2018信州総文祭

太陽光電池のデザインを一新 ~降り注ぐあらゆる光を効率よく使って北陸の大地を照らせ!

【ポスター/物理】石川県立金沢泉丘高校 物理部

(2018年8月取材)

左から 長谷川愛さん(2年)、谷口千尋さん(2年)
左から 長谷川愛さん(2年)、谷口千尋さん(2年)

■部員数 28人(うち1年生20人・2年生8人)

■答えてくれた人 谷口千尋さん(2年)、長谷川愛さん(2年)

 

散乱光を最大限利用する針葉樹型太陽電池の開発〜太陽光発電を新たな次元へ〜

従来のパネル型太陽電池は日照時間が少ない場所には向いていない

 

私たちの学校がある石川県金沢市は、晴れの日が非常に少なく、年間を通じて日照時間が少ないところです。そのため、直射光を受けるように設計されている、現在のパネル型太陽電池では、太陽光を効率的に使うことができません。

 

そこで、あらゆる方向から来る光「散乱光」を最大限利用した、新しいタイプの太陽光電池をデザインしようと考えました。効率的に散乱光を受けている、針葉樹の葉の形を再現した「針葉樹型太陽電池」を作るため、研究を進めました。

 

まず、以下2つの仮説を証明するための実験を行いました。

 

1. レイリー散乱(※1)が起こっているため、青い空から来る散乱光は、雨雲や白い雲を通してくる光より、青色LEDに生じる開放電圧が大きい。

 

2. 青い空からの散乱光を、赤色LEDと赤外線LEDに当てて発電する。

 

 

(※1)光の波長より、小さいサイズの粒子による光の散乱。散乱が起きることで空が青く見える。

 

LEDを用いて散乱光を分析する1~色による違い

 

LEDは特定の色に当たると電圧が生じます。このLEDをセンサーに用いて、青い空と白い雲(層積雲)といった、「色」による散乱光の量の違いを、確かめることにしました。横軸が時間、縦軸が電圧です。

 

すると、予想に反して、快晴のときよりも白い雲のあるときのほうが、明らかに散乱光の量が多いことがわかりました。

 

 

その原因として考えられるのは、以下の点です。

1. 青空に見られるレイリー散乱より、白い層積雲で起こるミー散乱(※2)の方が優位だった。

2. 白い雲の中で水蒸気や塵によるミー散乱が、予想以上に起きていた。

 

 (※2)光の波長程度以上の大きさの、球形の粒子による光の散乱現象。白い雲の中で起こる。

 

以上のことから、散乱光をうまく利用すれば、曇りの日や日陰など、今までの太陽光発電では不利だと考えられていた条件でも、発電ができる可能性が出てきました。

 

LEDを用いて散乱光を分析する2~角度による違い

 

青空をよく見てみると、真上方向の空は青みが強く、地平線に近いほうの空は白みが強いことがわかります。上記の、白みが強い方の散乱光が多いという実験結果を踏まえ、入射角(光の入ってくる角度)による散乱光の量を調べました。

 

その結果、私たちが予想した通り、白みが強い空の方が青みの強い空よりも、開放電圧が大きいことがわかりました。

 

 

針葉樹の葉を模した太陽光電池のデザインを開発

 

以上の実験でわかったことは次の二つです。

1. 青空からよりも白い雲を通した太陽光の方が、散乱光が多い。

2. 太陽光の入斜角度が大きいほうが、散乱光が多い。

 

これを受けて、以下の条件をクリアする太陽光電池のデザインを検討しました。

1. 直接光・散乱光・反射光など、あらゆる光を同時に利用する。

2. 太陽電池に降り注ぐ様々な光を、無駄なく利用する。

 

ここで、提案されたのが「針葉樹型の太陽光電池」です。

 

針葉樹は冷帯に生えています。冷帯というのは降水量も雲も多い地域ですが、それでも針葉樹はとても大きく成長します。なぜかというと、針葉樹の葉が効率よく光を捉えているからです。つまり、針葉樹の葉は散乱光をうまく拾って、光合成をしているのではないかと考えました。

 

針葉樹が効率的に光合成をするのは、針のような葉の形状がポイントとなっています。そこで球状太陽光電池を針状につないだ太陽光電池を提案します。

 

すでに活用されている球状太陽光電池スフェラーRの大きさは直径1〜2mm程度です。それを30個くらいつないで7cmくらいの長さにし、それをさらに組み合わせて針葉樹の形にしたものを想定しています。

 

針葉樹型太陽光電池の実験1

 

製品化されている6球直列太陽電池(全長約1.76cm)のものをスフェラーパワー社から提供していただき、針葉樹型太陽電池の研究を行いました。

 

まず、抵抗値を変化させながら電流と電圧の値を測定しました。すると、電流と電圧についてはパネル型太陽電池と似た特性を示しました。

 

 

また、太陽が動くことをイメージして角度依存性についても調べました。受光面積の理論値と電力の測定値の間に関連性が見られました。光の当たる角度が180度を超えると、パネル型ではまったく受光できなくなりますが、6球直列型の場合は反射した光が裏から当たっても受光でき、角度によってゼロになることはありません。

