(2018年8月取材)
全国の高校で文科系の部活で頑張る高校生たちが集まって、日頃の成果を競う全国高等学校総合文化祭。平成最後の夏となった今年は、長野県内の17の市と町で、28部門に全国から約2万人の高校生を集めて開催されました(8月7日~8月11日)。
自然科学部門は、茅野市の公立諏訪東京理科大学で開催されました。2018年8月7日・8日の2日間、「物理」「化学」「生物」「地学」「ポスター(パネル)」の5部門で、計186の研究成果の発表が行われました。また、8月8日の午後は諏訪市周辺の巡検や研究施設の巡検や見学、8月9日は諏訪市市民会館で信州大学理学部の鈴木啓助先生の記念講演と生徒交流会、表彰式・閉会式が行われました。
ふだんは涼しい信州も、総文祭期間中はこの夏一番の猛暑でしたが、会場のあちこちで暑さに負けない熱のこもったディスカッションが繰り広げられました。
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研究発表では、物理37、化学38、生物39、地学35のプレゼンが行われました。
1校あたり持ち時間12分以内の発表と、その後4分以内の質疑応答で行われます。審査は発表前に提出された研究発表論文による事前審査(計10点)と、発表会場での当日審査(計30点)によって行われました。
クサグモは餌となる昆虫の動きを「聞き分けて」いた!
「クサグモの捕食行動における誘引周波数」
水が生み出す不思議な「円」のメカニズムを、新たな視点から究明!
「跳水の研究」
『地下水崖線』を発想した瞬間、地下水の動きのメカニズムの全貌が見えてきた
「東京都新宿区落合地域における水文地質的構造の推定」
テーマ研究のネタ探し中に偶然気が付いた、輪ゴム飛ばしの「反り上がる」軌道。その理由に迫る! 「輪ゴム飛ばしにおけるホップアップの研究」
空気の中に液体が浮かぶ?! 水中シャボン玉の不思議に迫る!
「水中シャボン玉の研究」
おやつの水信玄餅にあたった光の不思議な像から大発見!
「液体の屈折率の研究~簡単な測定法を発見!~」
ピリッと辛いカイワレダイコンの「辛み」とエチレンの関係を探れ!
「エチレンがアリルイソチオシアネート生成量に与える影響」
過去の災害が大地に残した爪痕を、堆積物の形状から明らかにする
「静岡県太田川に沿う西向遺跡で発見された洪水堆積物の特徴と年代推定」
巨大地震の揺れから建物を守れ!
「地震動が構造物にもたらす応力の分布」
摩擦の正体をモデルで解明!
「表面粗さのモデル化を用いた摩擦力の考察と可能性」
広島の地盤を形成する花崗岩の中の「変わり者」。その成因に迫る!
「広島花崗岩類における暗色包有岩の形状と分布」
砂漠化の進行を防ぎ、植物の育成を助ける技術を見つけたい!
「保水性制御を目的とした温度応答性高分子材料の開発」
世界の海・川・湖をゴミから救え! ~水面下から発射される「水噴流」と「水輸送現象」の解明
「水面下から発射された水噴流による水輸送現象の理論解明」
流星を二地点から同時観測し、「オーロラと同じ光」が発生する高度を突き止めた!
「佐賀でオーロラを見る! 4 ~二点観測による流星痕の高度計算~」
小型望遠鏡で「宇宙のやっかい者」の退治に貢献!
「静止軌道、デブリを探して九千里II」
社会科学の手法でコオロギのパーソナルスペースを分析
「ボロノイ図によるコオロギの分布研究-コオロギはパーソナルスペースを持つのか?-」
350年前の川筋を探ることで、ハザードマップの高精度化を図る
「天降川の旧河道はどこか~ハザードマップの高精度化を目指して」
ビルの形状による「ビル風」の違いを自作装置で徹底解明!
「ビル風をよむ」
pH調整で水酸化鉄(III)コロイド粒径を制御する方法を発見して特許出願中!
「水酸化鉄(III)コロイドの粒径制御」
酸化されにくい銅の酸化のしくみを起電力から検証
「銅の腐食と起電力~NaCl水溶液と銅板を用いた電池の起電力の要因~」
温度や濃度で虹色にゆらめく液晶 その色の変化のメカニズムを徹底解明!
「コレステリック液晶の色の変化」
広島はレモン生産量国内NO.1! ビタミンCの「すっぱい!」のヒミツは私たちが解明する!
