2018信州総文祭
(2018年8月取材)
■部員数 7人(うち1年生3人・2年生1人・3年生2人)
■答えてくれた人 草野侑巳くん(3年)
ドブガイは淡水に棲むイシガイ科の二枚貝で、川や沼の底の泥中に生息しています。日本のほか東アジア一帯に分布し、またヨーロッパなどに外来種として存在しています。
ドブガイ族には、ドブガイ属と、フネドブガイ属などが含まれますが、塩基配列のデータが十分に揃ってないため、分類の研究が進んでいません。
大阪教育大学の近藤高貴先生は、ドブガイ属には4つの種があるとしていますが、世界的なデータベースである”The MUSSEL Project”によると、分類は2種となっています。近藤教授は形態などを元に、”The MUSSEL Project”は一部の地域のドブガイ属の塩基配列をもとに分析したからだと考えています。
私たちは、全国の様々な地域のドブガイの塩基配列・形態を調べることでこの分類の矛盾を解決できるのではないかと考え、研究を行いました。
そこで、全国のドブガイ族研究者に協力いただき、サンプルを収集しました。そして、サンプルからDNAを抽出し、PCR法で増幅して電気泳動にかけ、シークエンス解析をしました。そしてネット上のGenBankのデータも利用して、系統樹を作成しました。
今回の研究で採用した基準を元にすると、ドブガイ族はヌマガイ属、タガイ属、フネドブガイ属の3つの属からなり、さらにそれぞれ3種、4種、3種に分類されることがわかりました。つまり、新しい属1つと、新しい種5種が増えることになります。
今後の研究では、詳細な地理的分布を調べ、ドブガイ族が地理的隔離により種分化したのではないかという仮説を検証していくとともに、形態や塩基配列以外の特徴についても調べ、新種として確立できたらと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
松山高校生物部では、もともとミヤコタナゴという魚を研究していました。この魚は、イシガイ科の貝に産卵するという特殊な生態を持っています。そのため、私たちはミヤコタナゴを研究していく過程で、イシガイ科の貝についても研究しました。そして、それらの研究の成果を引き継ぎ、「ドブガイ族の種分化とその種の同定法」というテーマで研究していきました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2016年から、週25時間で24か月です。
■今回の研究で苦労したことは?
貝のサンプルを集めるのに苦労しました。研究の性質上、様々な都道府県のサンプルを集めなければいけないのですが、そのサンプルを集めるために研究者とコンタクトをとるのが大変でした。また、サンプルをいただくために、その土地の博物館にまで出向いたりといったことも苦労のひとつです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
貝の種を判別するために塩基配列という観点を利用した点に注目してほしいです。日本ではドブガイの種を判別するために、塩基配列という基準はあまり用いられていませんでした。私たちの研究、ミトコンドリアのCOI領域の塩基配列に着目し、種を分類したため、それまでとは異なる分類系を発見することができました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
[参考文献]
「日本産イシガイ目貝類図譜」近藤高貴(日本貝類学会 特別出版物第3号(2008))
先行研究 :
(1) 「日本両性遺伝するドブガイ類の雄ミトコンドリアの分子系統」石川春木・砂村遥平(松山高校生物部(2008))
(2) 「Phylogeny of the most species-rich freshwater bivalve family (Bivalvia: Unionida: Unionidae): Defining modern subfamilies and tribes. 」Manuel Lopes-Lima et al.(2017)Mol Phylogenet Evol. 106:174-191.
■今回の研究は今後も続けていきますか?
ドブガイ族の研究は、今回で終わりにしようと考えています。ドブガイ族、ひいてはイシガイ科の研究は今年で一段落がつき、また、私たちを指導していただいた先生も退職されることなどが研究を終わりにする理由です。今後別のテーマで研究を行うのであれば、今回の研究で学んだ遺伝塩基配列の知識を活かし、近年発展を遂げている合成生物学や遺伝子編集の分野を研究してみたいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
主に、研究で使用するDNAの増幅、確認のための電気泳動、塩基配列データを用いた分子系統樹の作成を行っています。また、大会前は、パワーポイントの作成、発表練習等も行っています。
■総文祭に参加して
私たちは今回の総文祭では、何も受賞することができませんでした。私たちの研究は様々な大会に出場し、いくつも賞をいただいてきたため、この結果は少なからず衝撃でした。しかし、裏を返せば「様々な大会で入賞し、今回の大会で入賞しなかった」ということは、私の発表技術が足りないということを示しています。今後、私はこの大会発表で自分に何が足りなかったかを考え、次の発表の糧とすることで、この大会を本当の意味で有意義なものにしていきたいと思います。