(2018年8月取材)
■部員数 9人(うち1年生2人・2年生6人・3年生1人)
■答えてくれた人 西嶋龍太郎くん(3年)
タンパク質の摂取量が多いほど発育が早い
アフリカツメガエルはアフリカ中南部原産で、生涯を通して水棲のカエルです。後肢に爪があることからツメガエルと呼ばれるようになりました。
日本の一部地域で定着が確認されており、実際に養殖鯉の小魚に対する食害が生じていることや、生態系に影響を及ぼすおそれがあることから、総合対策外来種に指定されています。
そのアフリカツメガエルの幼生時期の食性を明らかにするために、研究を行うことにしました。
幼生に与える餌のタンパク質の割合を変えると、発育に差が出るのではないかと予想し、タンパク質が少ない餌を与えた群をA群、多い群をB群として、2017年5月29日~9月19日までの116日間飼育しました。その間は、個体数の変動や各個体の肢発生の有無を毎日調べ、体長や体の幅に関しては週1回測定しました。
その結果、餌のタンパク質が多いB群の生存率が高く(図1)、早く肢を生やし発育が良いことがわかりました(図2)。
図1 個体数の推移
図2 肢の生えた個体数の推移
消化管の発達は、タンパク質の摂取量による大きな違いはない
また、消化管などの内部構造にも違いが出るのではないかと、腸の長さと腸の断面を調べました。
幼生が成体になるまでを、発生段階I:無肢、II:肢出現、III:尾消失中、IV:尾消失完了の4段階に分けて考えました(図3)。
両群ともに長さは発生段階IIまで伸長し、IVになると短くなっていました(図4)。
腸の断面から、腸の内壁の構造は、IIまでは比較的平坦な構造をしていましたが、IVではひだ状の構造が見られました(図5)。発生段階IIIは期間が短くサンプルを得ることができませんでした。しかし、文献を調べたところ、IIIの時期に腸の再構築をしていることがわかりました(Hasebe, 2015)。
図 3 幼生の発生段階の分類
図 4 体長と腸の長さ
図 5 A群(上段)とB群(下段)の腸内壁の様子(左:I期、真中:II期、右:III期)
アフリカツメガエルはどのようにして餌をとっているのか
共食いの発生と死骸の捕食
次は、どのようにして捕食しているのかとういうことに着目し、先ほどの実験中に見つかった死骸がどのような状態だったかを調べました。
死んだ個体は38個体で、そのうち9個体の死体が消失していました。残りの29個体は死体として残っていましたが、中には腹膜(内臓を覆っている銀色の膜)が破け、腸が出ているなどの損傷を受けていた死体もあったことから、共食い(カニバリズム)が起こった、あるいは、死骸を食べていたと考えられます。
肢の生えた個体が、肢の発達が未熟な個体を食べている
続いて、ビデオカメラを使って捕食の様子をモニタリングしました。発生段階が同じ組み合わせや発生段階が異なる組み合わせを計10群作り、観察しました。
捕食行動を起こしていたのは、IV同士(図6右)、IとIII、IとIV(図6左)を組み合わせたときで、捕食者はIIIとIVでした。また、発生段階IIIで捕食行動を起こしていたのは、肘が形成された個体のみでした。
図 6 捕食の様子
生まれた日が同じでも、発育の早さには大きな違いがある
はじめに行った実験で、個体群の中に発育に大きな差があるように思われたので、孵化92日後の個体群1と孵化130日後の個体群2を用意し、全ての個体について頭部から腹部末端までの長さと頭部幅を測定し、ばらつきを見ました。その結果、個体群1は発生段階IとIIを含み、ばらつきが大きかったことから、同じ日に同じ親から生まれても発育には大きな差があることがわかりました(図7)。
図 7 個体群1の頭部幅と頭部から腹部までのばらつき
肘の形成前は頭部幅が広く、肘の形成に伴って頭部幅は狭くなっていく
