学びながら取り組むことができる模擬国連に挑戦!

第1回全国高校教育模擬国連大会・第17回模擬国連会議関西大会高校生会議

(2017年8月取材)

模擬国連は、参加者一人ひとりが一国の大使となりきって、国連をはじめとした国際機関で実際に行われている様々な会議をシミュレートする活動です。国際政治の仕組みを理解し、国際問題の解決策を考える過程を体験できることから、教育プログラムとして世界各国で行われています。

 

模擬国連では、相手を論破することを目的とするディベートとは異なり、自国の国益を守りつつ、できるだけ多くの国とともに合意形成をしていきます。

 

各国の大使は、刻々と変化する議論に対応し、立場や意見の異なる国を説得しつつ、会議がよい方向に進むことに貢献することが求められるのです。

 

国際大会への代表選考がかかる全日本高校模擬国連大会は、事前に書類選考があり、競争的な面もあるため、初めて模擬国連を見学すると、よく「圧倒される」という感想を持つ人がいます。しかし、ふだんの学校の授業などでは、このような会議行動に触れる機会はなかなかありません。

 

今年、誰でも参加でき、初心者でも学びながら取り組むことができる入門型の全国大会「全国高校教育模擬国連大会(以下、教育模擬国連)」が設立され、8月7日・8日の2日間、東京都・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで第1回大会が開催されました。この大会は、準備や当日の運営も高校生自身が行うのが特徴で、文字通り「高校生の高校生による高校生のための大会」です。全国から約500人の中学生・高校生が参加して、熱い議論が戦わされました。

 

また8月28日・29日には、第17回模擬国連会議関西大会高校生会議が開催されました。こちらは、模擬国連に取り組む大学生が、高校生を指導しながらともに成長を目指すことを目的として、今年から高校生会議が設立されました。

 

2つの大会をレポートします。

 

 

高校生の高校生による高校生のための模擬国連

~第1回全国高校教育模擬国連大会

テーマは「核軍縮」

夏の日差しがまぶしい8月7日、代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターには、朝から教育模擬国連に参加する生徒たちが続々と集まってきました。迎えるのは、こちらも全国から集まった高校生実行委員です。

 

今回の会議テーマは「核軍縮」。各国の立場が明確で、今一番注目を集める地球的課題です。開会式では、ゲストの外務省軍縮不拡散・科学部軍備管理軍縮課の村本晶子氏が基調講演を行い、核軍縮を巡る日本と世界の状況を解説されました。

 

村本氏は、会議に臨む心構えとして、大使としてそれぞれの国の政治状況や歴史に寄り添って考えるとともに、交渉相手の国に対しても同様に考えてあげることを挙げられました。なぜなら、各国のDead Line(=どうしても譲れない一線)に触れることは交渉の対象にならないため、それを見極めた上で「落としどころ」を探っていくことが必要になるからです。また、解決の道は必ず二つ以上あり、「これしかない」ということはない、というお話もありました。このことは、その後の実際の会議の中で大使たちが実感することになりました。

 

その後参加者は、高校生がA・B・Cの3会場、中学生がD会場の4つに分かれて議論が始まりました。

 

議題解説書はこちらから

 

◆教育模擬国連のルール

 

教育模擬国連のルールは、全日本高校模擬国連大会とほぼ同様ですが、議事進行は英日併用(英語で進行、日本語で随時サポート)、公式スピーチと文書作成は日本語で行うので、英語のハンディを気にする必要がありません。会議はSession1が1日目の午後の4時間で、Session1の終了までに13か国以上のスポンサーを集めたDR(Draft Resolution:決議案)を提出します。

 

[1日目のスケジュール]

10:00 開会式開始
11:20 会議細則の確認
11:35 昼食・各会場へ
12:20 会議開始
16:20 DR提出
16:50 解散

[2日目のスケジュール]

2日目は、午前中に2時間15分の議論Session2が行われ、DRの統合に向けた話し合いが行われます。そして、昼食をはさんで午後約1時間15分のSession3で18か国以上のスポンサーによる友好的修正案(Amendment)を提出し、その後採決を行います。 

9:45 会議再開
12:00 昼食
12:45 会議再開
14:00 修正案提出
14:40 投票
15:05 会議終了
15:25 閉会式(大ホール)
16:00 解散

各議場には約60か国が入り、ほとんどが初対面の人ばかりなので、最初はどうしてもぎこちなくなりがちです。そんな中で、昼食時には、大使たちはお弁当を食べながら学校や部活の話で自然に他の大使に話しかけ、なごやかに談笑していました。議場の外でも、多くの国と友好的な関係を築くことの大切さを感じました。 

 

今大会の論点は、

・論点1:核軍縮

・論点2:核不拡散

・論点3:原子力の平和利用

の三つの柱です。一言で核軍縮と言っても、この三つの観点のバランスを取って進めていくことが必要になります。さらに、核兵器を保有する国としない国、国際社会の非難を浴びながらも核実験を行う国など、国によって「譲れない点」が様々に交錯します。より多くの国が賛同する決議案に持ち込むためには、実際に核兵器を軍事力として保有する国に対して、何が・どこまで交渉可能かを推し量っていくことが重要になります。

