(2018年8月取材)
■部員数 15人(うち1年生6人・2年生2人・3年生5人・中学3年生2人)
■答えてくれた人 緒方颯人くん(3年)、北岡実乃理さん(2年)
きっかけは「水信玄餅」
「水信玄餅」というお菓子をご存じですか。ミネラルウォーターを寒天で固めて作ったプルプルの水菓子です。私たちはある日、この水信玄餅を部員の皆で作ってみたのですが、できあがったものをよく見ていて、ある不思議なことに気づきました。半球形の水信玄餅を上から覗いてみると、周辺部だけが明るく見えたのです。私たちはこの現象に興味を持ちました。
水信玄餅の代わりに、ボウルに入れた水や半円形のプリズムを使った場合でも同様に周辺部と中心部の見え方が明らかに異なっていることがわかりました。
さらに、レーザー光を真上から当ててみると、中心部に当てた場合はレーザー光がはね返ってこないのに、周辺部に当てた場合は反対側から光がはね返ってくることに気づきました。
「屈折率」に注目
私たちは、周辺部にできるこの不思議なゾーンを「Zゾーン」と名付け、いろいろな条件の下で、この「Zゾーン」の長さを測ってみました。
そして、ボウルの中に満たす水の「深さ」によってZゾーンの幅が変わること、同じ半径の容器でも、水、アガー、プリズムなど異なる媒質(光が通り抜ける物質)を使った場合は、Zゾーンの幅が異なるということを発見しました。
そこで私たちは、「屈折率」に注目しました。光が空気中から水やなどの媒質に当たるとき、光の一部は表面で「反射」しますが、媒質の中に入っていく光もあります。この光の道筋はもとの光の道筋から曲がります。この現象を「屈折」と呼び、屈折のしやすさの度合を「屈折率」と呼びます。例えば、水の屈折率は約1.33、ガラスの屈折率は約1.45ですから、ガラスの方が水より大きく光が折れ曲がります。
Zゾーンの幅が媒質によって異なることから、私たちは「屈折率」とZゾーンの幅に何か関係があるのではないかと考えました。そこで、容器の半径や媒質を変えながらZゾーンの幅を測定し、屈折率とZゾーンの関係を調べました。
デジタルカーボンノギスによる測定
私たちは媒質として
(1)水
(2)アガー
(3)アクリル製のプリズム
を使いました。また、水を使った実験では、半球容器の曲率半径を変えて、結果を比較しました。
最初の実験では、Zゾーンの幅を計測するために「デジタルカーボンノギス」を使いました。これは定規よりも長さを正確に測るための道具で、0.1mmまで測ることができます。
結果は下図の通りです。私たちは、水を使った実験のデータのばらつきに注目しました。こうした実験では、一般に、ボウルの半径が大きいほど誤差の割合が小さくなることが多いのですが、今回の結果では、半径が小さい場合でもばらつきは十分に小さいと判断しました。
もっと誤差を小さくするには?
ここからは、すべて半径50mmの容器・プリズムを用いて実験を行い、媒質(アガー・水・アクリル製プリズム)ごとの違いを調べることにしました。
さらに測定の精度を向上するため、今度は「光」に着目しました。光の屈折率は、その光の「色」によって異なるということが知られています。身の回りにある普通の光は様々な色の光が混ざったものであるため、屈折率も一通りに定まりません。そこで、ナトリウム灯という、黄色一色の光のみを発する光源を用いることで、さらなる高精度の測定を実現できるのではないかと考えました。
結果は下図の通りです。色がたくさん混ざった光(白色光)を使った場合と比較すると、誤差が小さくなったことがわかります。
屈折率の簡単な測定法を発見
私たちはまず、水を使った実験のデータから、Zゾーンの幅とボウルの半径の間の関係を分析しました。横軸に曲率半径R、縦軸にZゾーン幅をとり、実験で得たデータ点を書き入れると、直線のグラフが描けることがわかります。
私たちは、このグラフは比例関係を表すものではないかと考え、RとZの比を計算しました。すると、4つのデータ点で、R/Zの値がほぼ等しくなったことから、RとZが比例していることがわかりました。
さらに、R-Zという長さを計算し、この長さをaと名付け、R/aを計算すると、その値は1.33になりました。これは水の屈折率と等しい値です。私たちは、この実験を応用すれば、Zゾーンの幅を計測することで媒質の屈折率を簡単に測定できるということに気づきました。
なぜ「Zゾーン」ができるのか?
