的な印象として、イギリスが提出したDR2は、具体的なところまで詰められていて、高校生らしい議論がなされたように見受けられました。一方、中国の決議案1に関しては、おそらく現状維持がグループの軸だったためか、割にと包括的な内容で、実際の国連会議の決議案の雰囲気を感じました。どちらが良いのかはわかりませんが。それでも、議論の途中過程がよくわかる決議案でした。論点ごとに簡単に比較すると、論点1に関しては、中国グループは現状維持、イギリスグループはタスクフォースや評価基準の策定など、さらなる透明性の向上を目指すスタンスが浮き彫りになっています。論点2に関しては、非国家主体の定義はどちらも同じですが、そこへの武器移転の規制方法に関して、中国グループはさほど言及せず、イギリスグループは第三者機関の設置や報告書の提出などが記述されていました。

 

模擬国連OBのみらいぶ特派員が語る!

北口智章くん 東京大学文科I類1年 (第11回(2016年)世界大会派遣生)[議場A]

 

■自分が参加した時を思い出しながら、2日間の感想を教えてください。

A議場での最終的な投票結果は、「全会一致での決議採択を目指す」という会議の当初から議場で共有されていたゴールとは程遠いものでした。三つの決議案が提出され、いずれについても、提出国以外からは容赦のない反対や棄権の投票がなされました。私が参加した2年前の会議では、一つの決議案しか受理されなかったということもあり、コンセンサスに近い成果を得ることができました。しかし、A議場で各国の足並みが揃わなかった原因は、複数の決議案が提出されたことのみに帰せられるものではありません。

 

2日目の議場では、決議案の提出要件を満たすために、複数のグループが合流するコンバインという作業が行われます。ここでの交渉活動に時間や労力の多くが割かれた結果、グループ間の交渉活動がおろそかになっていたことが、最大の原因だろうと私は思います。決議案を提出するので手一杯というグループもありました。このような、やや落ち着きのない議場となってしまった背景には、各国が具体的なアイデアを用意する大きな論点が二つ設定されたという議題の事情もあるような気がします。

 

私が参加した会議では、アイデアが豊富に提示された論点は、「情報通信が未発達の開発途上国でのキャパシティビルディング」という一つの論点だけでした。検討すべきことが比較的多い議題であったために、「1日目からコンバインに向けた下準備を行う」といった、多角的な会議行動をするだけの余裕が、大使に残されなかったのかもしれません。

 

 

■いわゆる「純ジャパ」の北口さんが、模擬国連で必要とされる英語力を身に付けられたのは、どのような練習や準備をされたためでしょうか。

 

模擬国連において、日本の高校生が最も困難を覚えるものの一つとして、英語での公式討議(スピーチ)が挙げられると思います。決議文書の読み書きに要する能力は、受験英語の要領で一定程度はカバーできますが、スピーチについては、ほとんどなじみのない大使の方が多いのではないでしょうか。

 

各国に基本的に一度だけ割り当てられる公式討議では、議場全体に向けて、自国のスタンスを短時間で簡潔に伝えることが求められます。全ての大使が自分の発言に耳を傾けてくれるという状況にこそ、公式討議の特徴があります。この機会を有効に活用するためには、英語力でばらつきのある大使たちの全員に(つまり、英語が苦手な大使にも)、確実に「届く」スピーチをする必要があります。この意味での「英語力」は、英語らしいきれいで発音での流暢なスピーチとは、必ずしも結び付きません。

 

いわゆる「純ジャパ」の皆さんは、私がかつてそうしたように、どのようなスピーチをすれば「全員に届く」のかということを考えながら、スピーチの原稿を書いたり、練習したりしてみるのも良いのではないかと思います。

  

 

■振り返ってみて模擬国連の魅力は何でしょうか。

 

模擬国連の魅力は、「議場」という空間に秘められています。特殊で非日常的な「議場」において、私は、普遍的で日常生活にも役立つ「学び」を得ることができました。それは、「自他の行動を制約する条件を適切に把握し、コントロールすること」の重要性です。

 

例えば、「何時までにこの文書を提出しなければならない」という会議進行上のルールは、最もわかりやすい制約条件です。大使には、逆算の思考を働かせたタイムマネジメントが求められます。そもそも、あらかじめ割り当てられた国の主張しかできないこと、グループを作って意見をまとめなければいけないことなども、れっきとした制約条件です。「議場」には、大使の行動の自由を束縛する条件があふれています。

