宮城県佐沼高校筝曲部 国立劇場公演

二人でしか出せない音色でつかんだ日本音楽最高峰の舞台

(2017年8月取材)

総文祭の日本音楽部門は、各都道府県から推薦された学校やグループが出場する、箏や十七絃、三絃、尺八など和楽器の演奏によるコンクール形式の大会です。

 

筝曲というと、お正月になるとどこかで必ず耳にする『春の海』をはじめ、優雅でたおやかな調べを連想する人も多いでしょう。しかし、総文祭に登場する筝曲の多くは、いくつものパートに分かれて合奏する、いわば筝のオーケストラ。現代音楽の作曲家の作品が多く、絃を弾くだけでなく叩いたり引っかいたりする奏法もあり、ダイナミックさと繊細さが入り混じった独特の世界観があります。

 

門田さん(左)と阿部さん(右)
門田さん(左)と阿部さん(右)

日本音楽部門で上位入賞する学校は、大人数の一糸乱れぬ演奏が持ち味のところが多いのですが、今年の総文祭でたった二人の演奏で優秀賞(文化庁長官賞)を受賞し、国立劇場公演に出場したのが、宮城県佐沼高校筝曲部の門田亜子さん(2年)と阿部桃子さん(1年)です。

 

佐沼高校筝曲部は、創部18年目。これまで16回総文祭に出場し、優良校(※1)に選ばれたことも2回あります。しかし、近年は部員が減って、県大会に出場できなかった年もありました。

 

※1 文部科学大臣賞、文化庁長官賞に続く賞

 

県大会には一人で出場、4月から入部した後輩と二人三脚の猛練習で全国大会へ

昨年秋の県大会には、当時1年生だった門田さんが一人で出場し、県代表となることができました。そして、今年4月に門田さんの中学の後輩の阿部さんが佐沼高校に入学して筝曲部に。二人で猛練習してみやぎ総文の舞台に立ち、並み居る強豪校の中で見事に国立劇場出演を果たしました(※2)。

 

※2 総文祭の日本音楽部門の各県の代表は、前年の秋の県大会などで決まります。そのため、本番の舞台に出られるのは、県大会の時点で2年生と1年生だけです。代表校に決まった学校のメンバー変更や追加はOKです。これは、演劇部門、郷土芸能部門も同様です。

 

大劇場の緞帳が上がった時、奏者が二人だけの舞台に客席からは小さなどよめきが起きました。しかし、息の合った繊細な音色と息もつかせぬリズム感に、演奏後はまさに万雷の拍手が劇場を包みました。

 

音量やダイナミックさ、舞台に立つ緊張感といった点では大人数の学校に比べて圧倒的に不利な状況で、曲作りをするために、どんな練習をしたのでしょうか。二人で立った国立劇場の舞台で、どんなことを感じたのでしょうか。門田さんと阿部さんに聞きました。

 

一人で演奏するプレッシャーを乗り超え、舞台に立てる幸せを実感

門田亜子さん(2年)

 

■国立劇場への出演が決まった瞬間の気持ちを教えてください。

 

二人だけの演奏だったので、他校の迫力ある演奏に、正直、自信はなかったので、何事が起きたのかすぐには理解できず、全く実感が湧きませんでした。表彰式で舞台に立った時、初めて、文化庁長官賞を授賞できた喜びが実感でき、これまで応援して下さった周囲の方々への感謝で胸がいっぱいになりました。

 

■今回の演目はいつ頃から練習を始めましたか。また、ふだんの部活ではどのくらい練習をしていますか。

 

昨年の12月中旬から始めました。月~金は16:00~19:00、大会に合わせて土日は9:00~16:00まで練習しています。また、全国大会前は朝練習、昼練習も取り入れました。

 

