2018信州総文祭

初の国産グレープフルーツ「さがんルビー」の香りは、収穫時期によってどう変わる?

【ポスター/化学】佐賀県立唐津東高校 科学部

(2018年8月取材)

左から 吉松拓也くん(2年)、堀川真子さん(3年)、廣田小太郎くん(3年)、城谷昌季くん(2年)
左から 吉松拓也くん(2年)、堀川真子さん(3年)、廣田小太郎くん(3年)、城谷昌季くん(2年)

■部員数 35人(うち1年生3人・2年生16人・3年生16人)

■答えてくれた人 堀川真子さん(3年)

 

さがんルビー果皮の香気成分解析 ~収穫時期別果皮の分析と香りの調合~

水蒸気蒸留による抽出では、精油に香りは残るが香気成分は壊れてしまう

佐賀県では、初の国産グレープフルーツである「さがんルビー」が生産されています。

 

私たちはさがんルビーの、さわやかさと少しの甘さを感じさせる香りに注目しました。さがんルビーの果皮の香りのは、収穫時期によって大きく異なります。そこで、収穫時期別の果皮の精油成分を抽出して違いを分析し、その結果をもとに化合物を調合して、香りを再現しました。

 

前回の研究では、2015年9月から2016年4月までの8か月分のさがんルビーの果皮を、1か月分ずつ収穫時期別に水蒸気蒸留し、精油を得ました。しかし、水蒸気蒸留は1回の蒸留に数時間かかる上、ひと月分の果皮から1個のサンプルを得ることしかできません。また、加熱するために香気成分が壊れてしまうという大きな欠点がありました。 

有機溶媒で成分抽出に成功! さがんルビーの香りは2月に強くなる

そこで今回は、有機溶媒のヘキサンを用いた抽出を行い、香気成分を抽出して定量分析しました。有機溶媒による抽出では、香り自体は消えてしまいますが、私たちは香気成分の定量分析を目的としているため、特に問題はないとしました。今回の実験の手順は下図の通りです。

 

用いた果皮はフラベド層のみを使用しました。これは、香気成分が主にフラベド層に含まれていることと、実験のために質量を揃えやすいことが理由です。 

 

香りの各成分の月ごと含有量を調べてグラフにしたのが下図です。その結果、各香気成分には含有量のピークとなる月が存在し、ほとんどの成分のピークは2月に現れていることがわかりました。 

※クリックすると拡大します
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香気成分は、ピークを過ぎると揮発量が生産量を上回り、含有量が減少することがわかりました。また、柑橘系の香りの主成分であるリモネンやグレープフルーツの苦い香りのもとであるノートカトンなどの含有量のピークが、その月の果皮の香りに影響を与えていると考えられます。下図が実験を行った2015年8月から2016年5月にかけての佐賀県の平均気温のグラフです。2月にピークが現れているのは、外気温が低く成分が揮発しにくいことに加え、2016年冬の大規模な寒波に対して果実が身を守ろうとしたことが原因と考えられます。 

香りは合成できたけれど、何かちょっと違う…?

 

実験2では、実験1で得られた各月の香気成分の含有量をもとに、香りの調合を行いました。

 

その結果、それぞれの月の果皮や精油に似た香りを再現できましたが、精油と再現した香りを比較すると、精油の方がノートカトンの香りをやや薄く感じました。これは、水蒸気蒸留によって精油を抽出した際にノートカトンが水層へ溶け出たためと考えられます。 

そこで、ノートカトンの水溶性を調べる実験を行いました。その結果、ノートカトンはリモネンなどに比べて、酸素が若干の極性をもたらすことにより、わずかに水に溶けやすいことがわかりました。 

さがんルビーの香りを生かした商品開発も!

 

これらの実験から、さがんルビーの香りの各成分にはピークとなる月が存在し、ピーク後は徐々に揮発して減少することがわかりました。また、調合によって果皮に似た香りを作ることは可能でした。再現した9月と4月の香りには明らかな違いが感じられたことにより、微量な成分の違いによって、香りが大きくかわるとわかりました。

 

さらに、バラつきが少ない分析データを得るためには有機溶媒を用いた抽出方法が適していますが、香りの精油を得るためには水蒸気蒸留を用いる方法があります。

 

また、苦い香りのもととなるノートカトンは、リモネンなどよりもわずかに水に溶けやすいことがわかりました。

 

今後は同様の実験を外国産グレープフルーツにも行い、香気成分の差異について調べたいと考えています。また、さがんルビーの収穫時期によって異なる果皮の特徴を生かして、香水やリップクリームのような製品開発につなげていければと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

私たちの学校は、佐賀大学と高大連携研究をしているので、佐賀大学が開発した「さがんルビー」に興味を持ちました。研究所を見学させていただいたときに、さがんルビー果皮のさわやかさと少し甘みを感じる香りに魅力を感じました。この果皮の香りが収穫時期によって異なることに興味を持ち、今回発表した研究を行うことにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2016年から始めました。大会準備などの忙しいときは1週間に2回ほど、それ以外は1~3週間に1回くらいのペースで研究を進めました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

1000μL(=1mL)という、とても少ない量の香りを調合することに苦労しました。香りは個人で感じ方が違うので、香りを表現するのが難しかったです。また、研究で使用する論文や私たちの研究と類似した論文を検索することも難しかったです。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

分析の結果が正しいことを示すために、水蒸気蒸留によって得た精油と、分析結果をもとに調合した香りを比較したことです。この比較によって、微量成分のわずかな量の違いによって香りが大きく異なることがわかりました。一般に水に溶けにくいとされている香気成分ですが、構造によってはわずかに水に溶けることがあります。香気成分自体が微量成分ですから、わずかな増減の影響を大きく受け、精油と調合した香りに違いが生じたと考えています。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「Effects of Different Extraction Method on Aromatic Composition of Essential Oils of Citrus keraji hort. ex Tnanaka ‘Kabuchii’」Sayuri Inafuku- Teramoto and Yoshinobu Kawamitsu

http://www.jstage.jst.go.jp/article/jsta/54/1/54_1_25/_pdf

・佐賀地方気象台

http://www.jma-net.go.jp/saga/

・アロマオイル効能ガイド「リモネンを含む精油」

http://aroma-guide.net/seibun/limonene.html

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

同様の実験方法で外国産のグレープフルーツを分析し、今回の研究と比較することで、さがんルビーの特徴を見つけ出し、香水やリップクリームなどの製品開発につなげていきたいと思います。また、調合の精度を上げるために、全体の量を増やし、化合物の種類も増やしていきたいと思います。化合物の種類を増やす際には、化合物の合成を行っていけたらいいなぁと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか

 

部活全体としては、科学ボランティアで子どもたちと実験を一緒に行い、実験の説明をしています。細かい活動で言うと、高大連携(4班)のほかに缶サミット、モデルロケット、水ロケットなどを行っています。私は、モデルロケット班にも所属していますが、日々、モデルロケットの大会や研究発表のために実験や実験のための道具・サンプル作りを行っています。

 

■総文祭に参加して

 

今回の総文祭では、多くの方にさがんルビーの香りを体験していただき、意見をいただけたことがよかったです。まだまだ認知度の低いさがんルビーを宣伝するいい機会にもなったと思います。また、他県の柑橘類の研究されている方々ともお話をすることができたことがうれしかったです。

 

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