2018信州総文祭
(2018年8月取材)
■部員数 17人(うち1年生5人・2年生8人・3年生4人)
■答えてくれた人 川崎康生くん(3年)、橋本綾華さん(3年)、中原憧哉くん(2年)、児玉悠泰くん(2年)
ウツボカズラの捕虫器内の液体はなぜ増減する?
私たちは、食虫植物の捕虫とその消化に興味を持ち、手に入れやすいヒョウタンウツボカズラを用いて実験を行いました。実験は、12~4月、5~8月の二期に分けて行いました。
今回の実験では、
・捕虫器内の液体量の調節機構
・捕虫器内の液体の性質や働き
・細菌の性質や働き
の3つの事柄を明らかにすることを目指しました。
はじめに捕虫器内の液体量の調節の仕組みを調べました。私たちは、ウツボカズラの栽培を始めて数日後に、捕虫器内の液量が大幅に減少してしまったことに気づきました。これは、もともとウツボカズラは雨の多い場所に生育していることから、捕虫器内に雨水が入ることによって液量が増えているのではないかという仮説を立て、実験を開始しました。
実験では、2mの高さから水道水を2分間で200mLメスシリンダーに50mLの水が溜まる強さのシャワーを浴びせて人工雨として降らせ、12個の捕虫器内の液量を計測しました。この時、対照実験として同じ場所に捕虫器と口径がほぼ同じの15mL遠沈管を置いて溜まった液量を計測し、7回計測して平均を求めました。この際、捕虫器を
・つるに背を向けた自然な形状のもの、
・捕虫器の位置が自然な状態でないもの
・フタが枯れているもの
の3つに分類して分析しました。
結果を分析すると、正常な形態のものほど、雨水による液量の増加幅が少なく、捕虫器は雨水が入りすぎない構造になっていることがわかりました。
続いて、捕虫器内に水を一定量入れ、液量の時間変化を計測しました。対照として、50mLメスシリンダーに水を50mL入れたもので、1日1回、25日間にわたって蒸発による減少量を測定しました。すると、メスシリンダーではほとんど液量が減少しなかったのに対して、捕虫器では、平均すると21日間ではじめの約40%程度に減少しました。
また、ある捕虫器で液量が大きく減少したのと同時に、他の捕虫器では大きく増加するという現象も見られました。
さらに上部の葉と下部の葉で分けて見ると、増加と減少がセットで起こっていることから、植物体内で捕虫器内面における水分の吸収、分泌を調整していることが推測されました。
捕虫器の液体量の調節に特化した維管束がある!
続いて、捕虫器内の水分がどこを通っているかを分析しました。当初、葉を切り取り、断面から色水を吸わせましたが、何度実験しても染まらない維管束が存在しました。これは実験の失敗ではなく、維管束の性質上のものではないかと考え、捕虫器からの水分、捕虫器への水分の移動について明らかにするため、以下の実験を行いました。
まず、捕虫器内に赤色の水溶液を入れ、葉が赤色を帯びるまで待ちます。その後葉を付け根から切断して青色の水溶液に浸し、捕虫器のふたが青くなったら断面を観察しました。
結果は下図のようになり、葉から送られてくる水と捕虫器から吸収した液体は別の維管束を通っていることがわかりました。
捕虫器内の液体はどのように虫を消化するのか
続いて捕虫器内の液体の性質を調べる実験を行いました。
アリを蒸留水に入れるとある程度浮かんでいますが、捕虫器に入れるとすぐに沈んでしまいます。私たちはこれに注目し、捕虫器内の液体は界面活性剤の働きを持っているのではないか、という仮説を立てて検証しました。
まず、黒色色素で色をつけた油で水の表面に油膜を張り、そこに蒸留水と捕虫器内の液体を滴下しました。すると、蒸留水では油膜の上に水滴が乗った状態でしたが、捕虫器内の液体は輪が広がって境目の色素が薄くなりました。このことから、捕虫器内の液体には界面活性剤のような働きがあることがわかりました。
続いて、捕虫器内の液体の消化力を知るために、捕虫器内の液体の液性(pH)を調べました。最初私たちが調べた液体には中性に近いものが多かったですが、文献によると強い酸性とありました。そこで、捕虫器内の液体は最初は酸性で、次第に中性に近づくのではないかという仮説を立てて実験を行いました。
実験では、もうすぐ蓋が開きそうな捕虫器に番号を振り、ふたが開いた日から7日ごとに、3か月から3か月半にわたってpHを測定しました。このスライドが、pHの変化をグラフに表したものです。
pHはやや酸性よりのpH5.6程度からスタートし、その後pH7~8程度近くまで上昇してしばらく安定し、その後低下することがわかりました。また、途中でいくつかpHが大幅に低下したものがあり、中を確かめるとユスリカが入っていました。
そこで、捕虫器内の液体は、虫が入るとpHが低下するのではないかと考え、さらに追究しています。
虫を消化するのは細菌ではなく液体自身のチカラ
