2018信州総文祭
(2018年8月取材)
■部員数 8人(うち1年生3人・2年生2人・3年生3人)
■答えてくれた人 佐藤美優さん(3年)
本校では、「ウーパールーパー」の名で親しまれる「アホロートル」を飼育しています。アホロートルは一対の外鰓(がいさい)を持ち、鰓(えら)呼吸を行う両生類で、幼生の特徴を残しながら性的に成熟する「ネオテニー」という性質を持ち、幹細胞を用いて手足や臓器まで再生可能であるといった、興味深い特徴があります。
iPS細胞やES細胞といった再生医療の研究に注目が集まる中、アホロートルの変態と特殊な再生能力の関連性について研究することにしました。
甲状腺ホルモンの一種「チロキシン」を注射してアホロートルを変体させる
アホロートルは両生類ですが、カエルのような変態はせず、幼態のまま性的に成熟します。しかし、両生類の変態を促す甲状腺ホルモンの一種「チロキシン」を体内に入れれば、人工的に変態させることができ、肺呼吸や歩行が可能になるのではないかと考えました。
そこで、0.0050%のチロキシン水溶液を作り、生後約4ヶ月、体長約10cmの個体3匹の腹部に0.10mL注射しました(注射法)。
チロキシン投与から1週間が経ち、3匹すべてが変態しました。変態後の変化として、外鰓の退化・肺の発達・まぶたの形成・尾ひれの退化・皮膚の粘膜の消失が確認されました。しかし、変態から1週間ほどで3匹とも死亡しました。
[変態前と変態後を比較]
[個体を解剖し、肺が形成された様子を比較]
対照実験として他のアホロートルに0.65%の生理食塩水を注射しました。そちらは変態せずに生存していたことから、本来チロキシンを生合成しないアホロートルにとって、短期間に多量のチロキシンを体内に投与することは、体への負担が大きかったのではないかと考えました。
そこで、アホロートルの体に負担の少ない方法として次の実験を行いました。
飼育水をチロキシン水溶液にして、アホロートルの体にかかる負担を軽減
まず、最初の実験と同濃度のチロキシン水溶液を用意して、複数の個体を5分、10分、15分、20分、25分の一定時間浸して、その後もとの飼育水の中に戻して飼育を続けるという実験を行いました(浸漬法)。
その結果、すべての個体について変態が起こりませんでした。この方法の条件では、変態に必要な量のチロキシンを取り込むことができなかったと考えられます。
そこで、今度は水槽の水全量を同濃度のチロキシン水溶液に替えて、この中で継続的に飼育を行うという実験をしました。
その結果、10日ほどで変態が確認されました。変態した個体は変態から約19週間生存していました。アホロートルの体に、直接注射して変態させた個体より長生きできたため、注射法よりも浸漬法の方が、体への負担が少ないと考えられました。
水中に溶存する酸素量を測り、鰓呼吸から肺呼吸への変化を調べる
最初の実験で、変態が進むにつれて肺が発達することがわかったので、肺の発達に伴って水中の酸素量は徐々に減少していくのではないかという仮説を立て、溶存酸素量の計測を行うことにしました。鰓があるうちは水中に溶けている酸素を吸っているため溶存酸素量が減っていきますが、変態後は肺呼吸になるので、水中の酸素がほとんど減らないと思われるからです。
注射法と浸漬法を用いて変態させる個体を1匹ずつ用意してそれぞれを密閉した水槽に入れ、その溶存酸素量の推移を10分ごとに記録し、それを60分計測するという実験を毎日行いました。
その結果、浸漬法で変態した個体のグラフは7日目を境に変化量が急激に減少しました。また、注射法を試みた個体は変態しませんでした。
原因としては、7日目に溶存酸素計の電池交換をしたことが考えられます。また、アホロートルが水槽内で動き回っていて、数値が変動していたことから、今回の実験では溶存酸素の変化量を正確に測定できなかった可能性もあります。
そこで、アホロートルが動き回るのを防ぐために、ペットボトルに穴をあけた小さな容器を使って、変態実験中の個体A、Bの2匹で実験を行いました。
こちらがその測定値で、「肺の発達によって溶存酸素の変化量は徐々に減少していく」という予想と、異なる結果になりました。これは、アホロートルが狭い容器内でも動き回っていたため、あるいは、仮説自体が間違っていたためと考えられます。
変態後の再生能力は大きく低下する
アホロートルが変態する前と後で、幹細胞に変化があれば、再生能力に差が出るのではないかと考え、再生実験を行いました。
変態していない個体Cと変態した個体Dの、それぞれの左前脚をカミソリで切断しました。5週間後の状態がこちらです。
変態していない個体Cでは、切断から2週間後には指の再生が確認されました。一方、変態した個体Dでは、19週間後にも指の再生は確認されず、むき出しだった骨が盛り上がった皮膚や肉片で覆われるのみでした。
このことから、幼生のアホロートルには再生能力があるものの、変態すると再生能力が衰えるのではないかと考えられました。
続いて変態した個体の、切断箇所が再生する様子を観察しました。変態した個体EとFを用意して、ジエチルエーテルで麻酔をかけました。
その後、EとFそれぞれの左前脚をカミソリで切断し、切断箇所が再生していく様子を経過観察しました。
個体Eは切断から17日後に死亡しましたが、指の再生は確認できませんでした。個体Fは切断から43日後に死亡した際に骨の再生を確認しました。
骨が伸びていることから、骨芽細胞の再生能力はあるものの、筋肉の再生能力が衰えていることがわかりました。
他の部位での再生能力や、変態後の再生速度について長期の観察を行っていく
今回、チロキシンを使ってアホロートルを変態させ、浸漬法によるアホロートルの変態で、生体の長期飼育に成功しました。さらに、変態前後の再生能力について比較し、変態後は再生能力がかなり低くなってしまうことを検証しました。
今後は前脚だけでなく、他の部位での再生能力についても追究し、変態後の再生速度も含め、より長期の観察を行っていきたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
学校の先生がアホロートルを持ってきてくださったことがきっかけでした。アホロートルは再生能力の高い生き物として有名で、また、自然には変態しないことで知られています。私たちは、この変態と再生能力の関連性に興味を持ち、調べることにしました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2016年4月からです。1日1時間程度毎日活動しています。
■今回の研究で苦労したことは?
溶存酸素量の測定です。アホロートルが測定中の容器内で動いてしまい、正確な値が測定できなかったからです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
1回目の実験では変態したアホロートルでの脚の再生は確認できませんでしたが、2回目では骨の再生が確認できた点です。この再生はアホロートル特有のものかどうかは明確ではありませんが、さらに研究を深堀りしたいと思うような結果でした。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「keeping Axolotls」(2009)Linda Adkins (Interpet Publishing)
・「Salamander In Regeneration Research Methods and Protocols」(2015) Anoop Kumar,Andras Simon (Humana Press)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
アホロートルの切断箇所を前脚以外にして、再生実験を行いたいと思っています。また、アホロートルの変態は大きさによって、できるかできないのか変わるのか、それとも生存期間によるものなのかを調べる実験に失敗していたので、再度挑戦したいです。また溶存酸素量の正確な測定にも、再チャレンジしたいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
アホロートルのえさやりや掃除です。
■総文祭に参加して
総文祭では、全国から集まった高校生のレベルの高さを痛感しました。生活している中で当たり前だと思っていることを当たり前で終わらせない姿勢の大切さを学びました。地域ごとに研究内容が異なるのも、地域色が感じられて、楽しめました。ありがとうございました!