中高生のための科学の“甲子園”、「つくばサイエンスエッジ2018」

(2018年3月取材)

 

2018年3月23日、24日の2日間、全国の中高生が参加する科学のアイディアコンテスト「つくばサイエンスエッジ2018」が、つくば国際会議場で開かれました。

 

「スポーツや芸術には甲子園のような“ハレの場”があるのに、科学が好きな生徒にはない」と、2010年に始まったつくばサイエンスエッジ。今年で8回目(2011年は東日本大震災で中止)を数えます。参加校数は年々増え続け、今回は国内70校・海外12校、合計82校。各プレゼンテーションチームは、277チーム。2日間の来場者数はのべ1454名が集まる盛り上がりのうちに2日間が終わりました。

 

熱気あふれる! 日本語ポスターセッション会場

この大会は、授業の課題研究やクラブ活動で取り組んだ研究をもとにした、科学に関する「アイデア」を発表する場です。

 

大会2日間の間、多目的ホールで行われたポスターセッションの展示は、日本語ポスターが189チーム、英語ポスター70チームが参加。サイエンスアイデアや、普段の研究活動の研究成果を1枚のポスターにまとめて展示・発表しました。SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定高校や各中高校の理科部、科学研究部、生物部、生活科学部などがこぞって集い、おおよそ1年間をかけたアイデアの成果を競いました。

 

 

熱気ムンムンする日本語ポスターセッションの会場では、例えば――。「唐辛子抽出物からカビへの殺菌効果に対する実験効果」(三田国際学園高校[東京])というバイオ、生物実験研究がありました。「微生物のバイオ電池の作製」(神奈川県立弥栄高校)の展示では環境にやさしい生物、電気電子工学的な研究が、「福島を救え!!~ゼオライトを用いた放射性物質の吸着・回収~」という東日本大震災につながる化学、生物系の研究がありました。

 

「牛乳プラスチック性能検証Ⅱ」(東京成徳大学高校)、「コンニャク寒天シートで砂漠化を防ぐ研究」(神奈川県立厚木高校)から「風鈴の音はなぜ涼しいと感じるのか?」(公文国際学園高等部[神奈川])、「かゆみの仕組みとその対策」(順天中学・高校[東京])まで、身近なテーマでもちょっと視点をずらすと新しい発見が見出せる。楽しい、面白そうという驚きの声が訪れた人びとから上がりました。

 

物理系では「三次元の受動による歩行解析~歩行現象の理解を目指して」(宮城県仙台第三高校)、「50mで20秒の差を生むママチャリの提案」(市立札幌開成中等教育学校)などが、天文地学系では「コンパクト空気望遠鏡の製作」(茨城県立土浦第三高校)、数学・情報・コンピュータ系では「今、暗号が危ない!」(東京都立小石川中等教育学校)、「パソコンとは?ゲームプログラミングとは?」(順天中学・高校)などなど。

 

さらに「血液中の酸素濃度変化が人体に与える影響、および測定方法・原理について」(順天中学・高校)といった人体・医学的な研究、「次世代の再生可能エネルギー海流発電 技術開発」(三田国際学園高校)から、「ヒューマノイドロボットの製作と歩行の自動制御」(東京都立小石川中等教育学校)のような機械工学系のITロボット工学まで。身近な素材を用いながら、しかし様々な学問分野の最先端科学にせまるバラエティ豊かな発表。高校生らしい夢、妄想(?)まで、遊びの要素も入ったワクワクする発表は2日間会場を沸かせました。

 

展示発表の後、ポスターセッション審査員、コンテスト参加者、来場者による投票審査により優秀作品を第1位~3位まで選定し、表彰します。結果は次のとおりです。

 

第1位 山村国際高校[埼玉] 生物部/新井倭愛さん

「腸内フローラから健康食品の機能性を探る」

 

第2位 神奈川県立弥栄高校/鹿倉恵菜さん、石井那哉くん、長坂卓哉くん

「実用化に向けた宇宙エレベータの実験・開発の取り組み」

 

第3位 愛媛県立今治西高校/池内明香さん、佐伯悠さん、岡田愛生さん

「オニクマムシの乾眠からの蘇生条件」

 

みらいぶでは、下記の皆さんを取材しました。

音楽を聴くとくるくる動く植物の葉のふしぎ~マイハギの葉と音の関係研究 【生物】

大妻嵐山中学高校[埼玉] サイエンスクラブ

山下絵理子さん 加賀田栞里さん 関口姿文(しふみ)さん 芹澤仁希さん 正木利朋さん

めざせ、大空に羽ばたく鳥型ドローン!~完璧な観測のための鳥類バイオミミクリー研究【航空力学】

東京都立科学技術高校 フライング・オブジェクト・プロジェクト 鳥類バイオミミクリチーム

三田潤哉くん 本間史哉くん

福島を救え!!~火山灰、ネコ砂を用いた放射性物質の吸着・回収【化学】

東京都立多摩科学技術高校 科学研究部・生活科学班

山元るなさん 能野仁己さん

 

科学好き高校生のハレ舞台、オーラルプレゼンテーション!

