2018信州総文祭

広島の地盤を形成する花崗岩の中の「変わり者」。その成因に迫る!

【地学】広島大学附属高校 科学研究班

(2018年8月取材)

左から 山下修平くん、尾田晃平くん、片山太郎くん(全員3年) (写真提供 広島大学附属高校)
左から 山下修平くん、尾田晃平くん、片山太郎くん(全員3年) (写真提供 広島大学附属高校)

■部員数 75人(うち1年生10人・2年生35人・3年生30人)

■答えてくれた人 片山太郎くん(3年)

 

広島花崗岩類における暗色包有岩の形状と分布

花崗岩類に見られる「暗色包有岩」

 

広島県では、花崗岩類が多く見られ、特に広島市の周囲で豊富です。花崗岩類は、おおむね石英、長石、雲母といった鉱物から成り、白地に小さい黒雲母が散らばっているような見た目です。この写真の2つの岩石は、少し外見が異なっていますが、いずれも花崗岩類です。

 

 

私たちは、この花崗岩類について研究しています。花崗岩類の中には、少し大きめの黒いしみのようなものが見られます。これは「暗色包有岩(DI)」といって、周囲の花崗岩よりも苦鉄質で、細粒で、丸みを帯びているといった特徴があります。苦鉄質とは、マグネシウムや鉄を多く含んでいる状態のことです。普通は白っぽい花崗岩類の中に、なぜ異質の黒い暗色包有岩が形成されたのでしょうか。私たちはこの疑問から、暗色包有岩を研究対象としました。

 

 

新たな切り口で形成過程を探る

 

暗色包有岩に関する先行研究では、形状や分布に関する詳細な検討は十分に行われておらず、形成過程についても未解明の部分が多いです。

 

私たちは、暗色包有岩の形成過程を解明するための手がかりとして、その(1)形状、(2)花崗岩類中での分布、(3)暗色包有岩の長軸の方向の3つについて研究しました。研究は、陸地・潮間帯付近ともに暗色包有岩が豊富に見られた、元宇品で行いました。

 

 

岩石の形状を数学的に解析

 

下図は、元宇品で観察された暗色包有岩の写真です。右側の露頭で見られた暗色包有岩は、おおむね楕円形でした。一方、潮間帯付近では、左側の写真のように、立体的に出現した暗色包有岩が見られました。この2種類の観察形態から、私たちは暗色包有岩を回転楕円体に近似できると考えました。

 

 

そこで、露頭に出現した暗色包有岩を楕円とみなして、その長軸と短軸の長さを計測し、楕円の「平たさ」を表す偏平率を計算し、集めたデータからヒストグラムを作成しました。サンプル数は216です。このヒストグラムから、「見かけの偏平率」の最大値は約0.7であることがわかります。

 

 

この「見かけの偏平率」とは、回転楕円体を任意の平面で切断した際の切断面の偏平率のことです。これに対して「真の偏平率」とは、回転楕円体の長径と短径から求められる偏平率のことです。私たちは、数学的な検証を行い、暗色包有岩の形状は「真の偏平率」が0.7以下の回転楕円体に近似できるということを明らかにしました。

 

 

分布状況に観察地点間の相違を発見

 

次に、花崗岩類の分布と暗色包有岩の分布の関連性について調査しました。この研究では、元宇品で観察された花崗岩を、細粒・中粒・2種類の粗粒の計4種類に分類し、元宇品の地質図を作成しました。地質図には、暗色包有岩が観察された地点もプロットしました。

 

元宇品の基盤岩はタイプⅡの粗粒花崗岩で、タイプⅠの粗粒花崗岩などの貫入を受けています。暗色包有岩は、元宇品の西海岸では貫入の境界部付近で多く見られた一方、東海岸では貫入境界と無関係に見られ、東西で分布の特徴が異なるということがわかりました。

 

岩石の方向性にも、観察地点間の相違を発見

 

