2018信州総文祭

サルは右利き? 左利き?~手の使い方から餌付けの影響を大解明!

【ポスター/生物】大分県立大分舞鶴高校 科学部生物班

(2018年8月取材)

■部員数 21人(うち1年生6人・2年生8人・3年生7人)

■答えてくれた人 山口勝人くん(3年)、大嶋秀汰くん(3年)

 

高崎山ニホンザルの利き手に関する研究

サルの前肢の行動発達に、餌付けはどの程度影響しているのか

 

本校では、大分市の天然記念物である高崎山のニホンザルをテーマに、9年にわたって研究を続けています。高崎山自然動物園では、高崎山に生息している約1400頭のニホンザルに、コムギを1日8回(30分に1回)、切ったサツマイモを1日1回与えています。

 

コムギを拾うサルを観察すると、0歳の子ザルは片手でコムギを拾っているのに対し、大人のサルは両手を交互に使っていました。

 

餌付けされた高崎山のサルは、野性のサルには見られない行動を取ることがあり、高崎山のサルの前肢の使い方を調査することで、餌付けが前肢の行動発達に及ぼす影響があるのではないかと考え、研究を始めました。

 

高崎山のサルに関する1957年の先行研究では、左利き37%、右利き20%、両手使い43%と、報告されています。私たちは、まずサルの利き手を調べるため、コムギ、イモ、ピーナッツの3つの採餌行動およびグルーミング行動についての観察と、個体追跡調査を行いました。

 

細かいコムギを拾うときは両手を使う

サルが地面に撒かれた生のコムギをつまんで拾う際に、最初に出る手を10回調査し、側性係数(※)を用いて分析を行いました。

 

左右の手を同じ回数使うと0、右手だけを使うと100になる

 

 

結果は大人のサル、1歳児のサルともに側性係数が0に近いサルが多く、左右両方の手を、偏りなく使っていることがわかりました。

 

 

また、片手拾いと両手拾いの速度を比較したところ、両手拾いの方が速度が速く、さらに、成長とともに拾う速度が速くなっていることがわかりました。

 

 

転がり落ちるイモを拾うときは両手を使う

 

高崎山ではリヤカーでサルに餌を与え、サルは競ってイモを拾っていきます。そこで、リヤカーにビデオカメラを取り付けて、映像から1本目のイモを拾う手を確認しました。また、落ちているイモを拾うという簡単な行動と、リヤカーから転がり落ちるイモを拾うという複雑な行動を比較しました。

 

その結果、落ちているイモを拾うときのように拾いやすいときは、利き手を使うサルが多いことがわかりました。

 

また、リヤカーから落ちてくるイモを仲間と争ってすばやく拾うときは、使う手に偏りはなく、状況に合わせて両手を使用していました。

 

 

ピーナッツを飛び上がって取るときは「利き手」を使う

地面から160cmのところにピーナッツを置き、サルが飛び上がって取るとき使っている手の左右を調べました。

 


 

高く飛び上がってピーナッツを取ることができる7頭の雄ザルで試したところ、複数回行っても、みな同じ手で取る傾向が見られました。

 

 

グルーミングでは両手を使って効率アップ

グルーミングというのは、他のサルの毛づくろいをする行動で、相手の毛をかき分けて、シラミなどをつまみ取って食べます。

 

シラミをつまむ方の手を利き手と考えて、1頭につき10回の行動を記録しました。そして、側性係数を用いて、左右の手の使い分けを調べました。

 

 

その結果、左手を使うサルと右手を使うサルはほぼ同数になりました。

 

 

しかし、このデータからは、高崎山のサルは左右両方の手を使うのか、または右利きと左利きの割合が等しいのかわからなかったので、側性係数を用いてグルーミングにおける偏りを分析しました。

 

結果、大人のサルも、2~3歳児のサルも、側性係数は0に近く、左右の偏りが見られないことがわかりました。

 

 

