2018信州総文祭

ビルの形状による「ビル風」の違いを自作装置で徹底解明!

【物理】和歌山県立日高高校 科学部

(2018年8月取材)

左から 吉森直希くん(2年)、佐藤隆都くん(2年) 
左から 吉森直希くん(2年)、佐藤隆都くん(2年) 

■部員数 15人(うち1年生2人・2年生5人・3年生10人)

■答えてくれた人 佐藤隆都くん(2年)

 

ビル風をよむ

ビルの形状によって「ビル風」の発生には差がある?!

 

僕たちは今回、高層ビルの周辺に発生する「ビル風」についての研究を行いました。高層ビルの形状として、スライド左側の「スクエア(Square)型」は、最も一般的なものとされています。今回僕たちは、このスクエア型よりもビル風抑制効果が高いとされている「セットバック(Setback)型」について着目しました。

 

この二つの周りのビル風になぜ違いが生まれるかを調べるために、煙風洞装置を用いて風の可視化を図り、考察しました。また、自作の風洞装置を用いて、ビル周辺の風速を空間的に計測し考察しました。

 

その結果、様々な点から、スクエア型よりもセットバック型のほうが、ビル風の抑制効果が高いということが確認できました。

 

 

実験は、

・スクエア型・セットバック型のそれぞれの風速変化のメカニズムを解明すること

・セットバック型のビル風抑制効果のメカニズムを解明すること

・簡単かつ低コストで実験を行える風洞装置を作成すること

の三つを目標として進めました。

 

今回僕たちは、ビル風の傾向をつかむために、ナノブロックを使ってビルの小型模型を作成し使用しました。ナノブロックを使ったのは、作ったビルの上下が水平になること、重心が安定すること、そして縦横高さを容易に変更することができるので、今回の実験に最適だったからです。

 

煙風洞装置でビルの形状によるビル風の違いを読み取る

 

まず煙風洞装置で、装置内の風速を上げて変化を観測しました。また、風が当たる位置を中心からずらし、何が起きるかを観測するということを行いました。 

 

スクエア型、セットバック型のそれぞれについて、三つの大きさのビルの模型を作成し、これらを写真のような設置台に取り付けて風を送ります。

 

このとき気化した油により、風の流線を可視化することができます。右図が観測の様子です。この流線がビルの壁から剥離する様子を調べました。

 

スクエア型の結果が下図です。ビルの高さが高くなるほど、剥離領域が大きくなっています。スクエア型では、装置内での風速が大きくなることで、ビル正面にかかる風圧が大きくなり、ビル両側面への圧力分散が大きくなるのではないかと考えました。 

 

下図がセットバック型の結果です。セットバック型では、ビル風の剝離領域にばらつきがみられました。このことは、セットバック特有の階段状の段構造の変化によって、剝離領域が小さくなったのではとないかと考えました。 

 

次に、風を当てる場所を変えた時の様子です。スクエア型では、ビル中央に風を当てたときに形成されていた風圧の分散範囲が、端に風を当てたときに、より外側に形成されていることが確認できました。 

 

一方セットバック型では、ビル上下で二極化する現象がみられました。これは、上段と下段で正面にかかる風圧の偏る方向が食い違ったためではないかと考えました。 

 

自作風洞装置でビル風の風速を測定

 

次に、自作風洞装置を使って、スクエア型・セットバック型のビル周辺の風速の測定を行った実験について説明します。下図の左の風速計の先端を、作成した風洞装置の内部に差し込み、計測を行いました。計測地点は、図中の右に示しました。

 

 

これが自作風洞装置の全体像です。装置の周りに窓フィルムを敷き、透明にしました。そして、風速を安定化させるために金網メッシュを用いましたが、外側の風速が強いため、金網メッシュとネットメッシュを用い二重メッシュとし、装置内の風速の安定化を図りました。そして、内部に厚紙を敷き、風向を整えることにしました。

 



 

そして、内部に厚紙を敷き、風向を整えることにしました。

 


 

こちらが計測の様子です。

 

 

計測地点については以下のとおりです。計測したデータは、下のような表に算出しました。算出結果から、送風機からの風が安定化されていることがわかりました。 

 

1400か所の測定結果からビル風の動き方を読み解く

 

このようにしてビル周辺、約1400か所を計測しデータ化しました。しかし、データ量が多すぎるために、三次元グラフを作成し、風の流れをより空間的に捉えることにしました。X軸、Y軸、Z軸で装置内の空間を、風速はベクトルで表現しました。 

