(2018年8月取材)
■部員数 20人 (うち1年生8人・2年生10人・3年生2人)
■答えてくれた人 朝倉祥平くん(2年)
世界中で海や湖のゴミ・石油流出が問題になっています。私たちは、そうしたゴミを海や湖から除去することに応用できる技術の研究を始めました。
そのために、水面下から発射された水、ここでは「水噴流」と名付けますが、この水噴流が周りの水を巻き込んで輸送する「水輸送現象」のメカニズムを解明したいと思います。
実験1.「水噴流」と「水輸送現象」
水槽に水を満たし、水中にホースを通します。ホースを空中に向けて水を噴射すると、水槽内の水はどうなるでしょうか。
水槽に固定した定規を見ると、水面が下がっていくことがわかります。ホースから噴射した水と一緒に、水槽の中の水も外に出ていくのです。
さらに、水面に「ゴミ」を浮かべてみると、ゴミが水槽の中から取り除かれました。
この「水の噴流によって水面の水や浮遊物が輸送される」という現象を、私たちは「水輸送現象」と名付け、研究を重ねてきました。
この現象が、海上の浮遊ゴミや流出した石油を回収するために応用できるのではないかと考えました。
液体の「粘性」に着眼
これまで、私たちの先輩の研究では、「どれだけの量の水が、水槽の外に輸送されるのか」が調べられてきました。そして、図中に示した数式が発見されました。
この式は、水輸送現象によって外に運び出される水の量が、次の三つの量に比例しているということを表しています。
・ホースの直径(d)
・ホースから水が噴き出す速度(V0)
・発射口が水面よりどれだけ下の位置にあるか(l)
αは「水噴流定数」と名付ける0.07程度の大きさの定数で、「水の輸送されやすさ」を表します。
私たちが考えたのは、「水以外の液体を使えば、αの値も変わるのではないか」ということです。そこで私たちは「粘性」に注目しました。
皆さんもよくご存知の「摩擦力」は、二つの物が表面でこすれ合うときに働きます。例えば、机の上に消しゴムを置き、横から指で消しゴムを押してみると、指で押すのに逆らう方向の力を感じることができます。これが摩擦力です。このように、「固体と固体」の間では摩擦力が働くのですが、実は、「液体と液体」の間でも同様の力が働きます。
水中でホースから水を発射すると、水槽の中の水が、噴射された水に引きずられて、噴流と一緒に流れようとします。これは、発射された水と水槽の水の間に摩擦力(粘性力)が働くためです。これが「水輸送現象」の原因だと私たちは考えました。
液体と液体の間の、粘性力の働きやすさを「粘性」と呼びます。そこで私たちは、様々な粘性の液体を用いて実験を行い、粘性と水噴流定数αの間の関係を探ることにしました。
粘性の働く条件下でも運動量保存則は成り立つか?