私たちは、この現象が起こる原因は「全反射」という現象だと考えました。例えば、光が空気中から水面に当たるとき、真下に近い向きで光を当てた場合には、光が水の中を通り抜けていきます。ところが、光の方向を斜めにしてゆくと、あるところからは、光は全く水の中に入ってゆかず、全て反射してしまいます。この現象を「全反射」と呼びます。
Zゾーンの真上からレーザー光を当てると、反対側から光がはね返ってきたことを思い出してください。これは、水中に入射したレーザー光が水中で全反射を繰り返して、ついに反対側の表面から出てきたものと考えられます。そこで、私たちは高校で習う「スネルの法則」を用いて、レーザー光が中で全反射をするためには、どこに光を当てればよいか、計算してみました。結果、全反射が起こるのはボールの周辺部だとわかり、その幅をZとして、先ほどの実験と同じように、R/aを計算すると、まさしくそれが液体の屈折率になるということが確認できたのです。
実際にZゾーンができるときには、表面に様々な方向から光が当たります。私たちは、「Geo Gebra」というソフトを用いて、様々な方向から光が当たり、それらの光が中で全反射をするとどのような反射光が得られるのか、シミュレーションをしました。結果、実験で得られたのと同じ位置にZゾーンが生じることが確認できました。
これらのことから、Zゾーンが生じる仕組みは全反射によるものであるということが、理論的に検証できました。
発明!「Zゾーン屈折率測定法」
Zゾーンの幅を測ることで屈折率を測定するという方法を私たちは「Z -zone屈折率測定法」と名付けました。この方法によって、様々な媒質の屈折率を、簡単に、そして正確に、測定することが可能です。
水溶液の屈折率は、濃度によって変化することが知られています。また、媒質の温度によっても屈折率は変化します。私たちが考案した「Z -zone屈折率測定法」を用いて様々な濃度・温度の条件下で、屈折率がどのように変化するのかを調べることが今後の目標です。また、水溶液の濃度変化によってどのように屈折率が変化するのかがわかれば、逆に、屈折率を測定することによって水溶液の濃度がわかるはずです。これは、果物や野菜の糖度を測る「糖度計」に応用されている方法で、「Z -zone屈折率測定法」を使った糖度計も作れるかもしれません。
■研究を始めた理由・経緯は?
部員の一人が家族と外食したときに水信玄餅が出され、透明で常温でも形がくずれにくいのに感動し、部員に紹介したことがきっかけです。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
別テーマの研究と平行して行いながら、3か月くらいでまとめました。
■今回の研究で苦労したことは?
Zゾーンがどういう原理で幅を持つのか、最初はわからず、とても苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
Zゾーンの幅を測定するだけで、屈折率が求められるところです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
教科書「物理」(東京書籍)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
測定精度を上げる、濃度を変えて測定する、など。
■ふだんの活動では何をしていますか?
主に現テーマの研究をしています。
■総文祭に参加して
どの研究も興味深く、また、レベルの高い発表ばかりで、着眼点や研究の手法、研究に対する姿勢など学ぶ事ばかりでした。私たちの発表はトップバッターの発表ということで緊張もあり、また、PCのフリーズというトラブルが起こってしまい、焦ってしまった場面もありました。準備は万端で臨んだだけに悔いは残りましたが、他校の新しい物事の見方に気づかされ、とても充実した時間を過ごせました。大会に参加できてよかったです。