(2018年8月取材)
■部員数
宮崎北高校 22人(うち1年生12人・2年生10人)
宮崎大宮高校 10人(うち1年生3人・2年生4人・3年生3人)
■答えてくれた人 井上実咲さん(宮崎北高校2年)、沼田友里杏さん(宮崎大宮高校2年)
私たちはチャコウラナメクジの重力走性と角度の関係について調べました。チャコウラナメクジは北海道と沖縄を除いた全国に生息する軟体動物で、ナメクジといえばこの種というくらい身近に生息しています。
実はチャコウラナメクジは1950年代以降に日本に入ってきた外来種で、1970年ごろまでに一気に広く分布するようになりました。
チャコウラナメクジは農作物を食害するほか、寄生虫を持っており感染による死亡例も見られるというやっかいな生き物です。私たちはこのチャコウラナメクジ防除を目的として、今回の実験を行いました。
実験で用いたチャコウラナメクジは、宮崎北高校の校舎に面した庭で捕獲しました。
チャコウラナメクジは重力走性を持つと言われています。重力走性とは、重力に応じて進行方向を決定する性質のことで、重力方向(下向き)に進む場合を「正の重力走性」と呼び、その逆を「負の重力走性」と呼びます。
まず、実験を行う前に、どのような走性を持つか調べるための測定時間の決定を行いました。
ラップ上に中心点を定め、ナメクジがそこから移動した軌跡をペンでなぞります。それに糸を重ね、長さを測定することで、チャコウラナメクジの移動速度を調べました。その結果、平面上の移動速度は平均9cm/分であることがわかりました。そこで、重力走性実験の測定時間は1分が適当であると考えました。
重力走性実験は、次のように行いました。
1. 昼と夜に分けて実験を行う。昼は明るさが300.0lux以上、夜は1.00lux以下と定めました(luxは明るさの単位)。
2.筒の中に、チャコウラナメクジを、頭を下向きにして入れる。
3.傾斜角度を0度、15度、30度、45度、60度、75度、90度の7通りに定め、1分間観察する。
4.はじめの頭の位置を0として移動距離を測定する。
5.上向きの移動をプラス、下向きの移動をマイナスとする。また、直線の移動距離のみを測定する。
昼は70個体、夜は35個体の平均を算出する。
その結果、昼と夜の重力走性と角度の関係は以下のグラフの通りになりました。
昼は、45度以上の傾斜で約8割の個体が負の重力走性を示しました。また、30度以上からは平均移動速度が5〜6cm/分に偏っています。夜は、30度以上の傾斜で約7割の個体が負の重力走性を示しました。また、昼に比べて移動速度にばらつきがありました。
この結果を統計的に解析したところ、昼は15度とその他の角度の間で平均速度に有意な差が見られました。また、夜は45度と60度、30度と60度の間にそれぞれ有意な差が見られました。
このことから、昼と夜のチャコウラナメクジの重力走性、角度の感受性には差があり、夜の方が角度によって平均移動速度に出る違いがよりはっきりと現れることがわかりました。
以上の実験から、チャコウラナメクジは昼は移動速度が角度によって大きく変化せず、45度付近から負の重力走性を示すことがわかりました。一方、夜は角度によって移動速度のばらつきが見られ、30度付近から負の重力走性が見られました。
これらから、チャコウラナメクジは負の重力走性を持ち、夜と昼でその影響が現れる角度が異なることがわかりました。また、チャコウラナメクジは比較的小さい角度変化も感じ取ることができると考えられます。
今回見られたチャコウラナメクジの動きの特徴から、薬剤を使わずにチャコウラナメクジから農作物を守る防除装置を作ることができるのではないかと期待しています。今後は、実際に防除装置を作って実験室や実験農園で防除率や捕獲率を確かめるとともに、この昼と夜との動きの違いが、明るさによるものなのか、チャコウラナメクジの体内時計によるものなのかについて、研究を深めていきたいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
・最初はカタツムリを研究しようとしましたが、カタツムリは刺激を与えると殻に入って出てこない ため、断念しました。そこに引退した3年生がナメクジの研究をしていたので、それを譲り受けました。(宮崎北高校 井上さん)
・前年度に、先輩方がチャコウラナメクジの研究を行っていたので興味を持ったからです。(宮崎大宮高校 沼野さん)
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
・1日あたり2時間で4か月です。(宮崎北高校 井上さん)
・1週間あたり17時間で、5か月です。(宮崎大宮高校 沼野さん)
■今回の研究で苦労したことは?
・ナメクジは粘液に集合性があるため、一度使った実験器具はすべて洗わないといけなかったことです。(宮崎北高校 井上さん)
・夜間にデータを取る必要があったので、学校に泊まり込んだことです。(宮崎大宮高校 沼野さん)
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
・工夫したところは実験器具です。ナメクジが立体的に移動するため、筒でなければならず、他にも洗いやすさやコストが低いものとした結果、自分たちでクリアファイルから筒を作りました。(宮崎北高校 井上さん)
・データ数をできるだけ多くとったことです。(宮崎大宮高校 沼野さん)
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
○「世界大百科事典」第2版(平凡社)より 『カタツムリの重力走性』
○「陸棲腹足類の概日歩行活動リズム」小笠原卓(東北大学医学研究科博士論文)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
・今後も研究は続けていこうと思います。現在考えているのは、光走性の研究で、先行研究がありますが、ナメクジがどの程度から光を感じるのかについて未だわかっていないので、調べてみたいと思います。(宮崎北高校 井上さん)
・昆虫の行動に関する研究に興味があります。(宮崎大宮高校 沼野さん)
■ふだんの活動では何をしていますか?
・ふだんはアイディアの出し合いなど、実験方法が決まるまで仮実験をしています。(宮崎北高校 井上さん)
・現在はトカゲとヤモリを飼育しています。(宮崎大宮高校 沼野さん)
■2つの高校が合同で発表でしたが、研究はどのように協力したのですか?
・平日に互いに研究を進めて、休日は土曜日を主に互いの進行具合を話し合いました。夜間のデータは、大宮高校にて協力して測定しました。(宮崎北高校 井上さん)
・学校間が離れているので私は実験ができたのは夏休みのみでした。データのまとめやプレゼン・ポスター作りは平日に各学校で行い、休日に集まって組み合わせるといった形をとりました。(宮崎大宮高校 沼野さん)
■総文祭に参加して
・どの研究もレベルが高く、県内の大会ではない質問もあり、新鮮味を感じました。また、それぞれの発表の仕方やポスターの活用などを見て、今後の研究の伝え方にも活かしていきたいと考えています。(宮崎北高校 井上さん)
・ふだんは交流できない他県の人と親睦を深めることができ、素晴らしい経験になりました。(宮崎大宮高校 沼野さん)