さて、ここで高校で習う「運動量」を簡単に説明しましょう。
いま、5kgの重りが2m/秒の速度で運動しているとします。このとき、重りの質量と速度を掛け合わせると、
5kg × 2m/秒 = 10kg・m/秒
という値が得られます。このように、物体の質量と速度を掛け合わせたものを「運動量」と呼びます。
2つの物体がぶつかると、それぞれの物体の運動量は変わります。ところが、重要なのは、これらの物体の運動量の合計は変化しないということです。
例えば、1kgの粘土の球が静止していて、そこに1kgの別の粘土の球が2m/秒の速度でぶつかるとします。このとき、2つの粘土玉がくっついて2kgのかたまりになったとすると、この粘土のかたまりは1m/秒の速度で動くことになるのです。なぜなら、くっつく前の運動量の合計は
1kg ×2m/秒 + 1kg ×0m/秒 = 2kg・m/秒
となり、くっついた後の運動量は
2kg × 1m/秒 = 2kg・m/秒
となって、運動量の合計が一致するためです。
このように、いくつかの物体がぶつかっても、外からの影響がなければ運動量の合計は一定になるということが知られています。これを「運動量保存則」と呼びます。
私たちの先輩は、「水輸送現象」に運動量保存則を当てはめました。つまり、
(ホースから水が噴き出すときの水の運動量)=(水面から飛び出すときの水の運動量)
という関係が成り立つと考えたのです。実は、先ほど説明した「VQ=απdv0l」という式も、先輩が運動量保存則に基づいて導き出した数式です。
私たちが疑問を持ったのは、「粘性の働く条件下でもこの運動量保存則が成り立つと言えるのか」ということです。もし、運動量保存則が成り立たないとしたら、水の輸送量を「VQ=απdv0l」という形の式では表すことができないということになります。
本当に「運動量保存則」は成り立っているのか
私たちは、ホースから水が噴出するときの水の運動量と、水面から噴流が飛び出すときの水の運動量を測定し、本当に両者が一致しているかどうかを調べることにしました。運動量を測定するには、水の「速度」と「質量」をそれぞれ測定し、掛け算する必要があります。
そこで、水を斜めに発射したときに、水がどこまで高く飛ぶのかを測りました。水の噴き出す速度が速いほど、高く水は飛ぶはずです。高校で習う公式を使えば、水の飛ぶ高さから水の速度を計算することも可能です。
1秒あたりに噴き出る水の質量は、噴き出た水を別の水槽の中に集めて、量を測定することで求めました。
結果は下図の通りです。
横軸にホースの水の運動量、縦軸に水面から飛び出す水の運動量をとると、直線に近いグラフが得られ、両者がほぼ一致していることがわかります。
このことから、粘性の働く条件下でも、運動量保存則はたしかに成り立っているということがわかります。
液体の粘性と水噴流定数αの関係
いよいよ、液体の粘性とαの関係を調べます。
水に砂糖を溶かすと、粘性が大きくなるということが知られています。そこで、様々な濃度の砂糖水を作り、粘性を調べることにしました。
粘性の大きい液体は、細い管の中を流れるときに摩擦が強く働くため、同じ長さの管でも流れるのに時間がかかります。この性質を利用し、管を砂糖水が流れ切るのにかかる時間を計測し、砂糖水の粘度を求めました。
粘度は、「ハーゲン・ポワズイユの法則」という公式を利用して求められます。
こうして様々な濃度の砂糖水の粘性を調べ、それぞれの砂糖水について、水噴流定数αの値を測定しました。結果は下図の通りです。
粘度の小さいとき(青い領域)では減少のグラフになり、粘度の大きいとき(赤い領域)では増加のグラフになることがわかりました。
αを粘度の式で表す
このようなグラフが得られた原因を考察します。
まず、粘性が大きい赤い領域では、なぜαが大きくなる(つまり水の輸送量が増える)のでしょうか。粘度とは、液体と液体の間に働く粘性力の働きやすさを表すものでした。粘性の大きい液体では、粘性力が大きく働く分、たくさんの液体を運ぶことができると考えられます。
では、なぜ粘性が小さい青い領域では、αが大きくなるのでしょうか。私たちは、水の流れの「乱れ具合」が関係していると考えました。
液体の流れの乱れ具合を表す「レイノルズ数」という量があります。レイノルズ数が大きい流れは大きく乱れており、ホースから発射された水流が周囲の水を巻き込みやすくなります。
そして、一般に、レイノルズ数は液体の粘度に反比例します。つまり、粘度が小さいときほど流れは乱れやすく、周囲の水を流れに巻き込みやすいのです。
つまり、「水輸送現象」の原因は次の二つです。
・水の粘性によって、粘性力で周囲の水が運ばれる作用:粘度μに比例
・水流の乱れの中に周囲の水が巻き込まれ、一緒に運ばれてしまう作用:粘度μに反比例
μが大きいときには粘性力の効果が、μが小さいときには水流の乱れの効果が大きくなります。つまり、水噴流定数αは、下図のようにμに比例する量と反比例する量の足し算として表せると結論付けました。
以上のように、この研究では、「水輸送現象」が起きる原因を解明しました。今後は、今回の結果を踏まえて、より効率よくゴミや石油を回収できるような仕組みを考えていきたいです。
■研究を始めた理由・経緯は?