 

 

周りに白い紙を貼って散乱光の多い状態にすると、暗幕を貼ったときと比べて、発電できる最大電力は6球直列型が1.65倍、パネル型が1.27倍で、6球直列型太陽電池が散乱光に強いことがわかりました。

 

 

ここまでは6球直列型太陽電池1本の実験ですが、次に4本を使って、どのような配置にしたらよいかの実験をしました。

 

90度ずつずらして配置したものと、黄金角(137.5度)ずつずらして配置したものを比較すると、黄金角で配置したもののほうが安定して受光できていることがわかりました。黄金角は針葉樹の配置に近い角度です。

 

これから、6球直列型電池を真横に配置するのではなく斜めに配置したり、実験室だけではなく、屋外でデータを取るなど実験を続けたいと思います。

 

 

今後の展望

 

もし、この針葉樹型太陽電池が実現すれば、私たちの住む北陸だけでなく北海道などパネル型太陽光電池が向いていない地域での、再生可能エネルギーの普及につながると考えています。

これからは、針葉樹型太陽電池の製作や性能評価を進め、その優位性を、数値を用いて裏付けたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

ほかのメンバーが取り組んできた研究内容が面白く、興味を惹かれて引き継ぎました(谷口)。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2017年から1年程度です。追加の実験部分は、1日あたり4時間で3週間ほど行いました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

・真夏に行った、暗室での実験や屋外での実験に苦労しました(長谷川)。

・実験で、ゆがみが小さくなるように太陽電池をセットしたり、自分の立ち位置の違いで実験結果が変わってしまったりと、細かいところまで注意を払いながら、何回も実験をするのが大変でした(谷口)。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

・針葉樹型太陽電池というアイディアそのものです。なぜ針葉樹型太陽電池なのかということを考えてほしいと思います(長谷川)。

・黄金角をもちいて太陽電池を配置すると90度ずつずらして配置したときより角度依存が小さくなることを、実際の植物から学んだ点です(谷口)。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

※[6][7][9]は2018年5月1日現在

[1]「Plasticity of shoot and needle morphology and photosynthesis of two Picea species with different site preferences in northern Japan」.Hiroaki Ishii,Satoshi Kitaoka,Taiji Fujisaki,Yutaka Maruyama and Takayoshi Koike (Tree Physiology 27, 1595–1605 ,2007)

[2]「Measurement of Three-Dimensional Morphology and Surface Area of Conifer Shoots and Roots using the Desktop Scanner and Silhouette Image Analysis.」

Ishii Hiroaki T.and Dannoura Masako (Hokkaido University, 2004)

[3]「A Better Way to Construct the Sunflower Head」Helmut Vogel (1978)

[4]「三次元モジュールを用いた太陽発電の影による出力低下」 須藤利文,鈴木聖治,谷内利明 (日本太陽エネルギー学会誌2011) 

[5]「フィボナッチ数列を基にした3次元太陽光発電モジュール構成法」谷内利明 (科学研究費助成事業研究成果報告書2013)

[6]「スフェラーパワー株式会社」http://sphelarpower.jp/

[7]「バイオミメティクス研究会」http://main.spsj.or.jp/c12/gyoji/biomimetics.php

[8]「理科年表平成29年度」丸善出版株式会社

[9]「International Cloud Atlas」https://cloudatlas.wmo.int/home.html 

 

  

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

・続けていきます。最終目標は針葉樹型太陽光電池を実用化することです(長谷川)。

・喫緊の目標は、太陽光での実測、理論でのベストな配置の模索、その配置の実用性を実測値で検証することです。実際に針葉樹型太陽電池を作成し、様々な条件で発電量の変化を調べたいです(谷口)。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

・物理チャレンジへの応募をしています(長谷川)。

・物理について学ぶことや先生の面白いお話を聞くこと。また、物理チャレンジに応募したり、科学の祭典(小学生向け科学イベント)に出たりしています(谷口)。

 

■総文祭に参加して

 

・最近は科学を含め、多くの学問で「実用性」が重視されます。しかし、私は今までどうしても自分が「実用性」のためだけに研究しているとは思えませんでした。そんな中、参加した今回の総文でひとつの確信を得ました。それは、「私たちは皆、好奇心に突き動かされている」ということです。私が総文で出会った高校生たちは、自分の研究に対しても、人の研究に対しても好奇心に満ち溢れていました。その熱心な姿から、動機は何であれ、「実用性」だけでなく「知る」ために研究をしていることが、ひしひしと感じられました。そしてまた、考えると、私自身もそうであると気付かされました。このことに気付けたことは、今後の人生において貴重な経験となりました。このことを忘れずに、研究をしていきたいと思います(長谷川)。

 

・研究に取り組んでいる高校生と出会え、良い刺激になりました。自分たちの研究をもっと進めたいと思いました。自分の伝え方を改善して、もっとたくさんの人にこの研究を知ってほしいです(谷口)。

 

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