(2017年8月取材)
プロ中のプロに支えられた舞台での公演
総文祭(全国高等学校総合文化祭)の郷土芸能部門は、日本各地に伝わる祭り囃子、神楽、民謡などの「伝承芸能」と伝承曲・創作曲を含む「和太鼓」の2部門による、コンクール形式の大会です。今年のみやぎ総文では伝承芸能部門21校、和太鼓部門36校の57校が出場。華やかな舞台を繰り広げました。
みらいぶで昨年取材した愛知県立松蔭高校和太鼓部は、昨年に続いて2年連続の全国大会出場。優秀賞・文化庁長官賞を受賞して、悲願の国立劇場公演を果たしました。
◆昨年の取材記事がこちらに
国立劇場は、日本の舞台芸術の聖地とも言うべき存在です。伝統芸能の保存および振興を目的として1966年にオープンし、大劇場は座席数1520(花道設置時)。日本を代表する歌舞伎・日本舞踊・演劇の上演が行われています。
照明や音響、道具係などのスタッフは、ふだんは超一流の俳優や演奏家の舞台を支える、まさに精鋭部隊です。このスタッフの方に支えられた舞台を、松蔭高校和太鼓部の国立劇場のリハーサルでリポートします。
リハーサルは分刻み。時間厳守は舞台人の鉄則!
松蔭高校の国立劇場和出演は8月27日。リハーサルは前々日の25日です。和太鼓部のメンバーは、その前から千葉県で練習合宿を行い、本番の舞台に出る2・3年生がリハーサルをしている間、1年生は合宿場でみっちり練習です。3年生は総文祭からさらに1か月練習期間が延びたため、受験勉強のための問題集を持ち込んでの合宿となったそうです。
リハーサル当日は、朝9時に国立劇場集合。他の学校も続々と集まっています。大きな太鼓や舞台装置は前日に合宿場から送ってありますが、小さい楽器や小道具、衣装などは全部当日自分たちで運びます。さすがに大きな舞台を何度も経験しているだけあって、どの学校もきびきびと動いています。
舞台リハーサルまでは、劇場の裏手にある中稽古場で練習です。ふだんはお芝居や舞踊などの稽古に使われる部屋で、スペースはふつうの学校の講堂の舞台くらい。二重扉で、防音はしっかりしています。
ここで1年ぶりに、和太鼓部の演奏を聴きました。昨年も迫力に圧倒されましたが、さらに音の鋭さや強弱の幅が広がっていることが感じられます。
この練習中に、劇場のスタッフの方から集合時間や場所の変更の連絡が何度か入りました。ふつう、リハーサルというと予定時間より遅れるものと思いますが、最終的に30分近く前倒しになりました。他の学校のリハーサルが予定より早く進んでいるから、ということでしたが、さすがに国立劇場に出演する団体は、だらだら時間をかけるのでなく、舞台でのチェックもポイントを押さえているんだなあ、と感心しました。
大劇場の場面転換の秘密はまわり舞台
いよいよ舞台リハーサルへ。リハーサル開始1時間前には楽器や道具を全て準備して舞台袖に集合なので、昼食をとっている時間はありません。交代で衣装に着替え、用意ができた人から器材を舞台裏に運びます。
なぜ1時間も前に集合か、と思いましたが、舞台裏に入ってみてわかりました。大劇場の舞台は、観客席から見える部分の倍以上の長さの奥行きがあり、大きなまわり舞台になっていて、中央が幕でしきられているので、前の学校がリハーサルをしている間に舞台奥で次の演目の「仕込み」を全て終えておくのです。仕込みは基本的に自分たちでやりますが、せり上がりの高さの調整や大道具の配置などには舞台のスタッフの人たちからてきぱきと指示が入り、緊張感が走ります。
前の学校のリハーサルが終わると舞台中央の幕が上がり、まわり舞台(「盤」と呼ばれていました)がぐるっと回ってセットが完了です。舞台から見ると、客席は思ったより傾斜がゆるやかですが天井が高く、左右に大きく広がっていて、重厚感があります。
舞台リハーサルは、客席と舞台にスタッフの人が入り、照明の切り替えのタイミングや大道具の配置や向きなどに指示を出します。インカムをつけたスタッフの人たちが、客席で見ていても気が付かないような細かいところまで調整していくのは圧巻でした。
国立劇場の照明は、特に青色の美しさが有名で、「国立(ナショナル)ブルー」と言われているそうです。和太鼓部の演奏曲「祈り」では、迫力のある太鼓の部分では青の濃淡が、神楽(かぐら)の部分では青と茜色が効果的に使われ、はっとするほどの美しさでした。
