高校模擬国連国際大会で日本代表チームが大活躍!

兵庫・灘高等学校 北口智章くん(3年)柳津聡くん(2年)

国連総会第一委員会(軍縮・安全保障委員会:Disarmament and International Security Committee)『化学兵器』

(2017年5月取材)

 

対立軸が見えにくい議題だから、他国の政策を整理することに努力

灘高等学校 北口智章くん(3年)

◆世界大会に向けてどのような準備をしましたか。

 

僕は、ペアの柳津くんや他の派遣団のメンバーとは異なり、高校以外で英語を学んだことがなく、英語に多少の不安がありました。少しでも会議本番でのコミュニケーションを円滑に進められるよう、放課後に柳津くんの指導を受けたり、インターネット上にアップロードされている海外の動画をリスニングの教材として勉強したりしました。

 

担当した議題は「化学兵器」で、一般的な模擬国連の議題と比べて各国の利害関係の要素が薄く、いわゆる会議における「対立軸」が見定めにくいという難点があり、全日本大会で用いた戦略の見直しを迫られました。そこで僕は、より根本的に「会議でどう行動するのがベストか」を、世界大会を経験された先輩方のお話などを踏まえながら、シミュレートするという準備をしました。

 

◆準備の段階で苦労したことがあれば教えてください。特に、カーボヴェルデは知名度が低い国ですが、どのようにして情報を集めましたか。

 

どんな準備をするにしても、「情報量」が圧倒的に不足しているという事実は、大きな足枷となりました。まず、議題解説書の分量が少なく、会議の運営側から与えられる情報が完全に不足していました。次に、「カーボヴェルデ」という国は、アメリカや日本といった大国に比べて、入手可能な資料が非常に限定されています。僕は、このような状況が引き起こす様々な「不確定要素」を排除するためには、徹底的に「その場に適した戦略を取る」ことが必要だと考え、これまで自分が経験した模擬国連の会議などを思い起こしながら、シミュレートを重ねていきました。しかし、そのシミュレーションも、実際に役立つかどうかは全く明らかではないので、そのジレンマには悩まされました。

 

◆各国の高校生と比べて、日本の高校生はスゴイと思ったところを教えてください。

 

規模が大きな大会になると仕方がないことなのかもしれませんが、国際大会では、着席中に居眠りをしたり、非着席討議中に議場の隅にたむろして、会議に関係のない会話をしたりする大使も見受けられました。翻って、全日本大会での様子を思い起こすと、余すことなく全ての大使が、持てる限りの力を全て出し切って奮闘していたような気がします。(模擬国連の会議という非常に限定された場面での話を一般論に持ち込むことは避けられるべきかもしれませんが、あえて自分の感覚に素直に述べるとするならば、)日本の高校生は、海外の高校生よりも実直な人が多いと思います。今回の派遣団員以外にも、全日本大会で受賞に相応しい活躍を見せた高校生は大勢います。そのような高校生の一人ひとりを、僕は尊敬しています。

  

◆会議を進める上でいちばんたいへんだったことは何ですか。

 

灘高校チームが担当した議場では、各国の利害関係などに基づく明確な「対立軸」が存在しませんでした。すると、「各国が、ただ用意してきた意見を近くにいる大使に話す」という、混沌とした状況が生まれてしまいます。その状況に甘んじ、ただ議場に埋没しているだけでは、議長や他の大使からも注目されることもなく、賞はどんどんと遠ざかってしまいます。そこで、灘チームが利用したのは、大きなホワイトボードです。自分の政策を他国に伝えることよりも、他国の政策をまとめて、その場を秩序立てるということを重視したのです。実際に、その効果は顕著で、大きなホワイトボードは広い議場でも目立ちましたし、話していない大使や交渉をしにきた他グループの大使の視線は、ホワイトボードを持つカーボヴェルデ大使に集中しました。この工夫により、会議1日目の大半でグループの中心として貢献したことが、今回の優秀賞受賞に繋がったのではないかと考えています。

 

◆大会を通して、あなたがいちばん頑張ったことを教えてください。 

 

全日本大会と同じように、自国の属するグループでの議論に柳津くんが参加している間、僕は、それ以外のグループの内情を観察し「議場を把握する」ということに力を入れていました。2日間にわたる会議や、会議自体の規模が大きい会議では、この「議場把握」を怠ると、どうしても視野狭窄に陥り、有利に会議を動かすことができなくなるという困難がつきまといます。僕は議場を何回も周り、「この議場にはどのようなグループが存在しており、どのような議論をしているのか?」、「どの国が主導権を持っているのか?」、「どのように交渉を進めていったら受賞が近づくか?」といったことを調べ、考えました。

 

◆今回の大会も含めた旅行全体で、最も印象に残ったことを教えてください。

 

(※渡航経験は高校1年時の夏休みに、韓国のHANA高校が主催した高校生のシンポジウムに参加)

 

