2018信州総文祭

摩擦の正体をモデルで解明!

【物理】大分県立大分上野丘高校 物理部

(2018年8月取材)

左から 工藤由衣さん、羽矢杏奈さん
左から 工藤由衣さん、羽矢杏奈さん

■部員数27人(うち1年生11人・2年生10人・3年生6人)

■答えてくれた人 工藤由衣さん(2年)

 

表面粗さのモデル化を用いた摩擦力の考察と可能性

「摩擦力」の仕組み

 

床の上に置いた物体を横に引っ張ると、少しの力では動かず、力がある大きさを超えると突然動き出します。引っ張るのを妨げる「摩擦力」が働くためです。物体が動き出す寸前に摩擦力は最大になり、このときの力を「最大静止摩擦力」と呼びます。同じ重さの物体を引く場合でも、床や物体の材質が異なれば摩擦力も異なります。また、同じ材質のものを使っても、物体が重いほど、最大静止摩擦力も大きくなります。

 

高校で習う公式によると、水平な床の上に置いた物体の重さと、その物体と床の間に働く最大静止摩擦力の大きさは比例します。その比例定数を「摩擦係数」と呼び、物体の重さと摩擦係数の積が最大静止摩擦力になります。摩擦係数は物体や床の材質によって決まります。

 

私たちが疑問を持ったのは、「摩擦力はどんな仕組みで働いているのか」ということです。摩擦力が働いているとき、物体と床の表面では何が起こっているのでしょうか。

 

 

摩擦係数を測定する

 

紙やすりの上に木片を置き、横に引っ張ることで木と紙やすりの間の摩擦力を調べました。紙やすりの表面には細かい粒子がたくさん接着されており、粒子の細かいものと粒子の大きいものがあります。そこで、様々な大きさの粒子の紙やすりを用いて、木と紙やすりの間の摩擦係数を測定しました。昨年の実験では木を手で引っ張っていましたが、今回は皿の上に徐々に砂を入れてゆく方法で少しずつ力を増やし、正確に測定しました。

 

 

結果は下図の通りです。粒子の直径が50μm(1mm=1000μm)以下のときには、直径が大きいほど静止摩擦係数も大きくなりますが、それ以上大きくなっても静止摩擦係数はほぼ一定です。

 

紙やすりと木のデコボコの形状は違う!

次に、摩擦力が働く木や紙やすりの表面の形状を調べました。表面のデコボコは小さすぎて目には見えませんから、大分県産業科学技術センターで「表面性状測定器」という装置を使わせていただきました。

 

 

すると、紙やすりの表面ではデコボコは尖っていて、てっぺん(頂角)の角度は60°,90°,120°のものがある一方、木の表面のデコボコは丸く、円形に近いことがわかりました。

 

そこで私たちは、この結果に基づいて木と紙やすりの表面の模型(モデル)を製作することにしました。高さをそろえた三角形(頂角60°,90°,120°)を板に張り付けることで、紙やすりの尖ったデコボコを作り、半円柱を板に張り付けることで木の丸いデコボコを作りました。

 

このモデルを用いて摩擦係数の測定実験を再現します。木モデルの上に紙やすりモデルをのせ、横からバネばかりで引っ張りました。紙やすりモデルが三角形を乗り越えて動き出したときの、バネばかりの引きの強さを測った結果、次のような結果が得られました。

 

頂角が小さいほどバネばかりの数値は大きくなり、頂角が60°の三角形を用いたとき、摩擦力が最大になることがわかります。

 

高校で習う「力のつり合い」を使うと、頂角が小さいほど半円が三角形を乗り越えるのに大きな力を要することが数式でもわかります。また、木と紙やすりの間の静止摩擦係数を測定すると、実験ごとに値が大きくバラつくものですが、このバラツキは、頂角60°の粒子数の違いによるものと考えられます。

 

デコボコの粒子の大きさが変わると摩擦はどのように変わる?