最後に、細菌の消化力と捕虫器内の液体の消化力を調べました。細菌は一度寒天培地で培養し、出現したコロニーのうち、数が多く勢力が強いと考えられる種をゼラチン培地に移しました。捕虫器内の液体は、滅菌フィルターを通した上でゼラチン培地に滴下しました。
すると、これらの細菌を移したゼラチン培地は溶けず、液体を滴下したゼラチン培地は溶けました。つまり、このとき勢力が強かった細菌ではなく、液体に消化力があることがわかりました。
また、この実験で冬と夏とでは細菌の種類と数が大きく違うことに気づきました。そこで、気温が関係するのではないか、という仮説を立てて、調べました。
グラフのように、気温が上昇すると、細菌の種類は減りますが、細菌数は増加しました。また、元気な捕虫器は細菌の種類が少なく、細菌数が多いことがわかりました。細菌の種類は、夏になると大幅に減少し、平均2.5種になりました。細菌の種類数が減ることで液の腐敗を防ぐことのメリットがあるのではないかと考察しました。
ウツボカズラの捕虫器のしくみは…
捕虫器の形状は、雨水が入りすぎないようになっており、葉からの水分を通すものとは別の維管束を使うことで、捕虫器内の液量の調節を行っています。そして、捕虫器内の液は、界面活性剤のような働きをして、虫を捕まえるとすぐに沈め、さらにpHを変化させることで、捕えた虫を消化することがわかりました。
また、液中の細菌の種類と数は、温度によって変化していることがわかりました。細菌の種類の減少は液の腐敗を防ぐことにつながっている可能性が考えられるので、それについてはこれから明らかにしていきたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
もともと植物が好きで、その中でも少し変わった植物を研究したいと思い、日本でも手に入りやすいウツボカズラを研究の題材としました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2017年6月から2018年6月までの約1年間。1日あたり約3時間研究を行っていました。
■今回の研究で苦労したことは?
ウツボカズラに興味を持って研究を始めようと思ったのですが、いざ研究となると、始める段階で詳しい研究内容が決まっておらず、手探りの状態で何をどのようにして調べるのか、考えることに苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
高校生の力だけで、工夫しながら研究を進めたことです。文献を調べてわかったことも、自分たちで「本当にそうなのか」を実験して確認しました。すると、文献とは異なる結果となることもあったので、その矛盾を調べることでまた次々に疑問が出てきて、さらに追求していくというような研究の積み重ねを行いました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・『ウツボカズラの栄養獲得機構』(2003) 小林昭雄、福崎栄一郎、安忠一(日本農芸化学会編.ウツボカズラの栄養機構.科学と生物.141(2))
・『Nepenthesにおける消化液のpH特性』(2008)倉田薫子、矢ケ部重孝(共通教育センター紀要:1; 31-37)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
現時点では結論があいまいなままで終わってしまっているので、「こうだ!」と言えるような結論にしていくために、データ量を増やしていきたいと思っています。また、他にもアレロパシー(※)やクモの研究を行っています。
※ある植物が他の植物の生長を抑える物質(アレロケミカル)を放出したり、あるいは動物や微生物を防いだり、あるいは引き寄せたりする効果の総称。「他感作用」と訳される。[Wikipediaより]
■ふだんの活動では何をしていますか?
生物のお世話をしながら日々疑問に思うことを探しています。今、お世話しているのは、アホロートル、アフリカツメガエル、トビハゼ、ミドリイソギンチャク、カワムツ、ギンブナ、ドジョウ、グッピー、ウツボカズラ、ゾウリムシ、ボルボックス、ミドリムシ、カナヘビなどです。
■総文祭に参加して
私たちは、今回の総文祭に出場して、研究のまとめ方が大切だと学びました。総文祭で発表されたポスターやスライドは、どれも見やすく、伝えたいことを的確に伝えることができているものばかりでした。そのため、私たちの知らない物事でもすぐに理解することができ、見ていくうちに興味をひかれる発表になっていました。
ですから、他校の研究テーマや内容はとても参考になり、面白いものばかりでした。とても深い高度な研究や、すぐ身近にあって気づいてはいたけど、調べていなかったことなど、幅広いテーマがあり、驚かされました。
全国の高校生の研究や発表を見て、大変刺激になったので、総文祭に参加できて、とても良かったと感じました。私たちも他校のまとめ方を参考にし、研究活動がよりよいものになるよう頑張り、さらに研究して、また総文祭に出られるように取り組んでいこうと思っています。