第11期派遣団」というチームの素晴らしさです。今回の派遣を通して得られた多くの中から一つ、「今後の人生で最も有益なもの」を選ぶとしたら、迷うことなく「派遣団の仲間との絆」を挙げます。第11期は、オリジナルTシャツを製作したり、メンバーの誕生日を祝う動画を撮ったりと、一つのチームとしての意識が強い派遣団でした。僕は「協調」といった概念を軽視する傾向にある人間だと自覚しているのですが、互いの個性や能力を認め尊敬しあう派遣団の雰囲気をとても快く感じ、気づくと、彼ら彼女らと時間を共にすることを率直に楽しむようになっていました。模擬国連の国際大会という大きな壁を共に乗り越えた今、派遣団の絆は、いっそう強固なものとなっている気がします。素晴らしい仲間と巡り合えたご縁には、ただただ「感謝」の一言に尽きます。

 

会議前に悩み抜いた経験が、厳しい状況で頑張る支えに

灘高等学校 柳津聡くん(2年)

◆世界大会に向けてどのような準備をしましたか。

 

化学兵器といえば昨今のシリアでの化学兵器の使用が最もホットな話題でしょう。しかし今回の議場の第一委員会は、個別の地域的な脅威への対応(例えばシリア問題)ではなく、長いスパンの対応策を議論すべき議場でした。なので、発展途上国へのキャパシティ・ビルディング(能力構築支援)を掘り下げて、すべての国に適応可能な政策を考えました。

また、より臨機応変に対応するために、細部まで会議戦略を詰めることはあえてしませんでした。

 

帰国生ではないので英語が心配でしたが、中2から自主的に英語を勉強していた成果を会議で活かせるように、実際に決めた時間内で議題に関する即興スピーチをする練習を行い、public speakingをネイティブの先生から教わりしました。とにかく話す機会を増やすのが大事と考え、外国人の友達とスカイプで英会話をしたりもしました。

 

◆準備の段階で苦労したことがあれば教えてください。特に、カーボヴェルデは知名度が低い

 国ですが、どのようにして情報を集めましたか。

 

国連の文書や論文はできる限り探しましたが、やはりアフリカの小さな島嶼国ともなると断片的な情報しかありません。そこで、「この情報の裏にはこういう事情・思惑があるはずだ」と推測したり、「他の島嶼国ではどうか」「化学兵器ではなく核兵器ならどうか」などと他の分野から類推したりしました。

 

思いの外苦労したのは精神管理です。準備は6か月にも及びますので、目的意識を持って、しっかりとスケジュール管理をするのが大変でした。会議が近づくにつれ、会議での目標や自分への自信が揺らいだりもしました。しかしその際に悩み抜いたことが、くじけずに会議を戦い抜けた、という結果につながっていると思います。

 

◆各国の高校生と比べて、日本の高校生はスゴイと思ったところを教えてください。

 

物事の全体に気を配る能力です。世界大会では、いきなり議論の論点が変わったり、みんなが主張したいことのみに固執して話がまとまらなかったり、というシーンもありました。全日本大会では、「何が話し合われるべきか」を参加者が共有し、お互いの意見の相違点によりフォーカスが当てられていたと思います。周りを見渡す落ち着きとはっきりとした自己主張、どちらも建設的な議論に欠かせないと思います。

 

◆会議を進める上でいちばんたいへんだったことは何ですか。

 

怖気付かず自信を持って行動することです。日本の会議とはシステムも大きく異なるので不安がいっぱいでしたが、会議前にいろいろな友人からもらった励まし言葉を思い出し、「自分ならいける」と自己暗示をかけて頑張りました(笑)。また、同じくグループの指導的立場にいる大使と会議時間外でも親しくして関係を構築する、普段よりジェスチャーや発声を大げさにするなど、「いつもとは違う大使としての自分」を演じるのを楽しもう、という心持ちで臨みました。

 

◆大会を通して、あなたがいちばん頑張ったことを教えてください。

  

一言で表すと、「相手の土俵に乗らない」ことです。スピーキング力では敵わないので、単に議論に受動的に参加しているだけでは活躍できません。自分の強みを考えたところ、議論を分割して整理できること、という結論に至りました。なので、タイミングを見計らって議論をまとめたり、ホワイトボードを使って話し合いを視覚化したりしました。そして常に目的意識を持って冷静に行動し、議論についていけていないと思った時はグループを一旦分割して少人数のコミュニケーションに切り替えたりしました。また、「カーボヴェルデ大使がグループのリーダーをしている」という印象を議場全体に広めるために、他の大使とスピーチでお互いに言及しあったりするなど、戦略的な会議行動を心がけました。

 

◆今回の大会も含めた旅行全体で、最も印象に残ったことを教えてください。

 

(※渡航経験は今回で5回目)

 

アメリカでも特に多様性に富む都市ニューヨークと、そこで活躍する人達のパワーを感じました。欧米圏への渡航が初めてだったこともあり、普通の街通りで多様な人種の人々がせわしなく歩き回っているのも圧巻でした。表敬訪問で ILO や UN Women を訪問し、自分が実際に模擬国連で取り組むような課題と実際に世界を舞台に戦っている人と対話ができ、「将来こんな風になりたい」と思える大人に出会えました。

 

表敬訪問や世界大会を通じて、「グローバル」「世界市民」などの言葉を多く耳にしました。しかしアメリカ国内には、国連に対し不信感を持つ人が増えているとの報道もあります。トランプ大統領の当選や英国のEU離脱などが注目されている中、自分とは違う意見を持つ人たちとも積極的に話し合い、知見を広めていきたいと思います。

 

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