(2018年8月取材)
皆さんの担当国は、サイバーセキュリティについてどのような立場を取っていましたか。
セルビアと聞いてピンとくる人は少ないと思います。しかしセルビアは、近年サイバー空間上の議論において、多くの国際会議でも積極的に発言しています。特に、1998年のコソボ紛争時にサイバー上での攻撃を受けたことから、サイバーセキュリティに関しては他国と比べて非常に敏感な国です。例えば、セルビアは欧州安全保障協力機構(OSCE)においてリーダー的存在として、ヨーロッパ国内におけるサイバーセキュリティ対策の方針決めに携わったり、ブリュッセルで開かれた専門家会合ではセルビア独自の法整備の紹介をしたりしています。あまり馴染みのない国ですが、サイバーセキュリティに関してはかなり積極的に取り組んでいる国です。
教育模擬国連出場に向けて、どのような準備をしましたか。
今回の模擬国連は、総会や会議ではなく政府専門家会合(GGE)を模擬しました。「会合」とは、「顔合わせ」や「集会」というような意味が含まれており、会議と比べて少し緩い意味合いを持っています。そのため会合においては、各大使の議論の参加はもちろん、大使たちが全ての内容を理解し、議論を楽しむ必要があります。
今回はかなり多くの大使が集まる会合だったので、とにかく自分たちの説明や配布物が「わかりやすい」ことを重視しました。例えば今までのGGEの作業文書やサイバーに関する条約、各国のスピーチなどを調べ込み、できる限り議論や交渉においてそれらを引用することや、各大使に配布する紙に色付けをして見やすくすること、全体に見やすくわかりやすいスケッチブックを用意することなど、様々な工夫をしました。
準備の段階で苦労したことがあれば教えてください。
今回の準備では、そもそも議題を理解することから苦労しました。サイバー空間の議論では多くの専門用語が出てきて、それら一つ一つの内容を把握するのに時間がかかりました。またサイバーでは多くの国際団体が出てきます。一つ一つの国際団体の特徴と、その行っている政策を調べ、自分の作業文書に落とし込む作業には相当時間がかかりました。しかし本番の会議ではそのリサーチで培った知識が発揮されたと思います。(飯野くん)
今回のサイバー空間という議題は、ここ数年で一気に大きな国際問題の一つとなったという経緯や、セルビアというあまり日本とは大きく関わりがない担当国であったこと、日本語媒体での資料がほとんどなく英語中心のリサーチになったこと等があり、普段とは勝手が違い大変でした。また、セルビア自身でも、外交と内政状況を照らし合わせたところ国としての立場がはっきりとしておらず、スタンスを確立するのにも3人で何度か話し合うことになりました。(奥山くん)
これまでの会合の成果文書は全てコンセンサス(全会一致)をもって発行されたものであるため、コンセンサスを目標として、政策案を考える必要がありました。しかし、サイバーセキュリティは国家機密にされているものが多く、直接的な情報を手に入れることが大変でした。また、サイバーに関して考える以前に、基本的な用語などを正確に理解しなければならず、難しかったです。(三浦くん)
大会当日は、どのようなことに気を付けながら会議に臨みましたか。
自分はグループをまとめ、集まっていただいた大使たちと作業文書を共に作り上げる、いわゆる「内政側」だったので、とにかく各大使が議論に参加できることを重視しました。一方的に話を進めるのではなく、共に話し合って妥協点を探り、各大使納得できる解決策を練りました。外交に代わって、自グループの作業文書の説明する際も、常に各大使の意見を聞き、それらが平等にしっかりと文言で反映できるように努力しました。
また内容をわかりやすく説明することにも気を付けました。サイバーセキュリティはものすごく複雑で、話しにくい内容ですが、多くの引用を付け足したり、様々な事例を挙げたりして、理解しやすい形で議論を進めることを心掛けました。(飯野くん)
当日は飯野くんに内政としてがっちりとグループを固め、話し合って作業文書を書いてもらっている間、僕自身はコンバイン交渉などを中心に他のグループとの交渉(外交)を行いました。内政と外交で発言が変わってしまったり、グループ内での話に沿わない交渉になったりしないように、密にペア間で情報を交換するようにしました。
また、飯野くんと内政・外交で交代した時もグループの全員に議場全体の動きや他グループの構成の特徴(地域など)や話している内容、これからどういう交渉をどことしていくかということをわかりやすく説明するように心掛けました。(奥山くん)