■昨年、一人だけで県大会に臨んだ時、一番苦しかったことは何でしたか。また、阿部さんが入部してからは、どのようなことに気を付けて練習してきましたか。

たった一人で演奏するというプレッシャーです。一人で舞台に立った時の緊張は、中学校のステージとは桁違いでした。余計なことは考えず、自分の音にだけ集中するように努めて演奏しました。

 

阿部さんが入部してからは、曲想について話し合ったり、段の区切りごとに細かく分けてそれぞれのパートがかみ合うよう、確認する練習をしました。

 

■みやぎ総文からさらに1か月近くありましたが、どんなところに注意して練習を続けましたか。

 

大会の時の気持ちや内容を落とさないように、大会本番の演奏を聴きながら練習しました。

 

■二人の演技・演奏の一番の魅力はどこにあると思いますか。

 

一つひとつの音を大切に、息の合った演奏を心がけているところだと思います。

 

■ふだんの活動を教えてください。総文祭出場以外にどんな公演をしていますか。

 

6月の支部高文祭や文化祭、三地区音楽祭、県の日本音楽定期演奏会などです。他に、様々な演奏の機会をいただくこともあります。

 

■国立劇場の舞台に立った感想をどうぞ! 

 

すごく緊張しましたが、貴重な体験となりました。国立劇場という大舞台で演奏させていただき、とても嬉しく光栄に思います。国立劇場は反響板がなく、マイクで音量を調節したり、舞台が回転したりするところが違うと感じました。会場の雰囲気も大会とは全く違い、私たちに良い演奏をしてもらいたいという、プロの演出の方々や関係者の方々の温かい気持ちが伝わってきました。そんな舞台に立てるということがどんなに素晴らしく幸せなことかを実感すると同時に、もう一度あの舞台を目指したいと思いました。来年の、私にとっての最後の大会に向けて、悔いのない練習をしていきたいです。

 

現部員の皆さん。「一音気迫」は佐沼高校筝曲部の精神です
現部員の皆さん。「一音気迫」は佐沼高校筝曲部の精神です

夢のような時間の中で自分の課題とも向き合った

阿部桃子さん(1年)

 

■国立劇場への出演が決まった瞬間の気持ちを教えてください。

 

とても驚きました。「信じられない」という気持ちでした。今まで応援や指導してくださった方々に感謝の気持ちでいっぱいになりました。

 

■高校に入学して、全国大会の出場に向けてどんな練習をしてきましたか。

 

二人という少ない人数だったので、息を合わせることや、良い音を響かせること、一つひとつの音に気持ちを込めてこの曲に対する感情を表現することを練習しました。

 

■全国大会に出場した時の気持ちを教えてください。

 

1年生でありながら、全国の舞台に立たせていただき、極度の緊張と嬉しさ、感謝を胸に出場しました。今まで練習してきたことのみを考え、一つひとつを集中して演奏しました。

 

■みやぎ総文からさらに1か月ありましたが、どんなところに注意して練習を続けましたか。

 

全国大会で演奏した時よりも良い演奏をしなければ、という思いが強く、自分の気持ちをどう持っていくか、自分との戦いでした。自分が弾いているパートをもっと深く知ることができるように、何度もCDを聞き直して練習しました。

 

■国立劇場の舞台に立った感想をどうぞ! 

 

初めての全国大会で優秀賞・文化庁長官賞に入賞し、国立劇場で演奏できるなんて、高校に入学した時は考えてもいませんでした。普通の高校生ではステージに立つことさえできないような劇場で演奏することができ、夢のような時間でした。全国大会とはまた違った空気感があり、緊張してしまいました。本番でミスが目立ってしまうような演奏になったのが残念ですが、この舞台に立った時のことは今でも忘れられません。非常に貴重な体験ができました。ただ、国立劇場の舞台では、改めて自分の心の弱さを知ることになりました。11月、今度は5人で県大会に臨みます。仲間との絆を深め、自分の弱さに向かっていく強い気持ちが作れるよう、練習に励みたいと思います。

 

高校での練習の様子
高校での練習の様子
国立劇場にて
国立劇場にて
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