 

大会の資料ページはこちら

 (会議細則、議題解説書、大会パンフレットなど)

 

会議をどのように進めるかも戦略の一つ

 

会議の進め方は、各議場の大使の提案によって決められるので、議場によって異なります。今回は、Session1で、最初に自由に席を立って交渉したい国のところへ行って議論したり、スピーチの準備をしたりする非着席討議(Unmoderated caucus)を行い、各国がどんな意見を持っているのかを知り合った議場と、最初に核実験や核兵器の開発を強行している国が自分の席で自国の方針を手短に話す着席討議(Moderated caucus)を行い、そういった国の「言い分」を全体で共有した議場がありました。

 

議論の中で、合意形成のために重要な会議行動はやはり非着席討議(通称「アンモデ」)です。限られた時間の中でできるだけたくさんの国の意見を聞き、自分たちの国の主張と相容れる国を探します。自国の大使同士だけでなく、同じグループになった国同士でも、どの国がどんな意見を持っていたかを共有し、どの国と交渉するかを状況に合わせて判断していくチームワークも必要です。

 

そこで重要になるのは自国の意見を明確に示すとともに、「何が問題になっているのか」という論点を明らかにすることです。そのために、ホワイトボードに書いたり、意見をまとめたパンフレットを作ったり、一度にたくさんの人の意見を聞くために大きめの付箋を配ったり、といった様々な工夫が凝らされていました。

 

Session1も最後に近づくと、DRの作成に向けて大きなグループ形成がなされていきます。その中で中心的な役割をしているのは、必ずしも現実世界で大国と言われる国ではありません。小さな国であっても、相容れない立場の国同士の仲立ちとなる提案をしたり、同じような立場の国を巻き込んでグループを形成することで一つの勢力を作ったり、という行動で存在感を発揮する国が見られました。

 

最終的に議場Aで3本、議場Bで2本、議場Cで1本(※)のDRが提出されました。

※実際に提出されたDRは2本でしたが、1本はページ数オーバーのため、参考資料にとどめることになりました

 

会場との信頼関係を作り、議事を円滑に進行~フロント・アドミニセクション

 

教育模擬国連では、フロント(議長、副議長、会議監督)も高校生が行いました。フロントの役割は、円滑かつ公平な議事の進行ですが、実はこれが本当に大変です。議論の進め方には各国の戦略があり、アンモデを希望する国、着席討議を希望する国など、各国の希望を冷静にさばいていく必要があります。

 

そして、フロントが一番大変なのがDRや修正案のチェックです。提出された書類の書式は整っているか、スポンサー国数は満たしているか、記載された国に重複はないか、など限られた時間できちんと確認しなければなりません。各議場に会議監督の先生はついていましたが、どの議場でもフロントのメンバーで話し合って、見事に作業を進めていました。

 

より多くの賛同を得るために、きめ細かい交渉を続ける

 

2日目の午前中のSession2は、DRのコンバイン(統合)に向けて、詰めの折衝が行われます。昨日のDR提出のところで各国の立場は明らかになっているので、ここからの交渉はスポンサー国全体を動かすことが必要になり、大使たちはいっそう戦略的に動くことが必要になります。

 

自分たちのDRと違っている国とはどこまで折り合うことができるのか、自分たちのDRの洗い直しに取り組む人、核保有国の中でもいわゆる「手ごわい」国に対して再度交渉をかける人など、様々な形で合意形成に向けた行動が行われました。

 

午後のSession3は実質約1時間。そこまででDRをコンバインし、修正案に向けて文言の調整を行います。そして議場Aでは、Session3の終了時に2つの修正案が提出され、採決によっていずれも可決されました。

 

自国の利益とともに、議場全体を良い方向に導くことの大切さ

 

各議場を見ていて印象に残ったのは、北朝鮮やイランなど、現実の国際社会では核保有や核実験が問題視されている国の大使でした。今回の担当国は、事前に希望を取ったりせず、ランダムに割り当てられたものだそうです。担当が決まった時、少なからず当惑した大使もいたことでしょう。

 

しかし彼らは、交渉相手に対して、それらの国がなぜ核開発をするのか、国際社会に対して何を求めたいのか、ということを丁寧に説明し、理解を得ようと努力していました。実際の国際会議の中でも、このような場面が繰り返されていることを、他の大使も実感したことと思います。

 

模擬国連の大使に求められる行動は、第一に自国の利益を考えた主張をし、DRや修正案においては最低限国益に反していないことを守ることです。これは、事前に提出するポジションペーパー(Position and Policy Paper)と整合していることを意味し、全日本高校模擬国連などではこの整合性も審査の対象となります。

 