準備段階で見つけた情報から自分たちの立場やスタンスを推測して、大使としてどのようにすれば良いかを考えながら行動しました。外交をしているときは、自分たちの意見を理解してもらうために常に丁寧に話すことを意識し、内政に回ったときは、グループの大使と共に、各大使の意見がしっかりと文言に反映されているかを入念にチェックしました。また、内政と外交を入れ替えるときにペア間で情報共有をするように心掛けました。(三浦くん)
会議を進める上で一番大変だったことを教えてください。それをどのような工夫や努力で乗り越えましたか。
どんな会議や会合でも、やはり苦しいときや焦るときは多々あります。例えば全会一致を目指しつつも、決議案の作成に時間がかかってしまう時や、かけ離れたアイディアを持っている国同士で妥協点を探る時などです。会議において一番重要な時に、一番議場が混乱するという場面は、模擬国連ではありがちです。今回の会議でもそれが著しく見受けられました。
自分は、とにかく大使たちがいつでも議場の動きを把握できるようにすることが大事だと前々から思っていたので、議論が停滞し、苦しい時や残り時間が少ない時でも、筋の通った、わかりやすい説明をすることを常に心掛けました。このような工夫や努力で、なんとか自グループ内での混乱は抑えることができ、後の外交交渉もスムーズに行うことができたと感じています。自分のこの心構えは、今会議では非常に大きいものでした。(飯野くん)
今回のサイバーという議題は難しく、交渉する際に相手の主張を理解することも、自分の国やグループの主張を理解してもらうことも難しかったと感じました。今回の会議だけに言えることではありませんが、やはりそういう時には、主張し合うだけでなく、お互いの主張をまとめた上で話し合い、共通点や対立点を明確にすることで具合的にどの部分を解決していけばいいのか、どういった所が共通しているのかを示すことで、交渉も滑らかになりグループに対してもわかりやすく他のグループの特徴を説明することができます。そのため、主張の要点を纏めて話し合うことを心掛けました。(奥山くん)
やはり、コンバイン交渉です。自分たちの文言と他グループの文言を見比べながら、似ている部分と異なる部分を見つけ、他グループの担当の人と交渉します。この時、自国のことだけでなく自分のグループ全体について考えなくてはいけません。今回の会議の文言は全て日本語で、いつもより簡単なのではないかと思うかもしれませんが、相手グループもその分鋭い指摘があって、むしろいつもより難しかったように感じました。しかしすることは変わらないので、普段通り両方の意見を取り入れた形で文言に反映できるように努めました。(三浦くん)
教育模擬国連に参加した感想をお話しください。
全国から様々な背景、価値観を持った生徒たちが集まったこの教育模擬国連では、ユニークな考えや、印象に残るスピーチ、目立つ交渉能力などが多く見受けられました。多角的に物事を見る力が必要のある模擬国連において、実際に違う地域から来た方々と共に交渉し、話し合うことができたことは本当に良い経験となりました。
そして全国から集まった、物腰柔らかな姿勢を持った高校生たちには様々な刺激を受けました。新しい考え方や議論の進め方を見つけることができ、また自分の工夫の短所や長所に気付くこともできました。この2日間で出くわすことのできた発見、刺激、喜び、葛藤そして楽しさは言葉では言い尽くせません。この経験を、またこれ以降の会議、そして普段の生活の中でも活かせるよう努力していきたいです。(飯野くん)
日本中から様々な考え方を持った高校生が集まり討論しているだけあって、新しい考え方や価値観にも触れることができました。また議場のレベルも高く、優れた考えを持つ大使たちと話すことで自分の交渉や説明の悪い所も改めて知ることが出来ました。教訓や反省、いろんな人と話す貴重な経験を得られたという点でも、本当に有意義な大会でした。(奥山くん)
初めての全国大会だったので、驚くことが多々ありました。自分では考えられないような発想をいくつも見られ、とても刺激的でした。普段は接することのない日本中の生徒たちと議論することができ、有意義な大会でした。また、リサーチやペア間のチームワークなど、うまくいった部分もあれば、会議行動や発言、兼任国への対応等、反省点は数多くあります。今回の失敗を次に出る会議で活かし、内容でも満足できるようにしたいです。(三浦くん)