桐蔭学園中等教育学校Bチーム[神奈川県]
永見大智くん(2年)、渡邊玲央くん(2年)
担当国:アラブ首長国連邦(UAE)
(2017年11月取材)
左から 永見智大くん、渡邊玲央くん
1.担当国を希望した理由をお教えください。
今回の会議ではコンセンサス(全会一致)が強く求められているように感じました。UAEは、イスラーム圏に属しながらも「男女の」ジェンダー平等に関しては積極的なことが特徴で、UAEは「西洋諸国とイスラーム諸国の橋渡し役になれる国」と考えたため、希望しました。
2.皆さんの担当国のジェンダー平等に対する姿勢と、国際社会で問題になる(と考えられる)点を教えてください。
UAEは、ゆっくりではありますが制度・戒律が緩まってきているのではないかと考えました。ただし、この制度と言うのは、「男女の」ジェンダー平等に関するものが中心で、LGBTなどの性的マイノリティの平等には、宗教的な事情からあまり手が付けられていないように見て取れます。また、国内の指導者層はイスラーム教を敬虔に実践する人々ですが、国民に占める外国人の割合も増えてきていることから、西洋的な視点も少しずつ取り入れているように感じました。
国際社会で問題となる点は、「自国の文化や慣習を押し付けようとする風潮」だと思います。例えば、アメリカではトランプ政権が誕生し、自国第一主義や他人種排斥の動きが目立っています。また、ヨーロッパ各国でも反移民などを訴える極右派が伸長し、社会の不安定化につながっていると思います。現在世界に流布している「他人(他国)を尊重しない」という考え方は、極めて重大な問題だと思います。国連ではSDGsなどで「多様な社会」の在り方が認められつつあるので、その流れを十分に汲むべく、「誰ひとり取り残さない」形で世界が抱える諸問題を議論し、解決に導いていく必要があると考えました。
3.準備の段階で苦労したことや、工夫したことがあれば教えてください。
会議において、意見の異なる国々との交渉は非常に重要なことですが、それら全ての土台となるのが、同じ意見を持つ国々との信頼関係の構築だと思います。そのためリサーチ時には、イスラームや文化の多様性に強い意見を持っている国に関する情報を出来る限り得るようにしました。(永見くん)
包括的にジェンダー平等を論じるために立てる政策や宣言案・決議案の文言作成に苦労しました。また、各国の行動パターンを考えた上で、それにフィットする政策や話し方を考えるが大変でした。(渡邊くん)
4.大会当日は、どのようなことに気をつけながら会議に臨みましたか。
自国の意見がブレないことにはかなり気をつけました。また立場の異なる国との交渉では、自分たちの考えを明確にし、国際社会でどのように共に行動するかを妥協点として示し、理解を得られるように努めました。(永見くん)
私は内政(グループをまとめていくこと)を担当したので、「他国の意見を否定しない」ことを意識し、グループ内の意見に常に耳を傾け、大きな決定を行う際は必ず各国大使の意見を確認し、かつ誰もが反対意見を述べられる環境づくりに努めました。(渡邊くん)
5.会議を進める上で一番大変だったことを教えてください。それをどのような工夫や努力で乗り越えましたか。
会議当日は、作業を進める中でグループ内で問題が起きたときは、グループ全体でも、また個別にでも、しっかりと対応するように心がけました。(永見くん)
異なった議論のレベルを相対化することが大変でした。各国大使が用意してくる政策には具体的なものから抽象的なものまで様々にあるわけですが、それを一緒くたに話してしまうと議論のレベルにズレが生じ、話を聞いている大使間にも認識の齟齬が生まれてしまいます。ズレを最小化するために、文言のデータを予めもらいスピーチの時間中に精査したり、我が国としての「包括的」な理念をグループ内に丁寧に説明したりしました。(渡邊くん)
6.皆さん自身はジェンダーの平等についてどのような考えを持っていますか。また、それは今回の担当国の立場とどのような点が同じ(あるいは違う)でしたか。
ジェンダーについて、高校生の視点から日本社会を見てみると、無意識に当然と思っている性別による役割というものがあるように感じます。社会がより多くの人が幸せに暮らせるようになることが、一番大切なことだと思うので、ジェンダーという問題は日本においても重要なものだと思います。
また会議で担当したUAEは、イスラーム教を宗教とする国で、男女のジェンダー平等には積極的な国ではありながら、LGBTなどには消極的な国でした。日本は多くの問題について比較的変革することに柵の少ない国という印象を受けますが、宗教が背後にあるUAEの柵の多いスタンスは面白くもあり、難しくもありました。担当国を通して、西欧的価値観に基づくことや日本に住んでいるとであたりまえと思いがちなことも、全ての国にとって受け入れられていることではなく、信じるものがイスラーム教であると思って見ると世界の見え方は大きく変わるものなのだと感じました。(永見くん)
日本では「夫婦同姓」といった伝統的な価値観や、「M字型カーブ(※)」といった社会的情勢が顕著にみられ、極めてジェンダー平等から遠い国であると考えています。それ故、私は「日本が喫緊に解決しなければならない課題のひとつ」と考えています。近年は政治の世界においても「女性活躍社会」が叫ばれ、少しずつ人々の意識も変わってきているように思いますが、トップダウンの改革では限度もあるので、ボトムアップでの意識・思想のチェンジが必要だと考えます。
これに関連して、今回の会議で担当したUAEはイスラームの戒律が存在することから、日本と同様にジェンダー平等に積極的ではないように見て取れます。しかし、それは幼いころから西洋の思想を教えられた我々にとっての視点であり、彼らはおそらく生活の中で生きづらさを感じる機会は少ないでしょう。日本はジェンダー平等の達成を拒むような国是がないにも関わらずその達成に躊躇しているように見えますが、UAEをはじめとするイスラーム諸国は宗教という理念の下で独自の方法でジェンダー平等を達成しようとしているのが、日本との根本的な違いだと感じます。(渡邊くん)
※女性の年齢階級別の労働力率を示す指標を表す語。グラフ化した時のその形がアルファベットの「M」の字の形に似た曲線を描くことから名付けられた。
7.世界大会に向けての抱負を教えてください。
きちんと準備を進めて、全日本大会で得た経験やこれまでの経験を活かし、しっかりと結果を出せるように頑張りたいと思います。また世界大会は多くを学べる場所だと思うので、自分とは違う海外らしい価値観に触れられるように、全力で挑みたいと思います。(永見くん)
今までの模擬国連活動の集大成として臨みたいです。私は帰国生ではなく、英語に自信があるわけではないので、自分自身が出来ることを着実にこなしていきたいです。また、高校時代にしか経験できない貴重な機会なので、あらゆることから学びを得て、全てを楽しんで来ようと思います。(渡邊くん)