細かいチェックと、通しの演奏を2回行って、リハーサルは終了です。あとは本番を待つばかりです。
満員の観客に伝えた祈りの心
そして迎えた本番の舞台。松蔭高校は、オープニングの和太鼓2校、日本音楽2校、郷土芸能の伝承芸能部門で同じく文化庁長官賞を受賞した北上翔南高校(岩手県)の『鬼剣舞』に続いて、6番目に登場しました。満員の観客が入っているにもかかわらず、ダイナミックな長胴太鼓や大平太鼓が、かーんと冴えた締太鼓が、3階の天井桟敷まで響き渡ります。リハーサル前の稽古で先生に注文を出されていたソロパートも華やかに決まりました。そして曲のテーマである「祈り」の唄声が、リハーサルの時よりもさらに力強く空気を震わせました。鈴の音で静かに曲が終わった瞬間、大きな拍手が劇場を包み、となりで聴いていた男の子が「やばい、鳥肌が立った」とつぶやくのが聞こえました。
このメンバーでの最後の晴れ舞台を終えて ~3年生に聞きました
支えてくれたすべての人への感謝をこめた『祈り』
中山亜澄さん(第28期部長、神楽太鼓担当)
国立劇場は格調高い、張りつめた空気に一瞬で呑み込まれそうで、緊張ともまた違う雰囲気でした。
本番直前。私は曲の構成上、途中から舞台に出ていくので、最初は舞台袖のいちばん近くからみんなを見守っていました。緞帳が上がり、響くフィンガーシンバル。神様を呼び寄せるような笛の音色と力強い神楽太鼓。そして赤いスポットライトに照らされた大切な仲間が、お客様に届くように必死に演奏している姿を見て、「何を不安がっているのだろう。かけがえのない仲間と、どれほどの練習を重ねてきたのか。今、胸を張らずに下を向いてどうする!」と思い、バチを強く握りしめて舞台に向かいました。太鼓の前で姿勢を正し、後ろから力強い歌声が聞こえてきたと同時に、いろんな思いがこみ上げました。
どんなに練習しても追いつけない先輩の背中。それでもただ繰り返し、無心に打ち続けた太鼓。励まし合い、笑ったり泣いたりしながら仲間と過ごした日々。自然と涙があふれ、「ああ、この時間が止まってくれたら」と思いました。全ての演奏が終わった今、私たちの『祈り』をより多くの人に知ってもらうというみんなの願いを少なからずかなえることができたと思います。
でも、それは決して自分たちの力だけでなし遂げたのではありません。いつも親身になって厳しく導いてくださったコーチをはじめとする先生方。『祈り』を創り上げるために快く協力し、地域に昔から伝わる「町之切獅子舞」を優しく丁寧に教えてくださった烏森太鼓保存会の皆様。部の伝統を継承しつつ、新しい風を吹き込んでくださった先輩方。そして、切磋琢磨しながら高め合ってきた、大切な大切な28期の仲間、後輩たち。地域の方々や家族。すべての方々に感謝の気持ちでいっぱいです。お客様一人ひとりの笑顔が『志合わせ』の意味を押してくださいました。松蔭高校和太鼓部員としての日々を心から誇りに思います。本当にありがとうございました。
全力を出し切った先でつかんだもの
津田竜大くん(第28期副部長、神楽太鼓担当)
総文祭で国立劇場への出演が決まった瞬間の気持ちを教えてください。
全国大会では、今までやってきたことを全て出し切る演奏ができたので、実は、最初に他の入賞校の名前が呼ばれたとき、「ひょっとしたら(国立劇場公演へ)行けるかも、」と思っていました。本番では、最後にバチが折れてしまったんです。でも、それを失敗と感じないくらい、いい演奏ができました。
津田さん自身が昨年の総文祭から1年間頑張ったことを教えてください。
先輩たちの功績を継がなければ、というプレッシャーもありましたが、自分にしかできない演奏がしたい!と思い、練習してきました。よりよい演奏にするために、時にはバッサリと形を変えたりしながらも、日々作品の進歩に努めてきました。どうすればよりよい演奏ができるかということには、最後まで悩まされました。
和太鼓はこれからも続けていきますか。
できることなら、3年間ともに過ごしたこの仲間たちと一緒に、もっと和太鼓で活動したい…!とひそかに思っています。もし和太鼓以外で自分が何かにチャレンジするなら、今まで予想できなかったような新しいことに挑戦したいと思います。中学生の頃は、まさか和太鼓をするなんて思いもつかなかったので(笑)。
国立劇場の舞台に立った感想をどうぞ!
