高校模擬国連国際大会、NYの国連本部で開催! 今年も日本チームの健闘が光る!!

頌栄女子学院高校(東京)

橋本京さん(3年)、元田有香さん(3年)

世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual Property Organization)

『Patent Rights vs. Patient Rights(医薬品の特許権 vs. 患者の権利)』

(2018年5月取材)

左から 元田有香さん、橋本京さん 写真提供:頌栄女子学院高校(以下同)
左から 元田有香さん、橋本京さん 写真提供:頌栄女子学院高校(以下同)

派遣生や大使たちの熱い思いに触れ、自分も頑張ろうという気持ちに(橋本さん)

相手に敬意を持って接することで信頼関係を築くことができた(元田さん)

■世界大会に向けてどのような準備をしましたか。

 

私たちはWIPO(World Intellectual Property Organization, 世界知的所有権機関)のウルグアイ大使を担当しました。議題は“Patent Rights vs. Patient Rights”で、医薬品の特許権と患者が適正価格で医薬品にアクセスする権利とのバランスについて議論しました。

 

世界大会に向けた準備は、12月から約5か月間続きました。議題の準備は、グローバルクラスルーム日本委員会の方々が作成してくださったサポートペーパーを指針として進めることができました。議題の理解を深め、担当国についてリサーチし、政策を立案するという流れやその方法は、日本で普段から行っていたことと変わりません。ただ、議題の論点が幅広かったため、今までで最も広く深くリサーチをしたと思います。

 

また、ニューヨークに1週間滞在するにあたり、食事をしたい店を調べておきました。私たちは、ちゃんと食べて、ちゃんと寝ないと体調を崩しやすいことを自覚していたからです。ネイティブの英語教諭に教わったり、グーグルのストリートビューを使ってヴァーチャル散歩をしたりしました。実際には、出かける時間を惜しんで近くのマーケットでパンを買って済ませてしまうこともありましたが、ニューヨーク滞在を充実させるための準備もしました。

 

 

■準備の段階で苦労したことがあれば教えてください。

 

リサーチそのものに時間がかかってしまい、政策立案の開始が遅れてしまったことです。議題について調べれば調べるほど、Patent Rights(特許権) と Patient Rights(患者の権利)は本当に「vs.」(=対立するもの)なのだろうかという疑問がわいてきてしまったのです。特許権は、医薬品の開発を促しますし、製薬会社が利益を得て次の医薬品の開発を行うためにも必要です。特許権を敵視してしまうと、長期的に見て患者の権利を害するのではないか。こう考えると、そもそも議題設定が誤っているのではないかとさえ思えてきて、なかなか政策が立てられませんでした。両者の関係について私たちのスタンスが固まったのは、渡米の2週間前でした。

 

特許権と患者の権利が衝突するケースについてはなかなか結論が出せなかったため、私たちは、そもそも医薬品が開発されていないために患者の権利が侵害されているケースについて政策を考えました。具体的には、デング熱やリンパ系フィラリア症など、低緯度地域の低所得層の間で蔓延している「顧みられない熱帯病(NTDs, Neglected Tropical Diseases)」の医薬品開発を促す仕組みづくりを提案しました。

 

医薬品の特許権については、WIPOだけでなく、WHO(世界保健機関)やWTO(世界貿易機関)でも議論がなされています。WIPOの議場に臨むのですが、そのために複数の国連機関との兼ね合いを考えねばならないことも難しかったです。

 

また、ウルグアイという担当国の難しさもありました。スペイン語が公用語のため、資料を原文では読めないことが多々ありました。ブラジルとアルゼンチンという大きな国に注目が集まりがちなため、日本語で読める資料も限られていました。ブラジルとの医薬品取引の量など、ピンポイントで欲しいデータが手に入らなかったことにも苦労しました。

 

 

■各国の高校生と出会って、日本の高校生はこんなところがスゴイ!と思ったことを教えてください。

 

橋本さん:努力できるところです。日本で模擬国連会議に参加していた間は、論理的に考えられたりアピール力が高かったりと秀でた人に目がいき、自分とは生まれ持った能力が違うのかなと引け目を感じてしまうことがありました。しかし、派遣団の皆と会議の準備過程から接する機会を持ったことで、元々パーフェクトなのではなくて、すごく努力をしていることを目の当たりにしました。

 

派遣団のメンバーが表敬訪問中にした質問を聞いていると、一人一人の考えがにじみ出ていました。皆、一つひとつの経験を自分の中のどこかに位置づけていて、学んだことを無駄にしていない。何事にも興味津々で、努力を惜しまない。でも、高校生らしさもあって、アイディアがフレッシュ。日本の高校生だけにあてはまることではないかもしれませんが、私は尊敬できる派遣団のメンバーと出会えて幸せです。

 

元田さん:派遣団のメンバーが大会の準備にかけた努力の量は、他の参加者よりもずっと多かったと思います。日本代表団としての責任感を持っていて、模擬国連に対する真剣度が違いました。

 

日本の高校生の優れているところは、丁寧さや、全体の利益のために譲るときは譲れることだと思います。会議中に、交渉したけれども合意に達しなかった相手に対して「交渉に応じてくれてありがとう、時間を割いてくれてありがとう」と感謝を伝えたら、驚かれました。会議が始まってからしばらくは、見下したような態度で接してくる大使も多かったのですが、丁寧に自分から感謝を伝え、相手へのリスペクトを態度で示していったら、相手からも敬意が返ってくるようになりました。このように敬意を持って接することは、日本の模擬国連では当たり前に行われていることです。これは日本の高校生の強みだと思います。

