(2018年8月取材)
皆さんの担当国は、サイバーセキュリティについてどのような立場を取っていましたか。
私たちが担当したドイツは、いわゆるサイバー先進国でした。他のEU諸国やアメリカなどと基本的なスタンスは一緒で、まずはサイバー空間上での人権、例えば表現の自由などを保証するという立場を取っていました。この考え方は中国やロシアなどの情報統制を行っている国々とは真逆で、今回の会議で一番争点となった分野です。また、自国のサイバーセキュリティ関連技術を活かすべく、他国へのキャパシティ・ビルディングや人材派遣、教育などには非常に積極的でした。
教育模擬国連出場に向けて、どのような準備をしましたか。
会議前の準備に一番欠かせないのは議題についてのリサーチです。主に調べたのはドイツとしてのサイバーセキュリティについてのスタンスであったり、国内のサイバーセキュリティ関連政策であったりなど、ニュース記事から論文と様々な文書を読みました。さらに、自国のことだけでなく、EUとしてのスタンス、また他国の状況、国連で出された過去の決議など世界全体におけるサイバー動向についても調べました。
会議直前には、会議がどのような流れになるか、どのようなグループができるか、そして私たちがどのような会議行動をすべきかを予想し、ペア間での意志を固めていきました。今回の会議ではそのリサーチと議場予想が功をなし、1日目にスムーズにグループ形成と文書提出をすることができました。
準備の段階で苦労したことがあれば教えてください。
今回の会議では、第6回政府専門家会合という会合を模擬したのですが、実際の国連での第4回政府専門家会合は決裂していました。つまり、世界全体で大きな対立がある状況での開催だったのです。今回は表現の自由について「人権は守られるべきである」というかなり強硬な姿勢を取っていましたが、その結果、最終的にコンセンサスとならなかったのは残念でした。
今回の議題では、国益と国際益のバランスが非常に難しく、国益を全面的に守るのであれば、サイバー空間上での自由の権利を認めることとなりますが、一方で国際益を重視するならこれに妥協していたこととなります。私たちは、国益重視で他グループとの交渉を進行させていたので、時間内に両者の合意が取れるような内容は、最終的な決議文書に反映されませんでした。
大会当日は、どのようなことに気を付けながら会議に臨みましたか。
グループを形成した際に、参加者全員が対等な関係の中で、満足でき、かつ高度な議論ができるよう、話し合いに参加しやすいような雰囲気作りに心掛けていました。今回は全日本大会だったので、少し緊張感はありましたが、グループとしての話し合いは和気藹々とした雰囲気で、とても楽しかったです。また、今回は議場に77カ国、人数的には150人以上もの人がいました。その上、会議の時間がやや短めだったため、できるだけ短い時間で多くの話し合い・作業ができるよう、グループのメンバーそれぞれに役割を振って効率化をしました。
会議を進める上で一番大変だったことを教えてください。それをどのような工夫や努力で乗り越えましたか。
参加国数が非常に多かったため、最終的にグループを1つにしていくのが大変でした。会議2日目にグループが少しずつまとまっていったのですが、私たちが所属していたグループの文書作成が早めに終わり、他のグループを待つことになってしまいました。どうしても手持ち無沙汰になってしまい、役割分担もできず、少しずつグループが分裂していく悲しみをひしひしと感じていました。その上、EUグループとしてサイバー空間上での表現の自由については、最終的にほとんど妥協しませんでした。その結果、時間がない中、他方のグループとの交渉がうまく進まず、あまり賛成を得ることができませんでした。
教育模擬国連に参加した感想をお話しください。
私たちのグループは、最終的に、決議案を提出することができたのですが、その決議案が投票にかけられ、“No.”と反対されたときに、今まで経験したことがないような不思議な気持ちになりました。2日間かけて、グループの皆で一丸となって作り出してきた文書に対して“No.”と言われると、なんだか虚しいような、悲しいような気持ちになりました。同時に、反対されてしまうような文書を作ってしまった自分の実力のなさを不甲斐なく思いました。
今回の会議で、自分は少し成長したと同時に、また新たな課題も強く実感しました。残り少ない模擬国連生活ですが、今後も頑張っていきたいと思います。最後に、今回同じ議場で話し合ってくださった大使の方々、また一緒に1つのグループとして議論してくださった皆様に心から感謝したいと思います。(松村くん)
今まで模擬国連の練習会に参加した事は何度も経験があるのですが、私が住んでいる関東地区以外も参加した全国の高校生と模擬国連を行ったのは初めてで、文化の違いに関心が向きました。グループのまとめ方、公式討議での発言の仕方、大使像など新鮮な模擬国連テクニックがたくさんあり、得られたものは多いかと思います。
その反面、コンセンサスを会議の冒頭から意識していたにも関わらず、それを成し遂げることができずに会議が終わってしまってしまい、とても悔しかったです。今回の会議設定は第6回専門家会合となっており、前回の第5回専門家会合が決裂した後の設定となっているので、本来であれば何が何でも議場全体の合意を取り、コンセンサスで終えるべきだったのです。専門家会合に80カ国も出席しているのはまずあり得ないことですが、それでもこれは完全に自分の力不足だったと認識しています。
私が会議の初めから率いていたグループはかなり交渉が早い段階から終わっていてスタンスも固まっていたのですが、議場全体が混乱していまい、うまく議場にいるグループを合併することができませんでした。
最後に、この会議を運営してくださった運営委員の皆様、ここまで支えてきてくれた渋幕模擬国連部の皆さん、他校の先生方や友達に心から感謝したいです。ありがとうございました。(頓所さん)