「ビタミンCの変化についての研究~ビタミンCはなぜ酸っぱいのか~」
「富山湾の宝石」ホタルイカの漁獲量予想を科学の目で徹底検証する!
「漁獲量から解き明かせ!! ~ホタルイカ 神秘に満ちたその生態~」
教科書通りの実験の盲点!?想定と異なる結果を徹底検証! 〜硝酸銀水溶液とアンモニア水の反応〜
「硫酸銀水溶液とアンモニア水の反応に関する研究」
細胞膜の構成物質の形が持つ役割を、計測とモデルから考えてみた!
「細胞膜中のリン脂質の持つ疎水基はなぜ飽和と不飽和なのか~分子膜の面積から考える疎水基の効果~」
絶滅危惧種になってしまったアリアケスジシマドジョウを守るために
「アリアケスジシマドジョウの保護に向けて 6 ~より効率的な人工繁殖の条件を求めて~」
虫をおびきよせる甘い罠! ウツボカズラの捕食の秘密
「ウツボカズラの生き残り戦略~捕虫器内の液体の謎に迫る~」
海藻はネバネバ成分で捕食者から身を守る?!
「硫酸イオンによるpH非依存的リゾチーム活性の阻害」
塩基配列と形態調査から日本産ドブガイを徹底分類!
「日本産ドブガイ族の種分化とその種の同定法」
アメリカザリガニの色を左右するホルモン調節の仕組みを解明!
「アメリカザリガニProcambarus clarki の色素胞ホルモン調節系について 2017」
「ポスター(パネル)発表」は、37件の出展がありました。
研究内容や研究成果を、縦120cm×横180cmまでのサイズの用紙にまとめて掲示し、実験器具なども展示。来場者がブースを訪れるとプレゼンし、質疑応答や意見交換を行います。 審査は、研究発表と同様、発表前に提出されたポスター(パネル)発表論文(10点)と発表会場での当日審査[2日間で2回・1回目は10分程度のプレゼンと4分程度の質疑応答、2回目は質疑応答のみ](30点)で行われます。
さらに、ポスター(パネル)部門は、参加校からの投票(自分の学校以外)も加点されます。
文化祭の展示で作ったCDエアホッケーがうまく滑らない! ことから始まった研究
「滑走しやすいCDの条件」
環境DNAを手掛かりに、絶滅危惧種のホトケドジョウを追いかける
「環境DNAを用いた淡水魚類(Lefua属)の生息調査について」
古代から人々を魅了した七宝焼きの鮮やかな発色を高校化学から分析!
「七宝焼きの化学」
初の国産グレープフルーツ「さがんルビー」の香りは、収穫時期によってどう変わる?
「さがんルビー果皮の香気成分解析 ~収穫時期別果皮の分析と香りの調合~」
糖の立体構造の違いは還元能力にどのように影響するか
「糖の還元能力について」
「牛乳で作ったスプーンでアイスクリームを食べてみたい!」から始まった実験
「牛乳を用いた生分解性プラスチックの研究」
アサガオの美しさは「朝」だけじゃない!~大きさや色をできるだけ長く楽しむためには?
「アサガオの花を美しく保たせる方法」
環境に応じて窒素を取り入れる仕組みを変えられる不思議なイキモノ
「イシクラゲの窒素固定と増殖」
サプリメントの成分「アルギン酸」は環境にやさしい代替プラスチックにもなる?!
「多価アルコールによるアルギン酸糸の延性変化」
目指せ! 電磁気を利用した粒子加速器の発展へ ~ガウス加速器のメカニズムを徹底解析
「ガウス加速器のメカニズムのエネルギー解析」
サルは右利き? 左利き?~手の使い方から餌付けの影響を大解明!
「高崎山ニホンザルの利き手に関する研究」
太陽光電池のデザインを一新 ~降り注ぐあらゆる光を効率よく使って北陸の大地を照らせ!
「散乱光を最大限利用する針葉樹型太陽電池の開発〜太陽光発電を新たな次元へ〜」
アフリカツメガエルは共食いをする!? 餌の条件を変えて確かめてみた
「アフリカツメガエルの食事別にみた発生の違いとカニバリズムの影響」
【ポスター/生物】宮崎県立宮崎北高校・宮崎県立宮崎大宮高校 科学部合同チーム
農作物の敵 チャコウラナメクジの行動を徹底マーク!
