(2018年8月取材)
■部員数 22人(うち1年生7人・2年生6人・3年生9人)
■答えてくれた人 佐々木偲人くん、佐藤理来くん、平戸李奈さん(全員2年)
コレステリック液晶の色が変わる原理は?
簡単かつ安全に作ることができる液晶として、「コレステリック液晶」というものがあります。これは、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)と蒸留水を混ぜることで作ることができます。この液晶は、液晶の分子結合によって作られる螺旋ピッチ(※)という構造の長さと等しい波長の光を反射するため、螺旋構造の長さの変化に応じて様々な色に見えることが知られています。さらに先行研究から、コレステリック液晶の色調変化は、温度、濃度の変化に関係していることがわかっていますが、色にムラがあることが多く、その正確な規則性はまだわかっていません。
※液晶の分子結合によって作られる螺旋構造。反射した光の波長は液晶内の螺旋ピッチの長さと等しい。
そこで今回私たちは、コレステリック液晶の単色化を成功させることと、それをもとにコレステリック液晶の色調変化の規則性を調べることの2点を目的として実験を行いました。
液晶の単色化を目指して
まず、色にムラがない液晶を作るための条件を探す実験を行いました。私たちは、先行研究では行っていなかった、湯煎という行程をはさむことで色ムラをなくすことができるのではないかと考え、次のように実験を行いました。
まず、蒸留水1.00 gに対し、HPCを1.40 gから2.00 gまで0.10 g刻みの7段階で用意します。続いて、40.0 ℃に温めた水の中にビーカーを入れ、湯煎しながら蒸留水とHPCを少しずつ混ぜます。混ぜ終わったら、ビーカーからスクリュー管にコレステリック液晶を移し、1日に2回反転させるという作業を3日間繰り返しながら保存します。コレステリック液晶は非常に粘性が高いため、反転させてから降りてくるために約6時間かかります。また、スクリュー管側面を伝ってゆるやかに落ちてくる際に螺旋ピッチの方向が整えられ、安定すると考えたため、反転という行程を加えました。
その結果、色ムラのない液晶を作ることができました。先行研究の方法で作成した液晶と比べると、全体が均一な緑色になっており、単色化に成功したことがわかります。
このように、色ムラをなくすことができた理由は2点あると考えました。一つは、ビーカーで混ぜてからスクリュー管に移したことで、スクリュー管側面に張り付いていた、濃度の異なる液晶が混ざらなくなったこと、そしてもう一つは、湯煎しながら混ぜたことで、HPCの溶解度が大きくなったため、濃度を均一にしやすくなったことです。
液晶は温度と濃度でどう変わる ?
次に、コレステリック液晶は温度と濃度によってどのように変化するか調べました。
スライドガラスに、前述の方法で作成した液晶をはさみます。この際、液晶が少しでもずれてしまうと螺旋ピッチが崩れるため、テープでしっかりとカバーガラスを固定したものを用意します。
私たちはまず、5℃から40 ℃までの5 ℃刻みの8段階の条件で色調の変化を観察することにしました。
室温以上の条件については恒温水槽を、室温以下の条件については氷水を用いて目的の温度にし、カメラで撮影します。その結果、温度が高くなるにつれて液晶の色が青から赤へと色が変化していく様子が観察でき、温度変化と色調変化の間に規則性が見られました。
しかし、カメラで撮影した場合は、光の条件を統一することができないため、色の変化についてはスキャナーを用いて観察することにしました。
スキャナーを用いた結果、先行研究でもわかっていたとおり、高温・低濃度になるほど螺旋ピッチは長くなり、波長の長い色が見られ、逆に低温・高濃度になるほど螺旋ピッチは短くなり、波長の短い色が見られるという傾向が確認できました。
温度が高く、濃度が低い条件下では一部が白濁している様子が見られました。この原因について私たちは、熱運動が活発になり、螺旋ピッチが崩れ、光の乱反射が起こったためだと考えています。
また、温度が高く濃度が低い時と、温度が低く濃度が高い条件下では、どちらも無色透明になりました。これは、螺旋ピッチが膨張して長くなる、あるいは凝縮して短くなるため、反射する光の波長が可視光線外になるためだと考えられます。
圧力は色に影響するのか?