 

 

■会議を進める上で一番大変だったことは何ですか。

 

橋本さん:私たちは、議場にいる誰よりもリサーチをしてきたはずなのに、会議中に自信をなくしてしまったため、人よりもリサーチができていない、議題を理解できていないという意識を持ってしまいました。議場で存在感があったウクライナ大使が「ブロックチェーン」という技術を用いて製薬会社の不正をなくすという政策を提案したときに、その技術のことがわからず、焦りました。内容がわからないその提案についていくことにばかり意識が行ってしまって、私たちが準備してきたことに目が向かなくなってしまいました。そうなると、私たちの主張になかなか耳を傾けてもらえません。会議1日目はまったく交渉がうまくいきませんでした。

 

しかし、2日目には自信を取り戻していきました。1日目の夜に、パートナーの元田さんと、「ここまでダメだったらもう這い上がるしかないよね」と言いあえたのがきっかけでした。2人の間に新しい連帯感が生まれて、気持ちを切り替えて2日目の準備を進めました。

 

2日目が始まると、リーダー格の大使たちが、昨日は意見を言えていなかったのに、今日はブロックチェーンについて意見を言っていることに気づきました。彼女たちも昨晩に調べたんだ、もともとはわかっていなかったんだと発見しました。同時に、私たちが準備してきた「顧みられない熱帯病(NTDs)」に関する政策は、私たちが一番わかっているという自信を取り戻すことにつながりました。ウクライナ大使=ブロックチェーンという構図が作れたように、ウルグアイ(私たち)=NTDsという構図を作れるはず。積極的にNTDs対策の重要性を訴えていきました。

 

パートナーの存在も大きいです。アンモデの交渉が終わり、次は何をしなくてはと焦って席に着いたとき、「私がモデを全部見ておくから」とパートナーが言ってくれて、とても頼もしかったです。1日目の終わりに一緒に自信をなくしていたパートナーも立ち直っていて、それが自分を冷静にしてくれました。

 

 

元田さん:1日目は、自分で自分に壁を作っていました。私は英語に自信がなくて、相手から早口で畳みかけられたり、無視されたりして交渉に応じてもらえなかったときに、黙ってしまいました。ネイティブスピーカーに対する引け目があったのだと思います。日本語でしていたような密度の濃い交渉を、英語でできるのか不安でした。1日目は、私の話を聞いてもらえていないと感じてしまっていたし、日本語でならばもう一押しできたところで引いてしまっていました。

 

1日目の夜、派遣をサポートしてくれていたグローバルクラスルームの大学生からいただいたメモに「がむしゃらにやってみて」と書いてあったのを見て、明日も今日と同じように振る舞ってしまったら半年間の準備が無駄になってしまうし、応援してくれた人に申し訳ない、この議場にいる人と議論できるのはこの一回きりかもしれないといったことに気づき、人の目を気にせずにやりきろうと思い切ることができました。そのおかげで、2日目には、その壁を壊すことができました。

 

2日目、私たちの話に耳を傾けてもらえたり、自分が議場の様子を客観的に見られるようになってきていることに気づいたりして、徐々に自信が出てきました。そして、自信がある様子が相手に伝わると、ますます話を聞いてもらえるようになりました。自信は本当に大切です。自分へのリスペクトがもてないと、相手へのリスペクトがなかなか出てきません。自分が大使になりきる、相手を大使として尊重する。私が日本の模擬国連で身に付けてきたことを、自信を取り戻した2日目にようやく発揮できるようになりました。

 

■大会を通して、一番頑張ったことを教えてください。 

 

この機会を無駄にしないように、どの瞬間も全力で取り組みました。うまくいっていなかった1日目もモデレート・コーカスで発言し続けましたし、2日目はがむしゃらに行動しました。

 

■今回の大会も含めた旅行全体で、最も印象に残ったことは何ですか。

 

橋本さん:(※海外在住経験あり 7年間/アメリカ)

 

2日目にDRの印刷を待っている間に行われた感想会が感慨深かったです。私が「13時間かけて日本から来ました」と言ったときに、本当にあたたかい拍手をもらい、歓迎してもらえていることを知って喜びました。会議中に厳しい態度をとられていたために、対立しているとばかり思っていたのですが、その思い込みは壊れていきました。それぞれの大使から議題にかける思いを感じ、模擬国連にかける情熱に動かされました。こういう高校生の思いが世の中を変える、こういう人たちと出会えた自分も頑張りたいと思いました。

 

また、表敬訪問で実際に国際機関で働いている方々と出会い、模擬国連で議論してきた内容が現実味を持って感じられるようになりました。自分の目の前に立っているこの女性や男性は、本当に世界を変えるために動いていることを感じました。

 

元田さん:(※海外在住経験あり 2年間/アメリカ)

 

自分が真剣に心を開いたら応じてくれることが嬉しかったです。どのような文化を背景に持っていても同じ高校生。共通点を強く意識するようになりました。

 

また、私が国連に対して抱いていたイメージが変わりました。ユニセフのアフガニスタン現地事務所で働いていた方のお話を伺ったことがきっかけです。国連は大所からのガバナンスを行う場というイメージを持っていましたが、それだけではなく、様々な現場の最前線で人々を支援する活動を行う機関というイメージをより強く持つようになりました。

 

一般に、「理想を追求する」と「現実を見る」は矛盾することと考えてられているように思います。しかし、国連職員の方々のお話を伺って、現実を受け止めて理解しているからこそ、希望を持って理想を追求し続けているのだと思いました。

 

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