個体群2は発生段階がI~IVの個体が存在しており、変態の有無も含め、発育の程度に大きな差が見られました(図8)。さらに、個体群2を、肘の形成前2-A、形成後2-Bの2群に分け、T検定にかけたところ、頭部幅のP値は5.29×10-10、頭部から腹部末端までの長さのP値は6.85×10-7となり、有意差があることがわかりました。特に2つの群の頭部幅の平均値を比較すると37mmも差が有り、肘の形成前と後で頭部幅に大きな差があることがわかりました。このことから、肘の形成と頭部幅の減少が同時期に起こっていると考えられます(図9)。
図 8 個体群2の頭部幅と頭部から腹部までのばらつき
図 9 頭部正面の様子(左からⅡ、肘無Ⅲ、肘有Ⅲ、Ⅳ)
頭部の端には目があることから、頭部幅の減少により視界の変化が起こっていると考えられ、視界の変化と肘の形成が捕食行動に必要な要素であると思われます。
今回の研究から、アフリカツメガエル幼生の自然環境下での食性は、発生段階I~II、IIIの肘形成前までの個体は、口に入る大きさの藻類や微生物、あるいは動物の死骸などをつついて食べていると考えられ、雑食であると思われます。
IIIの肘形成以降は、口に入る大きさの動物を積極的に捕食していると考えられ、動物食であると思われます。カニバリズムに関しては、個体群の中で発育の早い個体が遅い個体を襲う形で起こっていることがわかりました。
■研究を始めた理由・経緯は?
1年生のときに、アフリカツメガエルの幼生を飼育していて、幼生の数が減っていることに気づき、さらに、死骸の様子を観察すると、損傷を受けていることに気づきました。文献で調べても、幼生は植物食性であり、共食いをするという記載はありませんでした。そこで、幼生は動物性の餌を好み、共食いをするのではないかと考え、研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
高校1年のときは、毎日1日あたり1時間、2年では毎日1日あたり2時間半、3年になってからは毎日1日あたり1時間半ほどです。
■今回の研究で苦労したことは?
毎日行った個体数の記録や体長や頭部幅の測定を1個体ずつ丁寧に行い、膨大な数のデータを集めたことです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
2年と3カ月を費やして集めたデータ量に注目していただきたいです。
腸内壁の組織プレパラートの作成や捕食している映像の撮影には苦労しました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「外来のカエル繁殖 生態系に影響大」Yahoo!ニュース(紀伊民報)
・「田辺で総合対策外来種のアフリカツメガエル調査 生物多様性への影響懸念」(産経ニュース)
・「侵入生物データベース アフリカツメガエル」(国立環境研究所)
・「実験動物紹介 アフリカツメガエル」長谷部孝(2015) 比較内分泌学.Vol.41;156
・「両棲類爬虫類の飼育について」深田祝(1970) 爬虫両棲類学雑誌V.3(4); No.4
・「アフリカツメガエル」弓削昌弘(2012)、研究者が教える動物飼育 第3巻.
・「T.TEST関数/TTEST関数でt検定を行う」羽山博、吉川明広
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今後も大学などに進学して研究を続けていきたいです。特に、劇的な変化が起こる発生段階Ⅲの個体について、視界の変化や肘の形成と腸の再構築の時期などの関係性を調査していきたいです。その他、孵化の条件などにも興味があります。
■ふだんの活動では何をしていますか?
週5回アフリカツメガエルの水替えや給餌を行っています。大きいものから小さいものまで色々飼育しています。部活では、文化祭で葉脈標本作りや発光細菌の培養をしたり、透明骨格標本の作製など様々な事を行っており、校内のSSH発表会で発表したり、校外では、学会などの場で発表したりしています。子ども向けの展示なども文化祭などで行っています。
■総文祭に参加して
他校の生徒さんたちや先生方に研究を発表し、興味を持ってもらえることが嬉しく、話し合うことで自分とは違った意見や考え方を知ることができ、勉強になりました。自分の後輩にも同じような体験をしてほしいと思いました。