さらに、この実験を行う過程で、カバーガラスを固定するために液晶に圧力をかけた際に色の変化が見られたため、液晶の色調変化に、圧力も影響を与えるのではないかと考え、圧力の変化によってコレステリック液晶の色がどのように変化するかを観察しました。
スライドガラスに液晶をはさみ、0.1 N/mm2の圧力で加圧します。加圧後も観察を続けた結果、加圧中は一時的に波長の短い色になりましたが、加圧3分後にはほぼ元の色に戻っていることがわかりました。このことから、加圧中は螺旋ピッチが圧縮され短くなるため一時的に波長が短い光を反射しますが、時間が経つと螺旋ピッチの状態が元に戻るため色が戻ると考えられます。
この実験結果から、コレステリック液晶の色に影響を与える要素の一つに圧力もあることがわかりました。
液晶にかかる圧力を固定して他の2つを調べる
以上から、液晶の色調変化の原因は温度、濃度、圧力の3つであることが判明しましたが、3つの条件を同時に変化させることは困難なため、圧力を固定化する方法を考えました。
まず、シャーレの中心に液晶を垂らし、周囲にレジンを流します。これに0.2 N/mm2の圧力を加え、レジンが固まるまで加圧を続けます。
その結果、常圧で液晶が赤色を示す温度・濃度の条件下で、液晶が波長の短い色を長時間保ったため、圧力の固定化に成功したことがわかります。先ほどのスライドガラスを用いた場合と異なり、時間をかけて液晶の螺旋ピッチを凝縮させているため、色の変化をはっきりと確認することができます。
また、写真を見ると中心に向かって波長が短くなっていき、最終的に無色になっています。この原因は、プラスチック製のシャーレを用いたために変形が起こり、中心に向かうほどかかった圧力が大きくなったためだと考えられます。
このように、圧力の固定化が可能になったため、温度、濃度、圧力の3つの条件を同時に変えて実験を行うことが可能になりました。また、コレステリック液晶は水分が蒸発してしまうと濃度が高くなり、色を保存することができませんが、レジンによって密閉することで、色を長期間保持することができるようになります。
今回の研究を通して私たちは液晶の単色化に成功し、温度、濃度の条件を変えた際の色の変化の傾向について明らかにしました。
高温・低濃度・低圧の条件下では螺旋ピッチが長くなり、波長が長い色になります。その逆に、低温・高濃度・高圧の条件下では螺旋ピッチが短くなり、波長が短い色になります。これらの結果から、温度、濃度、圧力の条件によって液晶を特定の色にすることができるのではないかと考察しました。
私たちはさらに、コレステリック液晶の有効な活用法について考えています。現段階では液晶を用いたコップやオブジェの製作に成功しており、季節によって少しずつ色が変化する様子を楽しめます。またコップは中に入れる液体の温度によっても変色します。
このように、コレステリック液晶は芸術品としての価値が高いと考えられるため、そちらの方面での研究を進めたいと考えています。
今後は様々な溶質や溶媒を用いた時のコレステリック液晶の色の変化や、液晶の色調変化の数式化、圧力による色調変化のより詳しい分析、コレステリック液晶の活用などを研究課題として考えられています。特に色調変化の数式化については、色の数値化にはすでに成功しているため、これを様々な方法で分析していきたいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
本校の先輩方がコレステリック液晶の色の変化について研究していたため、さらに継続して研究をしようと思いました。その理由は、まず液晶が美しかったからというのと、研究方法を変えることで、もっと詳しい結果が出るのではないかと思ったからです。先行研究では、色の変化で相関がとれていないところがありましたが、実験方法を変えることで規則正しい相関がみられるのではないかと考えました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
昨年5月に研究を開始し、1日あたり約2~3時間行いました。
■今回の研究で苦労したことは?
コレステリック液晶は、少しの圧力でも螺旋ピッチが変化し、色が変化してしまうため、、慎重に実験するのに苦労しました。また、8段階の温度・7段階の濃度というようにデータ量が多かったため、全てのデータを正確に取るのが大変でした。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
・液晶の色の均一化において、「湯煎」という新しい工程を入れたこと
・先行研究の「温度・濃度」表に多くあった色のムラや異常値が、今回の研究でほぼ解消され、 相関をより正確に見ることができたこと
・新たに「圧力」の条件について調べ、規則性を明らかにしたこと
・液晶の色を数値化する際に、我々独自の指標を定めたこと
・液晶の活用に挑戦し、コップや置物の作製に成功したこと
などです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
[1] 「色が変わる液晶の不思議」進藤光太 他
(平成 28 年度宮城県高等学校理数科課題研究発表会 栞)
[2] 「コレステリック液晶の研究」菊池紗也香(TXテクノロジー・ショーケースinつくば2010)
[3] サイト「コレステリックの固定化」
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今回の研究はすでに終了していますが、今後の展望で述べたように未解決の問題もあるので、後継研究に期待しています。現在は、有機溶媒を用いた無電解メッキの研究をしています。通常、イオン化傾向の差を利用した無電解メッキを行う際は、イオン化傾向が小さい金属の化合物の溶液として水溶液を用いる場合がほとんどですが、 先行研究において、ジエチルエーテルにテトラクロロ金(III)酸四水和物H[AuCl4]·4H2Oを直接溶かし、亜鉛などを加えることで金をメッキしています。そこで我々は、 他の金属化合物や有機溶媒について、金属化合物を溶かした有機溶媒に金属単体を加えた際にメッキが可能かどうか、さらにどのようなメッキになるのか調べることとしました。
■ふだんの活動では何をしていますか?
主に研究を行っていますが、年に数回学会に参加させていただいています。その他にも、子ども向けの実験ショーを不定期で行っています。
■総文祭に参加して
総文祭は研究を多くの人に知ってもらえる貴重な機会でしたので、出場することができとても嬉しかったです。全国から人が集まるというだけあって、自分が考えもしないような様々な研究を聞くことができたので、とても勉強になりました。ハイレベルな研究を見ることができ、今まで以上に実験に対する熱意を燃やすことができました。今回の経験を今後の研究活動に活かしていきたいと思います。
※仙台第三高校の発表は、化学部門の優秀賞を受賞しました。