また、自国の国益だけでなく、議場全体が良い方向へ向かうような行動も必要です。発言が少ない国に対してチャンスを与えたり、論点がわかりにくくなったら整理して示したり、と全体の状況を把握して最善の行動を取れる大使は、結果的に多くの国の賛同を集めることになることがわかりました。

 

議場内では、ネットを使って調べものをしたり外部とやり取りしたりことは禁止されているので、事前に十分リサーチをして、交渉の「引き出し」を作っておくことが必要です。今回、いろいろな国に積極的に話しかけていた大使たちは、相手の話を聞くとともに、自分たちの意見と近いところや妥協案を伝えることもできていました。

 

一方で、会議の後半で提出文書の細かい調整の段階に入ったりすると、自分の席にこもってしまったり、話し合いに加わらず他事をしゃべったりする人も見受けられました。2日間という長い時間、他の人の話を聞いたり議論をしたりするのは大変ですが、現実の国際問題に取り組むのはいかに大変か、ということを実感できると思います。

 

教育模擬国連は来年も開催される予定です。模擬国連に興味のある人も、大きな会議の運営を経験してみたいという人も、ぜひ参加してみてください。

 

 

第17回模擬国連会議関西大会高校生会議

※記事作成の資料は、第17回模擬国連会議関西大会高校生会議事務局・高校広報担当の佐伯壮一朗さんに提供いただきました。

 

競争ではなく、ともに学ぶ場を作るための大会

 

模擬国連会議関西大会は、模擬国連に取り組む大学生の新入生が初めて参加する全国大会というコンセプトで開催されてきました。関西大会の運営事務局では、指導できる人材が不足している高校模擬国連のために、大学で模擬国連を行っている大学生が高校生の模擬国連活動を指導することで、ともに成長することができる環境を作るために、今年から高校生会議の部を設立しました。

 

関西大会高校生会議は、8月28日・29日の2日間、神戸市ポートアイランドのアリストンホテル神戸で開催されました。参加者は約30名。全日本高校模擬国連大会に参加経験のある人とない人が約半々で、ほとんどの参加校が何らかの形で模擬国連に参加経験があります。

 

今回の議題は、「万人のための持続可能なエネルギー~持続可能な開発目標[SDGs]Goal 7の実現を目指して」。議事進行、公式スピーチ、成果文書および公式文書は英語、非着席討議(アンモデ)は日本語で行われました。また、前述の大学生が高校生を指導するという趣旨から、フロントと会議監督は関西の大学で模擬国連活動に取り組み、高校生の模擬国連活動の指導経験もある大学生が担当しました。

 

関西大会高校生会議報告書はこちら
関西大会高校生会議報告書.pdf
PDFファイル 3.0 MB

 

1日目の会議では、まず議題の大筋が話し合われ、それに基づいた条文を記載したWorkingPaper(WP)の作成を行いました。続いてワーキンググループで具体的な政策の話し合いを行いました。

 

各国大使は、はじめはぎこちない様子でしたが、次第に打ち解け、公式・非公式討議とも積極的な発言がなされるようになりました。また、グループリーダーを務める大使からは、全ての大使の意見を建設的に受け止め、まとめる努力が見受けられました。

 

2日目は、1日目の議論を受けてWPとDR(Draft Resolution:決議案)の作成を行い、結果的には、2つのDRと修正案が採択にかけられ、それぞれが賛成多数により可決されました。

 

今回は、作成段階から投票行動の直前まで、全会一致による決議案の採択を意識した会議行動が見られれましたが、条文の未熟さや議論の不十分さなどのために、結果的に全ての国が合意でき、かつ建設的な内容を持つ決議案を作成するには至りませんでした。国連の決議案の理想である「全会一致」の難しさを改めて感じる結果となりました。

 

今大会は、参加した高校生が模擬国連会議を楽しむことができる会議を提供するとともに、担当国の視点に立ってロジカルかつクリエイティブな政策立案をし、それを密度の濃い協議のもとで検討していけるよう設計しました。フロント陣が目標としたのは、高校生が交渉や公式発言を行い、決議案を執筆していくことを通じて、今までにはなかった世界を多義的に見る視点を養えるようにサポートすることでした。

 

大会を通して、高校生に模擬国連という「学ぶための場」を用意できたのではないかと考えます。選考に残るために会議をするのではなく、全ての参加者が一国の大使となって、会議準備からレビューにいたるまで熟考し、学ぶことができたのは高校生会議の大きな利益であったと思います。今回の会議が、今後の高校模擬国連の育成の指針となり、高校模擬国連と大学模擬国連の橋渡し役になることを期待したいと思います。

 

高校生会議は、来年以降も開催する予定です。詳しくは、来年の大会ホームページをお待ちください。

 

◆関連サイト

第17回模擬国連会議関西大会 公式HP

 

◆連絡先

・大会全般の代表窓口 kmunc17_info@kansai-mun.org

・高校広報 kmunc_hspr@kansai-mun.org

・FB(www.facebook.com/KMUNC/)、ツイッター(@KMUNC)もご覧ください。

 

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