 

ここで大切なのは、「何ができないか」を考えることは「何ができるか」を考えることでもあり、「何ができなくなるか」を考えることは「いま何をすべきか」を考えることでもあるということです。制約条件を適切に把握することが、即ち自らの立ち位置を客観的かつ正確に見定めることに、制約条件を適切にコントロールすることが、即ち自らの次の行動を決定することに繋がるのです。このような思考のあり方を必須のものとして大使に要請するという、彼ら彼女らの成長に繋がる自動的なメカニズムが内包されている、そんな魅力的な空間こそが、模擬国連の「議場」なのではないでしょうか。ここで述べたような思考は、意外に日常生活でも役に立ちます。模擬国連の経験者は、ぜひ応用してみてください。

 

 

青木渓くん 一橋大学経済学部1年 (第11回(2016年)世界大会派遣生)[議場B]

■自分が参加した時を思い出しながら、2日間の感想を教えてください。

まず議題に関して。武器移転という高校生に馴染みのないものですが、議題解説書が高校生の理解能力を考慮したのか、議題の全体像や論点の把握に、それほど困らないものであったと思います。その分、どれだけ、当日どう動くかという会議行動の準備が重要でした。昨年や一昨年とは違い、論の構築で他人と差をつけるのは難しかったかもしれません。

 

次に会議行動について。ある意味、模範的な会議だったといえます。つまり、無駄に目立とうとする人やお門違いな言動をする人もなく、会議準備や実力が反映された会議だと思います。終始、「自分の時もこんな会議だったら‥」と思いました。

 

顕著だったのは、ホワイトボードやポストイットといった道具を持ち込んでいた人が多かったこと。これは2、3年前から大きく変わったことでしょう。でも、はっきり言って供給過多です。会議の中盤以降、持ってきた意味がなかったと思った人は多いと思います。これらのツールは、議論の可視化や内容の理解のしやすさを上げるという点では活用できますが、実際に使われるのは多くても二つか三つです。道具を持っていけばいいや、という考えをなくし、会議をより良いものにするために、自分たちは、大使として何ができるか、何をすべきかを、自分の頭を使って考えることにもっと力を注いでほしいです。そこに道具が必要なら持ち込むべきだと思います。無駄になることはないです。

 

 

■いわゆる「純ジャパ」の青木さんが、模擬国連で必要とされる英語力を身に付けられたのは、どのような練習や準備をされたためでしょうか。

 

心構えとして、まず英語に拒否反応を示さないことが肝要です。その上で、英語の文献を読んだり、TED talk やCNNなどを聞いてみたり、よく会議で用いられる英単語やフレーズを覚えていつでも使えるようにすることが役立つと思いますし、自分もそういったことをしました。

何も奇をてらったことをする必要はなく、ふだんの英語学習の延長戦上で太刀打ちできると思います。一番大事なのは、参加者全員が理解できるような英語を使えること。非帰国子女は、帰国子女に比べて語彙力は低く、誰もが知っているような英語しか使えません。しかし、使った英語は誰もが理解してくれるので、伝わる可能性は限りなく高いです。

 

 

■振り返ってみて模擬国連の魅力は何でしょうか。

 

一言で言えば、視野が広がることだと思います。議題について、担当国の立場から調べることで、違った問題の捉え方があって、他国の大使と議論をすることで、こんな高校生がいるのか、こんな考え方があるのか、など。自分の会議行動を振り返って、自分にはこんなことができる、逆にできない、苦手なのか。自分の持ち味が他者にはどう映るのか…といった、今まで自分の知らなかったことが得られるのは魅力的だと思います。

 

個人的な意見ですが、模擬国連を通して得られた国際問題に関する知識やスピーチ力や交渉術は、さほど今後の学びや生活に大きく役立つことはないかもしれません。なぜなら、実生活で活用する場面が少なく、そのうち忘れたりしてしまうからです。では、何が役立つのか。それは先ほど挙げた、視野の広がりと、会議・議題、ひいては自分自身の会議行動について、深く考えた経験だと思います。これによって、いろいろなものの見方ができたり、自分の目標達成に近づけたりすると思います。

 

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