さらに私たちが観察するなかで、サルは相手の毛並みに対応して使う手を変えているという行動が見られたので、毛をかき分ける手と毛並みの関係についても調査を行いました。

 

その結果、シラミをつまむとき、左右の手が交差しないように、毛並みの上流側の手で毛をかき分け、その反対の手でシラミをつまんでいました。

 

 

また、相手に近づくときの方向についても分析しました。相手に直線的に近づくことが多く、特に利き手側に回りこむような無駄な動きは見られませんでした。

 

 

サル同士の競争が必要な場合は、利き手にこだわらない行動発達が見られた

 

ここまで群れ全体で見られた現象が、各個体でも見られることを検証するために、1個体あたり2人の調査員をつけ、9個体の追跡調査を行いました。

 

結果は、群れ全体と同様、イモ拾いでは利き手を使い、コムギ拾い行動、グルーミング行動では左右両方の手を同じように使うということがわかりました。

 

一連の結果を考察します。

 

コムギ拾いでは、他者に負けないよう、素早く多くの餌を拾う必要性から、両方の手を同様に使って食べるという行動発達が起きたと考えられます。また、落ちているイモを拾う行動は、その拾いやすさから利き手を使って食べますが、リヤカーから落ちてくるイモを競って食べる場合は、両手を器用に使っています。これもやはり、他者との競争に勝つための行動発達と思われます。

 

跳躍が必要なピーナッツを取ることは、限られた雄だけができる行動なので、利き手を使うのではないかと考えられます。

 

相手と接触するグルーミングでは、効率的に行動できるように利き手と反対側の手も機能が発達し、どちらも使うようになったと考えます。この傾向は、個体追跡調査からもわかることと言えます。

 

ニホンザルの前肢は、ヒトの手とよく似ています。今後は、餌付けされたサルの前肢の行動発達を解明し、人が利き手を使う理由や、生活様式の変化による霊長類の行動発達を調べていきたいと考えています。

 

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり3時間で、約1年間かかりました。調査は、週に1~2回高崎山へ行っています。ニホンザルの研究は、先輩たちから引き継いで9年目になりますが、毎年研究テーマは変わっています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

サルの個体識別です。特定のサルを追跡調査するのですが、数百頭のサルの中から目的のサルを見つけ出し、見失わずに何時間も調査するのは苦労しました。また、年齢の判定についても、できるようになるまで、とても苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

いくつか調査を行っていますが、どの調査も予備観察から始まって、実際に本調査をするまで、みんなで話し合って、工夫をしています。利き手の判定に側性係数を応用したところや、サルの俊敏な動作を調査するために、イモ撒きリヤカーにビデオカメラをセットし、動いているサルを録画したところなどです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「高崎山のサル」(1973)伊谷純一郎(講談社学術文庫)

・「ニホンザルのパースナリティー」(1957)伊谷純一郎.『遺伝』11:1;29-33.

・「On the Hardness of Japanese Monkeys」(1957)伊谷純一郎『Primates』10, 41-46

・「左対右 きき手大研究」(1989)八田武志(講談社)

・「右利き・左利きの科学」(1989)前原勝矢(講談社)

・「高崎山ニホンザル群におけるグルーミングの役割」大分舞鶴高校科学部生物班.

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

現在、科学部生物班の2年生が違う研究テーマでニホンザルの研究をしています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

毎日放課後の2時間、生物の実験をしたり、飼育動物の世話をしたりしています。今年度は、2年生がニホンザルの研究とダンゴムシの研究を、1年生がハエトリグモの研究をしています。4月から10月まではグループ研究ですが、11月から3月までは個人研究をしています。1人1テーマで研究して、部内の研究発表会もしています。

 

■総文祭に参加して

 

初めての総文で、全国大会なので、かなり緊張しました。たくさんの人に向けて発表できたこともうれしかったのですが、発表をやっていく中で、自分でもプレゼンがだんだん上手くなっている気がして、自信もつきました。充実した3日間でした。

 

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