2018信州総文祭
(2018年8月取材)
左から森田柚衣さん(3年)、畑瀬詩乃さん(3年)
帽子はアリアケスジシマドジョウを研究する生物班の皆さんに、代々引き継がれているものです
■部員数 29人(うち1年生12人・2年生8人・3年生9人)
■答えてくれた人 嬉野佑斗くん(2年)
圃場整備はアリアケスジシマドジョウのライフサイクルを阻害する
アリアケシマスジドジョウは、有明海流入河川にのみ生息するスジシマドジョウの小型九州種で、近年になり新種であることが明らかになりました。2017年には、環境省レッドリストで、「ごく近い将来絶滅の危険性がある」とされる絶滅危惧IB類に指定されています。私たちは、アリアケスジシマドジョウの保護のため、圃場整備が本種に与える影響についての調査や人工繁殖法の確立、生態の解明に向けた研究を行っています。
佐賀県には農業用水路が整備され、多種多様な魚類が生息していますが、近年アリアケシマスジドジョウの生息域で圃場整備が進み、環境が大きく変化して絶滅が加速するのではないか、ということが危惧されています。
ドジョウ科のライフサイクルにおける最大の特徴は、「一時的水域」へ移動して交尾を行うことです。具体的には、水路と水田がつながっている状態では、降雨などで増水したときに水路から水田に移動して交尾・産卵を行うことが可能ですが、圃場整備によって水路から水田への水の移動がポンプで行われるようになると、この移動ができなくなります。
そこでまず圃場整備が本種にどのような影響を与えるのかを調べるために、個体数調査を行いました。2013年から6年間、107回にわたって、1928個体について行いました。
圃場整備の前と後の川岸の様子は下図の通りです。
調査は、タモ網・サデ網を用いた2名が30分間捕獲を行う形で行いました。その中で体調5cm以下の稚魚の数を表したのが左のグラフです。圃場整備の前後で、明らかに捕獲個体数が減少しており、圃場整備が繁殖の機会を減少させていることがわかります。コンクリートで両岸が固められることによって植物が減少して稚魚が生息できない環境になり、種の存続に影響を及ぼしていると考えられます。
生態の解明から、さらに成功率の高い人工繁殖法の目指す!
そこで今年度は、ゴナトロピン(性腺刺激ホルモン)を用いた人工繁殖実験に挑戦しました。
昨年までの実験で受精卵を得られた、「雄3個体と雌6個体、水槽の横からではなく上から光を当てる」という飼育条件で人工繁殖を行いました。観察開始2日後、卵と仔魚を得ることに成功しました。
今年度のもう一つの研究が、アリアケシマスジドジョウの生態の解明です。人工繁殖のために飼育していても、仔魚の成長が遅い、雌が生成熟しない、交尾行動をしないなど繁殖につながらない問題が生じていたため、2016年から生態解明のための観察を開始してきました。
今年は、卵の発生過程をタイムラプス撮影しました。また本種の交尾行動の様子を観察、及び撮影を行いました。
この動画を先行研究の多いマドジョウと比較した結果、マドジョウと類似した生態であることが判明しました。これにより、マドジョウの先行研究を参考に研究を進めることが可能になりました。
今後も個体数調査を継続し、個体数の変動を記録するとともに、自然環境での個体数の移動範囲も調べていきたいと思います。また、人工繁殖についてはより成功率の高い方法を模索することで、繁殖行動における環境の影響を精査したいと思います。さらに、撮影器具の設置を工夫して、1個の受精卵の初期発生から孵化までの経過を撮影し、生態のさらなる解明を目指します。
■研究を始めた理由・経緯は?
圃場整備(他の区画整備により、河川の環境も大きく変化します)によって、河川に生息する生物が受ける影響について調べるためです。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2013年に研究を開始。1日2時間で6年間続けています。約2か月に1回、3時間程度のフィールドワークも行っています。
■今回の研究で苦労したことは?
個体数調査を行うことと、人工繁殖実験を成功させることです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
目的・導入をきちんと示して、スライドを見やすくしました。発表とはあまり関係ありませんが、「ドジョウの帽子」を作りました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究などがあれば教えてください。
・『日本産シマドジョウ属魚類の標準和名の提唱』. 中島淳、洲澤譲、清水孝昭、斉藤憲治(魚類学雑誌,59:56-95. (2012))
・『環境省2017『レッドリスト、汽水・淡水魚』.14-131.
・『世界百科辞典』 (平凡社).75-624.(1988).
・『一時的水域で繁殖する魚類の移動・分散に関する研究』1-2.西田一也、藤井千春、千賀裕太郎(農業土木会論文集(2006))
・『環境との調和に配慮した水田圃場整備の考え方』渡辺亮 、東北自然環境グループ.1-2. (いであ i-net vol.11_2005.7)
・『絶滅危惧種ホトケドジョウの人工繁殖』宮本良太、勝呂尚之、細谷和海 (近畿大学農学部紀要.42:119-126. (2009))
・『ゴナトロピン投与ドジョウの自然産卵を用いた採卵と粗放的稚魚飼育に関する研究』
野口大悟、樋口正仁、山田和雄(新潟県内水面水産試験場調査研究報告No.33(2009))
■今回の研究は今後も続けていきますか?
続けます。今後は、
・ドジョウの移動範囲を調べる。
・産卵場所の提供。
・人工下で性成熟させる。
などについても挑戦したいと思っています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
ドジョウの飼育や生態調査を行っています。また、文化祭の企画展示、実験交流会なども行っています。
■総文祭に参加して
いろいろな研究が聞けて楽しかったです。