最後に、暗色包有岩の「見かけの長軸」の方向を調べました。私たちは、暗色包有岩が見られる露頭面の走行と傾斜、さらに露頭面における鉛直線と「見かけの長軸」が成す角度を計測しました。この3つのデータから、暗色包有岩の「見かけの長軸」の方向を、「球の中心を通る一本の直線」として表現することができます。さらに、この直線と球面との交点を、黄色で示された球の赤道面にプロットすることで、同じデータを「円上の1つの点」として表現することができます。私たちは、この作業を、球の経線と緯線を赤道面上に投影した図である「ウルフネット」を用いて行いました。

 

 

陸上の露頭で観察された139のデータについて作業を行った結果が、下図です。

 

 

長軸方向の傾向を明らかにするために、データの採取地点、および走行の値から、データを12種類に分類した図が下図です。

 

ここから、点が一様に分布している西海岸では「見かけの長軸」の方向に一定の傾向がなく、一方、点が2ヵ所に集中している東海岸では、暗色包有岩は2つの向きをもって分布しているということがわかります。

 

※クリックすると拡大します

 

 

様々な観測事実を総合して岩石の成因を推測する

 

以上の観測結果から、本研究では、東海岸と西海岸では暗色包有岩の形成過程が異なるものと推測し、先行研究で提示された暗色包有岩の成因を参考にして、元宇品における暗色包有岩について、3つの推測を立てました。

 

 

まず、花崗岩の貫入境界に暗色包有岩が多く見られたという西海岸の特徴から、

推測①「母岩中に基盤岩となるマグマが貫入し、さらにその中に別のマグマが貫入することによって暗色包有岩が形成された」

を立てました。

 

 

次に、暗色包有岩には一定の方向性がなかったという東海岸の特徴から、

推測②「母岩中に基盤岩となるマグマが貫入し、そこに暗色包有岩が無規則な方向性で形成され、その後、別のタイプのマグマが貫入した」

を立てました。

 

 

しかし、これらでは、西海岸と東海岸で異なるタイプの暗色包有岩が観察されたという事実を説明することができません。そこで、「暗色包有岩は、母岩中に基盤岩となるマグマが貫入した際、一部の苦鉄質成分がマグマの流れによって回転楕円体のような横長の形に変形し、マグマ内で一定の傾きを持って冷却されることで形成された」という仮説を立て、これに基づいて推測③を立てました。

 

推測③「母岩中に基盤岩となるマグマが貫入し、そこに暗色包有岩が一定の方向性で形成され、その後、別のタイプのマグマが貫入した際に方向が乱された」。

 

 

これらの推測および仮説を検証するためには、モデル実験を通してさらに妥当性を検討する必要があります。また、元宇品周辺での暗色包有岩の分布等の実態を把握することで、より考察が深められると考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

先輩の先行研究に広島県の花崗岩類について調査した研究があり、その研究の中で、広島県の花崗岩類中に暗色包有岩が見られたという記述がありました。暗色包有岩は私たちの身近にあり、なおかつだまだ研究が進んでいないため詳しいことがわかっていないことで興味を持ちました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり30分から、多い時で5時間。1年3か月研究を続けました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

先行研究では暗色包有岩の形状などを詳しく調べた研究がほとんどなく、研究の方針を立てるのに苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

暗色包有岩の形成過程を、形状分布、向きなどの観察結果という、先行研究にはない新たな視点から推測した点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「茨木複合花崗岩体の暗色包有物」田結庄良昭(岩石鉱物鉱床学会誌79、1984)

「滋賀県琵琶湖南方・田上花崗岩中の細粒暗色包有岩」中野聰志ほか(地質調査研究報告64、2013)

「広島県似島に分布する広島花崗岩類の形成プロセスの解明」大島詩音ほか(課題研究論文集2016、広島大学附属高等学校)

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

文献を読むなど研究内容に関することをしています。

 

■総文祭に参加して

 

1年間と少しの間続けてきた研究の成果を満足できる形で発表できて、嬉しく思っています。また、想像力溢れる他校の研究に触れることができた貴重な経験であり、とても刺激になりました。研究発表と同時に諏訪周辺の長野県の自然も楽しむことができ、とても貴重な経験でした。

 

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