(2018年8月取材)
■部員数 19人(うち1年生11人・2年生2人・3年生6人)
■答えてくれた人 宮川虎太朗くん(2年)
日本では地震の報道が続いています。2016年の熊本地震では、新しい耐震基準を満たす建物でも倒壊したものがあったということが、調査により明らかになりました。「耐震基準」そのものが揺らいでいる今、地震によって建物がどのような影響を受けるのか、科学的に調べることが必要です。そこで私たちは、建物の模型を製作して振動を与えてみることで、模型がどのように揺れたり変形したりするかを研究してきました。
私たちの先輩は、建物の屋上に重みのある固体や液体を設置することで、建築物上部の揺れが抑えられるということを発見しました。しかし、揺れが抑えられたからといって、その建物が安全とは限りません。なぜなら、建物の上部の揺れが抑えられても、建物の根元の部分は揺れているわけですから、そのぶん建物は大きく変形して傾いているはずです。そこで、私たちは、建物の骨組みにかかる負担(応力)を調べることにしました。
様々なタイプのモデル建築物で地震の揺れを再現
私たちが実験に使用したのは左の装置です。発泡ポリスチレン板と細い角材で3階立ての建物モデルを製作し、地震を再現する土台の部分は1.05Hzで振動するようにしました。0.140kgのネオジウム磁石でいろいろな階のポリスチレン板を挟むことで、その階に荷重を加えることができます。そして2階、3階、屋上に荷重を加える条件下で建物に振動を加え、揺れを調べました。
まず、屋上に荷重を加えた場合の揺れ方がこちらです。屋根瓦などのついた、屋根の重い建築物がこれに近いものです。
次に、3階に荷重を加えた場合の揺れ方を見てみましょう。これは重心の高い建物の揺れ方を表すと考えられます。
最後に2階に荷重を加えた場合です。1階が駐車場で2階に居住スペースがあるような建物や、1階がピロティ(※)になっているような建物がこれに当たります。
※建物の1階部分を柱だけの空間とした構造の、1階部の吹放しの部分
これらのモデルで各階の揺れの大きさを定量的に調べるため、私たちは動画を1/60秒ごとにコマ送りで再生し、振動の中心からの各階のズレ(変位)を計測しました。
屋根が重い建物は屋上とその下の階との間が壊れやすい
振動の中心からの揺れの幅が大きい階には、大きな力が働いたと考えられます。実は、高校で習う「単振動」という考え方を用いると、各階の振れ幅と振動の周期、その階の質量から、働いている力を計算することができます。この方法で私たちは、3つの条件下での各階の揺れ、および働く力を計算し、グラフを描きました。
まず、屋上に荷重を加えた場合です。変位の大きさは
2階>3階>屋上
の順番になっていることがわかります。
一方、各階に働く力を計算してみると、力の大きさは
屋上>2階>3階
の順番になっています。
力の向きにも注目してみましょう。左の図のように、どの時間帯でも、2階、3階、屋上階に働く力の向きは揃っているということがわかります。
これらの結果は、屋上部分の振動が荷重によって抑えられ、土台部分ほど大きく振動しているということを表します。また、屋上と3階に働く力の差が最も大きくなっていることから、屋上と3階をつなぐ部分では歪みが最も大きいと考えられます。つまり、地震が起きたときに壊れるのは、この部分だと予想できます。
重心の高い建物は高層階が壊れやすい
次に、3階に荷重を加えた場合です。変位の大きさは
屋上>2階>3階
の順になっていることがわかります。
一方、各階に働く応力を計算すると
3階>屋上>2階
の順になりました。
この場合は、各階に働く力の間に大きな差はありません。しかし、力の向きを調べてみると、左の図のように、3階に働く力だけが他の階とは逆向きになることがあるということがわかりました。
これらの結果から、3階に荷重を加えた場合は、歪みが集中する3階が最も壊れやすい箇所だと言えます。
ピロティや1階部分が駐車場の建物は振動に弱い
最後に、2階に荷重を加えた場合を見てみましょう。各階の変位の大きさは
屋上>3階>2階
の順になっていることがわかります。
一方、各階に働く力は
屋上>2階>3階
の順に大きいということがわかりました。
この条件下では、3階や屋上に荷重を加えた場合と比較して、変位も応力もはるかに大きくなっています。
振動しているときの建物の形を見ると、2階と3階の間で大きく歪んでいることが一目でわかります。
以上のことから、2階に荷重を加えた場合では、3階や屋上に荷重を加えた場合と比べて建物全体が壊れやすくなっており、特に2階と3階の間が最も壊れやすいということがわかります。
より実際に近い形で検証を続けたい
以上のように、建物の地震に対する強さは、建物の質量の分布によって大きく変わります。特に、2階部分に質量を集中させた場合には、建物は地震にとても弱くなっており、補強が必要と言えるでしょう。
今回の実験では小さな模型を用いて実験しましたが、建物そのものの大きさのスケールや地震の振動数、さらには建物が立っている地盤の固さなど、まだ調べていない要素があります。今後は、それらの要素が建物の揺れにどのように影響するか、研究していきたいです。
■研究を始めた理由・経緯は?
地震大国である日本では、地震が原因で建物が倒壊し、その度に多くの人命が失われています。地震災害による被害を少しでも減らせるようなデータを出したいと思いました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1年生の3学期から2年生の秋までの10か月を中心に、研究しました。
■今回の研究で苦労したことは?
地震の揺れをもとに、応力が集中する場を解析できるような変形を見せる建築物のモデルを作ることに苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
応力の計測方法と、応力の算出方法、また建築物の変形と応力の大きさ・方向をモデル的に示した図をぜひ見てください。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
昨年度の先輩の研究です。
先輩方は、建物自体の揺れを防ぐための研究を行っていました。
・「液体の振動を利用した建築物の制震について」滋賀県立膳所高校物理地学班(第41回全国高等学校総合文化祭自然科学部門論文集)
・「都市防災論 第七回 -構造物の応答:構造物はなぜ揺れるか」大峯秀人
■今回の研究は今後も続けていきますか?
クラブでは、学年ごとに研究テーマを決めています。今後の研究テーマは、後輩たちが自主的に決めていくことになります。
■ふだんの活動では何をしていますか?
様々な実験をしたり、天体観測を行ったりしています。
■総文祭に参加して
自分たちの行った研究を発表できる貴重な場を経験できました。この部活に入っていて本当によかったと思いました。また、他校の研究発表も非常に参考になりました。巡検研修も(雨で残念でしたが)、ふだんはできないような充実した体験を行うことができて、全体的に有意義でした。