なんと言ってもつくばサイエンスエッジ2018の一番のメインイベントは、大会2日目に大ホールで行われたオーラルプレゼンテーション。このプレゼンテーションは、発表者の日頃の研究成果を国際的に活躍する科学者や研究者の前でプレゼンテーションできる、この大会ならではのプログラムです。

 

全国のたくさんの参加者の中から最終選考に残った8チーム、海外1チームも加わって、つくば国際会議場の大ホールに登壇しプレゼンテーションしました。

 

みらいぶでは、こちらの⾼校を取材しました。

 

緑茶、ウーロン茶、ほうじ茶からポリフェノールをさがせ!〜⼀重項酸素の発光を利⽤した飲料物中のポリフェノール検出

市川⾼校[千葉] 渡辺結⼦さん 新⾙玲⾳さん

 

参加したプレゼンテーションチームまたは個人の中から、審査委員長を務めるノーベル物理学賞の江崎玲於奈博士など、本物の科学者の厳しい審査によって優秀作品に受賞が決定します。教科書などでしか目にしたことがない偉大な科学者たちが、みずから熱意をもって直接コメントや質問を投げかけていました。こんな機会は他にはなかなかないでしょう。会場の審査員も「毎年、高校生の論文のレベルがとても上がり、しかも力が拮抗して選ぶのに苦労した」と驚きを隠しませんでした。

 

各賞は「科学の研究者にとって必要な視点を伸ばしてほしい」という評価委員の思いから、このコンテストの独自の視点で、創意指向工夫賞、探究指向賞、未来指向賞、そして審査員特別賞がプレゼンテーション発表の優秀賞として与えられました。

 

こうして選ばれた受賞結果を紹介しましょう。 

 

この研究発表は、カエルは小さな動くものに採餌行動を取る性質があるということだけを手がかりに、ニホンアマガエルに様々な視覚実験を行います。それもパワーポイントのアニメーション機能で図形をカエルの前で動かすなど従来にない創意工夫にあふれた方法で実験を行ったことが評価されました。 

 

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星型多角形のデザインで有名なものに、洋の東西を問わず魔術的なデザインとして知られる「五芒星」(星型五角形)があります。この星型五角形を含めた星型n角形について、星型が形成される過程における頂点の数や、頂点(k点)を飛ばして計算するというまったく新しい視点で、面積の一般公式を導き出しました。その難解な数学の問題へのチャレンジが非常にユニークと審査員の心をつかみました。

 

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・探求指向賞

札幌日本大学高校 

「ネオジム磁石球を用いた銅パイプの抵抗率測定」

この研究発表は、磁石球間に働く磁気力を自作の磁気力測定器を作り、高い精度で測定することに成功した物理系の研究が、探究心に溢れていると評価されました。

 

・未来指向賞 

安田学園中学・高校[東京] 川口拓真くん、吉村翼くん

「養蜂を都市でできる新しい農業にしていくために」

最近、都市部でミツバチを飼育することが増えています。そのことを手がかりに、養蜂を都市でできる農業にしていく可能性について探り、ミツバチが都市環境のどこで花蜜や花粉を得ているのかという、これまで知られていない謎に挑みました。まさしく農業の未来という未来指向研究という点が評価されました。

 

受賞者4チームは、この後、シンガポールで開かれる「グローバルサイエンスリンク・シンガポール」に参加資格を得ることができます。同大会は「つくばサイエンスエッジ」をアジアの様々な国の高校生が競う国際高校生大会。今注目のシンガポール国立大学で、夏に開催されます。同大学は大学の世界ランキングでアジアトップと最も高い評価を受けています。受賞4チームは、高校生が科学で国際交流する場に参加できるというわけです。

 

 

国際交流会、サイエンスワークショップ

つくばサイエンスエッジ2018の初日の夕方、台湾、タイ、フィリピン、インドネシア、ミャンマー、香港と日本の中高生約110名が集い、国際交流会が開かれました。順天高校、広尾学園高校の生徒が国際交流会の立案と進行を行い、ゲームをしながら親交を深めました。

 

また大会2日目の午後、つくばサイエンスエッジのもう1つの目玉である「サイエンスワークショップ」が開かれました。企業、団体、大学などの協力で9つのワークショップが設けられ、各2回の実施には、高校生など来訪者のべ864名が参加しました。

 

みらいぶプラスも参画し、情報分野のワークショップが行われました。案内する講師として日本の情報処理学会をリードする3人の若手トップ研究者が登場。3人の中の1人、森勢将雅先生は、「音声・歌声情報処理の未来」と題し、みずから開発した歌声の新型ソフトを提供しつつ、歌声の錯覚を発見した話が語られました。2人目の望月理香先生は、各人のライフログ(体験のデジタル記録)を集めてこれを分析し、「たとえ表現」で相手にわかりやすく伝える方法を話しました。3人目の耒代誠仁先生は、古代文字を解読し、古文書の読めない文字を読み解くアプリを開発した話をしました。

 

いずれも今後期待される情報の未来についての選りすぐりの話ばかり。参加した高校生は、興味津々、驚きの表情で聞き入りました。それに対して3人の若手トップ研究者は、高校生にわかりやすく説明し、質問やダメ出し、ツッコミに答えました。筑波の2日間は最後まで熱気が覚めることはありませんでした。

 

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