(2018年8月取材)
■部員数 19人(うち1年生8人・2年生5人・3年生6人)
■答えてくれた人 五十嵐創代さん、浅井彩音さん、和田絢瑛さん(全員3年)
アサガオの美しさを二つの観点からデータ化
昔、千利休が茶室にたった一輪のアサガオの花を飾り、豊臣秀吉がそれを見て感嘆したという話があります。私たちはそれを聞いて、すぐにしぼんでしまうアサガオの花を、切り花で美しく保たせたいと思い、この研究を始めました。
しかし、花の美しさの感じ方は人によって違います。そこで私たちは、アサガオの花の「大きさ」と「色」の2点に着目して数値化・データ化を行いました。
花の寿命を支配する物質を抑制する
アサガオの花の寿命は「プログラム細胞死(Programmed cell death: PCD)」というものに支配されています。このPCDは、細胞の液胞を破壊することにより、花の色にも変化をもたらします。
PCDは、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミド(※)の添加や、一定期間低温にさらす低温処理によって抑制されることがわかっています。そのため、私たちもシクロヘキシミド添加実験と、低温処理の二種類の実験を行うことにしました。実験では、花の状態にどのような変化があるかを調べるため、カメラのタイムプラス機能を用いて、「大きさ」と「色」を数値化しました。
※ シクロヘキシミドは、昔は農薬に含まれていたようですが、毒性があり、現在は一般的には手に入れられません。しかし実験等ではよく用いられます。
プログラム細胞死を抑制するシクロヘキシミドを添加すると…
アサガオの花を切り取り、シクロヘキシミドを添加して15分間隔で撮影し、その変化を記録しました。アサガオの大きさには個体差があるため、開花時の花の半径を100として、どのくらいしぼんだかを割合で算出しました。グラフがその結果です。
常温のアサガオは9時間後にしぼんだのに対し、シクロヘキシミドを添加したアサガオは29時間後にしぼんだということで、大幅に花の大きさが保たれているといえます。
色について調べたのが下図の実験です。色の変化は、paint.netというソフトを使って、撮影とした花の写真の色を赤・青・緑の要素について数値化しました。
3つの丸は、測定開始から0時間後、5時間後、10時間後の色のサンプルで、下の三角形はpaint.netで数値化した花の色を、赤・青・緑の要素についてグラフ化したものです。
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この三角形の形状からわかるように、シクロヘキシミドを添加しなかったアサガオは、青と緑の数値が減少したのに対して、シクロヘキシミドを添加したアサガオの青と緑の数値はほとんど変わりませんでした。
しかし、シクロヘキシミドを添加したアサガオは、赤の数値が大幅に増加してしまいました。これは細胞液が酸性になったために、アントシアニン色素がより赤くなったことが原因です。シクロヘキシミドは中性なので、シクロヘキシミドそのものの影響ではないことがわかりました。
低温処理を行うと…
次に低温処理の影響を調べました。外気温で開花させたアサガオを、20℃または10℃の低温状態に移して比較しました。グラフの横軸が経過時間、縦軸がもとの花に対する大きさの割合です。
このグラフからわかるように、10℃や20℃に低温処理したアサガオは、常温のアサガオより長く花の大きさを保っていました。しかし,今回は常温の個体については温度管理が一定でなかったことや、採取以前の開花したタイミングなどについては不安定であったことが原因で,予想に反して低温処理よりも常温の個体のものが大きさを保てている場合がありました。
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さらに10℃に低温処理したアサガオの色の三要素のグラフの三角形はほとんど形が変わっていないために、低温処理はアサガオの花の色の維持に有効であることがわかりました。
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「低温処理」でアサガオの花を美しく保つことができる
花の大きさを数値化したデータから、シクロヘキシミドの添加は花の大きさを長く保つのに有効だということが明らかになりましたが、一方で、花の色については赤の数値が増加し、色を変化させるタンパク質がすでに作られている可能性があるため、色を保たせることに上手く働かなかったことがわかりました。
低温処理については、「大きさ」「色」ともに維持に有効であるとわかりました。したがって、低温処理は花の「美しさ」を保つことに有効だとわかりました。
色の変化を防ぐために
私たちの実験では、シクロヘキシミドを添加したのが開花後であったため、花の中に色を変化させるタンパク質がすでにできており、色の変化が防げなかったのではないかと考えました。花が咲く前にシクロヘキシミドを添加すれば色の変化を防げるのではないかと考えており、追加実験を行いたいと思っています。
■研究を始めた理由・経緯は?
様々な研究テーマを考えていて、その1つがこのテーマでした。何にしようか決めかねていたところ、生物室の隣の弓道部のアサガオの緑のカーテンに目をやり、散歩がてらアサガオの見に行き、「そういえばアサガオって1日でしぼんでしまうよな」と思ったことがきっかけであり、決め手だったと記憶しています。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
実験自体は1日1回1~2時間程度でしたが、今まで論文やポスターをまともに作ったことのあるメンバーがおらず、様々な先生や部員に教えてもらったりして、週10時間で2、3か月というパターンを3回程繰り返したと思います。その製作の方が、断然時間がかかりました。
■今回の研究で苦労したことは?
研究対象がアサガオだったので、朝早くに実験を行わなければならなかったこと、また膨大な量のアサガオを撮影した画像を1枚1枚解析したことです。さらにアサガオは季節の花なので、冬には実験ができないので、保温器で育てようとしましたが、上手くいきませんでした。ポスターや論文の作成は、細かいところまで何度も見直しをしたので大変でした。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
3つの球で表されているアサガオの花の色のサンプルです。実際の色からPCを用いてデータ化し、平均し、色の変化を視覚化することができました。PCのイラストアプリを利用するのは良い着眼点だったと思います。また実際の写真をポスターに挿入したことです。やはりグラフだけでは変化が判りにくいので、一定の効果があったと思います。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「花のふしぎ100」サイエンス・アイ新書 田中修(SBクリエイティブ)
生物室にあったこの本に記載があった、カキツバタの長持ちさせる方法についての研究を参考にしました。
というサイトでのPCDとアサガオの寿命についての研究を主に参考にしました。
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今年私たち全員が3年生なので、私たち自身がやることはないと思いますが、後輩たちが、シクロヘキシミドと色に関与するタンパク質の関係性や、気温や水温、湿度との関係はどうか、というテーマを取り入れて続行してくれたら至福ですし、自分たちで続けるとしたら、その点について研究してみたいです。
今回の研究から、抽象的なものを具体的数値を媒介に、論理的かつ感覚的(今回は視覚)に伝えたり、分析したりすることはとても面白いと感じたので、同様なプロセスを踏めるような抽象的テーマに科学で挑みたいです。
■ふだんの活動では何をしていますか
生物部で飼育している生物の世話をしています。並行して行った研究はありません。また、後輩に研究の紹介やアドバイスをしています。
■総文祭に参加して
様々な研究をしている高校生と多角的に自身たちのポスターや研究について考えたり意見交換できたりして、充実した時間を過ごすことができて良かったです。とても貴重な体験ができました。楽しかったです。
※長岡高校の発表は、ポスター部門の文部科学大臣賞を受賞しました。