(2018年8月取材)
■部員数 5人(うち1年生1人・2年生1人・3年生3人)
■答えてくれた人 伊藤由快くん
生物が残した細胞に含まれるDNAから生息の痕跡を探す
環境DNA調査という生物の生息調査の方法があります。この方法は生物がウロコや排泄物などの形で環境中に排出する細胞等に含まれるDNAを、その生物が生息する環境の水を採集して手に入れ、DNAの有無によって、対象生物の生息の有無を確認する方法です。DNAは生物の設計図ともいわれていて、その生物に特異的な部分があれば一対一の対応をさせることができます。私たちはまだ環境DNA調査が行われていなかった在来種で絶滅危惧IB類のホトケドジョウ(Lefua echigonia)と、外来種のヒメドジョウ(Lefua costata)という2種類のドジョウに注目して、研究を行いました。
プライマーの作成に成功!
実験は生息地の水を採取してろ過し、PCR法を用いてDNAを増幅します。そして、電気泳動法を用いてDNAを確認する、という方法で行いました。
まず、Excelを用いて、NCBIのデータベースを使って、ホトケドジョウとヒメドジョウのそれぞれについて、種に固有の遺伝子配列として基準になるプライマーを自分たちで作成しました。
また、その有効性を確認するため、実際にホトケドジョウとヒメドジョウのそれぞれが入った水槽と尾を検出できること、およびそれらが含まれない環境では反応しないことを確かめました。
実際の採水調査では結果が得られないため、蛍光が最も強く見られる方法を用いる
しかし、実際の採水調査では環境DNAが検出できませんでした。これは、環境水中のDNAが非常に微量であるためだと考えられます。そこで、DNA回収効率を向上させるべく、以下の方法を考えて実験を行いました。
1採取水を直接電気泳動し、DNAを濃縮する
2陽電化膜をほどこしたろ過によりDNAとミトコンドリアを多く回収する
3採取水を減圧環境下に置き、水を低温で沸騰させることで水分を除去する
4 Boiling method(サンプルを常圧環境下で沸騰させる)を利用して水分を除去する
しかし、1から4のいずれもうまくいきませんでした。
そこで、実験方法自体の評価を行い、DNAが存在することによる蛍光がもっとも強く見られる手法を調べました。その結果、フェノール・クロロホルム抽出が最も簡便で、かつ蛍光も強く見えることがわかり、この方法を利用することにしました。
ヒメドジョウの生息域は拡大していた
そして実際にヒメドジョウの生息調査を行いました。
ヒメドジョウは、山梨県のみどり湖に生息しています。この下流にはホトケドジョウの生息する潤井川があり、ヒメドジョウが川を下ってしまうとホトケドジョウの生息地を奪ってしまうのではないかという懸念があります。
まずみどり湖を調べてみると、実際にヒメドジョウの環境DNAが検出されました。
次に、その生息域が拡大しているのかを調べるため、下流でドジョウの捕獲調査を行いました。ヒメドジョウによく似たドジョウが捕獲され、DNAを調べてみると、ヒメドジョウと同じ配列を持つDNA断片が見られました。
よって、このドジョウがヒメドジョウであることがわかり、みどり湖の外へ生息域を拡大していることが観察できました。
20万年前の山体崩壊が招いたホトケドジョウの生息域
次に、ホトケドジョウの生息調査を行いました。ホトケドジョウは、地の図の黄色い部分では生息が確認されていますが、青い部分(八ヶ岳南麓湧水群)では確認されていません。
私たちは、この周囲にホトケドジョウが生息していることから、この青い部分にもホトケドジョウが生息している可能性があると考えて、調査を行いました。しかし、調査の結果ホトケドジョウの環境DNAは確認できませんでした。
その理由として、この八ヶ岳周辺は、約20万年前に大規模な山体崩壊に巻き込まれており、生息していたとしても生息域が消滅してしまった可能性があります。
そこで、山体崩壊について文献を調べました。この図で見ると、八ヶ岳南麓は過去に完全に岩層流に覆われてしまっていることがわかり、ここにホトケドジョウが生息している可能性は低いと考えられます。
私たちは様々なDNA抽出方法を考えましたが、結局丁寧に全行程を行う方法がもっとも有効であることがわかりました。また、今回作成したプライマーは有効であることがわかり、今後の活動でも使用できると考えます。
そして、ヒメドジョウの生息域が拡大していることと、ホトケドジョウが八ヶ岳南麓に生息していない可能性が高いことが判明しました。今後は、生息域の調査をさらに進めるとともに、より効率のよいDNA抽出法の開発を目指していきたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
山梨県では絶滅危惧種ⅠB類に指定されているホトケドジョウの保護が行われています。また、水産技術センターは生息調査のためのチラシを出していました。このとき、もし環境DNA調査で生息地を調べることができればより簡単にこの生物を見つけられるのではないかと考えて実験を行いました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日約2時間で、約20か月ほどです。
■今回の研究で苦労したことは?
DNAはもちろん微量だと目には見えないので、そのDNAが間違って目的でないサンプルに混ざってしまうということがあります。私たちは、ブルーギルで予備実験を行っているときに、この間違いをしてしまい、水道水からブルーギルのDNAが検出されるというあり得ない事態になってしまいました。この間違い(混入)を直すのに3か月以上時間を使ってしまい、とても苦労しました。また、逆に対象の生物のDNAが全く検出されず、困ったこともあります。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
DNAを増幅するのには、プライマーという20塩基ほどの配列を持ったヌクレオチド鎖を作成しなければいけないのですが、これを自分たちで頑張ってExcelやNCBIを使って作成できたのはよかったと思っています。また、ホトケドジョウが八ヶ岳南麓には生息しない可能性を示せたのもよかったと思っています。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
龍谷大学の山中裕樹先生に、参考となる研究論文をいただきました。また、環境DNAは下記のサイトを主に参考にしました。先行研究は近畿地方でよく行われている様々な環境DNAに関する論文です。
・「環境DNA分析の野外調査への展開」山中裕樹他(日本生態学会誌66:601-611(2016))
・「生物情報・収集 提供システム いきものログ: ホトケドジョウ」
・ホトケドジョウの生息調査のためのチラシ: 水産技術センター忍野支所
■今回の研究は今後も続けていきますか?
私たちは3年生で、今年で卒業してしまうのでこの研究を続けるのは難しいと考えています。私個人としては、今回の研究の中で、DNAの化学的性質を調べるのがとても面白かったので、今後は化学系の研究をしたいと思っています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
韮崎高校自然科学部(生物研究部を含む)では、地域のサイエンスショーへの参加、山梨大学の実験研修への参加、地域の山の生態調査など様々な活動を行っています。また、バイオサミットやサイエンスキャッスルなどの高校生の理科研究発表会に多く参加しています。
■総文祭に参加して
総文祭は私たちの最後の研究発表会で、ほかの県の全国レベルの研究発表を聞くことができ本当に楽しかったです。交流会や巡検など、様々な行事も楽しむことができました。一生の思い出になる、とても貴重な体験ができたと思っています。後輩も参加したので、また来年も参加できるよう頑張ってほしいと思います。