次に、様々な高さの三角形(頂角60°)の紙やすりモデルを作りました。三角形の高さを変化させながら、木モデルが紙やすりモデルを乗り越えるときの力を測定しました。

 

 

実際に作成したモデルが下の写真です。

 

図のように三角形の紙やすりモデルの高さを変えていきながら、乗り越える力を測定し、静止摩擦係数を求めていきました。木モデルが紙やすりモデルを乗り越える力の大きさのみを調べるために表面にプラスチックの粉をまぶし、モデルの表面の摩擦をなくしました。 



 

結果は下のグラフです。三角形の高さが15mmのところまでは、高くなるほど力は大きくなりますが、それを超えると力の大きさはほぼ一定です。実際の木と紙やすりを使い、紙やすりの粒子径を変えながら実験したときのデータと、グラフの形がよく似ています。

 

このようなグラフの形になる理由は、モデルから説明できます。三角形が十分高い場合、図のように、三角形の辺と円が接します。この場合、三角形の高さに関わらず力は一定になることがわかります。

 

一方、この図のように三角形の高さが円柱の半径の半分よりも低いと、半円と三角形は図のように、頂角で接しています。高校で習う「力のモーメントのつり合い」の公式を使うと、三角形が高いほど、円柱が三角形を乗り越えるのに大きな力を要することが確かめられます。この計算の結果と、さきほどの実験で得られたグラフは一致しています。

 

 

同じ種類の木同士の摩擦が大きくなるのは?

木造建築では、木と木の間の静止摩擦力も重要です。そこで、マツ・ヒノキの二種類の木材を用いて、木材どうしの間の静止摩擦係数を測定しました。結果は左の通りです。同じ種類の木材を用いたときに摩擦が大きくなることがわかります。この実験結果を、前回のようにデコボコ形のモデルで説明することを試みました。

 

マツとヒノキの表面のデコボコを調べると、どちらも円形ですが、円の半径が異なります。木の表面を分析した結果から、マツとヒノキのデコボコの半径の比はおよそ5:4だとわかりました。この結果に基づき、前回と同様にマツとヒノキの表面のモデルを製作しました。

 

 

このモデルを用い、マツとマツ、マツとヒノキの間の静止摩擦係数測定実験を再現しました。

 

結果は左の通りです。実際の木材を用いたときと同じく、同じ種類の木材を用いたときの方に静止摩擦係数が大きくなります。

 

 

この原因も、モデルから説明できます。デコボコのかみ合わせを観察してみると、同じ半径のデコボコどうしのときに、上下のデコボコがよく密着するのです。つまり、同じ種類の木材どうしでは、デコボコがうまくかみ合うために静止摩擦係数が大きくなったと考えられます。

 

 

木造建築の工程にも応用できる?!

以上のように、摩擦力を左右しているのは表面のデコボコのかみ合わせであることがモデルからわかりました。さらに、私たちは、木材建築における「かんながけ」に注目しています。

 

「かんな」というのは、木材の表面を刃で削ってなめらかにする道具です。「かんががけ」をすることで、摩擦力にどんな違いが生まれるのでしょうか。かんながけを施した木材と、かんながけをしなかった木材で、繰り返し静止摩擦係数を測定すると、次のような結果が得られました。

 

実験回数を重ねるたびに静止摩擦係数の値はバラつくものですが、かんながけを施した木材では、摩擦係数がほぼ一定になるのです。静止摩擦係数が一様であることは、木造建築の場面でも重要と考えられます。今後は、この現象についても解明してゆきたいと思います。

 

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

先輩たちの継続研究として行いました。物体の表面の粗さを目に見えるようにグラフ化し、複雑な摩擦の機構を単純化して考えやすくなるように研究を行ってきたので、このテーマにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日2時間週3日。2016年から始まりました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

実際の表面の粗さをグラフ化してモデルで考えるときに、「モデルをどのような形にするのか」や、「ミクロな視点だけでなくマクロな視点で考える考え方」です。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

実験装置を工夫しました!

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「改訂版 物理基礎」(数研出版)

「摩擦の物理(岩波講座物理の世界)」松川宏(岩波書店)

「おはなし科学技術シリーズ 摩擦のおはなし」田中久一郎(日本規格協会)

  

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

次は、木材どうしの実験で表面粗さのモデル化を目指していきたいです。かんなを木材にかけることで、表面の凹凸が削れ、表面の凹凸のかみ合わせだけでなく、分子間力なども摩擦に影響しているのではないかと考えていて、磁石を用いたモデルで分子間力を表現していこうと考えています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

夏休みには小学生を対象にした「O-labo」という科学のイベントに講師として参加しています。他に、ゴム膜と鉄球を用いた「共振」についての研究もしています。

 

■総文祭に参加して

 

初めて全国という舞台に参加してとても緊張しましたが、様々な学校の研究を見られてとても楽しかったし、たくさんの刺激を受けました。今回得たものを部の仲間に還元し、より良い研究を進めたいと思います。

 

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