(2018年8月取材)
■部員数 7人(3年3人、2年1人、1年3人)
■答えてくれた人 小関光太くん(2年)
「水中シャボン玉」のフシギ
皆さんは「水中シャボン玉」をご存じですか。セッケン水の中にセッケン水のしずくを落とすと、水中にシャボン玉が浮かぶという現象です。実際の動画をご覧ください。
ふつうのシャボン玉は、シャボン液の膜の中に空気が包まれています。ところが、この水中シャボン玉は、膜を作るのはシャボン液ではなく空気です。しかも、その空気の膜の中にセッケン水が浮かんでいるのです。「空気の中で液体が浮く」というのは、不思議ですよね。
そこで私たちは、「どのようにして、水中シャボン玉が作られるのか」、そして、「なぜ、空気の泡の中に液体が浮かぶことができるのか」という疑問を解明するため、研究を始めました。
「水中シャボン玉」のうまい作り方
私たちは「水中シャボン玉」を次のようにして作りました。
・使うもの:水槽、ストロー、水、スポイト、洗剤(「界面活性剤」という成分が9%含まれるもの)
・手順:
(1)水を水槽の中に入れる。
(2)水100mlに対して、洗剤をスポイトで数滴程度の割合で洗剤を溶かす。
(3)ストローの端をシャボン水の中に垂直に数cm差し込む(このとき、ストローのもう片方の端に指を当てない)。
(4)ストローをシャボン水に差し込んだまま、ストローのもう片方の端を指でふさぐ。
(5)指で端をふさいだままストローを端を水面から数cm持ち上げ、その状態でストローの端をふさいだ指をはなす。
(6)ストローの中からシャボン液が落下し、水槽の中で「水中シャボン玉」ができる。
うまく水中シャボン玉を作るためのポイントは、「セッケン水の濃度」「落下させるシャボン液の量」「シャボン液を落下させる高さ」の3つです。
そこで私たちは、
・(2)で水槽に加える洗剤の量(何滴加えたか)
・(3)でストローを何cm差し込むか
・(5)で何cmの高さから落とすか
という三つの条件を様々に変えながら実験を繰り返し、うまく水中シャボン玉を作るための条件を調べました。それぞれの条件下で実験を20回行い、丸い水中シャボン玉がうまく作ることができた回数を数えました。
この実験の結果、
・水100mlに対し、洗剤0.18ml(スポイト3滴)
・ストローを差し込む長さは2~3cm(ストローの断面積は0.27cm2)
・シャボン液を落とす高さは0.5~1.0cm
という条件で水中シャボン玉を作ったとき、最も成功率が高いことがわかりました。
水中シャボン玉はどのようにして作られるのか?
私たちは、水中シャボン玉ができる瞬間をハイスピードカメラでとらえることで、シャボン玉が作られる仕組みを調べることにしました。そうして撮影したのが、こちらの動画です。
シャボン玉が作られる過程は、大きく4つの段階に分けることができます。
(1)落下したシャボン液が水面とぶつかる瞬間、溶液と水面の間に空気の層ができる。
(2)落下した溶液が水中にめり込んでいき、細長い水中シャボン玉が作られていく。
(3)最後に、シャボン玉のてっぺんが閉じる。
(4)シャボン玉の上部が勢いよく降りていき、シャボン玉が球形になる。
そもそも、なぜ、最初の(1)で空気の層が作られるのでしょうか。このことに関しては先行研究があります。
空気の層が作られる仕組みを理解するためには、まず、シャボン液の中に含まれている「界面活性剤」という成分について知る必要があります。私たちが実験に用いた洗剤には、界面活性剤という細長い分子がたくさん含まれています。この界面活性剤の分子が水中に入ると、端にある「親水基」という部分がマイナスの電気を帯びるようになります。重要なのは、マイナスの電気とマイナスの電気を近づけると、互いにしりぞけ合う力が働くということです。
これらの界面活性剤が、水槽のシャボン液の水面にも、落下するシャボン液の表面にもたくさん集まっています。水面と落下するシャボン液がぶつかるとき、マイナスの電気を帯びた界面活性剤同士がたがいに反発することで、シャボン液と水面の間が完全にくっつかずに、空気の層ができてしまうのです。ただし、シャボン液を落とす高さがあまりにも高いと、落下するシャボン液が電気の反発力を破って水面とくっついてしまい、空気の層がうまくできません。シャボン液を落とす高さが高すぎてはいけないのは、このような理由によるものだと考えられます。
私たちは、水中シャボン玉の壊れ方も調べました。シャボン玉の中のシャボン液は食紅で赤く着色しています。ハイスピードカメラでとらえた、水中シャボン玉の壊れる様子をご覧ください。
一度作られた水中シャボン玉はしばらく安定していますが、シャボン玉の表面で界面活性剤の作用が弱まり、空気膜が破れると考えられます。この間、およそ0.02秒。一瞬のプロセスです。
このように、水中シャボン玉の発生・消滅には、界面活性剤の反発力が深く関わっています。
なぜ空気の泡の中でシャボン液が浮かぶのか?
