つくばサイエンスエッジ2018
(2018年3月取材)
鹿児島の火山灰を使って、福島の汚染水を吸着したい!~研究のきっかけ
2011年3月11日に起こった東日本大震災で、その後問題となったのは、福島第一原子力発電所からの汚染水です。私たちは何かの吸着剤を用いて、放射性物質を吸着したり回収したりできないかという検討を始めました。
一方、鹿児島県の火山による降灰量は2015年の総量が490万トンで、農作物被害などその対策は急務になっています。そこで、この火山灰を使って、原子力発電所の汚染水を処理しようという考えに至りました。
実験方法~火山灰とネコ砂に含まれるゼオライトを吸着剤に用いた実験
火山灰にはゼオライトが含まれています。ゼオライトとは沸石と呼ばれ、アルミノケイ酸塩という無機化合物の一種です。結晶構造に微細な空孔を有し、そのサイズに見合った分子を吸着・脱着できます。また、ペット用消臭・除菌剤として知られるネコ砂は、人工のゼオライトです。私たちは天然ゼオライトである火山灰と人工ゼオライトであるネコ砂の、吸着剤としての比較実験を行いました。
また、吸着させる汚染水には、最初、放射性物質のストロンチウムやセシウムを使おうと考えました。しかしこれらの放射性物質を学校で取り扱うことが厳しいため、その同位体である硝酸セシウムと硝酸ストロンチウムを用い、模擬放射性水溶液を作りました。
ネコ砂の方が汚染水の吸着効果は高かった!~実験結果
ゼオライトの添加量による吸着力の変化を見るため、火山灰、ネコ砂の添加量をゼロg、20g、50g、100gとしたものを作り、それぞれ4日と7日に常温放置しました。
実験では、火山灰やネコ砂を添加すると溶液中のストロンチウムの量が激減しました。そして、添加量を増やすほどストロンチウムの量が減りました。
さらに火山灰よりネコ砂の方がよりたくさん吸着するということも判明しました。その理由は、恐らくネコ砂の方が、物質が吸着する「孔(コウ)」が多かったから、より多く吸着できたと考えています。しかし火山灰の方も吸着効果が低かったわけではないので、火山灰とネコ砂のどちらも、汚染水の吸着には利用できると思われます。
上図:火山灰、ネコ砂を添加した溶液中に含まれるストロンチウムの量(右が4日間放置、左が7日間放置)。火山灰が青いグラフ、ネコ砂が赤いグラフ。グラフはそれぞれ右から、火山灰、ネコ砂の添加量がゼロg、20g、50g、100g。
今後の課題~行き場のないドラム缶汚染水の吸着に活用したい
今後の重要な課題があります。ネコ砂や火山灰を使って放射性物質が吸着できたとしても、放射能汚染された汚染物質は汚染水から固体に濃縮されただけです。体積が小さくなり運びやすいという利点はありますが、その処分については解決されていません。どうしたらいいかを、これから考えていきたいです。現実に汚染水のたまった、行き場のないドラム缶がたくさんあるわけですから。
ネコ砂と火山灰の吸着法の原理の違いを明らかにしたい!
もう1つの課題は、火山灰とネコ砂の吸着の仕方が、物理吸着なのか、化学吸着なのか確かめることです。
いったん吸着されたものが溶け出すかをみる溶出実験も行いましたが、ネコ砂はたくさん吸着する一方で、すぐに溶出しました。おそらく火山灰はイオン交換による化学吸着ですが、ネコ砂はただ穴に入っただけの物理吸着ではないかと想像しています。
ネコ砂は物理吸着、火山灰は化学吸着であれば、火山灰は汚染物質が溶出しにくい構造だということですので、その点でネコ砂より優れているということになります。