過去の先輩方が、テッポウウオが水面下から空気中の虫を正確に狙えるのはなぜか、という研究していました。その際、水面下から水流を発射すると水面の位置が下がっていくことに気づきました。よってこの現象を水輸送現象と名付け、この現象の原因を解明するために研究活動を行うことにしました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2011年から研究を行っており、平日2.5時間、休日8時間を費やしています。
■今回の研究で苦労したことは?
今年度の研究では、砂糖を混ぜて粘度を変化させた水を何種類か用意し、それらの水を用いて水輸送現象を起こし、粘度によって水の輸送のしやすさがどのように変化するのかを調べるという実験を行ってきました。その際一番苦労したことは、実験によって発生する「誤差」の処理です。例えば今回の実験では、砂糖を混ぜた水の粘度や、発射した水噴流の速度などを測定しましたが、私たちは高い精度で測定することのできる機械を持っていません。そのため、どの測定にもどうしても誤差が出てきてしまいます。特に私たちの研究では水を扱うので、なおさらでした。
また、今回の実験では砂糖水を大量に使用するため、実験中で全身が濡れることもありました。そして砂糖水で水たまりができるほど濡れている床の掃除は、非常に大変でした。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
今回の研究発表では、水輸送現象やレイノルズ数や行った実験がどのようなものなのかをイメージしやすいように、動画や写真、図などの作り方を工夫しました。例えば、水噴流が周囲の水を巻き込んでいるということがわかりやすいように水噴流を着色しました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・[日本SJWP大賞] 第16回 日本水大賞 水噴流による水浄化の研究
広島県立広島国泰寺高等学校 理数ゼミ 物理班
・レイノルズ数の解説
ソフトウェアクレイドル社 技術コラム「流体解析の基礎講座」3.2.4 層流と乱流
・粘性の解説
株式会社タクミナ 技術情報・便利ツール 10-1「粘度とは」
・「水面下からの水噴流による水流に関する研究」
上田和茂,土井ひらく,志賀浩一(JSEC2011応募原稿.2011.)
・「水噴流による浮遊物回収装置「Dream Strider」の制作」
竹内咲希,松村尚紀,高野哲仁(JSEC2015応募原稿.2015.)
・「水面下から発射された水噴流の水輸送機構の解明~油回収実験を通して~」
坪根虎汰,山田英寿(JSEC2016応募原稿.2016.)
・「水面下から発射された水噴流の水輸送現象における運動量保存則の検証」
佐伯聖真,井上滉,山本君代(広島県科学セミナー発表要旨.2017)
・「トコトンやさしい流体力学の本」久保田浪之介(日刊工業新聞社.2009)
・「基礎物理学実験」下村健次(共立出版)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今回の研究のテーマである水輸送現象については、今年度も引き続き研究していきます。次回の研究では、水噴流の速度を極限まで大きくしたときに、輸送量はどのように変化するのかについて調べていきます。
■ふだんの活動では何をしていますか?
研究活動以外では、文化祭やオープンスクールなどのときに物理の魅力を多くの人に知ってもらえるよう、展示や実験をしています。また、様々な発表会などに参加しています。
■総文祭に参加して
今回私は、初めて総合文化祭に参加しましたが、ほかの学校の研究のレベルの高さにとても驚きました。それは研究の内容もそうなのですが、細かい部分の検証を行っていたことや、発表がとても上手で引き込まれたこともその理由の一つです。私は自分も負けていられないと思いました。そして来年度は自分も今年度以上に努力し、他の学校の生徒を驚かせ、興味を持ってもらえるような研究発表をしていきたいと思いました。