私たちは、空気の泡の中でシャボン液が浮かぶという現象にも、やはり界面活性剤の反発力が重要な役割を持っていると考えました。私たちが注目したのは、「静電気を帯びた二つの物体の間に働く電気的な力は、物体どうしが近づけば近づくほど、強くなる」という事実です。
下図のように、水中シャボン玉の中のシャボン液は、上の部分でも下の部分でも静電気の反発力を受けています。しかし、下の部分の空気層が上の部分よりも薄くなれば、その分だけ、シャボン液を上向きに押す力が強まり、シャボン玉の重さを支えることができるのではないか、と考えました。
そこで私たちは、水槽に定規をとりつけて、水中シャボン玉の写真を撮影し、写真から空気膜(上の部分・下の部分・左の部分・右の部分)の厚さと中のシャボン液の大きさを測りました。
結果は下の通りです。平均すると、シャボン液の球の直径の0.28倍の厚さの空気膜ができていることが分かりました。さらに、実験データから、下の部分の空気膜は上の部分の空気膜よりも必ず薄いということがわかり、「静電気の力でシャボン液の重みが支えられることで、シャボン液が浮く」という私たちの考察が裏付けられたと言えます。
さらに私たちは、高校で習う「力のつりあい」と「クーロンの法則」を用いて、シャボン液の表面に分布している静電気の量を概算してみました。その結果、水中シャボン玉の表面では、1㎠あたり2~3nC(ナノクーロン(※))くらいだとわかりました。
※「C(クーロン)」は静電気の量の単位。「1nC(ナノクーロン)」は「1C」の十億分の一
下敷きなどを擦ったときに生じる静電気も、1cm2あたり数ナノクーロン程度だと言われており、計算結果は現実的な数値だったと言えます。シャボン液の表面に生じるようなわずかな静電気の力でも、シャボン液を空気中で浮かせるのに十分であるということです。
これらの実験から、「水中シャボン玉」が作られ、その中でシャボン液が浮遊することができるのは、静電気の力によるものだということがわかりました。今後は、様々な種類の界面活性剤を用い、シャボン液の濃度なども変化させながら実験をすることで、研究を深めていきたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
インターネットでこの現象を見て、どのような仕組みで水中シャボン玉ができるのか、また、「液体が空気に包まれて浮いている」という大変不思議な現象に興味を持ちました。実施に作ってみると、溶液の落とし方や落とす高さなどで、水中シャボン玉ができたり、できなかったりします。そこで、その仕組みを解明したいと思い研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
昨年の8月頃からはじめました。研究は放課後や休日に行い、週4~5日で、1日あたり2~4時間です。
■今回の研究で苦労したことは?
水中シャボン玉の膜の厚さをできるだけ正確に測るために、水中シャボン玉がカメラの中央に来た時の動画を利用することにしました。そのため、動画を何回も何回も撮りました。また、落とす溶液に色を付けて実験を行ったときは、水中シャボン玉が割れたときに容器の溶液にも色が着いてしまい、溶液の交換が大変でした。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
カメラ以外は身近な実験器具で行いました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「Bubble in water」(愛知県碧南市立西端中学校 神谷奈於、白木いくみ)
・高校教科書「物理」(数研出版)
・高校教科書「改訂 化学」(東京書籍)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今後もこの研究を継続していきたいと思います。今回の発表で、「空気膜の厚について、光の屈折を考慮しているか」といった指摘を頂きました。膜の厚さは、我々の測定値よりもだいぶ薄いとの報告もあります。膜の測定方法を工夫し、より正確な厚さを調べたいと考えています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
わたしたちの高校の自然科学部は、物理化学部、生物研究部、環境科学部の3部があります。
それぞれの部が、互いの研究について意見を交わし合ったり、時には協力し合ったりしています。また、研究テーマを見つけに科学館や博物館に出かけたり、地域の小中学生を対象とした模擬授業やサイエンスショーを行ったりと、みんな仲良く楽しく活動しています。
■総文祭に参加して
まず、自分たちの研究をしっかり発表することができてほっとしています。また、審査員の先生方から、研究の問題点や新たな課題をいただき良かったです。さらに、他校の生徒さんたちの発表は、レベルが高く、大変刺激になりました。