どの舞台に立つ時も毎回緊張とフワフワ感が同時にありますが、今回は格式の高い舞台ということで、みんなの雰囲気も少し違ったように思います。高校生がこの舞台に立つことはなかなかない機会なので、自分ができることを思いっきりやろうと思いました。本番では、自分たちがここまで来られたことへ、そして今まで仲間たちと一緒に演奏できたことへの感謝をこめて、最後の時間を思いっきり楽しんで演奏できたと思います。
自分の音がみんなの音と重なり、「楽しい」という気持ちでいっぱいに
福島沙也佳さん(神楽太鼓担当)
国立劇場への出演が決まった瞬間の気持ちを教えてください。
松蔭の名前が呼ばれるとは思っていなかったので、本当にびっくりしました。また、ものすごく嬉しかったです。まだ和太鼓部でいられる、まだみんなと一緒に過ごせる、もう一度大きな舞台に立てる、と…。
昨年の全国大会から今までで、いちばん苦労したことは何でしたか。
『祈り』のストーリーに合うようにイメージして表現をし、表情を作ることです。表現の仕方が上手な子を見たり、教えてもらったりしました。
皆さんの演奏の魅力はどんなところですか。
部員が一つになって、「一人でも多くの人の心に響く音を届けたい」という思いは同じですが、一人ひとりの個性があふれたところだと思います。
国立劇場の舞台に立った感想をどうぞ!
はじめは緊張で押しつぶされそうになりましたが、『祈り』が始まって自分の音がみんなの音と重なった時、「楽しい」という気持ちでいっぱいになりました。このメンバーで演奏するのは最後、後悔しないようにとも思いました。
これからの中心メンバー 2年生に聞きました
「松蔭高校和太鼓部らしいパフォーマンス」を明日につないだ舞台
濱田大空くん(第29期部長、唄(うた)担当)
総文祭で、国立劇場への出演が決まった瞬間の気持ちを教えてください。
学校の名前が呼ばれた時は、イマイチ実感がわきませんでした。表彰されて、皆が盛り上がってから、やっと「すごい…」と思えてきました。
今回舞台に立ったメンバーが中心になってから、どんなことに気をつけて練習してきましたか。
自分が部長になったから、ということが大きいですが、今までは自分中心で考えることが多かったけれど、「この人はこの曲をどう思っているんだろう」とか、回りの人に気をかけることが多くなりました。まだ慣れないところが多いですけど。部長として、皆の気持ちを一つに向かわせることには苦労しました。新入生もたくさん入ってきましたが、「個性的な仲間が増えてよかった」と思うようにしています。
国立劇場の舞台に立った感想をどうぞ!
今回この場所に立てたことは、とても名誉あることだと感じました。何より、部員が一丸となって頑張って、それがこのような形で実ったということを本当に嬉しく思います。実際に国立劇場の舞台に立ってみると、「松蔭高校和太鼓部」としてのパフォーマンスが求められているのだな、と改めて強く感じました。先輩たちの最後の晴れ舞台でもあったので、3年生を送り出し、2年生としてこれからの想いを込めるという気持ちで、自分の思う「松蔭らしい」演奏ができ、この先につながるいいスタートになりました。
驚きと緊張を乗り越えてつかんだもの
岸田亜仁香さん (唄 担当)
総文祭で国立劇場への出演が決まった瞬間の気持ちを教えてください。
びっくりしすぎて、何も考えられませんでした。国立劇場は、もちろん狙ってはいたけれど、自分たちができることだとは思っていなかったので。
昨年の全国大会を見てから、どんなことに気をつけて練習してきましたか。
全国大会を見るのは初めてだったので、他の学校のレベルの高さにも驚きました。でも、自分たちが出場できるのであれば、基本をもっと身に付けて、先輩のいいところを見つけて盗むようにしようと思うようになりました。
国立劇場の舞台に立った感想をどうぞ!
国立劇場そのものを目の前にしても、この大きな舞台立つ自分が想像できず、もちろん経験もないので、楽しみや期待よりも緊張や不安が大きかったことを覚えています。他の劇場に比べて、演奏するまでの移動やタイムスケジュールが細かく決められていたことが印象に残っています。実際舞台に立って客席を目の前にした感覚も他の舞台とは違う、独特のオーラがあり、全てに圧倒されました。それでも、この舞台に立って演奏させていただくことができて、本当にすばらしい経験になりました。
いつか先輩たちを超える! 今年入部した1年生に聞きました。
三島なつきさん
先輩たちのふだん練習を見てスゴイ!と思ったことは?
すごくきつくて、腕を止めて休みたくなるような練習でも、楽しんでずっと全力でやっているところです。ふつうの練習もしっかりこなし、さらに前後の時間を使って自主練している人が多いのがすごいと思います。
これからの目標は?
自分ももっと和太鼓を好きになり、限られた和太鼓人生を楽しみたいです。偉大な先輩たちを目標に、そして先輩たちを超えられるように、演奏を聴いてくれる人たちに感動してもらえるよう、練習に励んでいきたいです。
本荘大騎さん
先輩たちのふだん練習を見てスゴイ!と思ったことは?
一人ひとりが自分で考えて、仲間の良いところ・悪いところを指摘し合い、先輩たちにしか出せない色の演奏を創りあげていくところです。
これからの目標は?
今の3年生・2年生の先輩方を超えることが最終的な目標ですが、そのために毎日の練習や、一つひとつの演奏に全力で取り組み、和太鼓と向き合うことです。演奏は一人でやるものではないので、長所と短所をみんなで見つけ合い、一緒に成長していける部活にするのが、今の目標です。