「チャコウラナメクジの角度と重力走性の関係」
カスミサンショウウオの絶滅を回避せよ! 生息地の過去・現在・未来と保護活動
「守れ! ふるさとのカスミサンショウウオIX~GISと環境DNAを用いた生息地の未来予想」
ウーパールーパーを「変態」させることはできるのか?! ~その「再生能力」の不思議を探れ!
「アホロートルの変動に関する研究」
モンシロチョウの翅(はね)に隠された秘密とは?~オスを惹きつける「鱗粉」の謎
「シロチョウの鱗粉の微細構造~モンシロチョウとモンキチョウのメスの比較~」
銅を触媒としたルミノール反応で、よく光る条件を探る! 事件現場の血痕検出で有名なルミノール反応 その秘密に迫る!
「ルミノール反応~銅に惹かれるアミノ酸~」
閉会式では、審査結果の発表の後、各部門の審査結果について、審査委員長からの講評がありました。 研究に取り組む姿勢について、とても参考になるお話がありましたので、要旨を紹介します。
結果を聞き手・読み手にわかるように表現を工夫し、説得力のある説明が評価された
今回、研究発表では物理、化学、生物、地学で合わせて149件、ポスター発表は37件と、とても多くの発表がありました。全体の印象として、どの分野も主体的で意欲的な、同時にレベルが高い研究が多かったことにもとても驚きました。皆さんの自然科学に対する思いが伝わってくることを感じて、とてもうれしく思いました。
今回、受賞された優れた研究に共通するのは、目的が明確である、先行研究などの調査が十分に行われている、高校生として十分なレベルの結果・考察がなされているといった、研究の基本的なところでの評価が高かったということです。また、それらは同時に、高校生らしい地域性や発想と、それに基づく研究であったこと、あるいは研究の方法に創意工夫や発展性があったことに共通点があったと思います。
さらに、その研究成果を、論文集の読み手、あるいは発表の聞き手にわかるように、十分工夫された説明ができ、説得力がある。そういった共通点もあったと思います。これらをすべて総合した結果が今日の受賞につながったといえるでしょう。
逆に、今回受賞に至らなかった研究発表は、それらのポイントのどこかに、まだ努力の余地があると考えていただいてかまわないと思います。今後の研究に期待しています。
科学の偉大な先人たちが説いた、研究における「好奇心」の大切さ
本庶佑(ほんじょ・たすく)さんという、京都大学医学部教授だった方で日本の免疫学研究の第一人者の先生がいらっしゃいます。恩賜賞や日本学士院賞、文化勲章などを受賞された、たいへん有名な方です(※)。
本庶先生は、優れた研究者になるため、または優れた研究をするための「6つのC」ということをおっしゃっています。
「curiosity (好奇心) を大切にして、courage(勇気)を持って困難な問題 にchallenge(挑戦)すること。必ずできるというconfidence(確信)を持って、全精力をconcentration(集中)し、そして諦めずにcontinuation(継続)すること」。
そして、「中でも重要なのは好奇心 (curiosity)と挑戦(challenge)、
継続(continuation)」であるということです。
好奇心や興味、疑問というものがあり、それをなんとか知りたい、解決したい、実現したいという課題があったとき、人間は勇気を持って多少の困難がありつつもそれを乗り越えて挑戦します。時に確信を持って集中し続ける。そういった気持を忘れないでください
もう一つ、こちらはノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎先生の言葉です。
「ふしぎだと思うこと これが科学の芽です
よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける これが科学の花です」。
つまり、不思議や疑問があり、実験や観察を繰り返し、考察を加え、問題を解決する。オーソドックスなプロセスですが、ここでもいちばん大切なのは不思議だと思う心、すなわちcuriosityだと思います。
このお二人の先生方の言葉を胸に、みなさんは今後自然科学に寄り添いながら生活していってくだされば、とてもうれしく思います。
※本庶先生は、2018年のノーベル医学生理学賞を受賞しました。
今回の研究発表・ポスター部門の取材も、みらいぶの大学生特派員が行いました。新しいメンバーも入って、取材の担当も大きく変わりました。各部門の取材を終えて、発表への感想、思いを語ってもらいました。
来年の総文祭「2019さが総文」は、佐賀県を会場として、2019年7月27日(土)~8月1日(木)の6日間開催されます。自然科学部門は、佐賀市で7月27日(土)~29日(月)の3日間、会場は佐賀大学本庄キャンパスです。 来年の出場に向けた研究は、まさに佳境を迎えていることでしょう。来年もぜひ、佐賀で会いましょう!
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