 

グラフから、ビルの真横に何らかの建物がある場合についても、真横の風速増加量が低いセットバックのほうが、影響を及ぼさないと考えました。 

 

次に、計測地点の高さごとに風速値を比較すると、スクエア型では、ビル側面で剝離した風がビル後方で合流していることが分かりました。セットバック型では、このグラフのようにビル上部で風速が増加していることから、ビル上部では圧力が急激に低くなると考えました。また、ビル中央部で風速の減少がみられることから、ビル中央部ではビル後方にかかる圧力が大きくなっていると考えました。 

 

さらに風速の安定度に着目しました。このグラフは高さ別の計測地点の結果を示したものです。スクエア型では風速値がまばらに散らばっているのに対して、セットバック型は全体的にまとまっていることがわかります。これらのことから、セットバック型のほうが、ビル周辺の風速が安定していると考えました。 

 

ビルの周囲の風圧を計算すると…

 

さらに風圧の分散に着目しました。速度と圧力に関する「ベルヌーイの定理」の公式を変形して得られた式から、2地点間の風速の2乗の差が大きくなると、2地点間の圧力分散も大きくなることがわかりました。

 

 

さらにこれらを、二地点間ではなく平面スケールで表現できないかと検討しました。そして、風速の2乗値の変化を装置内の平面スケールで表現したグラフを作成し、グラフから勾配を読み取ることで、風圧の分散傾向を読み取りました。グラフの赤い部分はビルの設置部、風は矢印の方向に流れるものとします。

 

 

スクエア型では、圧力分散の大きい範囲がビルのより外側に形成されていたのに対し、セットバック型では、圧力分散の大きい範囲がビル周辺に形成されていたため、ビル周辺に与える影響は、風圧の変化の小さいセットバック型の方が、スクエア型よりも小さくなるとわかりました。

 

 

結論が下図です。最初に述べたように、様々な点から、スクエア型よりもセットバック型のほうが、ビル風の抑制効果が高いということが数値的に確認できました。

 

 

今回私たちが身近なもので作成した疑似風洞装置は、風速増加領域、風速比、速度勾配、風の安定度、ビル周辺の圧力分散など、多くの観点からビル風の傾向を読み取ることに応用できる自由度の高い装置です。加えて風速を三次元的に捉えることが可能であるため、ビル風の複雑な現象の解明に大いに役立ったといえます。このことから、この風洞を用いて、今後の都市開発、町の景観の構想などのシミュレーションに役立てたいです。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

先輩が元々ビルが大好きで、現代の公害となっているビル風についての記事を某科学雑誌Nで読み、興味を持ったため始まりました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2017年から研究を始め、1日6時間研究し1年弱続けました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

正しい方法だと思って研究していたことが間違っていたとわかって、最初から研究方法を検討し直したこと。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

身の回りの物で装置を自作しましたが、様々な問題が起きたため、改良を重ねました。それによって正確なデータを取得できる実験装置を作成することができ、ビル風の傾向をより正確に掴めたことです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

参考にした資料は以下のとおりです。

・「日常の物理事典(2000)」近角聡信(東京堂出版)

・「理化学事典 第3版(1975)」玉虫文一ほか編(岩波書店)

・「新しい建物形態を有する超々高層建築物の空力特性(2012)」日本建築学会構造系論文集、77(678);1211-1218. 田中英之、田村幸雄、大竹和夫、中井政義、金容徹、

・「中高層建物周辺の風速増加領域に関する研究(その1)(1979)」、本間義教、伊藤雅保、武田寿一、川口彰久、竹本靖、大林組技術研究所報、19;41-45.

「乱流」九州大学 講義用テキストデータ

「ビル風コラム第6回」松山哲雄 Cradle

「技術資料 液体編 5 レイノルズ数」流体工業株式会社

「第153回 扇風機とはここが違う! 〜サーキュレータを使って暖房費を節約〜」テクノマガジン

「アネモマスター風速計6004について」日本マーツ株式会社

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

続けていけたらいいと思いますが、他の様々なことについてもチャレンジしてみたいと思います。特に研究をして楽しいと思うことをしてみたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

部員が興味を持っていることについて話し合い、研究をしています。

 

■総文祭に参加して

 

大変でしたが、楽しく発表をしたり、聞いたりすることができてとても良かったです。また、他校の生徒との交流もできて、とても良い勉強になりました。

 

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